天底ノ箱庭 白南風

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5章

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1.ヴィクトール視点
久しぶりの快眠は随分と深い眠りだったようで、朝が来るのはあっという間だった。ベロアが起きてベッドを抜け出し、子供たちと話す声が聞こえてくるのを、頭の端で理解しつつ惰眠を貪る。
自分の誕生日なんか、正直どうでもいい。誕生日特権でベロアと丸一日デートできれば、なんていう下心で昨日はベロアとあんな約束をしたが、自分の誕生日を祝う気など俺には最初からなかった。
「ヴィル、ヴィル起きろ」
肩をトントンと叩かれたり揺すられて俺は渋々目を覚ます。
「なんだよ飯か…?」
「そうだ飯だぞ。今日の夕方、お前の誕生会だ!ヴィルは美味いもの作ってくれ、俺の誕生会みたいにな。俺と凛はお前の手伝いだ」
寝起きの頭に叩き込まれる彼の言葉を、まだ稼働しきっていない頭でなんとか理解する。やっぱり俺の誕生会をする気なのか。俺は小さくため息を吐く。
ベロアはそれだけ話すとまた子供たちの方へ行って颯と匙に文房具箱と画用紙や折り紙の入った箱を渡して部屋に行くよう指さすと、2人は楽しそうに部屋に駆け足で入っていった。
「俺のね…別にそんな嬉しいことでもないし、有りものでもいい?」
「誕生日は盛大に祝うべきってヴィルが言ったんだろ。なんでお前のだけそんな手抜きになるんだ。またケーキ焼いて、ご馳走を食べよう」
ベッドに腰を掛けたまま眠い目を擦る俺を、ベロアは腕を掴んで引き上げて立たせる。その傍へ凛が小さい歩幅で歩み寄ってくる。
「ヴィーおにーちゃん、明日はベロアおにーちゃんとお外でお祝いにブトーカイでお泊り行くんだよね?」
「え、何?舞踏会…?」
「王子様とお姫様が素敵な夜を過ごす場所ってシンデレラの絵本に描いてあった!」
次から次へと出てくる読めない展開に俺はぽかんと凛を見つめ、そのままベロアに視線を投げる。その疑問に満ちた視線を投げ返すかのごとく、彼もきょとんと俺を見つめ返す。
「デートに外で泊まりに行きたいって言ったんだ。ブトーカイに俺たちは行くのか?」
「いや、知らんて」
俺の疑問の視線に疑問で返してくるベロアに思わず俺は笑う。俺たちのやり取りを隣で見ていた凛は不思議そうに首を傾げた。
「ブトーカイじゃないの…?」
「あ、いや、そう!舞踏会行くよ!一晩中ベロアと踊ってくる!」
ベロアと踊るのは多分、ベッドの上になっちまうけどな。なんて、下世話な話は飲み込む。
当のベロアは俺の言葉に目を丸くして「ダンスなんて出来るだろうか」とぶつぶつと呟いていた。
「お前、めっちゃ踊るの上手だから大丈夫。ほら、飯作るぞ」
ベロアの背中を肘でつついて、俺はキッチンへ向かう。
ご馳走を作る…なんて言っても、何も用意していなかったのでケーキ以外の食材がないことを冷蔵庫の中身を見てから思い出す。作れるとしたら、俺のお得意、手抜きマカロニチーズとか、せいぜい作れてエビグラタンだ。
「グラタンでもいい?」
「普段からよく出るメニューじゃないか」
冷蔵庫から顔を上げてベロアに尋ねると、彼は腕を組んで不服そうに鼻を鳴らす。
「だって材料ないんだもん。肉に至っては何も残ってないよ」
「じゃあ、俺が買いに行く。いつもの店なら、お前の名前を出せばツケてくれるんだろ?」
ベロアの言う『いつもの店』というのは、初めてお使いに出した店だ。あそこはお忍びの富裕層たちがよく使う隠れた食材店で、使いに犬を出す飼い主も少なくない。ベロアを連れて何度も行ったので、今ではすっかり顔なじみだ。
ベロアの立場は犬だが、名目上はA5ランクの頂点に君臨するブランシュヴァイク家の庇護を受けている。いわゆる『お犬様』だ。彼が堂々と喋ろうが何をしようが、犬と知っている者でもとやかく口出しする者はいないだろう。そう考えれば安心してお使いには出せる。
出せるのだが。
「…また何かを手に入れるためとか言って、喧嘩したりしないだろうな?」
じっとりとした目で俺は彼を見つめる。あのろくでもない施設にベロアが入り浸ることになったキッカケは、俺が自分の母親に彼を遣いに出してしまったせいだ。あのリボンをネタにゆすり続けた低能なクズ野郎に捕まるくらいなら、一生彼には俺の隣以外を歩かせたくない。
痛いところを突かれたようで、彼は眉をぴくりと釣り上げて気まずそうに視線を泳がせた。俺様気質な彼がこうも弱くなる姿を見るのは、ちょっと楽しく思えてしまう。
「も、もうああいう事はしない。数字の読み方だってちゃんと勉強するし…」
「次にまた俺に黙ってわけわからないことしたら許さない。そんなことしたら、俺たちは音楽の方向性の違いで解散するからな」
解散なんか死んでもしたくないが、ベロアが俺のことを本当に好きならこれくらい重たい釘を刺しておいた方が効き目があるだろう。
俺の思惑通り彼は困ったような顔を今度は青くさせて首を横にふる。
「俺は音楽なんてやってない!だから解散もなしだろ?」
「比喩だ、比喩。あと、もし買い物したいなら俺の名前出してツケられる店ならツケとけ。お前が稼いだ3045万、あれはお前の金だ。好きに使え」
冷蔵庫の戸を閉め、俺は溜息まじりに笑顔を作る。
「そんなら、ちゃんと信じて待ってるから次こそ絶対約束守ってくれ。俺の狼さん」
「わかった…今度こそ任せろ…」
リュックを背負ってとぼとぼと出掛けていく彼の背中を凛と一緒にキッチンから見送る。俺たちの会話の一部始終をずっと黙って聞いていた凛は、ベロアがいなくなってから俺を見て首を傾げた。
「ベロアおにーちゃん、何か約束やぶったの?」
棚からケーキ用の粉や調味料を取り出しながら、俺は彼女に微笑みかける。
「そう、ベロアは俺との約束破った悪いやつなんだ。だから、俺に頭が上がらない。可愛いだろ?」
「頭が上がらない?」
「ごめんなさいって気持ちで強く出られない様子のこと。それを俺は寛大な心で許してやった。だから、尚更ベロアは俺に頭が上がらない。凛も好きな男なり女なり出来たら、これは有効だから覚えておくといいぞ。寛大な人間はモテるぜ~」
クックックと喉を鳴らして笑う。よく分からないと言いたげに首を傾げている凛の頭を撫でて、俺は計量カップに牛乳を注いだ。
「好きな人の頭を上がらなくさせたらいいことあるの?」
隣で卵を割り、ボウルに落す凛は俺をじっと見上げる。
「そう、いいことある。早く凛にも王子様が現れるといいな」
凛と恋バナをしながらケーキを作るのは楽しかった。俺の好きなチョコクリームで包んだシフォンケーキを大皿に盛り、あとは飯の準備といったところでベロアがリュックに大量の食材を詰めて帰って来た。
「おかえり」
彼に振り返ると、その両手にはよく分からない箱が沢山詰まれてあった。脇腹と腕の間には花束なんか刺さっている。
「なにそれ?買い物してきたの?」
「いや、知らない人から貰った。…喧嘩はしてないぞ!本当にだ!」
何も言ってないのにあたふたと弁明をする彼の腕に詰まれた箱や花束を取り上げてテーブルに並べる。箱や花束にはそれぞれメッセージカードが付いていて、それぞれに手書きの文字が並べられている。
「引退ショックです、また戻ってきてバウンティ…とても恰好良かった、ファンになりました…」
カードを読み上げ、内容を理解すると同時に腹の中からムカムカとした感情が湧き上がる。ベロアに振り返り、じっとりと目を細めて睨むと彼はますます慌てたように目を開いて手を振った。
「そんなことが書いてあるなんて知らなかった。無言で渡されたから受け取ってしまった」
彼の言い訳を聞きながら俺はフンと鼻を鳴らしてカードを箱や花束に戻す。
ベロアは戦う時にちゃんと仮面を付けていたが、こんな大柄で黒い肌の編み込みドレッドの犬なんか、この地区じゃそういない。どうせ情報屋とかから漏れだした情報を元に追ってきたファンだろう。
彼氏がモテるってのは喜ばしいことだし、そんな奴が俺に首ったけだなんて優越感しかないはずだが、こうも自分たちが揉めた出来事で彼がモテてしまうのはなんか違った。
キッチンに食材が入ったリュックを置き、バウンティ宛てのプレゼントを回収してベロアはそれらをソファの脇に隠すように置く。一応は俺の目に入らない場所を考えたのだろう。
「さ、飯作ろう」
気を取り直してキッチンに向かうと、凛とベロアが俺の後を追って一緒にキッチンに入る。
ベロアが買ってきたのは七面鳥まるまる一匹となかなか豪快なチョイスで、料理が特段上手くもない俺はそれの焼き方をタブレットで検索して調べる。七面鳥は重たいのでベロアに指示を出す形で任せ、俺と凛は付け合わせのサラダや果物を切り分けて用意をする。
そうこうしている間に昼はとっくに過ぎてしまい、途中で匙や颯が空腹を訴えに来たがベロアが夕飯がすごい量になるから腹を減らしておくように言うと、単純な少年たちはご馳走を楽しみに再び部屋へと戻って行った。
計画通りなのか、ただただ手こずっただけなのか分からないが、夕方頃になると七面鳥が焼き上がり、それらを持ってベロアはダイニングテーブルに並べた。
「ところで、ヴィルの母親は呼ばないのか?」
皿を一緒に運んでいると、不意に思い出したようにベロアが俺に尋ねる。
「え、なんで?ここバレたらまずいだろ」
「お前の母親なら大丈夫だ。必要なら俺が連れてくる」
随分と信用されたものだ。長年一緒にいた俺が信用していない母親の何を見て、ベロアはそんなに彼女に信頼を寄せているのか理解に苦しむ。
「やめとけ」
「そんなに嫌わなくてもいいだろう。もう少しちゃんと話したらいい」
「そうじゃないんだよ。あの人は生まれつきの箱入り娘だ。お前みたいなキングコングに抱えられて外に出掛けるのはあまりに衝撃的すぎるだろうし、もし父親にバレでもしたら母親まで父親に何かされるかもしれない。リスクが大きすぎる」
俺の母親は、監禁されている犬でもないのに、家から全然出ない人だ。自らの意思で家の中に閉じこもり、あの狭い鳥かごの生活を謳歌している。生まれた時から籠の外に行けるだなんて、きっとあの人は考えたこともないのだろう。
価値観の違いだ。俺はたまたま外に興味を持ってしまった。外に出たいと思ってしまった。だから合わない。それだけだ。
「お前が楽しそうにしているところを見せてやりたかった」
悲し気に目を伏せる彼を見て、俺は肩を落す。こういう姿を見せられると、胸が苦しくなってしまうのだから、惚れた弱みってのは怖い。
「…分かった。みんなで写真を取ろう。それを添付して母親に送る。それでいいか?」
俺の提案に彼は顔を上げ首をかしげる。
「そうしたら、母親にヴィルが楽しいことが伝わるのか?」
「さすがに伝わるだろ。俺がこんだけ楽しそうに動いてるとこ、あいつはきっとここ数年見たことないと思うぜ」
笑いながら俺が返事を返すと彼は少し寂しげではあるが頷いた。
「わかった…さすがに俺は毎日彼女を守りには行けない。でも箱に入りっぱなしはきっとつまらない。いつかお前たち家族が仲直りしたら、その時は全員で誕生会をやろう」
