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2章
4
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4.ベロア視点
足で地を蹴ったときの飛ぶように流れる景色と頬を撫でる風が好きだ。
ヴィクトールからは冷蔵庫の物が減りすぎていて、使用人たちが不審に思っているので、先に連絡と支払いを終えた店で食材を受け取って欲しいと、地図と一緒に店を指定された。
走り慣れたこの町の屋根や屋上を伝い、通い慣れ始めた俺たちの新しい家へと向かう途中で俺は足を止める。
「店はどっちの方角だったか…」
店の位置を確認しようと辺りに注意を向ける。
「…またいるな」
後ろを振り返ると姿こそ見えないが付きまとうような視線をいくつか感じる。昨日よりも数が増えたように思うが、さして脅威には感じなかった。
俺は一度子供たちを隠した家へのルートから外れ、この町の中でも特に複雑な縦にも横にも視界の悪い路地の一体に入る。
「どこまでついてこれるか試してやろう」
ヴィクトールに出会う前。食料を盗んだりハンターに追われた時にもこの道は頻繁に使っていた。
所狭しと押し込まれたようなビルの群れは室外機やベランダ、排水管など足場も豊富で追っ手を撒くのにちょうどいいものがそろっている。
ビル街を抜けて再び建物の屋上に着地する頃には、あの嫌な視線はもう感じなくなっていた。
「呆気ない、ヴィクトールはどうしてあんなものを恐れるんだろう」
彼はアイツらなんかよりもずっとしつこくてあっという間に先回りして俺を追い込んだような奴だ。俺も彼を甘く見ていたとはいえ、今のやつらとは比べ物にならないくらい面倒に感じたほどだ。
そんなことを考えながらヴィクトールから聞いていた店の前に飛び降りる。
店と聞いていたからいつも盗みを働いていた露店や、開けた店構えのものを想像していたのだが、そこにあったのはガラス張りのスライドドアに黒いさらさらとした登りづらそうな壁をした大きな建物だった。
「なんだこれ…本当に店なのか?」
怪しむ気持ちはあったがヴィクトールから「黒い建物な」と言われていたから多分これなんだろう。
今回は盗みに入るわけではないし、他に建物にはいれそうな窓もないので俺は落ち着かない気持ちながらも、正面のスライドドアに接近する。
ドアは俺が近づくと触れてもいないのに勝手に開く。傍に人がいる様子もないし罠ではないかと身構えるとドアはまたひとりでに閉まった。
「俺を誘っているのか…?」
再びドアに近づくと、またドアはひとりでに開く。かなり怪しい建物ではあるが中に入らねば今日の食料が得られないので俺は周囲に警戒しながら建物の奥へと足を進めた。
「…ヴィクトール様のお使いのベロアさんでしょうか?」
不意に店の人と思われる女性が、笑みを浮かべつつも不思議そうに俺の方へと寄ってくる。
「ああ…ベロアは俺だ」
「良かった、人違いだったらどうしようかと。ヴィクトール様からお伺いしております。こちらへ」
そう言うと彼女ははにかんで店の奥を手で示す。
俺が歩き出すと、彼女は隣について歩く。
店の中は見たこともないような瓶や缶、新鮮な魚や野菜などが綺麗に並べられており、一見こじんまりとしたスペースに八百屋や魚屋を合体させような不思議な店だが、人が大勢いるわけでもなく落ち着いた雰囲気だ。
カウンターまで案内されると「お待ちください」と彼女はカウンターの奥の部屋へ行き、大きな袋を両手で重そうに持ってカウンターに置いた。
「こちらがご注文頂いた食材となります。サインを頂けますか?」
そう言って彼女は何やら紙とペンを差し出す。
「…サイン?」
とりあえず渡されたものを手に取る。ペンがあるということは何か書けという事なのだろうが、何を書けばいいのかわからない。
「こちらに」
紙を見つめて悩む俺に店員が横から、紙の中にある小さな四角を指さす。
「この四角の中に書けばいいんだな」
店員の女性は「はい、お願いします」と笑顔を見せる。何を描こうか…絵なら子供たちにせがまれてよく描いて見せるから少し自信がある。
俺は欄の中にヴィクトールの飼っていた鳥の絵を描いた。枠が少し小さくて描きづらかったがなかなか見栄えよく描けただろう。
「描いたぞ」
紙とペンを女性に返すと彼女は俺の絵を見て「ふふっ」と小さく笑った。
「お伺いした通りですね。頂戴いたしました」
「これを持って行っていいんだな」
先ほど運ばれてきた袋を片手で背負うように担ぐ。ずっしりと重みはあるがまあ気になるほどではない。
「ありがとうございました。ヴィクトール様にもよろしくお伝えくださいませ」
彼女はそう言って俺に頭を下げた。
店を出て、念のため俺を追う視線がないかを確認してから子供たちの家に戻る。
屋根から庭に着地する音で彼等が気付いたのかわらわらと窓に張り付いて笑顔を見せてくれた。
「おかえりベロアおにーちゃん!」
「あれ?ヴィクターは?」
「チョコのやつないの?」
いつも来ていたヴィクトールがいないことに子供たちは不思議そうに首をかしげる。
「ヴィクトールは今日は筋肉痛で寝てる」
「キンニクツウってなに?」
「わからないけど俺と沢山セックスした所為で動けない程痛いらしい」
痛いと聞いて凜は心配そうに「ヴィーおにーちゃん大丈夫なの?」と聞いてくる。
「ヴィクターとベロアがセックスしたの?それってどんな遊び?」
「大人の遊びだそうだ、お前らも大きくなったらできるようになるさ」
残念そうな3人をなだめながら家に入って荷物を下ろす。
荷物の中身を確認すると焼いていない肉や、頭のついた魚も入っている。たしかこういうものは冷蔵庫に入れないと腐ってしまうと、ヴィクトールが言っていた気がする。
袋の中身をひっくり返して広げてみるものの、冷蔵庫に入れるべきものと入れなくていいものの違いが判らないのでとりあえず全部入れておくことにした。
「あ!王子様の魔法の粉!」
「ああ、これか?」
ヴィクトールが焼き菓子を作るときによく使っている不思議な粉を手に取ると、凜が嬉しそうに寄ってくる。
「ねえ、これでヴィーおにーちゃんにお見舞い作ってもいい?」
「もちろん、きっと喜ぶぞ!火には気を付けて作るんだぞ」
凜は「はーい!」と元気に返事を返すと卵や牛乳、メモリのあるカップやボウルを取り出してキッチンをせわしなく歩き回る。
「俺たちもやるー!」
「チョコのつくろ」
凜に釣られるように颯と匙も彼女の周りに集まって、ボウルをのぞき込んだり凜に質問しながら手伝いを始めた。
やることのなくなった俺がソファに横になると横から凜に声をかけられる。
「ベロアおにーちゃんもやるの!キンニクツウになったのおにーちゃんのせいなんでしょ?」
「確かにそうかもしれない」
凜に引っ張られながら俺もキッチンに立つ。ヴィクトールが作るところを見ていたとはいえ、ちゃんと作り方を聞いたわけではないが大丈夫だろうか。
しかしそんな心配もよそに彼から作り方を習ったらしい凜はてきぱきと粉を図り、卵や牛乳を混ぜ合わせ、サラサラの粉をあまい匂いのするとろとろとした液体に変えていく。