仲直りという響きに俺は思わず顔をしかめる。
「…仲たがいしたつもりはないから、仲直りなんてあり得ない。母親はともかく、父親はな」
「ヴィル」
「はいはい、俺の家族の話はおしまい。俺のこと祝うんだろ?だったら盛大に祝ってくれよ」
俺は彼の言葉をさえぎり、先ほどまで七面鳥の焼き方を調べていたタブレットをベロアに押し付ける。
「カメラの使い方教えてやるから、これで写真撮ってくれ」
端末を操作しながらベロアにカメラアプリの使い方を説明する。興味津々に端末をいじるベロアは俺が凛と料理を作る姿やつまみ食いをした颯と匙を追いかける姿、たまに関係ない壁の落書きなんかを撮影しては満足そうにそれらを眺めた。
テーブルに普段は並ばないようなご馳走をずらりと並べて、匙と颯、ベロアも手伝った折り紙飾りやティッシュの花が部屋の壁に飾られて、華やかなパーティの用意ができた。
「ヴィーおにーちゃん、お誕生日おめでとう!」
「この飾り俺が作ったの、すげーだろ!」
「みんなで絵描いた。プレゼント」
三人が一緒になって渡してきた一枚の大きな画用紙には5人の似顔絵と『おたんじょうびおめでとう』の拙い文字。
「ははっ、さんきゅ。嬉しいよ」
彼らが一生懸命描いたそれを受け取り、俺は笑う。子供たちから似顔絵を貰える人間っていうのは、子供の扱いが上手い大人だけだと思っていた。こんなに早くもらえる日が来るとは思っていなかったそれを、表彰状のように両手で持って頭を下げた。
「ヴィル、俺からもある」
「お前からも?プレゼントならもう昨日…」
ベロアはきょとんとする俺の首から昨日彼が贈ってくれたリボンを取ると、たどたどしい手つきでそれを髪に結ぶ。
結ばれたそれを崩さないように手でそっと触ると、すこし不格好ではあるがリボン結びになっているのがわかる。
「凛に習った。まだ練習中だけど…そのうちちゃんと結べるようになる」
照れているのか、彼は少し目を泳がせながら呟くと「おめでとう」と微笑んだ。
ただ髪にリボンをつけて貰っただけなのに、細かい作業が苦手なベロアが一晩でこれだけ練習してくれたという事実が嬉しくて、じわじわと笑みがこみ上げる。
「嬉しい、ありがと」
彼の頬にキスをして、隣に座っているベロアの首を抱き寄せる。力いっぱい彼の頭を抱きしめると、子供たちがわらわらと俺を取り囲む。
「ベロアばっかずりー!俺たちだってプレゼントあげたのに!」
「お前らのも嬉しいよ、ありがと」
颯を筆頭に、集まった子供たちをまとめて両腕で抱きしめる。
カシャッというシャッター音に顔を上げると、ベロアがタブレットを片手に寄ってきて俺に画面を見せた。
気の抜けた笑顔で子供たちを抱きしめる自分の写真を見るのはなんだか気恥ずかしい。
「俺っていつもこんな顔してんの?」
「最近はよくしてる。かわいいだろ」
楽しそうににやけるベロアに俺は苦笑いしながらそのタブレットを受け取る。ベロアが取った写真の履歴を見ると、俺が想像していたより随分と大量の写真がフォルダに収まっていた。これは圧縮して送らないと、全部送れそうにない。
プレゼント大会が終わり、食事が終わる頃には腹を空かせていた子供たちもパンパンに腹を膨らませて絨毯に転がっていた。俺と凛とベロアが後片付けをし、いつものように全員を風呂に入れる。
俺と凛が先に風呂を済ませ、少年二人とベロアが風呂場に入っていく。まるで戦争でもしているのではないかと思うような悲鳴や大きな音が聞こえるのは、まあいつものことだ。実際にとんでもない量のお湯が減っているので、本当に戦争でもしているのかもしれない。
ダイニングテーブルで凛が新しく兎のぬいぐるみを作っている横で、俺はタブレットから母親にメールを送る。
ベロアが撮った大量の写真を添付し、近況をつづるべきか悩む。他にもマナーとして考えた時に、世間話の一つや二つ書くべきだろうと思ったのだが、どうにも思い浮かばない。
『ベロアが撮った写真。毎日楽しくやってるから心配はいらない』
短い文章だけを添えてメールを送信する。
「ヴィーおにーちゃんのママってどんな人なの?」
タブレットと難しい顔でにらめっこしていた俺に、凛が不意に尋ねてくる。俺は彼女を見つめて口元だけで笑みを作る。
「…ふわふわした人。気持ちが弱くて、ちょっと何考えてるのか分からない」
「ママなのに?」
「うん、そう。一緒にいる時間がすっげー短かったから」
そもそも母親も父親の仕事を手伝ったり、仕事の付き合いでパーティに行かなくてはならない日が多かった。多かったし、なんなら今もそうだ。俺が3歳になるまではずっと傍にいてくれたが、不意に一人部屋で寝ることになって、怖い夢を見て母親を呼んでも彼女はいつも家にいなかった。
「一緒にいる時間は短いけど、私はヴィーおにーちゃんが好きだよ?」
不思議そうに凛が首を傾げる。俺は彼女の言葉に面をくらって黙ってしまった。
「おにーちゃんすごく優しいから好き。色々なことを教えてくれたし、たくさんお喋りしてくれる」
「…ありがと」
きっと何も彼女は難しいことを考えてなどいないのだろうが、暗に時間は関係ないと言われているようだった。
突然、タブレットからメールの受信音がする。タブレットの画面を開くと、母親から返信が来ていた。あまり見たくないような気持ちが起きるが、俺はそれを恐る恐る開く。
『メールありがとう。ヴィクターから貰えるなんて、とても嬉しいです。ベロアさん、こんなに写真を撮ってくれたのね。どれも楽しそうで、すごく安心しました。ヴィクターが凄く嬉しそうにしていて、そこは安らげる場所なのだとよく伝わりました。お父さんにはもう少しあなたを自由にしてあげるように、なんとか捜索の妨害をしておくので、沢山楽しんできてね』
長々と丁寧な文体でつづられたそのメールの最後に『妨害』だなんて母親らしくない文字が含まれた一文があることに、俺は思わず笑ってしまう。
「…ちゃんと話せば、好きになれるもんかね」
俺が呟くと、タブレットを隣で覗き込んでいた凛が笑う。
「うん!私もヴィーおにーちゃんのこと、最初はお金持ちの人みたいで嫌いだったけど、今は大好き!お金持ちの人でも優しい人っているんだね!」
「めっちゃ嬉しいけど、めっちゃ複雑ぅ」
ケタケタと笑っていると、風呂場戸が開く音と共に子供たちの声が大きくなる。恐らく浴室から脱衣場に出てきたところなのだろう。
タオルを片手に脱衣所に入口でスタンバイすると、まるで狙ったかのようにそのドアが開き、颯が全裸で俺が広げたタオルの中に走りこんでくる。それを捕まえ、脱衣所に運ぶ。
「くっそー!また捕まった!ヴィクターそんなとこで待ち構えてるなんて卑怯だ!」
「全身びしょ濡れで走り回る方が悪いんですー」
脱衣所で全裸のまま匙を拭ているベロアの前に颯を降ろし、俺は颯の頭をバスタオルでわしゃわしゃとこする。
「ヴィルは俺の事も捕まえたんだから逃げ切るのは相当難しいぞ」
捕獲された颯を見てベロアもどこか悔しそうに笑う。
「ねーねー、おにーちゃんたちのお泊りってもうすぐ出発なんでしょ。ご飯いっぱいある?」
ベロアに拭かれながら匙が俺を見る。その視線をベロアにパスするように見やると、ベロアは得意げに笑みを浮かべる。
「食い物は一杯買ってきたし、凛だって飯が作れるんだぞ。冷蔵庫がぱんぱんになっているから、好き嫌いしないで食べていい子に待っててくれ」
「ねー!今度は俺たちも連れてって!」
その場で跳ねる颯の肩を押さえて止める。本当なら全員で家族旅行の真似事もしてみたいものだが、現時点ではそれが叶わないのが切ない。
「…そうだな。いつかお前らともどっか遊びに行こう。遊園地とかな」
「ユーエンチだって!!よくわかんねえけどやったぜ!!!」
騒がしい颯を着替えさせると、そのころには匙も着替え終わっていた。
「おにーちゃんたち、気を付けてね」
「ああ、明日の10時までには帰る」
「10時って何時?」
「10時だよ?」
とぼける颯の頭を撫でて手を振る凛にベロアが手を上げて答える。
「お留守番させてごめんな、いっぱい遊んでくるわ」
彼らを各部屋に見送り、凛も作りかけのぬいぐるみを手に自室へと向かう。
俺も手を振り、玄関へ向かう。帽子を被ろうとし、ふと髪にリボンが付いていることを思い出す。せっかく良いリボンを贈ってもらったのに、つけたままではリボンがシワになってしまう。髪に結ばれたそれを解いて、ベロアに差し出す。
「帽子被っちゃうから、首に結んで」
「まかせろ」
彼は少し屈み、真剣な表情で俺を見る。
いつも見上げる彼の顔が同じ高さにあるのはなんだか不思議な気分になる。大きくて太い指で俺の首元にリボンを結ぶ手つきはまだ拙い。
「できた…けど少し曲がったか?首に結ぶならヴィルがやった方が綺麗だったな」
不満げに眉をしかめるベロアに俺は「いいの、このままで」と答える。
「お前が付けてくれたってことに価値があるんだ。金じゃ買えない宝物だぜ?」
ウィンクをして、彼の手を取る。いつものように指を絡めて玄関を出た。
「まず最初に行きたいとこがあるんだ。買い物だけど、外せない大事な予定」
「そうなのか?」
「うん、俺が俺自身に贈る誕生日プレゼントの受け取りだな」
いつも行く繁華街とは違う方向に歩き出す。ビジネス街で、高層ビルが立ち並ぶその通りをベロアと行くのは初めてだ。
「今日はラブホじゃなくて、折角だから普通に良いホテルに泊まろうぜ。昨日の夜に予約しといたんだよね」
まあ、予約なんかしなくても泊まる奴があまりいない1番高い部屋だ。近所の高級ホテルのスイートルームなんか、逆に泊まる機会がないから俺も楽しみだ。
「良いホテルといつものホテルってどう違うんだ?そんなに値段が変わるのか?」
彼も興味ありげに笑みをこぼした。
「いつものはセックスを楽しむのに特化したホテルで、良いホテルは飯や娯楽にも力が入ってるんだ。恋人と美味い飯と酒を楽しんで、行きたけりゃプールもある。楽しいぞ」
ビル街を進み、数少ない店のうちの一件で足を止める。光沢のある木製の壁に、金色の枠組みで囲われた高級感のある看板を出すその店のショーウィンドウには沢山の眼鏡が飾られている。
「メガネか?」
「うん、でも今日買うのは眼鏡じゃない」
木製の扉を開くとカラカラとベルが鳴る。暗い木目のフローリングを鳴らして歩き、カウンターまで進む。年配の店主が人の良い笑みを浮かべて会釈をするので、それに片手を上げて返す。
「ネットで発注依頼をしたヴィクトール=ブラウンシュヴァイクだ。完成してるってことで引取りに来た」
目尻にシワのよった目元を細め、店主は「お待ちしておりました」と立ち上がる。彼はカウンターの下から小さな包みを一つ取り出して、ベロアの方を見て微笑んだ。
「お写真で拝見した通りの美しい赤の瞳ですね。よろしければ、この場でお入れすることも出来ますが、如何なさいますか?」
「目…?」
彼は少し考えてから、義眼の事を指しているのだと気づき首を横に振る。
「それはヴィルに入れてほしい。一番に見せるのは彼にしたい」
そう言って彼は手を差し出し、店主から包みだけ受け取った。なかなかいじらしいことを言ってくれる。
「では、このまま。入れる前に煮沸消毒をして頂けるとより安全にお使い頂けますよ」
店主はそう言ってにっこりと笑った。
「ありがとう。また何かあったらネットから連絡する」
店主に会釈をし、店を出る。ホテルに向かって歩きながらベロアは俺の顔を不思議そうに覗き込む。
「お前の誕生日プレゼントを受け取るんじゃないのか?違う店か?」
「いや?今のだけど」
俺が笑って答えると、彼は包みの中を覗き込む。
「箱は一つしか入ってない。入れ忘れか?」
「その目が俺の欲しい物だから合ってんの」
ふふっと思わず笑う。
「お前がその目を入れたらもっと格好良くなるだろ。それを見られる俺は幸せだ。だから、俺の誕生日プレゼント」
「お前のプレゼントなのに俺が貰って、それでお前が嬉しいのか?なんか変だな」
不思議そうに片眉を下げる彼だが俺を見ると「でも、ありがとう」と微笑んだ。
「好きな人に好きな格好してもらえるって最高だぜ」
彼の腕に自分の腕を絡め、頬を擦り付ける。時間はまだ9時になろうとするくらいで、これから明日になっても慌てて帰るわけでもないのだから、なんだか不思議だ。
目的のホテルにたどり着くと、大きなガラス張りのエントランスでベルボーイたちが頭を下げて出迎える。
「お荷物、お預かり致します」
最低限の着替えしか入っていないリュックを背負うベロアに、ベルボーイの1人が歩み寄る。ベロアは少し戸惑うように彼を見ていたが、静かにリュックを降ろして預けた。
チェックインを済ませて最上階の部屋へと案内される。最上階の部屋、まるまる1つが俺が予約したスイートルームだ。
ベルボーイが先に部屋に入り、電気を付ける。最新家電ひと揃いに東側は一面ガラス張り。テレビがついた広い風呂場と、シャワールームがわざわざ別に取り付けられている。リビングは走り回れるだけの広さがあり、中央には革張りのソファとダイニングテーブル。最初から置かれている果物はサービスだそうだ。
寝室に案内されると、久しぶりに見るキングサイズのベッドが一つ。その隣の小さい部屋にもシングルベッドが用意されているが、夫婦喧嘩をした時にでも使うのだろうか。
「奥の部屋はシアタールームとなっております。チャンネルから選べる映画は全て見放題ですので、ご自由にお楽しみ下さい」
全ての部屋の説明を終え、ベルボーイは頭を下げて部屋から出ていく。
「すごいな、まるでお前の家みたいだ」
彼は感心したように自由に部屋を歩き回る。表現に俺の家を使ってくるあたり、思っていたより彼なりに俺の家にも感心するだけの豪華さを感じていたのだろう。仲が悪かったので、当時の彼の態度からでは分からなかった。
「なあヴィル、何をする?広いベッドにでかいテレビだ!部屋も走れるくらい広いから、何でもできるぞ」
「何でもいいぜ。ベロアのしたいことがやりたいな」
部屋を歩き回るベロアの姿を微笑ましく見守りながら答える。こういうことに慣れていないのは間違いなくベロアなので、彼の初めての思い出は何でも良いものにしたくなってしまう。
興奮気味に俺のもとに戻ってきた彼の手には、既にかじられているリンゴが握られている。
「いや、そうだそれより先にやらなきゃいけないことがあったな」
忙しなく動き回る彼は、ふと思い出したように今度はベルボーイが運んだリュックの方へ歩いていった。
「ヴィル、これだこれ」
彼に渡されたのは、先ほど眼鏡屋で受け取ったベロアの義眼が入っている包みだ。
「そうだった。今日のメインだよな」
部屋に備え付けられたポットで煮沸消毒のボタンを押す。沸いた湯をカップに注いで、その中に買ったばかりの義眼を入れる。
「なんかグロテスクだな」
義眼が落ちたカップの中を覗き込むベロアが神妙な声を出す。
「しゃーない、消毒しないと汚いしさ」
俺は洗面台に行って、自分の手を良く洗う。普段から清潔にしているつもりだが、万が一があったら困る。
ピカピカになった手で、少し冷めた湯から義眼を取り出す。そのまま彼をソファまで招き寄せる。
「座ってくれ。目を入れ替えるから」
「優しくしてくれ」
ベロアは言われるままソファに腰を下ろし俺と目線を合わせると、彼は冗談っぽく笑ってそんなことを言った。
彼の右側の義眼を優しく摘んで取り外す。空洞になったそこに新しい赤い義眼を入れ、開貸せた目蓋から手を離した。
「…どう?違和感ない?」
俺が尋ねると、ベロアはまばたきを何度か繰り返してから両目を開く。さすがは俺がこっそり腕時計で撮影した、自作の厳選ベロア写真集を送り付けてオーダーしただけある。色味は本物と寸分の狂いもない、ルビーのような深紅の瞳だ。
「ふぁー、かっこよ」
思わず間抜けた声が出る。
手術を終えたばかりで眠る彼を見ていた時から思っていたが、やっぱり両目が揃ったベロアは最高に格好良くてセクシーだった。
恥じらいの全てをかなぐり捨てて良いなら、頭を抱えて奇声を発しながらカッコイイと連呼したいところだが、やっぱりそれは恥ずかしいので心の内に留めておく。
「ははっ、色が変わっただけだろ、そんなに違うのか?」
俺の間抜けた声に彼は声を出して笑う。
ベロアはそのまま俺に鼻が当たりそうなほど顔を近づけて俺の目をじっと見つめる。
「もっと褒められたい」
囁くような彼の声はとても甘くて、いつものことだが、ちょっとドキドキする。
どこか動物的で鋭く、それでも愛おしそうにこちらを見つめるその目は優しい。ほんの3週間前までは、あれだけ殺気立ってこちらを睨んでいたのが嘘みたいだ。
「…格好良い。世界中の宝石かき集めても、お前を前にしたら霞むくらい綺麗。黒い肌に真っ赤な目ってめっちゃセクシー。ずっと見てて飽きない」
爆発しそうな気持ちを出来るだけお洒落な表現に変換して言葉にする。なんでもないように、いつもの笑顔で彼の額に自分の額をくっつける。それでも、自分の顔がいつもより熱いのが悔しい。
「深い掘りも彫刻みたい。高い鼻はキスがしやすくて好き。お前の唇、厚くてもっとキスしたくなる。睫毛長くて、目を閉じてても性的」
「性的?」
「ムラムラする意味で好きってこと」
我ながら最後の一文にお洒落さが死んでいたのがおかしくて笑ってしまう。
「じゃあヴィルも性的だ。すべすべしていていい匂いがする。身体に触れると赤くなったり潤んだりするところとかすごくかわいい」
くすくす笑っていた俺を抱き寄せて膨らみがあるわけでもない俺の胸に顔を押し当てられると、探るような動きをする彼の鼻が俺の匂いを楽しんでいるようだった。
「ははっ、そりゃどーも」
彼の頭を抱きしめて笑う。こんなくだらないことばっかりやっていても全然飽きないのだから不思議だ。
「お前が初めての恋人で良かったよ。俺の見る目は間違ってなかった」
彼の頭から手を離し、頬に手を添えてこちらを向かせる。
俺を見るベロアの表情は目を丸くしてなんだか不思議そうにしていた。
「初めて?ヴィルの恋人はほかにもいたじゃないか」
「え?いねえけど」
彼の言葉に俺まで目を丸くする。
「セフレはいっぱいいたけど、あれは恋人じゃないから別に好きじゃないし。ベロアと付き合ってから、セフレの連絡先は全部消した。元恋人だったらこんなにザックリ割り切れないだろ?」
俺のことを何やら一方的に彼氏だと思い込んでいた奴だとか、ヤってるうちに本気になったから付き合ってくれと言われたことも往々にしてあるが、全員断った。思い込んでいた奴も彼氏面しようものなら拒絶したし、俺の中では正式に彼氏にあてはまる存在はベロアが初めてだ。
「なんだ、そうだったのか」
ベロアは俺を見つめたまま柔らかく微笑む。
「俺より先にヴィルに愛しいって言われた奴が沢山いたと思ってたから、なんだろう。嬉しい」
彼は俺の腰に手を回して食むようなキスをする。
「こう見えて、貞操緩くても恋愛は結構お堅いんですわ」
そんな冗談を飛ばしながらキスを返す。何度も繰り返していると、次第にキスの一回一回の長さが伸びてくる。
あ、これ知ってる。このままいい雰囲気になって、しこたまヤって一日が終わるやつだ。
正直このままベッドに運ばれて押し倒されてもめっちゃ嬉しいし、充実した夜になるのは嫌ってほど知ってるんだけれども、せっかく子供たちからもらった久しぶりの二人きりの時間だ。これでこの夜が終わるのは、なんだか勿体ない気がする。
「なあ、ベタベタくっつくだけならいつでも出来るし、せっかくこんな良いホテルまで来たんだから何か別のことしようぜ。シアタールームあるとか言ってたから映画でも見る?ルームサービスでつまむもんでも頼んでさ」
ソファから立ち上がり、ベロアの腕をひっぱって立つように促すと、俺に続いて立ち上がったベロアは俺の背後から不意に俺を抱き上げる。
「わっ、びっくりした」
「今日は離したくない」
そう言って彼はシアタールームへと俺を運んでいった。
シアタールームは本当にミニシアターくらいのサイズがあり、シングルベッド顔負けのふかふかの大きなソファとサイドテーブルが用意されていた。やっぱり映画は何かをつまみながらと相場は決まっているのだろう。
ベロアに抱かれたまま彼ごとソファに座る。サイドテーブルに置かれたファイルを開くとやはり食事や飲み物のメニューが書かれていた。
「なあなあ、何食べる?さっき食ったばっかだからもういらない?」
彼の膝の上でそれを広げて胸をノックする。少し考えるそぶりを見せてからベロアは「小腹は空いたな」と言いながらメニューのがっつりご飯ものやピザの写真を選ぶように眺めた。
正直、俺は結構お腹いっぱいだったが、酒なら入る。いつも飲むような甘い酒を探し、迷った結果に俺の中で一番お気に入りのスクリュードライバーになった。
「このすごく甘そうなピザが食べてみたい。それと冷たくて沢山飲める酒がいい」
「おっけー」
ファイルをサイドテーブルに戻し、同じくテーブルに備え付けられた受話器を手に取る。スクリュードライバーにチョコレートチャンクピザ、ベロアに食べ合わせの概念があるかはわからないがチョコに合いそうなシャンパンをボトルで注文すると、準備出来次第ルームサービスに伺うとの返事があった。
「ベロアって映画とか見たこと…ないよな。テレビとかでドラマとか見る?好みのものとか教えてよ」
リモコンでスクリーンに映し出されている映画の一覧をパラパラと送りながら尋ねる。
「そうだな…家だと颯たちが見てるのそのまま横で見てる。ああでもこの前凛が見てたレンアイドラマってやつ、あれは少し面白かった」
ベロアの口から恋愛ドラマなんて言葉が出ると思わず、俺は少し驚いてしまう。それでも、恋愛ドラマを面白いと思うほど俺に恋をしているのかと思うと、このイカつい見た目とのギャップが尚更可愛い。
「じゃあ恋愛映画にしようか。どんなのがいいかな」
「ウチュウとキカイがでてきて空を飛ぶやつがいい。敵が出てきて戦う。あれはおもしろかった」
「それホントに恋愛ドラマ?」
俺が首をかしげるとベロアは「でも恋愛してたぞ」ときょとんとした顔を見せる。きっとコイツの中では恋愛シーンが出てきたらそれはもうすべて恋愛ドラマになってしまうようだ。