「すごいな凛は、ヴィクトールと同じことができるのか」
「ヴィーおにーちゃんが教えてくれたもん、私も魔法使えるようになったんだよ!」
戸棚の中から彼が使っていたものと同じカップと串を探してオーブンの鉄板に並べていく。
ヴィクトールが書いといたらしい矢印までメモリを合わせて暫く焼くと、嗅ぎなれたあまい匂いが部屋いっぱいに広がった。
「できた!」
彼が作ったものよりも形がまばらで大きさもまちまちだし、小さいものは少し焦げているようだったがなんとかそれらしいものは出来ている。
それをまばらに潰し、クリーム状のものに混ぜて丸めていく。串を刺して凜が用意していた溶けたチョコレートにそれをくぐらせると、ヴィクトールがよく食べていた焼き菓子に姿を変える。
「チョコのだ!」
「このおっきいの俺が作ったやつだ!!」
熱いままのチョコレートはべたべたで服や肌にすぐくっついてしまうから、少し冷まして硬くなったものを紙袋に入れてリュックに詰めた。
紙袋に入りきらなかった分を皆で分けて食べると、ヴィクトールが作ったものより少し硬くてぽろぽろしていたが味は美味しく出来ている。
もう少しのんびり過ごしていこうと思っていたのだが3人とも口をそろえて「早く持って行ってあげて」と言うので、俺は予定より少し早く帰ることにした。
「ちゃんとヴィーおにーちゃんに渡してね!」
「次はちゃんとこいって言っておいて!」
「次はドーナツがいい」
子供たち一人一人とハグをして俺はヴィクトールが待つ家に向かって走り出した。
数分ほど走った時ふとピリピリとした空気の違和感を感じてビルの屋上で足を止める。
こちらからは姿は見えないが5人…いや10人くらいだろうか、その気配は俺を取り囲んでいるようだった。
「昨日からコソコソこそこそ…まどろっこしいな。用があるならちゃんと言え」
気配に聞こえるように声を上げると武器を持った男たちがぞろぞろと物陰から姿を現す。何かを話しかけてくる様子もなく、彼らは俺を囲むようにして並ぶ。
手にはハンターたちが持っているような警棒や刺股、スタンガンを始め、他にもナイフや拳銃などを所持している者もあった。
最悪は俺を殺してでも消そうという魂胆だろう。
手始めに1人が警棒片手に飛びかかってくる。それをかわし、次の蹴りも腕で受け止め鼻で笑う。
警棒を払い除けて男の顔面に肘を入れる。警棒の後ろで網を持った男がそれを俺に目がけて投げたので、後ろに軽くステップを踏んで避け、逆にそれを掴んで引き寄せた。
釣られた魚のように網についてきた男の顔面に拳を入れると、ズルズルと崩れ落ちる。
「遅いな、そんなんで俺を捕まえられると思ってたなら心外だ」
奴らを挑発するとそれに対しての反応をあからさまに出すことこそしなかったが、数人が道具を手に走り込んで来た。
次に刺股の柄で殴りかかってくるのを屈んでかわし、逆に足払いをかける。背後から来る気配に振り返りざまに頭突きをかますと、男は呆気なく後ろへと倒れた。
「悪いが俺は忙しい。痛い目見たくないなら諦めろ」
さっさとヴィクトールのところに帰ってやらないとアイツ心配してるかもしれないし、腹も減ってるかもしれない。
早くみんなで作ったお菓子を届けてやりたくて、俺は男たちの隙間を縫って走り出す。
視界の開けた屋上より下に降りた方が直ぐに撒けるだろうと一度建物から壁伝いに下に降り、路地を人だかりに紛れて突き抜けるが今までのヤツらとは違い結構しつこい。
「しつこいな…仕方ない」
ヴィクトールと同じように測られたのか、行き止まりまで追い込まれる。ただ、彼と違うのはここが絶対的な行き止まりではなく、上空に逃げる方法が残された程度のものだ。
ここから屋上に戻れば、また高さを利用し撒くことが出来るかもしれない。
俺がため息をつきながら再び足を止めると、背後からの刺すような視線に気付き身をそらす。
それとほぼ同時に、ヴィクトールと戦った時に食らったやつのような「パンッ」という発砲音と共に何かが俺の横を掠めて向こう側にいた男の胸に命中した。
「うぐっ」
男は痛そうな声を漏らし、膝から崩れ落ちるとピクピクと泡を吹いて痙攣しながら気絶したようだった。
「毒か、しかも強力そうだな」
先ほどの戦いで倒れたやつらは追って来ていないようで、10人いた男たちはこれで5人。しかし、あの銃には特に注意しないと。俺はリュックを背負い直し、男たちを睨みつける。
銃口をこちらに向けていた男が再び銃を構え、彼に近寄れないように半数が前に出る。
俺の背後にある建物の壁は登れないこともないが、排水管が壊れていて下半分がない。室外機や窓も上の方にあるので、排水管を足がかりに登りたいところだが、地面からではすぐに掴むことができない高さだ。
少し相手をして怯ませ、隙を作ってから登るのが確実だろう。
手を前に出して指を手前に折り曲げ、かかってこいと合図する。相手も今がチャンスと思ってか一斉に距離をつめてくる。
先頭で走り込んで来た男のスタンガンをかわし、相手の腕を掴んで捻りあげる。悲鳴を上げて崩れる男を蹴り飛ばして壁へよけると、今度はナイフが首を目がけて横切る。
ナイフから身をそらしてかわし、そのままバク転の要領で男の顎を蹴りあげた。俺のすぐ背後にはメリケンサックを持った男が待機している。
飛んでくる拳を振り返りざまに手のひらで受け止める。今まで戦ってきた人間の中では1番力強い拳だった。
メリケンサックの男に足払いをかけるが、彼はそれを受けてもよろけることはなく受け止めた拳と反対の手でもう1発パンチをお見舞いしてくる。
咄嗟に身を逸らしてある程度力を逃がしたものの顔にキツい一撃を貰って一瞬視界がぐらりと揺れた。
何とか踏みとどまり、攻撃の直後で体勢の崩れたメリケンサックの男にもう一度足払いをかけると流石によろけ倒れる。
「今のは痛かった」
流れてきた鼻血を拭い体勢を立て直そうとすると、奥に立つ男の銃口が俺を捕える。
咄嗟に背を向け銃を背のリュックで受ける。中のお菓子大丈夫だろうか…。
そうこうしている間にメリケンサックが起き上がり、再び拳を構えて俺を見る。
「厄介だな」
人数は多いものの一人一人は大した強さは感じない。しかしあのメリケンサックだけはやたら強く、飛び道具の銃の男も厄介だ。
先に銃の方を片付けないとこちらも動きづらい。
狙いをメリケンサックから銃の男に変え俺は壁を蹴って三角飛びの容量でメリケンサックの男を飛び越え、銃の男の目の前にに素早く踊りでる。
メリケンサックの弱点はその攻撃範囲の狭さくらいなものだろう、ならあいつが追いつく前に銃の男にカタをつければいい。
次の射撃も壁を蹴って交わし、そのまま銃の男の頭に強烈なかかと落としを食らわせた。
遠くから戦う術しか持っていなかったのか、銃の男は頭をそのまま地面に打ち付けてバウンドする。白目を剥いているので、恐らくもう動かないだろう。
遅れてメリケンサックの男が俺に手を伸ばすが、俺は逆にその腕の勢いを利用して体勢を崩させる。
よろけたメリケンサックの男の背中をジャンプ台代わりに壊れた排水管目掛けて飛び上がった。
「じゃあな、次はもう少し鍛えてこい」