「んーじゃあまあ…あんまり難しくなさそうなのにすっか」
時々ベロアはテレビを見ながらそこで聞いた言葉の意味を聞いてくることがあった。まともな教育なんて受けられなかっただろうから、当然と言えば当然だ。恋愛ドラマではなかったにしろ「敵が出てきて戦う」とかそういうシンプルでわかりやすい話のほうがっきっと彼は楽しいだろう。
「ならこれは?宇宙の星の話だ。一年に一度しか会えない恋人同士の物語」
画面に映し出した映画の概要欄を声に出して読んでやる。日本の七夕って祭りにちなんだ3Dアニメーション映画だ。作品自体は数年前の物だが子供から大人まで幅広い層にウケがよかったと聞いたことがある。
「おもしろそうだな、それがいい」
映画を選び終わった辺りでちょうど部屋のチャイムが鳴る。
「ルームサービスだ」
ソファを降りて部屋の入口まで向かう。鍵を開けるとホテルのスタッフがワゴンに焼きたてのチョコレートチャンクピザとスクリュードライバーのグラスを乗せて待機していた。ワインクーラーに入ったシャンパンボトルと綺麗に磨かれたグラスも二つ伏せて置いてある。
「よろしければお部屋の中までお運び致しますがいかがなさいますか?」
「あ、大丈夫。もらうわ」
デート中にメールも許さないベロアのことだ、きっと二人だけの空間を楽しみたいだろう。ワゴンごとそれらを受け取り、ワゴンを押してシアタールームまで運んだ。
「甘い匂いだな。これもピザなのか?それともお菓子か?」
「お菓子のピザかな、俺あんま腹減ってないから一枚だけもらってみてもいい?吐いたらごめんなんだけど」
多分、今まで食べた記憶がないから食べれるだろう。俺が尋ねると、ベロアはそれを手に取って俺の口に運んでくる。それを口で迎えて租借すると、口の中に甘いチョコレートと溶けたマシュマロが広がる。ねっとしとしたその甘さは強烈だが、甘党の俺にはたまらない。
「あっまー、うま!」
飲み込んでから感想を声に出して伝える。ピザを甘くしようなんて誰が考えたのか知らないが、天才だと思う。しばらくこれだけで生きていけそうだ。
「うまいのか!よかったな」
ベロアは嬉しそうに俺の頬を撫でると自分もピザの一切れに豪快にかぶりつく。
「甘いな、すごく甘い。でもうまい!」
機嫌よさそうにシャンパンボトルに手を伸ばす彼の膝に座ったまま、チャンネルを切り替えて選んだ映画を見始める。映画の会社のロゴが表示され、予告などなしに物語が始まる。
物語の主人公は働き者だが冴えない少年。一年に一度、大きな川の向こうに住んでいる一人の少女に会いに行っては、思いを伝えられずに帰っていく。
「どうして、あいつは好きだって言わないんだ?」
「そらぁ、あの子が自分の事好きかわからんし、好きじゃなかったら悲しいだろ」
「女もあんなに楽しそうだ、好きじゃないわけないのになんでわからない」
途中途中、奥手な少年に共感しかねるベロアからの突っ込みに答えながら、スクリュードライバーを飲む。
ベロアは予想通りが、おしゃれなグラスなどは使わずにシャンパンボトルにそのまま口を付けて、がぶがぶ飲んでいた。
少年が青年になるころ、少女は星空で一番美しい女性になっていた。奥手な彼はそんな彼女と自分は釣り合わないと会う事すらやめてしまう。
「どうして会いたい会いたいと言って会いに行かない?」
「自分に自信がないからかね」
自信の塊みたいなベロアにはやっぱり彼の言動はわからないようだった。
しかし悪い怪物が女性を生贄に差し出せと、彼等を襲ったとき青年はがむしゃらに立ち向かう。すごくカッコいい無敵のヒーローのような戦いではなかった。姑息な手段だったり、時にはカッコ悪く負けたけど青年はあきらめずに怪物を倒し彼等の星空は救われる。
英雄となった青年は怪物の亡骸で大きな橋を作り、毎日女性に会いに行けるようになった。そして最後に彼女と結ばれてハッピーエンドだ。
青年が女性に「愛している」と告白をしたシーンにベロアは満足そうな笑みを浮かべる。
「ほら、やっぱり。もっと早くに伝えれば良かったのにな」
「言葉足らずだったのは確かだけど、俺は結構あの男の気持ち分かるけどな」
エンドロールを見ながら俺は笑う。
ベロアはいつだって自信に満ちているが、それは実力を持っているから出来ることだ。彼が実際に過酷な環境を1人で生き抜いてきた実績故のもので、それが根拠になるのは無理もない。むしろ当たり前だ。
でも、誰しもが彼のようになれるわけがないのは、俺が1番分かっている。
「…?なんでだ?」
思った通り、ベロアはよくわからないと言いたげに眉を寄せて首をかしげた。
「どう例えたら分かりやすいかな…ああ、1番分かりやすい例があるな」
スクリーンに向けていた視線をベロアに移し、俺は彼の胸をノックする。
「俺の好きな人はとてつもなく強くてカッコイイ人間だ。空が飛べて、喧嘩に負けたこともない。話したこともない人間がプレゼントや花束を贈るスターだ」
俺は今度は自分の胸を親指でトントンと叩く。
「俺はガリガリで、体力もなくて喧嘩も弱い。ネームバリューはあるが、好きなヤツはそんなものを知らないから、相手から見ればちょっと小狡い悪ガキだ。それでいきなり麻酔銃で捕まえて『ビジネスパートナーになってくれ』とお願いした。結果は撃沈、左頬をぶん殴られる有様だった」
そう行って自分の頬を撫でて見せると彼は「それは悪かったと思ってる」と困ったように顔をしかめた。
「別に責めてるんじゃない、俺だって麻酔銃使ったんだからお互いさまだ。それに、お前には分かりやすい例えだろ?」
彼に俺は肩を竦める。
「釣り合わない恋ってのは、そういう悲劇を生む。だから、伝えたいけど伝えたくないってそういうことだ」
「そうか、あの男は女の子に殴られるのが怖かったんだな。でも怪物に殴られても泣かなかった。弱い奴が強くなったってことか、偉いな」
「まあ、殴られる可能性はゼロじゃないかもしれんけど…それより嫌われる方が怖くないか?」
とても物理的な解釈をするベロアに俺は小さく笑う。
「じゃあ、別の例えをしよう。俺とお前は身体の関係で距離が縮まったけど、なんで恋人に至るまで時間がかかったと思う?」
「それは俺がお前をどういうふうに好きかわからなかったからだろう?」
首をかしげて答える彼に俺も同じように小首を傾げて返す。
「それもなくはないけど、お前は俺に『キスをもっとしたい好きは恋愛感情か?』と聞いたよな。俺はあの時に『そうだ』と答えれば、もっと早く恋人になれたと思わないか?」
実際に、あの時の俺は一瞬だけ肯定することを考えていた。だって、肯定すれば意中の人間が振り返ってくれるんだ。勿体ないと感じるのは別におかしくないだろう。
「でも、お前が付き合った後で『やっぱり違った』なんて気付いたら、その後の俺はお前にどんな顔をして接したらいいと思う?俺はそれが怖いから、お前の言葉を肯定しなかった。あの男も同じじゃない?」
彼は難しい顔をして少し考えるとフッと拭き出すように小さく笑った。
「え、何?笑いどころあった?」
「いや…ヴィルは俺がやっぱり違ったって言うのがそんなに怖くなるほど俺が好きなのかって思ったら、それはすごい可愛いから」
他人の口からそう説明されると、物凄く恥ずかしい話をしてしまった気がする。じわじわ熱くなる顔を背けて言葉を考えていると、嬉しそうな満足そうな、そんな笑みを浮かべたまま、ベロアは俺をしっかりと抱き寄せる。
「でも少しわかる。俺もリボンの事バレたとき、お前に嫌われたと思ってすごく怖かった」
俺の頬に顔を摺り寄せるベロアの声色は少し申し訳なさそうだ。
「恋愛って人を弱くさせたり、強くさせたり、不思議だな。でも面白いし、すごく大事だ」
彼の肌を頬に感じながら、俺はぼんやりと彼を見上げる。
確かに、強くしたり弱くしたり忙しい感情だ。俺もベロアを好きになるまで知らなかった。
「…無敵のお前の弱みの1つが俺だと思うと、ちょっといい気になっちゃうな」
クククッと喉で笑う。
「でもヴィルのために強くなることもある。それにお前の弱点は俺なんだ、俺もちょっといい気になれる」
子供たちの前ですら見せない彼の気の抜けたような笑顔がすぐそばにあるのは、やっぱりちょっと嬉しい気分にさせられる。
ふと腕時計を見ると、時刻は11時を過ぎたところだった。
「さて、結構いい時間だけど他に何かする?それとも、3日ぶりに運動でもしますか?」
あえてセックスの単語を伏せて誘うと彼は「身体動かすのは好きだぞ」と無垢な瞳を輝かせていた。まあ、どっちの意味であっても好きな事に変わりはないのだから、あえて訂正しなくたっていいだろう。
腕時計には他にもメールの着信があったので、チラッとだけ開く。ベロアの出生について調べることを依頼した情報屋からだった。
結果は収穫なし。これで20人目だ。ベロアの出生と経歴を調べるのは、想像よりも困難を極めていた。
「ヴィル、文字読めなくても誰かからの手紙を読んでるのはバレてるぞ」
顎を引っ張られて上を向かされると、むっとした顔で俺を覗き込むベロアと目が合う。
「それにここ、あとここにも俺の名前が書いてある。バレてるぞ」
画面の彼が指をさした箇所には確かに『ベロア』の文字がある。
「おー!読めんじゃん!すごい!」
「すごいのはわかる。でも駄目なものはダメだ」
そう言って彼は俺が腕時計を見れないように抱き込んでソファに倒れた。
「どうやったらヴィルは俺に夢中になれる?」
少しムスっとしたような声色で呟く彼に、俺は首を傾けて口元で笑う。
「もう夢中だから手紙の中にまでベロアの名前があるんだぜ。お前がそばに居てもいなくても、いつだってベロアのこと考えてる」
実際にベロアの出生について調べるために、ずっと彼がいない時も俺はベロアのことを誰かしらに話しているから嘘ではないし、浮気する気もない。
「でも、俺の前で他の奴からの手紙はダメだ」
そういいつつも俺の言葉に彼は少なからずいい気になったようで、満更でもない顔が隠しきれてないのを見逃しはしなかった。
こういう隠し事ができなくて、俺に関して甘チョロいところが俺は大好きだ。
腕時計の画面を消し、身体に回された腕をぽんぽんと叩く。
「休むならベッド行こうぜ。久しぶりのキングサイズだ」
「広くたって狭くたって傍にいるからあんまり変わらないのにな」
彼はにやついたような顔で笑って俺を抱き上げベッドまで運ぶ。
久しぶりの広いベッドに横になり、ベロアの顔を見つめて歯を見せて笑った。
「でも、お前がカタカナや平仮名だけでも文字が読めるようになったら、遠く離れた時でも手紙でやりとりできるな」
犬に腕時計は持たせられないから、遠くにいる時に連絡がとれないのは正直不便だった。タブレットの1つや2つ持たせることは出来るが、ベロアが知る文化に恐らくタブレットでメッセージを送るというものは存在しないのだろう。
「俺もヴィルと手紙ができるのか?どうやって?」
よほど興味を持ったのか、横になっていた身体を半分起こして俺に詰め寄るように覆いかぶさって見下ろしてくる。
近付いてくる顔に両手を添え、彼の厚い唇に触れるだけのキスをした。
「この間カメラの使い方を教えたタブレットがあるだろ?あそこから、俺の腕時計にメールが送れる。だから、あとはベロアが俺からのラブレターを読解できるようになったら、もうすぐにでも出来るさ」
「なら、字の勉強もっとちゃんとやる。だから俺とも手紙しよう」
俺の上に乗ったまま彼は嬉しそうに目を細めた。高級ホテル特有のロマンチックなムードに当てられてるのか、そんな彼がいつにもまして色っぽく見えてならない。
「もちろんだ。文字が読めるようになったら、お前の首輪のタグも読めちゃうな」
優しげに微笑む彼の頬や耳にキスをしながら小さく笑う。普段はすぐに襲ってくるから、あまりベッドの上で長々と話をする機会がないのだが、ベロアは珍しくまだ手を出してくる様子はない。
「名前が書いてあったのは見たぞ、他にはなんて書いてあるんだ?」
「さぁてね?片思いしてた時の俺からの初めてのラブレターだから、勉強して読んでみたらいいんじゃない?」
俺はギザギザの歯を見せてにやにやと笑う。
今では別に隠すようなことは何も書いていないが、やはり彼が文字を読めないことを前提に書いたラブレターではある。自分の口で読み上げるのは味気ないというものだ。
「じゃあ、また字を教えてくれ。今度は途中でやめないようにがんばる」
彼は「ヴィルからのラブレターならちゃんと読みたい」と笑って付け加えた。
最近になって分かってきたが、ベロアは必要に迫られないと学びたくないタイプのようだった。これだけのハイスペックを独学で身につけているのだから、学べばもっと凄いだろうにそれをしないのは勿体ないようで、でも俺だけが知っている特別な秘密のようにも思えた。
プチプチと自分でシャツのボタンを開ける。その気になったようで、俺の胸元に視線を向けたベロアに俺は少し歯を見せて悪巧みをするように笑った。
「たまには運動する前にスキンシップしようぜ。ベロアとならただ肌と肌をくっつけて、喋ってるだけでも気持ち良さそうだなって思ってたんだ」
セフレとは死んでもやりたくないピロートークだが、ベロアは恋人なので別枠だ。服を着て、彼の膝に抱えられているだけで気持ちいいのだから、服がない状態でやってみたかった。
それに、ベロアとの本番は激しすぎて毎度ながら気絶するように寝てしまって、ピロートークのピの字も経験したことがない。言うなら今だと思ったのだ。
「ああ、ヴィルの肌はすごく気持ちがいい。こうしてじっくり触るのもたまには悪くない」
俺の髪の鼻を押し当てて深く息をつきながら彼は囁く。
腹や胸元を撫でてから抱き寄せて、滑らせるようにゆっくりと俺のシャツの袖を抜いていく。
彼にされるままにシャツを脱ぎ、俺も彼のシャツに手をかけてゆっくりとまくり上げる。彼の頭を通して脱がせると、自分の上半身を密着させてズボンにも手をかけた。
すでにズボンの上からでもわかるほど主張していたそれは、ズボンから解放されると堂々とそそり立つ。
自分もズボンのボタンを開けると、ベロアが優しくそれを下へ降ろしてくれた。
裸になってベロアの腰に跨る。彼の胸を押して横にさせると、俺も彼の身体の上にうつ伏せに寝そべる。分厚いベロアの胸板は相変わらず熱くて、頬を摺り寄せると気持ちいい。
「ベロアって温かいから、この状態だと布団がなくても眠れそう」
彼の胸に頬杖をついて見下ろす。彼もまた俺の髪ごと頬を撫でる。
愛おしいむように目を細め、俺を見つめた。
「ヴィルも。ひんやりしててきもちい」
彼の流れていくような手は、俺の頬から肩へそして背中から尻へとのびてくる。
「尻揉んでもいいけど、まだ穴に指入れるなよ」
「え、なんでだ」
「スキンシップって本番でも前戯でもないんだぜ。恋人同士だからできるコミュニケーションだ。普通に肌を重ねて気分を盛り上げるの、ベロアは好きじゃない?」
彼が早々に本番を求めてくるのは予想していたし、むしろ今の時点でよく襲ってこないなと感心するレベルだ。無理強いするつもりはないが、コミュニケーションの幅は広げるものなら広げておきたかった。
自分の頬に添えられたベロアの手に自分の手を重ねて、頬を擦り付ける。
「恋人同士だから出来ること…?それが、こうして肌を摺り寄せたり匂いをかいだり、そういうことなのか?それなら俺もすごく好きだ」
彼は俺をまねるように、頭を抱き寄せ鼻をうずめる。
きっと今すぐヤりたい気持ちもあるだろうに、俺の言うコミュニケーションを取ろうとしているのが見てとれる。
「ベルガモットの匂い。今度はこの匂いでヴィルを思いだすな」
どこか懐かしむような、それでも彼は嬉しそうにその香りを肺いっぱいに吸い込んだ。
「ベロアってベルガモットだけはめっちゃ区別できるよね」
彼の胸の上から横に横に滑るようにベッドへ移動し、髪の匂いが嗅ぎやすいように彼の腕を枕にするように横になる。
俺は元々、コロンとかアロマが好きだからベルガモットの香りなんていくらでも持っていた。ベロアが好きだと言うので、最近はよくベルガモットが入った香りを身につけるようにしている。
「俺はローズも好きだよ。本当はあっちをよく使ってたんだけど、ベロアがそっちの香りでも俺のこと思い出してくれたら、俺のこと思い出す頻度が増えて嬉しいんだけどな」
ベロアの胸筋の窪みを指先でなぞる。
ベルガモットはベロアの好きな香りだから身につけてるのは確かだが、それは彼の母親の香りだ。ベロアの気を引きたい時に、それにあやかれるのは嬉しいが、母親と俺が同列に並んでしまうのは俺としては複雑だ。
俺は俺。母親は母親だ。俺はそもそも恋人なのだから、母親と並ぶのは違う。子供っぽいだろうが、ちょっとした意地がそう思わせる。
「ローズか…お前の匂いで一番覚えてるのは、初めてセックスしたときに感じた甘い匂いとか…あの甘い匂いがそうなのか?」
俺の枕にした腕と反対の腕で髪を触りそれを自身の鼻先に持っていく。
ベロアの伏せられた長い睫毛が部屋の光で目元に影を落とす。深い堀と高い鼻で造られた男らしい顔立ちに出来るその繊細な影はとても綺麗だ。
「多分そうかな。ベルガモットの話を聞く前まではいつもつけてたから、お前も嫌いではないと思うよ」
胸板をなぞっていた指先を腹部へ滑らし、彼のヘソのあたりをつつく。
「ムキムキだとヘソって縦長になんの?シュッとしてていいね」
思わず感じた感想がそのまま口に出る。ヘソの中に爪の先を軽く入れたり、入口をひっぱったりして遊んでいると、彼にその手を取られて阻まれた。
「だめだ、くすぐったい」
困ったように眉を下げて首を横に振るとベロアは俺のあばらの凹凸を滑るように指でなぞる。
「ほら、ヴィルはこことかくすぐったくないのか?こことか、こことか」
あばらから脇の下や鎖骨のあたりをくすぐるような手つきでさわさわと触れられる。
「俺、くすぐり強いんだー。残念でした」
そう言って得意げに笑う俺にベロアは何かを企むような笑みを浮かべ、俺の脇腹へと手を伸ばす。
脇腹は実はとても弱いので、とりあえずくすぐったくないフリをするが、どうしても身体が強ばる。
「筋肉が強張った。本当はここ弱いんじゃないのか?」
指先が触れるか触れないか。いつも力強い彼からはあまり想像できないような、そんな柔らかい手つきで俺の脇腹を彼の手が滑っていく。
「…ふふっ」
ついくすぐったくて笑い声が漏れる。我慢出来ずに身をよじって後ろへ下がる俺を捕まえて片腕と足だけでがっちりと抑え込むと、自由な腕を俺に見せつけるように脇腹に近づける。
「ほら、やっぱりヴィルはここが弱い。どうして嘘ついてんだ?」
今にも触れそうな距離でゆるゆると手を動かしながら、ベロアは楽し気に俺に話しかけた。
「だって、くすぐったいって言ったらくすぐるじゃん。そこ弱いからやめて」
「たしかに、やめろと言われるとやりたくなる。どうするかな、このまま押さえ込んでくすぐるのも楽しそうだ」
指先で俺の脇腹をつつ…と撫でながら彼は囁く。
まだそこまでくすぐられていないのに、その指の動きだけで脳が先にくすぐったさを想像させて、ぞわぞわと鳥肌が立ってしまう。
がっちりと抑え込まれた腕と足の間でじたばたともがくが、相変わらずビクともしない。
「やだやだ!くすぐったいのはやだ!」
笑いながら彼の腕をたたく。
「いいや、楽しそうに見える」
時々ベロアが颯や匙にこうしてくすぐり倒す遊びをしてるのを見たことはあるが、彼がやってるのはまさにそれだ。ベロアは手をとめないまま俺の脇腹を本格的にくすぐり始めた。
「嫌だ!やだって!ははっ!やめろ!」
想像通りのどうにもならないその衝動に、笑いながら全力で暴れる。それでも抜け出せるわけがなく、彼の腕に抱かれたまま笑い転げた。
人にくすぐられるなんて幼い日以来だ。一体何年ぶりだろう。
「ギブギブ!お腹痛い!よじれて死んじゃう!助けて!」
ベロアが押さえ込んでいる腕を全力で叩いて負けの意思表示をすると、ようやく手をとめて息の乱れた俺を強く抱きしめる。
「…可愛い。愛してるよ、ヴィルすごく愛してる」
愛してるなんて今まで言ったことないのに、先程見た映画の影響を受けてるらしい。覚えたての言葉を使いたくなる子供のようにベロアはその言葉を繰り返していく。
愛してるって言葉は嫌いだった。キザな響きで恥ずかしいし、両親が思い出したように突然使ってくる。なんの脈絡もなく、この言葉を使われるとイライラした。
「…俺も愛してるよ、狼さん」
笑いすぎて荒くなった息を整えながら、俺の肩に埋められたベロアの頭に自分の顔を寄せた。
ベロアが言う「愛してる」は、何故だかとても耳障りがいい。信頼しているから、不快に思わないのだろうか。
お互いに何も着ずに触れ合うと、肌の面積が広くて気持ちがいい。いつも気を失う前に朦朧とした意識でしか、彼の体温を全身で感じることがないから新鮮だ。
彼の腕の中におさまったまま、また硬さを保つ彼の下半身を太ももで挟み込む。潰さないように優しくそれをももで擦ると、ベロアは少し困ったように笑う。
「そんなことされると困る」
「別にスキンシップの最終目的はセックスなんだから、そろそろセクハラしたっていいじゃん」
にやにやと笑いながらベロアの下唇を食む。彼の唇は厚くて柔らかくてキスしたくなるし、食べたくなる。
「なあ、ベロア。俺が18になった時に、まだお前が俺のこと好きだったら結婚しよ」
彼は少し驚いたようで目を丸くした。
ベロアの鎖骨のあたりに唇を這わせ、指先で彼の胸を触る。胸は数少ない彼の羞恥心が許せないのか、触った俺の手をベロアはさり気なく捕まえて止めた。
「俺はお前の事ずっと好きでいる。でもどうして急に?犬と人間の結婚が普通じゃないことくらいは、俺にだってわかる」
「俺、お前と出会って割と直ぐに、父親に許嫁作られちゃったんだよ。お前に結婚して貰わないと、俺は会ったこともない女の子の旦那さんになっちまう」
そもそもケツでしかイけなくなった身体が、ベロアのせいで多分もう結腸まで届かないとイけなくなってる。子孫を残すための許嫁なんだろうが、きっとベロアくらいの特大バイブをケツにつっこんで嫁とヤらないと射精すら出来ない。誰も幸せになれない絵面なのは間違いないだろう。