メリケンサックの男に別れを告げて俺はそのまま室外機とベランダを足がかりにビルの上まで登りしばらく走ると、諦めたのか見失ったのかもう彼らの気配は無くなっていた。
その足で屋敷まで戻ると鼻血にまみれた俺の顔にぎょっとしたものの、正面口から通してくれた。
「ヴィクトール、帰ってきたぞ。今日は玄関から入った、凄いだろ」
部屋にはすっかりいつも通りのフォーマル姿のヴィクトールがベッドの上で足を伸ばして読書をしていた。彼は俺の声に顔を上げると、笑みを浮かべていた口元を驚いたように開いて、本を布団の上に開いたまま伏せた。
「うわ!なんだその顔…やっぱりやられたのか?大丈夫?」
俺に来いと言っているらしく、素早く手招きを繰り返す。
「ああ、ちょっと喧嘩ふっかけられてな。それよりこれ、みんなで作ったんだ!」
俺は背中のリュックを下ろし中を漁りながら彼のベッドに足を進める。リュックにはさっきの針の着いた矢先が刺さったままになっている。幸いお菓子は少し形が崩れただけで済んでいる、よかった。
「腹減っただろ、ほら美味いぞ。お前のには劣るけどな」
驚いたような丸い目のままの彼にチョコケーキポップの入った紙袋をさしだす。
「え、あ、ありがとう…」
彼はいつものように口の端をあげて受け取るが、俺の顔を見て眉を八の字に下げた。
「凛が教えたの?ちゃんと形になってて凄いな。お前絶対作れないのに、何してたの?」
お菓子の袋からチョコケーキポップを1本取り出して、ヴィクトールはそれを口に入れる。モグモグと咀嚼しながら俺の顔を優しく確かめるように触り、サイドテーブルに置いてあるウェットティッシュを何枚か手に取った。
「ほとんど凛が作ったな。その大きいのは颯が、そっちのチョコスプレーが大量にかかってるのは匙が手伝った、俺は後片付けをやった」
「後片付けか。確かにお前には適任だな」
ヴィクトールは小さく笑いながらウェットティッシュで俺の顔を拭く。少し腫れているのか、触れるとヒリヒリと痛むが、ウエットティッシュのひんやりとした感触が気持ちいい。
「結構強烈なのもらったんじゃねえの、これ。腫れそうだな…」
「そうだな。でも大したこと無かったさ」
「ホント元気だな。まあ、それを見込んで捕まえたんだけどさ」
そこまで言うと、ヴィクトールは深いため息をついて困った笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「こりゃ、俺が行動不能になるまでセックスすんのはなしだな。無理させてごめんな」
「お前が動けないのは俺がセックスしすぎたからなんだろう?お前が謝ることじゃないし、それに俺は無理もしなかった」
「男前か~」
俺の言葉にヴィクトールが声をあげて笑う。彼は時々ああやって俺うを褒めながら笑ったりするが、なにがそんなに面白かったのか俺にはよく分からない。
ひとしきり彼は笑うと、俺の方を見て自分の膝に頬杖をついた。
「お前もボコボコだし、俺も着替えるので手一杯で風呂がまだなんだ。大分動けるようになったんだけど、入浴介助お願いできますかね。お前の髪も久しぶりにちゃんと解いて洗おうぜ」
今まで頻繁に体を洗うことなんてなかったから、正直まだ風呂に入るほど汚れているようには思わないが…ヴィクトールが髪を洗ってくれると言うのはなんだか嬉しいような気がした。
「わかった、手伝う。お前を連れていけばいいのか?」
「うん、ちょっと支えてくれれば多分歩けるし」
ヴィクトールに言われるまま肩を貸して彼が歩くのを手伝うが、これ俺が担いだ方が早くないか?担ぐんじゃだめなのか?
「歩く手伝いより、こっちの方が速い」
そう言ってヴィクトールの脇の下に腕を差し込み、両足をもう片腕でさらって抱き上げる。
ヴィクトールはちょっと驚いたように目を丸くしたが、またいつものように笑い、俺の首に両腕を回して身を預けた。
「お前、こういうの気のないやつにあんまりやるとストーカー増えるぜ」
「やらなくてもストーカーされたし、今日も10人はいた。だから今更増えたって気にしない」
どうしてこんな行為でストーカーが増えるのか原理は分からないが、あの程度の奴らなら何人増えようと敵ではないだろう。
ヴィクトールを抱いたまま浴室の脱衣場に運ぶと、肩を叩かれたので優しく地面に下ろした。するすると彼は服を脱いで裸になると、脱いだのに何故かタオルを腰に巻く。
「脱ぐの手伝ってやろうか?」
にやにやと笑う彼が何を考えているのかは分からなかったが、汗をかいたせいか服が思うように脱げないのは事実だ。
「頼むよ、汗をかくと脱ぎづらくて困る」
両腕を軽く広げるとヴィクトールは俺の服に手をかけて脱がしていく。
「なんかこうやってると、捕まえた時のこと思い出すよな。まだ1週間と少ししか経ってないとか、ちょっと信じらんねえよ」
Tシャツを引っ張って取り払うと「ズボンは脱げるか」と小首を傾げた。
腰の金具をカチャリと外し足で引っ張って脱ごうとするが、元々腰周りがピッタリしてる上に汗で滑りが悪い。
「面倒だ、任せる」
「しゃーねえな」
小さく笑うと、ヴィクトールは俺の足元で立ち膝をし、ズボンを丁寧に脱がせる。
ちょうど股間の辺りにヴィクトールの顔があると、何故だか昨日の夜にそこを舐められたことが頭の隅に湧いて出る。
「なんかそうやってると昨日の夜みたいだな」
「ん?ああ」
彼は俺の顔を見上げると、目を細めて少し悪そうな笑みを浮かべた。
「フェラのことね。また近いうちしてやるよ」
そう言って俺の股間に触れるだけのキスをして立ち上がる。彼のその行為は俺を何とも表現し難い気持ちにさせる。
「ああ…わかった」
俺はパッとしないモヤモヤを抱えたまま首を傾げて答えた。
壁を伝いながらゆっくり浴室に向かう彼について俺も浴室に入ると、ヴィクトールは洗い場の方で手招きをする。
「簡単に身体を先に流そうぜ。俺もうベトベトなんだよ、隣の大きい人のせいで」
「俺のせいか?」
これも昨日のことを言っているのだろうか。でもベトベトになったのは俺のせいじゃなくて、ヴィクトールの自業自得だと思う。
洗い場に腰を下ろす彼のすぐ傍、俺は床に直で腰を下ろす。
「そうだよ、お前のせいだよ」
ヴィクトールは腰に巻いたタオルを少しだけめくると、尻から太もものあたりを見せる。そこには昨日の夜に見た白い液体がついていた。
「お前が大量に出すから、座ると出てくるんだ。腹ん中たぷたぷだよ」
「それはお前がもっともっとってせがんだじゃないか。中に出していいとも言ったし喜んでたろ」
まあ確かに出したのは俺らしいが、俺は許可されて出したのだから悪くない。いいと言われたのだから責められる言われはないだろう。
しかし、ヴィクトールの尻をじっとみてると先程感じたモヤモヤとした違和感が大きくなるのを感じる。
その違和感は次第に股間に集中して熱を持つような感覚を覚えた。
「うん、せがんだわ。またしてよ」
楽しそうに笑っていたヴィクトールがふと俺の下半身に視線を投げる。
「…なんかちょっとおっきくなってね?思い出しちゃった?」
「そうか?でも思い出しはした。お前の尻の中は暖かくて狭くて気持ちよかったよ」
別に隠すことでもないので思ったことをそのまま口にすると、ヴィクトールはまた目を細めて笑う。