許嫁という言葉の意味が分からないのか、険しい顔をするベロアに、許嫁は婚約者みたいなもので、将来結婚することを前提にした人だと説明する。
彼はそれを聞くとますます顔を険しくさせて、俺の体を痛いくらい強く抱きしめた。
「そんなのダメだ。ヴィルは俺だけの、他のやつには渡したくない」
「いや、俺もやだよ。だから結婚しよ。駆け落ちでもいいからさ」
冗談まじりに笑って彼の胸に顔を埋める。
「…家族が反対するなら、どっかもっと遠くに行ってさ。俺とベロアと子供たちだけで暮らそうよ。お前たちとの暮らし、本当に安らげる。家になんか帰りたくない」
「ヴィル…」
俺の不安な気持ちを感じ取ったのか、ベロアは静かな声で慰めるように俺の背中を撫でる。
「結婚はする。でも遠くのはなんでだ?」
「ここにずっといるのは無理だ。どんなに母親が味方しようと、いつかは父親が連れ戻しに来るよ。だから遠くにいく方が安心できる」
俺の答えに彼は少し難しい顔で考えているようだったが首を横に振る。
「いいや、俺は無理とは思ってない。ヴィルは俺と結婚もできるし、家族と仲直りもできる。母親はお前の事本当に好きだ、大事にしている」
ベロアは何故、俺の家族をこんなに信用しきっているのだろう。
母親は…彼の仲介を得てコンタクトを取る機会が増えたが、正直なところ本当に分からなくなってしまった。
俺のことなんか何も気にしていないのだと思っていたが、ベロアから見れば恐らく違うのだ。それはなんとなく彼の口ぶりからも分かった。
「俺はお前の母親も父親も…いや、なんならヴィルのことだって信用していなかった。でも今は違う。ヴィルのことは愛しているし、お前の母親のことも信用してる」
そう言って彼はまた目を細める。ベロアが俺の事を愛でる時、彼がよくする表情の一つだ。
「俺はお前の父親ともいつか分かり合えるって思ってる。もし、どうしてもだめならその時は俺がお前の父親を倒す。俺はお前の父親に負けないし、殺してくれと頼むこともしない。だからヴィルは何も恐れなくていい」
トントンと子供をあやすような手つきで背中をたたく彼の手は大きくて暖かくて、優しかった。
こういう時ばっかりベロアは随分と大人に見える。対等でいたいつもりだが、やっぱり彼には及ばないなと感じてしまう。
「お前が言うと本当に実行出来そうだから怖いよな」
「俺は出来ないことは言わないようにしてる」
相変わらずどっしりと構えたベロアの言葉に俺はつい声を上げて笑う。
「じゃ、18過ぎたら結婚しよ」
口約束ほどこの世で信用できない約束はないと思う。だから、期待なんかしていない。俺のこの約束だって、幼児が初めて好きになったクラスメイトに言うものと、きっとさして変わりはないのだろう。
でも、夢を乗せるだけなら誰も咎めない。ベロアの隣りにいる時は、色々な明るい夢が見られる。
「…ところで、こっちはまだ辛くない?」
にやにやと笑いながら足に挟んでいたものを手でさする。
「ああ、だいぶ辛かった。でもコミュニケーションってのも楽しかった」
俺の行為をGOサインだと感じたのか、彼は俺の背中に置いていた手を穴に滑らせ、もう片手で胸の方も撫でる。
「服はない方が好きだけど、それはそのままでもかわいい」
ベロアは首に結ばれたままになってるリボンにキスをして、企むように微笑んだ。
「考えてみれば裸リボンだな、これ。ベロアは布面積少ないのはおっけーなのか」
足に挟んだままの彼に指先を這わせ、初めてした時にしたように優しく溝をなぞったり撫でたりする。
「じゃあ、我慢してくれたご褒美に何でもリクエスト聞いてやるよ。何したい?」
「じゃあアレがいい、お前がそこで跳ねるやつ」
「騎乗位か~、任せろ」
ベロアの唇に自分のを押し付けて彼の唇を舐める。そのまま彼の上に跨り、手を添えて自分の中に彼を招き入れる。
明日を気にせずにセックスをするというのは、考えてみれば随分と久しぶりな気がした。いや、実際は1週間と少しなのだろうが…俺にとっては長い。
始まりこそはまったりしていたが、結局回数を重ねるとヒートアップするもので、終わるのは空が白む頃。ベロアが俺に突っ込んだまま2人してセックスしながら寝落ちしていた。
昼過ぎに目が覚め、起きようとベロアの肩を叩いても「もう少し」とまどろみから抜けて来なかった。仕方ないので彼の腕の中におさまったまま電話でルームサービスを呼び、適当にベロアが好きそうな朝食と昨日食べたチョコレートチャンクピザを注文した。
部屋のチャイムが鳴り、俺ベロアの肩を再び叩く。
「ほら、飯来たからちょっと避けて。服着なきゃ」
「………やだ」
返事はするが意識はかなり眠りに傾いているようで、彼の腕は重みこそあるものの、捕まえたりしてくる様子はない。
ベロアの腕をなんとか抜け出し、シャツの上だけ着て部屋から顔を出す。シャツがロング丈だったのは助かった。
ワゴンを受け取ってベッドまで戻る。ベロアの隣に座って、彼の口にキスをする。
「ほら、ご飯だぜ。あったかいうちに食べよう」
「飯か…」
『飯』のワードに反応してうっすら開いた目で俺を見ると、彼は起き上がるでもなく大きな欠伸をした。
「ヴィルが食べさせてくれ。起き上がるのも面倒だ」
ベロアは眠気とはまた違った、甘えるような声で横になったまま俺にすり寄る。
付き合ってから分かったが、案外ベロアは甘えん坊だ。彼の頭の下に太ももを滑り込ませて枕にする。
「しょーがないな。今日は子供たちもいないし、好きなだけ甘えていいよ」
ベロアの頭を優しく撫でながらワゴンに乗った盆を手に取る。まだ暖かい焼きたてのパンにバターを塗り、ちぎってベロアの口に運ぶ。
それを口で迎えてもぐもぐと咀嚼する彼の姿はだらしなくて可愛いが、一周まわって王者の風格すら感じるので不思議な生き物だ。
「今日は服でも買いに行かない?今の家に来てからあんまり着替えなくてつまんないんだよね。あー、でもベロアは服とか興味ないかな」
スコッチエッグを切り分けてフォークに刺す。膝の上でまどろむベロアにそれを運ぶとまたぱくりと口で捕まえる。
「ヴィルの服を買うのか?それなら俺も見たい」
ベロアは意外にも俺の案に乗り気なようで、スコッチエッグを飲み込むとニッと笑って答えた。
「かわいいのがいいけど、でもヴィルは何も着てなくてもかわいいから、可愛くないほうが難しいかもしれないな」
「お前ほんとに俺のことべた褒めだな。じゃあ、ベロアにもたまには違う服着せてみたいんだけど、試着くらい付き合ってくれる?」
俺の顔面偏差値は一般的にはあまり高くないので、あまり声高に褒められるといたたまれないが、2人きりの時は普通に嬉しい。
自分の分のチョコレートチャンクのピザをもぐもぐと食べていると、ベロアが一口欲しいと言うので、口に咥えたままベロアの口に運んだ。
「俺の服は着心地が悪くないなら何でもいい。でもヴィルが選んでくれるなら別の服も来てみたいな」
口の端に溶けたチョコを付けて「すごく甘い」と彼は笑う。
「着心地悪くないやつか…それなら幅広そうだな。色々探そうか」
ベロアの口の端についたチョコをキスで舐めとる。
ベロアは手足も長いからスタイルもいい。何を着ても似合いそうなのに、柄や色が違えどあのサルエルにオーバーサイズのシャツのみなのは正直勿体ないと思っていた。
結局、朝飯の間ベロアが身体を起こすことは1度もなく、大半を俺の膝の上で完食した。
その後は全裸のままだったベロアに服を着せた。俺もいつもの帽子にいつもの服装、ベロアにリボンを首に巻いてもらって出掛ける準備は整った。
軽いリュックを背負ったベロアとホテルをチェックアウトし、俺たちは街へと繰り出した。
店が立ち並ぶ大通りで、行きがけにクレープを買ってかじる。ベロアは驚く速さで完食したので、あまり一緒に食べている感じはしなかった。
「服なんにしよっかなー」
まだ少し手元に残っているクレープを食べながら服屋を外から見て回る。
「俺はああいうのがいい」
彼が指を刺した先にいたのは男女のカップル。色合いを揃えつつ、それぞれスカートや装飾で女性らしさ男性らしさを出しているそれはいわゆるお揃いコーデというやつだ。
「マジか、ペアルックみたいなの興味あるんだ?」
意外なチョイスに目を丸くする俺にベロアは「あれだと一目で、あの女がアイツの物だってわかる。すごくいいことだ」と真面目な顔で答える。
なるほど原理を聞けば、ヤキモチ焼きなベロアらしい考えではある。
「じゃ、一緒にサルエルでも履く?似合うかは保証しかねるけど」
残ったクレープを全て口に詰める。繋いだままのベロアの手を引いて、先程見て来た店の中で1番イメージに近そうな店を選ぶ。
前にベロアと入ったストリート系の店は、本当にダンスとかをする人間が着るのに良いという、少し大人向けの服が揃った店だったが、今回入る店は10代向けの少しカジュアルな店だ。
店内に入ると地下で流行っているJ-Popが流れている。普段からフォーマルベースの服ばかり着ているのであまりこういう店には俺も入ったことがない。
「何がいいかな…ていうかサルエルって俺に似合うもんかね」
腐ってもアメリカ人なので、足の長さだけで言えば日本人よりは長いはずだし、適正もあるだろうが、自分が着た状態がまるで想像つかない。
何着か手に取ってはベロアに見せてみる。ベロアと同じような腰布が巻かれたオーソドックスなサルエルから、エプロンタイプのもの、ロールアップで脛が見えるもの。種類が思っていたより豊富で、より一層悩ましい。
「それは?」
俺が手に取った最後のサルエルをベロアが指さす。膝下までのハーフパンツタイプだが、裾には三つ金色のボタンがついており、他のサルエルよりもカッチリとした印象があった。
「これ?着てみようか?」
「よろしければ、ご試着なさいますか?」
ベロアと話していると横から店員に声を掛けられる。ベストタイミングだ。
「あ、じゃあお願いします。ついでに、これに合いそうな上ってあります?」
サルエルを手渡して尋ねると、店員は適当なものをピックアップしてくれた。それらの中でも比較的フォーマルよりのものを選び、試着室に入る。その後ろに当然のようにぴったりとベロアがついてきた。
「あれ?一緒に中入るの?」
「広いしいいだろ」
「いや、まあいいけどね」
本当に片時も離れない有言実行なベロアに思わず笑いが零れる。
ベロアに見つめられる中で俺は服を脱ぐ。下着を残して裸になると、ズボンから足を通していく。いつもより少し丈の短いシャツを着て、上にベストを着る。セットで渡されたショートブーツを履き、ベロアに向き直った。
「どう?変じゃない?」
鏡に映る自分はハーフパンツのサルエルの影響でか、フォーマルからあまり離れないようにしたはずだが、いつもより少年っぽく見える。
「幼すぎない?大丈夫?」
彼はじーっと俺をじっくりと見つめてからぽろっとこぼすように呟いた。
「………かわいい」
俺の顔を掴むように両手を添えて上を向かせる。数秒彼と見つめあってからまた「かわいいぞ、すごくかわいい」と付け足すように言われる。