「それは嬉しいね。もし身体が動くんならお誘いするんだけど」
シャワーを手に取り、彼はお湯を出すと手のひらにかけて温度を測る。
「俺のこと洗ってくれたら、お礼にフェラしてあげるけど、どうする?」
「元々手伝うつもりで来たんだから、そのくらいするさ」
多分、前に子供たちを洗った時みたいにすればいいんだろう。
俺は体を洗うための石鹸を手に取り、シャワーを浴びた彼の体を撫でるように洗う。
俺は力が強くて、強くしすぎたら痛いから優しく洗うんだと教えられた通りそっと撫でる。
腕や背中、細すぎて折れそうなヴィクトールの体を壊さないように洗うのは、何でか子供を相手するより緊張している気がする。
昨日沢山動いたから胸の辺りもきっと汗をかいただろう。暑い季節になると子供たちがよく、汗のせいでここを真っ赤にさせて痒がるからちゃんと洗ってやらないと大変だ。
「んっ…」
胸の先を俺の指がかすり、ヴィクトールが身体を小さく跳ねさせて声を漏らした。昨日聞いたような不思議な声に顔を上げると、彼は少し照れたように赤くなった顔で笑った。
「何だ今の声、ここの所為か?」
そういえば昨日、そこを触ってほしいとせがまれた気がする。
「そうか、昨日はあまり触ってやらなかったもんな、触ってほしかったんだろ」
昨日彼に言われたように先端をつまもうとしたが石鹸の所為もあって、彼の小さな先端はつまもうとしても指先から逃げるように滑ってしまう。
何度も繰り返し試みるがなかなか難しい。
「い、いいって!今はいいよ!」
昨日は頼んできたくせに、彼は慌てたように俺の腕を止めようと掴んでくるが、指先が滑った拍子に先端を弾いてしまい、それに彼はまたビクビクと身体を震わせる。
「うぅ…」
ヴィクトールの顔がどんどん赤くなっていくが、比例して俺の手を止めようとする力も弱くなる。
そういう反応を見ているとなんだか妙な感覚にとらわれる。
「…かわいいな?」
子供とか、動物の絵とか、そういうものとは少し違ったその感覚。それなのに口をついて出たその言葉以外の表現を俺は思いつかなかった。
「えっ、可愛いとか…」
ヴィクトールはちょっと驚いたように目を開いてこちらを見たが「まあブサイクよりはいいか」などとブツブツ呟きながら赤い顔で半笑いする。
ヴィクトールのそんな『かわいい』反応がもっと見たいような気がして、片手で彼の腕を押さえこんで同じように先端を指先で触れる。
「うあっ、待って…あんまりされると困るんだって…!」
俺の腕の中でヴィクトールがもじもじと暴れるが、特に力を入れなくとも彼は腕から抜け出せないようだった。
摘むのは難しいので、親指の腹で先端をこねる。ヴィクトールはそのたびにビクビクと震えて、そのうち俺の腕にしがみつくように身を預けてきていた。
「おま、え…これ…どうしてくれるんだよ…」
こちらを見上げて来る彼の顔は昨日の夜に見たのと同じように気持ちよさそうで、細めた目は潤んでいた。
「どうしたらいいんだ?」
しがみついてくる彼を抱き上げるように体勢を直して再び先端に触れると、それは先ほどよりも硬さをもっていて少しつまみやすくなったように思う。
「ふぁ…っ」
摘んで軽く引っ張ってみると彼の身体が反り返る。フルフルと震えながらヴィクトールはぎゅっと目を閉じたと思うと、目を開けて俺に挑発的な笑みを見せた。
「こういうの…本当は本番前にやるんだぜ」
俺の内ももに彼は手を滑らせると、いつの間にか硬くなった股間のものを優しく撫でた。
「あとでフェラしてあげるから、指でお尻触ってよ」
胸を触っていた手をヴィクトールはまるで誘導するように自身の尻まで持っていく。
薄くとも柔らかさを持つ彼の尻を撫でたり、手のひらで軽く握ってみる。
「ここもいいのか?」
「撫でられるのも好きだけど、どっちかって言ったら昨日お前が突っ込んだ場所かな」
彼は俺の手を更に下へと滑らせる。割れ目に沿って撫でていくと、指先が窪みに当たった。
「こーこ」
そこはまだヌルヌルとした液体が彼の肌を覆っている。昨日俺が出したってやつがまだ残ってるようだ。
くぼみに指を押し当てると簡単に温かい彼の中へと侵入できる。液体のヌルヌルが指が滑るのを手助けしているようで、中指の付け根まで簡単に押し進められた。
「はぁ…お前、指まで太いよね…」
ヴィクトールが気持ちよさそうに目を細めて呟いた。
中は肌とも口の中とも違った湿り気を持つ柔らかな壁に覆われていて、昨日突っ込んだのもさながら指でじっくり感触を確かめるのもなかなか気持ちがいい。
ぐるぐると中を探るたびに手を伝ってあの白いヌルヌルがあふれ出るのがわかった。
「こんな感じか?」
問いかけると、彼は熱を帯びた顔で微笑む。俺の手に自分の手を重ね、一緒に中に入ってくると、俺の手を動かしてある場所で止める。
「ここ…好きなんだ。いっぱいつついて」
言われてその場所を撫でてみると他の場所に比べで少しふくらみを感じる。指の腹で押してみたり少し強めにぐりぐりと刺激してみると、ヴィクトールは先程よりも体重を俺に預けて寄りかかってきた。
「はっ…ぁ、上手。めっちゃ気持ちいい…」
俺の肩に頭を乗せ、片手は縋るように俺の腕を掴む。強く押したり力を弱めたりするたびに彼は息を荒くして、全身に力をいれたり抜いたりを繰り返していた。
「…ねぇ…、指をすこし、抜いてから押し込ん、で。もっと強いのが欲しくなってきた、から」
彼の力が抜けてもずり落ちないように、先ほどよりしっかりと抱き寄せて指を出し入れさせる。
だんだんその動きを速めていくと彼は俺の耳元で、またあの『かわいい』声を漏らした。
もう抵抗されなくなり手持無沙汰になった片腕を彼の胸元に戻し、先端を撫でるように触れる。
「んぅ…っ、あっ、ぅっ…きもち…」
はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら身体をビクビクと痙攣させる。キスを求めているのか、とろけた顔でこちらを見ると、顔を寄せて俺の口や頬をちゅっちゅっと音を立てて食んでくる。
ヴィクトールの口に自分の物を重ねると彼の舌は迷うことなく俺の口に侵入し、昨日と同じく強請るように舌を絡める。
それに答えるように口を食むと吐息混じりに甘えるような声で鳴いた。
「やっぱりお前はかわいい。その顔見ると心臓のあたりがきりきりする」
快感とも不快感とも取れない全く変な感覚を、不思議と『もっと』と強請らずにはいられない。
「あっ、ベロア…っ、もう…」
しがみついてくるヴィクトールの震える手に力がこもる。それとほぼ同時に指を入れていた中の壁がキツく締まって痙攣する。手の甲に温かい物がかり、それはポタポタとタオルの下で白い水溜まりを作った。
「終わりか?」
彼から放たれた白い液体は俺の物より幾分、水っぽく滴る。それを手に取りながらゆるゆると胸に添えたもう片手はそのままに声をかける。
「…うん、ありがと…」
まだ赤みが引かない顔で彼は肩で息をして呼吸を整える。
「だめだ~、お前どんどん上手くなるから我慢できなくなりそう」
困ったように眉を寄せて笑いながら、彼はまた俺の肩に頭を乗せて寄りかかった。
「上手くなってるのか。それならもっと上手くなりたい」
手持無沙汰にまだ硬さを持つ彼の先端を触りながらヴィクトールの顔を覗き込む。
「だから、それは本番前に…っくしょ!」
彼のくしゃみに自分が今風呂に来ていたことを思い出した。そうだ、俺はいいけどコイツは弱いから冷えると風邪をひくかもしれない。
「先に洗おう。それから練習するよ」
使い方を覚えたシャワーを彼の頭の上からかぶせて、殆ど消えかけていた泡を流した。
身体を洗った後は一緒に湯船に浸かって、前にやってもらったようにヴィクトールが髪を解いてくれた。丁寧なその作業は、初めてされた時と同じように気持ちよくて眠気を誘う。今思えば、あの時から俺に対してヴィクトールに敵意はなかったのだと気付く。
髪を洗って脱衣場に出ると、洗面台の椅子に2人で並んで座って、やっぱりヴィクトールが俺の髪を乾かした。髪の乾かし方くらいもう分かると伝えたのだが、何故か彼がやりたがったので任せた。
俺の髪をブラシで解かしながら乾かす彼は終始上機嫌で、知らない歌を口ずさんでいた。まだ少年の面影を残す少し高い歌声は、とても耳触りが良かった。
「はい、終わった」
風呂から戻ると、今度は彼の部屋で凜がしてくれるあのあみあみにしてもらった。
風呂上がりは体が火照るし、どうせ寝る時には脱ぐからとズボンだけ履いた状態だ。
「おもってたより上手だな」
「でも、こんな時間までかかった。凛には負けるわ」
ヴィクトールが指をさした時計の見方はわからなかったがなんとなく夜遅いことを示しているのだろうと感じた。
「そうか、通りで腹が減るわけだ。飯の時間はまだなのか?」
「あー…風呂の時間に被ったから下げちゃったのかもしんねえな。冷蔵庫の中に多分あるよ、取ってきたら?」
「家の中なら多分安全だから」とベッドに腰掛けたままヴィクトールは首を傾けた。
「じゃあ取ってくる」
そう言って窓に向かう俺にヴィクトールは「廊下から行け」と言われて渋々廊下に出る。
一階のキッチンに行くために使う階段を回ると少し遠回りだから面倒なんだがな…。
廊下に出て少し歩くと吹き抜けになったフロアから一階の廊下が見える。
「そういえば廊下から行けとは言われたが、階段を使えとは言われなかったな」
俺は手すりを飛び越えてそのまま一階廊下に飛び降りる。
「きゃっ!」
1階の廊下に着地すると、目の前に見覚えのある白髪の女性が立っていた。彼女は俺が降りてきたことに驚いたのか、身体を小さくして怯えていた。
彼女をじっと見下ろして、誰だったかと少し考えるとタレ目がちな瞳に白いまつ毛はヴィクトールの面影を感じる。
「あ…母親か、驚かせて悪かった」
謝罪すると、彼女は肩を限界まで狭めていた姿から、徐々に肩から力を抜き始めた。
「いえ、私こそ…あなたは、えっと…」
「ベロアだ」
「ああ、ベロアさん…主人から聞いたような気がするのだけど、ごめんなさい」
彼女はまた目を伏せると、何故か気まずそうにもじもじと手を弄る。
「あの…あなたはヴィクターと…息子とは仲良しなの?」
仲良しかどうか意識して考えたことはなかったし、出会いだけを思えば印象は最悪だったが…最近は仲良くやれているような気はしている。
「俺は仲はいいと思ってる。一緒に飯食うし、一緒に寝るし、風呂も一緒だ」
「そうなの?どこでも一緒なのね」
彼女は少し安心したように笑うと、小さくため息をついた。
「あなたのこと、最初とても怖い人だと思ってたの。息子がどんどん変な道に進んでいる気がして、あなたがそそのかしているなら止めないとって」
そこまで話すと、彼女は少し間を置いて俺を見あげた。
「でも、この間うちの息子を担いでどこかに出掛けたでしょう?あの時の息子が本当に楽しそうだったから、あなたは違うのかなと思い始めていたの。本当は私もあなたとこうして会話が出来る立場ではないのだけど…聞いてみたくて」
「ヴィクトールは外を走るの好きだと思う。あと菓子を作ることとか、俺のことも好きだしな」
「あいつは俺のファンらしいから」と付け加えると彼女は少し悲しそうな笑顔を浮かべて「そうね」と頷いた。
「なんでそんな顔するんだ?ヴィクトールと話をする時もそうだ。家族はそんな顔で会話したりしない」
俺と子供達を家族だと表現したヴィクトールは、俺と子供達とは似ても似つかないこの母親をどのように見ているのだろう。
「…複雑なのよ。私たちは犬売みたいなものだから、犬との関係がとても難しい。あの子は、この家を継ぐには犬に優しすぎるから」
彼女はそこまで言うと沈黙してしまう。俺が首を傾げると、彼女はまた困ったように笑って首を振った。
「あなたに話しても仕方ないわよね。ところで、ヴィクトールとあなたはどこか行きつけの場所とかあるのかしら?」
彼女の言葉に俺は少し身構える。俺の事を父親に話したのは彼女であるとヴィクトールは言っていた。
子供達のことを話せば、あの子たちが危険にさらされる可能性は低くないだろう。
俺が押し黙ると、彼女は少し慌てたように手を振った。
「あっ、場所は言わなくていいの。ただ、そこは安全な場所なのかしら?あの子は変なことをしていない?心穏やかに過ごせる場所なのか、知りたくて」
そう答える彼女は、デタラメを言っているようには見えなかった。
「…子供たちにあってる。菓子の作り方や食器の使い方を教えてくれた」
こんなことを母親に話したといえばヴィクトールはなんて言うだろうか。
しかし、何故だか彼女には話しても大丈夫ではないかと、ヴィクトールが子供たちのためにしてくれたことを知ってほしいとつい口走ってしまった。
彼女は俺の言葉に目を丸くしたが、穏やかな笑みを浮かべると「そう」と短く答えた。
「…あなたは息子を連れてそこまで行くのは得意なのよね?あれだけの監視の目をくぐっているんだもの」
「あれくらいなんてことない」
「それなら…もし、息子が望むなら、しばらくそこに息子も隠してあげて欲しいの。今のこの屋敷では、息子の心が休まらないと思うから」
俺は彼女の言葉に首を傾げる。
「…本当か?そうしたらお前は安心するのか?」
「分からないわ…。分からないけれど、息子がもう心が壊れるギリギリまで来ているのは分かってる。これでも母親だから…」
彼女は顔を上げると、自分の胸に手を当てて力強く頷いた。
「明日、監視にあたる人たちには私から別の用事を頼んで持ち場を離れさせます。その間に、あなたは誰にも見つからないように、こっそり息子を連れ出してあげてください。頼めませんか?」
そう言う彼女の目は、先程のおどおどしたものとは少し違っていたように感じる。
「わかった。明日になったら、俺はあいつを連れていく」
「ありがとう。明日の夕方、6時頃に持ち場につく者を離れさせ、そのまま帰宅させるわ。だから、連れ出すならそれくらいの時間帯で。可能なら誰にも見つからずに屋敷を出て欲しい」
俺が「それなら簡単だ」と言うと彼女は安心したように笑った。
「お願いしますね、ベロアさん」
彼女は頭を下げると、俺に背を向けて廊下を歩き出した。
彼女の背中を見送ってからキッチンに行き、冷蔵庫から冷えた四角い器に入った食べ物を持って部屋に戻った。
「ただいま。こんなものを見つけた」
「おかえり。それドリアじゃん、温め…たわけはねえか」