彼はいつでも俺に対してべた褒めだが、今回はその中でもかなり高評価なようだった。
「そう?ベロアが気に入ってくれたんなら買おうかな。この服、今着てくのと今度のデートにとっとくの、どっちがいい?」
「折角だ、今にしよう。すごくかわいい」
着替えてからのこの短い時間に一体何回「かわいい」と言ったか、いっそのこと数えておけば良かったと思うほどベロアは「かわいい」を言いまくる。そんなに気に入ってくれたのなら、悪い気はしない。
彼のリクエストに答えて、店員にタグを切ってもらい、さっきまで着ていた服を袋に詰めてもらった。
会計を済ませて再び店を出る。彼の腕に自分の腕を絡め、俺はベロアを見上げて笑う。
「じゃ、次は俺の番だな。ベロアに着て欲しい服はもう決まってるんだよね~」
「そうなのか?少したのしみだな」
柔らかく微笑んだ彼の腕を引いて目的の店に向かっていると、不意に肩を掴まれて振り返る。目の前にいるのは見知らぬ男性で、彼は静かにするよう口元に人差し指を立てる。
「ヴィクトール…ヴィクトール=ブラウンシュヴァイク様ですよね。少々お時間、頂けませんか?」
小さな声で男は話す。痩せこけたその男の落ちくぼんだ目を見つめてから、俺はベロアを見上げる。
男の表情に悪意は感じないが、明らかに裕福ではなさそうだし、何より怪しい。
「ヴィルに何かするなら俺は怒るからな」
ベロアは男と俺の間に腕を割り込ませ俺を一歩引かせると男を警戒するように鋭い視線を投げるが、相手を見極めているらしく攻撃する様子は見せない。
男は少し焦ったように両手を前に出して手を振った。
「そんな、危害を加える気は…ビジネスですよ。有益な情報だと思って、あなたに直接売りに来たんです」
彼は眉を寄せて歪な愛想笑いを見せる。黄ばんだその歯を見ながら、俺は口元に笑みを貼り付けたまま首を傾げた。
「情報屋なのか?」
「本業は違うのですが…とにかく、こんな人混みではなんですし、少し横の道へ移動しませんか?」
彼の言葉に俺は周囲を見回す。言われてみれば、こんな人の往来が激しい場所では本当に有益な情報だったとして、だだ漏れにもほどがある。
「…ちょっと興味があるんだけど、ベロアはどう思う?」
興味を持つだけの余裕があるのは、ベロアが強いからだ。彼が何とかなると言えば、何とかなると思えてしまう。
それなら根拠になる彼に聞く方が早いと思ったのだ。
「ヴィルが聞きたいならいいぞ。何があっても俺が傍にいる」
彼は俺を見下ろすと横髪をふわふわと撫でてから答える。
そう言われれば安心だ。俺も彼に頷いてから男に視線を戻した。
「分かった。移動しよう」
「こちらへ」
俺は明らかに慣れていない愛想笑いを必死に作りながら横の路地へと俺を案内する。人気がなくなるあたりまで大通りから離れ、廃ビルの影で男は小声で話し出す。
「…権藤 篤という名前の医師をご存知だと伺ったんですが、彼の居場所の手掛かりはいりませんか?」
権藤という名前に目を見開く。この地区から移転させられたと聞いていた、爺さんのフルネームだ。
「どこでその名前を…」
「ちょっとした知り合いと言いますか…これ以上お聞きする場合は15万ほど」
男はにやにやと、それでもどこか怯えたような笑みを浮かべて手をこねる。この様子では、多分この男もあまりこういう取り引きは慣れていないのだろう。それは逆に信用に値した。
「分かった。払おう」
腕時計を差し出し、男の腕時計にかざす。15万の金額が相手に移り、それを確認した男は目を泳がせながら俺にヒソヒソと耳打ちした。
「彼の元々の居住である第8地区の少し東、第9地区に住んでいます。赤い屋根の二階建ての一軒家。ただ、表札が出ていないので分かりずらいかもしれませんが…」
彼の言葉に俺は眉をしかめる。父親の話なら、もっと遠方…それも南東に飛ばしたと言っていたのに。
「…本当に確かなのか?」
「本人に会ったことがあるので、間違いないです。もし良ければ住所をデータでお送りしますが、その場合は…追加料金を」
少し迷った様子で男は料金を上乗せしてくる。俺はしばらくの沈黙をはさみ、笑みを浮かべたまま男を目線だけで見上げた。
「ちなみに、俺がここにいて、その情報を求めているという話の発信源については売ってくんないの?」
「えっ」
「俺、一応これでもそれなりにお忍びでさ。こうやって居場所が漏れているのは、あまり好ましくないんだ。話してくれるなら金は払う」
戸惑う男の腕時計に自分の腕時計を重ねて、追加料金を支払う。金額を見た男は窪んだ目を見開く。
「50万…」
「俺たちの身の安全がかかってる。な、ベロア?」
「そうだ。俺たちはお忍びなんだ」
ベロアはわかっているのかいないのか…俺の言葉をそのまま真似たが、男を脅すように屈んで睨む顔を彼の鼻先に寄せて唸るような声をだす。
それでも、本当に俺の居場所がこんな取り引きに不慣れな人間に漏れ出すほどバレているなら父親に見つかるのは時間の問題だ。
そうでなくとも、父親以外にも俺の身柄を確保して揺さぶることを考える輩だっている。どの道、あまり安全な環境でないことは明白だ。
男は悩むように目線を泳がせてから、口を開いた。
「詳しくは本当に知らないんです。ただ、権藤という男を知らないかと、数人の人間に聞かれました。知っていたんですが、彼らの話を良く聞けば、ブラウンシュヴァイク家の長男を呼び出すとかって聞いて…それなら自分が自らと」
「その人間はこの辺にいたのか?」
あまり良くない話だとは分かるのか、ベロアが隣から口を挟む。男はそれに怯えるように身動ぎをしたが、小さくこくこくと頷いた。
「そうです。なら、この周辺なのだろうと調べたら、ファイトクラブで赤紫の髪を見たとの情報がありました。この周辺なら、もしかしたらと…」
ファイトクラブといういかがわしい施設の名前を聞き、俺はベロアをチラリと見る。
「悪かったと思ってる…」
あんなに強そうに男を睨むベロアが、屈んた姿勢のまま俺に視線を投げると、申し訳なさそうに眉を下げてもごもごと口ごもる。あの無敵で堂々としている彼が、俺には強く出られない様は控えめに言って可愛い。
「…とりあえず分かった。権藤についての情報は検討したい。こちらの連絡先は渡せないが、聞いてもいいか?」
「はい!」
チャンスだと思ってか、男は喜び勇んで連絡先を紙に書いてよこす。それを受け取り、財布の中にしまった。
「有益だった、ありがと」
彼に手を上げて会釈をする。男は不格好なお辞儀を深々とし、俺とベロアを見送った。
大通りに戻り、目的の店までの道のりを再び歩き出すが、やはり男の言葉はひっかかる。
「…ベロアはどう思う?権藤って爺さんのことなんだけど、父親たちが調べてるんだと思うか?」
父親は間違いなく俺たちの足取りを調べているだろうが、そんな一般人に横から情報を漏らしてしまうような粗末なことをするとは到底思えない。やるとしたら動いているかも分からないほどに、スマートに裏で画策するだろう。
「あの老人は父親が隠したんだろ?じゃあなんでその父親が老人を調べる?」
彼は難しい顔をしながら首を捻る。
「そうだよな、俺もそれは思ったんだ。ワンチャン、爺さんが自ら身を隠したってことはなくはないだろうけど…そんなことするとは思えないんだよな」
爺さんは生き延びるのが上手い人だ。父親の怒りを買ってなお、さらに怒りに触れるような真似はしないだろう。
「そうなると、やっぱり他の誰かが俺のことを探してるんだろうな」
「気になるなら調べたらいい」
俺が考えに耽って黙っていると、彼は自信に満ちた声でそう言って鼻を鳴らした。
「…そうだな。1日で分かることでもないだろうし、今あれこれ考えてても仕方ないよな。家帰ったら調べるよ」
どんな情報が耳に入っても通常運転の彼に肩を竦める。命懸けで毎日を生き抜いてきた野良犬のボスからすれば、俺が感じる危機感など取るに足りないらしい。
「とりあえず、デート楽しもうか。今日はそのつもりで来たんだし」
ベロアの腕にぶら下がるように身体をくっつけて歩き出す。
街を歩いていると、昼間だからかたまにベロアが見知らぬ人に握手を求められたり、プレゼントを渡される場面があった。
渡されたものを突き返すのは彼の良心が痛むのか、はたまた野良犬時代の勿体ない精神に抗えないのか、少し迷ってからそれを受け取る。
そのたび、俺がわざとじっとりした目線を投げるとベロアは大きな身体を縮めて申し訳なさそうにするのが可愛いくて、それを見ては笑った。
こうやって昼に彼と出掛けるのは久しぶりだが、思っていた以上に白昼に日本人だらけのこの地区を歩くベロアは目立つようだった。ファンがいてモテる彼を見るのはそれなりに楽しいが、誰かが俺のことを調べていると聞いた後では目立つのは心配ではあった。
「ベロア、あっちの道いこ」
花束を手渡されて受け取る彼の腕を引いて、大通りの脇道を示す。彼も何か思うところがあるのか、頷くと一緒に脇道へとついてきた。
「お前、モテすぎ。ウケる」
ケタケタと笑う俺に彼はプレゼントをリュックやポケットに器用にまとめながら困ったように目を泳がす。
「すまない。そんな有名になるつもりは…」
「謝んなよ。お前がモテんのめっちゃ分かるし、みんながお前のカッコ良さを讃えてんの見るのは楽しいよ」
バウンティの評判については大手を振って喜ぶほど心は広くないが、どれも本音だ。彼の魅力に気付いた人間がたくさんいるのは素直に嬉しい。
俺は彼に最低限の人権を与えて、衣食住を整えただけだ。俺の恋人特権で多少は贅沢しているだろうが、俺がどうこうせずとも彼はこうなっていただろう。それだけの実力を元から持っていたんだから。
「俺のスターはついに、みんなのスターになったんだな」
気持ちとしては、デビューからスポンサーとして出資していたタレントが国民的な人気を獲得するのを見届けた感じだろうか。ダイヤの原石を見つけたのは俺だぜっていう、隠れた優越感。
「俺は別に…ヴィルが好いててくれるならそれでいい」
彼は少しむっとした様子で呟く。
「でも、こうするとやっぱり犬とか人間とか関係ないだろ。ベロアがカッコイイってのはみんな共通して感じるんだ。お前を躾たりしないで自由にした俺は間違ってなかった」
これだけ魅力的な人間を野良犬という身分で封じて、誰も気付くことなく死なせたりなんかしたら、それはとても勿体ないことだ。
父親は犬は犬らしくと言うが、やっぱり俺には理解できない。
「俺のことしつけたかったか?」
「まさか!俺は空を走る自由なベロアに恋してんだ。死ぬまで悠々自適に、傍若無人に生きてくれ。俺が生涯お前に出資するから」
ホッとしたように目を細めたベロアの隣で俺はクククッと喉を鳴らして笑う。
「…いつか身分とか関係なく、みんなが自由に生きられたらいいな」
たかが16…いや、この間17歳になったが、所詮は高校生だ。自分で言っていることが夢物語に限りなく近いことは分かっているが、それでも、そんな夢を見てしまう。
そんな夢を色濃くさせるのは、ベロアが俺の隣にいるからだろう。