俺の手にある器を見て、ヴィクトールはいつものようにわらっていた。
冷えたままのドリアに手をつけると、表面のチーズだけが剥がれ下からホワイトソースとバターライスがむき出しになった。
「そうだヴィクトール。明日は引越しだ。出発は夕方、準備しておけよ」
ドリアを食べながら要件だけを簡単に伝えると、彼は笑みを浮かべたまま首を傾げた。
「え、引っ越したばっかでない?部屋狭かった?」
「部屋は狭くない。引っ越すのは俺とヴィクトールだ。明日からお前は、あっちで俺と子供たちと5人で暮らす。あ、荷物はお前を含めて両手に抱えられるくらいでまとめてくれ」
ますます話が見えないという様子で困惑の声を上げるヴィクトールに、俺は器に着いたホワイトソースを指ですくいながら先程彼の母親と交わした会話をそのまま伝えた。
すると、彼はあからさまに顔をしかめた。
「なんでそんな話したんだよ…話したはずだろ。アイツのせいで声帯を取られたやつがいる。それに、お前の存在だって父親にチクったんだ」
「あの人は悪い人には見えないし、場所までは教えてないから平気だ。だから頼みも聞く」
「今日だってお前は危ない目に遭っただろ!」
珍しく彼は声を荒らげるが、次第にその顔は怒りよりも不安が強く出た表情へと変わっていく。
「…俺は、お前らが心配なんだよ。お前だって、子供たちが心配だろ」
「でも、大丈夫だ。彼女は嘘を吐いてるように見えない」
「俺は信じない」
キッパリとそう言い切る彼に俺は首を傾げる。
「俺の意見は聞かないのか」
「え?」
「今回の部外者は俺だぞ。部外者の意見はアテになるってお前が言ってたじゃないか」
原理まではわからないが、ヴィクトールがそう言ってたからそうなのだろう。
それに、彼の意見をアテにして子供たちに名前をつけたとき、長らく痞えていたものが軽くなったような感覚になったのも記憶に新しい。
俺の言葉に、ヴィクトールは口をへの字にして眉を寄せる。俺から視線を逸らして彼は沈黙していたが、ふうと息を吐くと目を閉じて笑った。
「…確かにお前に言ったわ。今回、視野が狭くなってんのは俺の方か」
クククッと喉を鳴らすように笑うと、彼は顔を上げていつもの笑みを浮かべる。
「お前の意見を信じる。俺にはない感覚がお前にはあるんだ。ベロアが母親を信じるなら、大丈夫かもしれない」
「もし何かあったって平気だ。お前の事も子供たちの事も全部俺が守ってやる。明日から皆一緒ならもっと簡単だ。喧嘩も盗みも、ハンターたちとの追いかけっこも、俺は一度だって負けたことは無かった」
誰にも負ける気がしなかった。その気持ちは今も変わらない。
「お前以外には負けない」
ヴィクトールは俺の話を静かに聞いていたが、少し口元に手を当てて目を逸らす。何度か小さく頷くと、ようやくいつもの笑顔に戻ってこちらを見上げた。
「全く。やることなすこと全部男前で妬けるね。俺も正直向こうに行きたい気持ちはある。お前に任せるよ」
時間と荷物についてを彼は改めて俺に聞くと、まだ覚束無い足取りでスポーツバックに持ち物をまとめた。あとはハチドリだけと言って、彼はまたベッドに転がり、ドリアを食べている俺を意味もなく眺めていた。
俺が飯を食べ終えると、彼は見計らったようにベッドの上から手招きをする。指示されるままにベッドに上がり、彼の手が届く所まで近づく。ヴィクトールは口元をつり上げたまま俺の耳に顔をよせ、小さい声で囁く。
「なあ、さっき風呂でフェラする約束守れなかったんだけど…しなくていいの?」
囁きながら彼は俺の内ももに手を這わせ、ゆるゆると撫で上げる。
「俺ばっかりで忍びないし、お礼するよ?」
「そういえば、そんなことも言ってたか」
ヴィクトールの『かわいい』の所為か、空腹の所為かそんなことすっかり忘れていた。
「お前がかわいいから忘れていた。でもそれよりも俺は練習がしたい」
飯を食ったおかげか先ほど感じた下腹部辺りに感じたモヤモヤや胸のキリキリはすっかり無くなった。これだから空腹はいけない。腹が減ると力が出ないし具合も悪くなる。
「な、なんか今日お前やたら褒めるから調子狂うんだけど…」
笑みは崩さないが、彼は少し照れたように自分の鼻先を指で触りながら目を逸らす。どうやら彼は照れると目を逸らす癖があるようだった。
「練習って何するの?今日は胸触るのはなしな」
「キスはどうやったら上手くなる?」
俺はヴィクトールを捕まえてキスできる位置まで引き寄せる。彼の顎を上に持ち上げるとちょっと驚いたような顔をしたが、いつものニヤニヤとした笑みに戻って俺の顔に手を添えた。
「じゃあ、もっと寄ってよ。お前身体デカいから遠いんだよ」
「あたりまえだろ。俺くらい強いと体もでかくなる」
俺は答えながら座ったまま、彼の目線と同じ高さになるように四つん這いになって彼の顔を覗き込む。
「こうか」
「ははっ、かがみ方がワイルド」
ヴィクトールは鼻先がくっつく程の距離まで顔を近づける。
「まずは、キスをする時は歯がぶつからないように角度に気を付ける」
彼は首を少し傾け、ゆっくりと目を閉じながら俺の唇に自分のものを重ねた。彼の唇はとても柔らかく、俺の下唇を優しく食べるように挟んで吸った。
顔を離すと、彼は目を開けて俺の顔を見て笑う。
「次に、舌の絡め方はお前の自由で良いと思う。これは相性だし、相手に合わせるのが1番気持ちいいよ」
「合わせる?」
「相手の舌に絡めるわけだから、合わせないわけにいかないじゃん?拙くてもいいから、ゆっくりね。やみくもに動かすのは相手が大抵萎えちゃうから、焦らないでやるんだよ」
そこまで話すとヴィクトールはまた俺の口の端や鼻先に触れるだけのキスをしてから微笑む。
「じゃあ、そういうことで実践。オッケー?」
「わかった」
彼はまた俺の唇に自分の唇を押し付けると、俺の唇をなぞるように舌を差し込んでくる。
相手の舌に合わせてゆっくり、ヴィクトールの説明ではいまいちわからなかったがとりあえずは言われた通りに意識して舌を動かす。
彼と同じように相手の唇を軽く撫でると、俺の口の中から彼の舌が絡まる。
ヴィクトールの舌を追うように自分の舌を動かしてみるが、これで合わせてると言えるのだろうか。
「わからない」
彼の肩を押して口を離して俺は声を出す。
「大丈夫だよ、上手」
「自分じゃ上手くできてるかわからないじゃないか」
そう言うと彼は「お互いに気持ちよくなれてればいいの」と柔らかく笑う。
「俺は結構気持ちいいんだけど、ベロアは気持ちよくない?」
「俺は体を触られている方が気持ちいい」
そう答えると彼は悪巧みをする子供のような笑みを浮かべて、俺の内ももに再び手を這わせる。
「じゃあセットでやろっか。ベロアも俺の身体触ってくれていいんだぜ」
彼は四つん這いになっていた俺の体を、後ろに押して倒すように座らせた。そのまま俺のすぐ隣に身を寄せるように自分も座り直すと、俺の片手を自分の腰に回させる。
「距離が近い方が盛り上がるだろ?」
彼は俺の返事を待たずに唇を重ね、俺の舌を再度絡めとる。そのまま俺のズボンのチャックを開け、両手で優しく中のものを取り出した。