「ヴィルがそれを望むなら叶う。お前の希望は消えたりしない。俺がお前の希望だからな」
恐らくなんの意図もないのだろうが、口説かれているようなくすぐったい気持ちになって俺はベロアの脇腹を肘でつついた。
そんなことを話しながら角を曲がると目的の店が道路の向かいに見えた。ベロアの手を引いて信号を渡り、その店へと踏み入る。
ちょっと前から目をつけていたヴィジュアル系のメンズショップだ。ストリート系のゆるいシルエットの物より、少しカッチリとした印象の服が揃った店内のマネキンを眺め、訝しげに首を傾げる。
「窮屈そうだし動きにくそうだ。大丈夫なのか?」
「ここは素材にこだわっているから通気性もいいし、スキニーとかでなければ締めつけも見た目ほどじゃないさ」
気になった服をピックアップし、それらをベロアに渡していく。店員に早々に試着の許可を得て、ベロアを試着室に押し込んだ。
カーテンの外で待機しようとしていると、ベロアが徐に中から顔を出す。
「着せてくれないのか?こういう服は慣れてない」
目を細めて口の端を上げる彼の表情は、悪巧みをする子供のようで、本当に着られないと言うより甘えたいという印象があった。
「しゃーねえな」
笑いながら首を振り、俺も試着室に入る。
彼のシャツを脱がせ、ズボンのチャックを開ける。もう随分この作業も慣れてきた。
「これやってると、風呂場でベロアがフェラ思い出したとか言ってたのが懐かしくなるな」
「そういうこと言うと、また思い出すから言わない方がいい」
ベロアのズボンを降ろしながら飛ばした冗談に、彼は楽しそうに笑う。
ローライズの少し細身の黒いストレートズボンを履かせ、ドレープ付きのノンスリーブシャツを着せる。上からフードつきのロングベストを着せて完成だ。
「はー?カッコよ。アサシンみたい。お前みたいなアサシンなら殺されてもいい」
久しぶりに見るベロアのサルエル以外のズボン姿は、長い足がスラッと綺麗に映えて見える。ノンスリーブベストから見える二の腕が男らしくてそそられた。
「殺したりしない」
「比喩だよ、比喩。あー、ドレープシャツもいいけど、いっそ着ないでベストだけでも性的な気がする…まよう…」
ベロアの腰周りをさする。ローライズだからか、腰のラインがいつもより一層にセクシーだ。たまらなくなって、そのまま腰周りに抱きついて頬ずりする。
「気に入ったのか?」
「めっちゃ好き!抱かれたい!」
腰に巻きついた俺の頭を優しく撫でながら、ベロアは満足気に笑みをこぼした。
「これなら着ていてもあまり気にならない。ヴィルが喜ぶならいくらでも着る」
もっと嫌がるかと思っていたが、案外あっさりと貰えた許可に俺はガッツポーズを決める。
「やった!今着て…あ、でも今せっかくサルエルお揃いにしたんだから、もったいないか」
ベロアを再びもとの服に着替えさせ、レジで会計を済ませる。綺麗な紙袋に詰められたそれをベロアは何も言わずに持ってくれた。
「あー、楽しかった。次どこ行こうかな」
店の外に出て、大きく伸びをする。ベロアに振り返ると、彼は天上を見上げていた。
「雨の匂いがする」
ベロアは野良犬生活が長かったせいか、雨が降る少し前になると匂いで分かるのだという。おかげで梅雨だと言うのに、上手い具合に雨を避けられていたが、出先ばかりはどうにもならない。
「じゃあ、さっきのベストだけ着たら?フードで頭は防げるはずだ」
買ったばかりの服を袋から取り出してベロアに袖を通させる。転ばぬ先の杖。雨に当たるかはまだ分からないが、あるに越したことはない。
ベロアが目立たないよう大通りを避けて脇道に入る。とりあえず雨が降っても大丈夫なようにレジャー施設に向かおうと、しばらく歩いていると不意に身体が浮き上がる。
「掴まっててくれ」
肩に担がれ、俺は彼に掴まりながら帽子を被り直す。
「何?誰か来た?」
「気配がある。1回、上に上がろう」
ベロアは側の室外機に足をかけ、壁の窓枠を足がかりにどんどんと上へ登っていく。久しぶりの離陸に、彼に掴まる腕に力がこもる。
「怖かったら目を閉じててもいいぞ」
「つぶってる方が逆にこえーわ」
強がって笑って見せるが、いよいよ5階建ての高さのベランダにベロアが着地した時には心臓がおかしなくらい音を立てて鳴っていた。にじむ手汗で滑り落ちそうなのが怖くて、高所から降りられなくなった猫のように彼にしがみつく。
ベロアは慣れた手つきで上へ上へと上がり、屋上までたどり着くと俺を担いだまま周囲を見回す。
「あそこにいる」
彼が指さす方を見ると、スーツを着た男たちが地上から俺たちを見上げて何かを話している。人数はざっと5人ほどだ。
「大丈夫?撒ける?」
「まかせろ」
どこか楽しそうにも見える彼は、屋上を走り出す。俺と荷物の詰まったリュックを背負っているのにまるで重さを感じさせない足取りでビルからビルへと飛ぶように渡っていく。
肩から見える景色は、まるで空を飛んでいるようだ。
5つ目のビルに飛び移ると、突然屋上の扉が開く。中から出て来たのはスーツの男たちではなく、黒づくめの仮面を被った男が3人。
「その子供を渡せ」
男の声は変声機が仕込んであるのか、人間のものではない。それを無視して走り抜けようとしたベロアの足元の床が、小さい破裂音と共に弾け飛ぶ。
「サイレンサーの銃だ、気を付けろ」
男の手に握られた武器を見て、俺はベロアに教える。彼は飛び道具で狙われたまま走り抜けるのは危険と感じたのか、足を止め身構え男と睨み合う形になる。
最初に銃を構えた男たちに続いて他の2人も同じく銃を懐から取り出す。ベロアは俺をその場に降ろし、彼らが狙いを定める前に彼らの前へと姿勢を低くして走り込む。1人の懐に体当たりをかまし、倒れた相手から銃をもぎ取る。
「貸して!」
手を振ってベロアに声をかけると、ベロアはこちらを見ずに、それでも的確に俺の手元へそれを投げ込む。それを空中で捕まえ、1人に向ける。
「俺も銃ぐらい使えるんだぜ」
男が俺に振り返り、銃をこちらに構えたところをベロアが横から飛び膝蹴りで男をなぎ倒す。
残った1人が銃を発砲するが、動揺してか弾丸は明後日の方向へ飛んでいく。
ベロアは姿勢を低くしたまま、まるでブレイクダンスでも踊るかのように素早く足を蹴り出し、男はバランスを崩して後ろに倒れた。
まだ抵抗を見せるその男の顔面に、ベロアの軽めのパンチが入り大人しくなった。
ベロアが最後の1人を片付ける横で俺は倒れた男の手からも銃を奪い取り、ビルの下へと投げ捨てる。
「そいつの銃も捨てておしまいだ。お疲れ」
最後の銃をベロアが取り上げて、俺と同じように下へと落とす。カッコよかったと褒めようとする俺に、ベロアは素早く駆け寄ると、再び俺を肩に担ぐ。
「まだおしまいじゃない。上に上がってくる足音がする」
俺を担いだまま、次のビルへ飛び移る。すると彼が予想していた通り、先ほどまで俺たちがいたビルの戸が開き、スーツの男たちが続々と姿を見せる。
男たちは見た目に似合わない身体能力で軽々とビルの谷間を跨いでこちらへと向かって来る。それを振り切ろうと障害物を使いながら逃げていくベロアの目の前に再び黒づくめの男が影から現れる。
目の前に立ちはだかる男の顔面をベロアは俺を担いだまま蹴りあげ、男を跨いで抜けようとするが、さらに3人が姿を見せる。
「子供を渡さないと殺す」
男たちが銃を取り出す。ベロアは狙いが付けられないように彼らの周囲を回るように走り抜け、ビルの中へ入る扉の前で俺を下ろした。
「ここにいてくれ」
俺が何かを答える前にベロアは男たちの元へと走って行く。黒ずくめの男たちは銃に頼っているだけで、体術はあまり精度が高くないようだ。ベロアの前に呆気なく打ち倒されるが、男たちが伸びたのと同時にスーツの男がビルに到着する。
「お前は…前に会ったことあるな」
男たちの真ん中に立つ、長身の男を見てベロアが呟く。長身の男は手をゴキゴキと鳴らして笑う。
彼は何を言うでもなく、手をこちらに差し出し、指先を曲げる。ベロアがよくやる挑発のそれだ。
「俺もお前とはもう一回会いたいと思ってた」
ベロアはあくまで冷静に、その挑発にこたえた。
長身の男を囲むようにいたスーツの男たちは俺を狙ってか、こちらへと走り込んで来る。それを相手から目を離すことなく流れるように蹴り倒した。
スーツの男が3人脱落したところで、ゆっくりと歩み寄ってきていた長身の男がベロア目掛けて走り込んでくる。その後ろの男はスナイパーライフルのような銃を持っており、ベロアを狙っているのが分かった。
俺はポケットからマグナムを取り出し、ライフルの男へと向ける。
「ベロアを撃つなら俺が撃つ。命が欲しければ銃を捨てろ」
ライフルの男の足元に威嚇射撃をする。パンッという銃声に男は俺を見るが、銃を捨てる様子はない。
「こっちだ」
ライフルの男が一瞬ベロアから目を離したすきに彼は逃さずもう1人の長身の男に飛びかかる。すんでのところでベロアの蹴りをかわし、すかさず彼の二撃目を拳で受け止める。
「相変わらずの反応だな。あの時のパンチは少し痛かった」
先ほどの発言や動きを見る限り、もしかするとベロアが盛大に鼻血を出して帰ってきた時に戦った相手なのかもしれない。
不意に、ベロアの後ろで倒れていたスーツの男が起き上がり、俺へと走り込んでくる。突然のことで銃を構えたまま、俺の脳みそが硬直する。
目を開いたまま呆然と男を見ていると、ベロアが気付いて戻ってくる。側の男に後ろから組み付いて止めると、それを投げ飛ばす。
それと同時に銃声がした。ベロアの二の腕から血が吹き出し、ボタボタと血溜まりを作る。
「ベロア!」
頭が真っ白になる。どうしていいか分からずに名前を呼ぶ俺にベロアは笑ってみせる。
「怪我しなかったか?」
言葉が出ずに、俺は目を見開いたまま小さく頷く。安心したように鼻で笑って彼は再び俺に背を向け、長身の男と対峙する。
ベロアは怪我をしているなんて感じさせない軽やかで力強い動きを見せるが、その動きに時折悲鳴を上げるように傷口は鮮血を吹きださせる。
俺が足を引っ張らなければ、ベロアは怪我をしなかった。
彼の背中を見ながら頭から血の気が引いていく。もう少し動けるつもりでいた。奢っていた。あんな大怪我をさせたのに、俺はただここで見ていることしかできない。
ぐるぐるとマイナスな感情が頭を巡る。その思考は判断力を鈍らせると知りながら、動揺で激しく鳴る鼓動の音で、自分の正しい声さえ聞こえない。
背後で何かが動くような音がした。ライフルを構えた男が俺を見て、目を見開いた。
「ヴィクトール様!」
何かと思い、振り返った瞬間に口を塞がれる。誰かが俺の身体に組み付き、建物の中へと引きずり込む。
「ヴィル!」
ベロアと長身の男も戦いを止めてこちらへと駆け寄るが、簡単に担ぎあげられた俺はそのまま建物の中を通って連れ去られる。
「ベロア!」
手に握ったマグナムが滑り落ちる。鈍い金属音を立てて床を滑るそれは、唯一の俺の対抗手段が消えたことを告げていた。
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