俺から見ると随分と小さなその手では片手に収まらないようで、彼は両手を使って優しく擦りあげる。すべすべと肌触りの良い指先で先から根元までなぞり、先端の窪みに指を這わされるとゾクゾクするような感覚に襲われる。
ヴィクトールが俺の股間を触り始めると、先ほどまで大して気にならなかった絡めた舌のぬるりとした感触や温度、彼の息遣いが舌先から体に抜けていくようなくすぐったさを感じさせた。
「ヴィクトール…これだと、気持ちい気がする」
息をつく間に俺がぼそりと呟く。
「ね?じゃあ、ベロアも俺のこともっと触ってよ。腰だけじゃ物足りないや」
彼も呼吸の合間にそう答えると、またすぐに唇を重ねて再開する。
何処を触るべきか聞きそびれたと思いながら俺も腰に触れていた手を動かす。
手を尻の方へ滑らせると、彼は誘うように少し腰を浮かせた。
彼のズボンをずらしたくて下に引っ張るが、身体にピッタリとフィットしたそれはまるで動く気配がない。
ヴィクトールはキスの合間に小さく笑うと、顔を寄せたまま立ち膝で自分のズボンのボタンを外し、それを少しだけ下げた状態で俺の手を同じ場所に置き直した。
「…どーぞ」
そう囁くと腰を少し浮かせたままキスを再開した。
再び彼のズボンを下に引っ張ると、肌を滑るようにスルスルと彼の下半身をあらわにさせる。
指先で彼の尻の割れ目を探り、目当ての場所を見つけ指を押し当てる。
熱く水気のあるその場所は、難なく俺の指を受け入れて強請るようにぎゅっと指を締め付けるのがわかった。
舌先のねっとりとした温度と彼の指先から伝うゾクゾクとした言い様のない快感に加えて、ヌルヌルでふわふわとした熱さが指先に与えられる。
「んっ…ぁ、はぁ…っ」
指先を彼の好きだという場所に当てて擦ったり押し上げたりすると、舌を絡める彼の口から息と一緒に可愛らしい声が漏れる。
少しずつ息遣いが荒くなるにつれ離れて行くの彼の舌を逃がさないように絡めとり、空いた腕で彼の顎を引き上げる。
もう片腕は腰をがっちりと押さえ込みながら指先で、彼の中の感触を楽しんだ。
「はぁっ…きもちい…」
彼の手の動きが先程と少し変わる。
もどかしくなぞったり撫でたりするだけだったのが、片手で先程より強く俺のものを扱き上げる。もう片手は袋に添え、根元と一緒に押し上げたり、優しく揉んだりした。
「っは…玉がきゅーって上がってきてる…出そう?」
息継ぎの間に彼が熱い息と一緒に問いかけてくる。
口から指から伝う熱が、ヴィクトールの指先から与えられる快感に拍車をかける。
「うっ…くう…出る…」
ドクドクと脈打つような一際強い快感に襲われると、俺の股間のそれは白くドロドロとした熱い液体を飛び出させた。
粘度のあるそれは彼の手や頬にまで飛んだらしく、べっとりと付着している。
ヴィクトールは頬に跳ねたそれを少しだけ驚いたように指で拭き取り、何故か匂いを嗅ぐように鼻に近付けてから控え目に舌で舐めた。
「…すっげ勢いあったね」
こちらを視線だけで見つめて笑うと、まだ赤みの抜けない顔で首を傾げた。
「練習になった?」
「なったかな…わからないけど、気持ちよかった…」
なんだか全身の力を吸い取られてしまったようにすーっと体が重くなるのを感じる。
「…眠たい」
体と共に重みを増した瞼が視界をせばめていく。真っ暗闇の中じんわりと快感の余韻だけが俺を支配していくのが心地よかった。
足で地を蹴ったときの飛ぶように流れる景色と頬を撫でる風が好きだ。
ヴィクトールからは冷蔵庫の物が減りすぎていて、使用人たちが不審に思っているので、先に連絡と支払いを終えた店で食材を受け取って欲しいと、地図と一緒に店を指定された。
走り慣れたこの町の屋根や屋上を伝い、通い慣れ始めた俺たちの新しい家へと向かう途中で俺は足を止める。
「店はどっちの方角だったか…」
店の位置を確認しようと辺りに注意を向ける。
「…またいるな」
後ろを振り返ると姿こそ見えないが付きまとうような視線をいくつか感じる。昨日よりも数が増えたように思うが、さして脅威には感じなかった。
俺は一度子供たちを隠した家へのルートから外れ、この町の中でも特に複雑な縦にも横にも視界の悪い路地の一体に入る。
「どこまでついてこれるか試してやろう」
ヴィクトールに出会う前。食料を盗んだりハンターに追われた時にもこの道は頻繁に使っていた。
所狭しと押し込まれたようなビルの群れは室外機やベランダ、排水管など足場も豊富で追っ手を撒くのにちょうどいいものがそろっている。
ビル街を抜けて再び建物の屋上に着地する頃には、あの嫌な視線はもう感じなくなっていた。
「呆気ない、ヴィクトールはどうしてあんなものを恐れるんだろう」
彼はアイツらなんかよりもずっとしつこくてあっという間に先回りして俺を追い込んだような奴だ。俺も彼を甘く見ていたとはいえ、今のやつらとは比べ物にならないくらい面倒に感じたほどだ。
そんなことを考えながらヴィクトールから聞いていた店の前に飛び降りる。
店と聞いていたからいつも盗みを働いていた露店や、開けた店構えのものを想像していたのだが、そこにあったのはガラス張りのスライドドアに黒いさらさらとした登りづらそうな壁をした大きな建物だった。
「なんだこれ…本当に店なのか?」
怪しむ気持ちはあったがヴィクトールから「黒い建物な」と言われていたから多分これなんだろう。
今回は盗みに入るわけではないし、他に建物にはいれそうな窓もないので俺は落ち着かない気持ちながらも、正面のスライドドアに接近する。
ドアは俺が近づくと触れてもいないのに勝手に開く。傍に人がいる様子もないし罠ではないかと身構えるとドアはまたひとりでに閉まった。
「俺を誘っているのか…?」
再びドアに近づくと、またドアはひとりでに開く。かなり怪しい建物ではあるが中に入らねば今日の食料が得られないので俺は周囲に警戒しながら建物の奥へと足を進めた。
「…ヴィクトール様のお使いのベロアさんでしょうか?」
不意に店の人と思われる女性が、笑みを浮かべつつも不思議そうに俺の方へと寄ってくる。
「ああ…ベロアは俺だ」
「良かった、人違いだったらどうしようかと。ヴィクトール様からお伺いしております。こちらへ」
そう言うと彼女ははにかんで店の奥を手で示す。
俺が歩き出すと、彼女は隣について歩く。
店の中は見たこともないような瓶や缶、新鮮な魚や野菜などが綺麗に並べられており、一見こじんまりとしたスペースに八百屋や魚屋を合体させような不思議な店だが、人が大勢いるわけでもなく落ち着いた雰囲気だ。
カウンターまで案内されると「お待ちください」と彼女はカウンターの奥の部屋へ行き、大きな袋を両手で重そうに持ってカウンターに置いた。
「こちらがご注文頂いた食材となります。サインを頂けますか?」
そう言って彼女は何やら紙とペンを差し出す。
「…サイン?」
とりあえず渡されたものを手に取る。ペンがあるということは何か書けという事なのだろうが、何を書けばいいのかわからない。
「こちらに」
紙を見つめて悩む俺に店員が横から、紙の中にある小さな四角を指さす。
「この四角の中に書けばいいんだな」
店員の女性は「はい、お願いします」と笑顔を見せる。何を描こうか…絵なら子供たちにせがまれてよく描いて見せるから少し自信がある。
俺は欄の中にヴィクトールの飼っていた鳥の絵を描いた。枠が少し小さくて描きづらかったがなかなか見栄えよく描けただろう。
「描いたぞ」
紙とペンを女性に返すと彼女は俺の絵を見て「ふふっ」と小さく笑った。
「お伺いした通りですね。頂戴いたしました」
「これを持って行っていいんだな」
先ほど運ばれてきた袋を片手で背負うように担ぐ。ずっしりと重みはあるがまあ気になるほどではない。
「ありがとうございました。ヴィクトール様にもよろしくお伝えくださいませ」
彼女はそう言って俺に頭を下げた。
店を出て、念のため俺を追う視線がないかを確認してから子供たちの家に戻る。
屋根から庭に着地する音で彼等が気付いたのかわらわらと窓に張り付いて笑顔を見せてくれた。
「おかえりベロアおにーちゃん!」
「あれ?ヴィクターは?」
「チョコのやつないの?」
いつも来ていたヴィクトールがいないことに子供たちは不思議そうに首をかしげる。
「ヴィクトールは今日は筋肉痛で寝てる」
「キンニクツウってなに?」
「わからないけど俺と沢山セックスした所為で動けない程痛いらしい」
痛いと聞いて凜は心配そうに「ヴィーおにーちゃん大丈夫なの?」と聞いてくる。
「ヴィクターとベロアがセックスしたの?それってどんな遊び?」
「大人の遊びだそうだ、お前らも大きくなったらできるようになるさ」
残念そうな3人をなだめながら家に入って荷物を下ろす。
荷物の中身を確認すると焼いていない肉や、頭のついた魚も入っている。たしかこういうものは冷蔵庫に入れないと腐ってしまうと、ヴィクトールが言っていた気がする。
袋の中身をひっくり返して広げてみるものの、冷蔵庫に入れるべきものと入れなくていいものの違いが判らないのでとりあえず全部入れておくことにした。
「あ!王子様の魔法の粉!」
「ああ、これか?」
ヴィクトールが焼き菓子を作るときによく使っている不思議な粉を手に取ると、凜が嬉しそうに寄ってくる。
「ねえ、これでヴィーおにーちゃんにお見舞い作ってもいい?」
「もちろん、きっと喜ぶぞ!火には気を付けて作るんだぞ」
凜は「はーい!」と元気に返事を返すと卵や牛乳、メモリのあるカップやボウルを取り出してキッチンをせわしなく歩き回る。
「俺たちもやるー!」
「チョコのつくろ」
凜に釣られるように颯と匙も彼女の周りに集まって、ボウルをのぞき込んだり凜に質問しながら手伝いを始めた。
やることのなくなった俺がソファに横になると横から凜に声をかけられる。
「ベロアおにーちゃんもやるの!キンニクツウになったのおにーちゃんのせいなんでしょ?」
「確かにそうかもしれない」
凜に引っ張られながら俺もキッチンに立つ。ヴィクトールが作るところを見ていたとはいえ、ちゃんと作り方を聞いたわけではないが大丈夫だろうか。
しかしそんな心配もよそに彼から作り方を習ったらしい凜はてきぱきと粉を図り、卵や牛乳を混ぜ合わせ、サラサラの粉をあまい匂いのするとろとろとした液体に変えていく。
「すごいな凛は、ヴィクトールと同じことができるのか」
「ヴィーおにーちゃんが教えてくれたもん、私も魔法使えるようになったんだよ!」
戸棚の中から彼が使っていたものと同じカップと串を探してオーブンの鉄板に並べていく。
ヴィクトールが書いといたらしい矢印までメモリを合わせて暫く焼くと、嗅ぎなれたあまい匂いが部屋いっぱいに広がった。
「できた!」
彼が作ったものよりも形がまばらで大きさもまちまちだし、小さいものは少し焦げているようだったがなんとかそれらしいものは出来ている。
それをまばらに潰し、クリーム状のものに混ぜて丸めていく。串を刺して凜が用意していた溶けたチョコレートにそれをくぐらせると、ヴィクトールがよく食べていた焼き菓子に姿を変える。
「チョコのだ!」
「このおっきいの俺が作ったやつだ!!」
熱いままのチョコレートはべたべたで服や肌にすぐくっついてしまうから、少し冷まして硬くなったものを紙袋に入れてリュックに詰めた。
紙袋に入りきらなかった分を皆で分けて食べると、ヴィクトールが作ったものより少し硬くてぽろぽろしていたが味は美味しく出来ている。
もう少しのんびり過ごしていこうと思っていたのだが3人とも口をそろえて「早く持って行ってあげて」と言うので、俺は予定より少し早く帰ることにした。
「ちゃんとヴィーおにーちゃんに渡してね!」
「次はちゃんとこいって言っておいて!」
「次はドーナツがいい」
子供たち一人一人とハグをして俺はヴィクトールが待つ家に向かって走り出した。
数分ほど走った時ふとピリピリとした空気の違和感を感じてビルの屋上で足を止める。
こちらからは姿は見えないが5人…いや10人くらいだろうか、その気配は俺を取り囲んでいるようだった。
「昨日からコソコソこそこそ…まどろっこしいな。用があるならちゃんと言え」
気配に聞こえるように声を上げると武器を持った男たちがぞろぞろと物陰から姿を現す。何かを話しかけてくる様子もなく、彼らは俺を囲むようにして並ぶ。
手にはハンターたちが持っているような警棒や刺股、スタンガンを始め、他にもナイフや拳銃などを所持している者もあった。
最悪は俺を殺してでも消そうという魂胆だろう。
手始めに1人が警棒片手に飛びかかってくる。それをかわし、次の蹴りも腕で受け止め鼻で笑う。
警棒を払い除けて男の顔面に肘を入れる。警棒の後ろで網を持った男がそれを俺に目がけて投げたので、後ろに軽くステップを踏んで避け、逆にそれを掴んで引き寄せた。
釣られた魚のように網についてきた男の顔面に拳を入れると、ズルズルと崩れ落ちる。
「遅いな、そんなんで俺を捕まえられると思ってたなら心外だ」
奴らを挑発するとそれに対しての反応をあからさまに出すことこそしなかったが、数人が道具を手に走り込んで来た。
次に刺股の柄で殴りかかってくるのを屈んでかわし、逆に足払いをかける。背後から来る気配に振り返りざまに頭突きをかますと、男は呆気なく後ろへと倒れた。
「悪いが俺は忙しい。痛い目見たくないなら諦めろ」
さっさとヴィクトールのところに帰ってやらないとアイツ心配してるかもしれないし、腹も減ってるかもしれない。
早くみんなで作ったお菓子を届けてやりたくて、俺は男たちの隙間を縫って走り出す。
視界の開けた屋上より下に降りた方が直ぐに撒けるだろうと一度建物から壁伝いに下に降り、路地を人だかりに紛れて突き抜けるが今までのヤツらとは違い結構しつこい。
「しつこいな…仕方ない」
ヴィクトールと同じように測られたのか、行き止まりまで追い込まれる。ただ、彼と違うのはここが絶対的な行き止まりではなく、上空に逃げる方法が残された程度のものだ。
ここから屋上に戻れば、また高さを利用し撒くことが出来るかもしれない。
俺がため息をつきながら再び足を止めると、背後からの刺すような視線に気付き身をそらす。
それとほぼ同時に、ヴィクトールと戦った時に食らったやつのような「パンッ」という発砲音と共に何かが俺の横を掠めて向こう側にいた男の胸に命中した。
「うぐっ」
男は痛そうな声を漏らし、膝から崩れ落ちるとピクピクと泡を吹いて痙攣しながら気絶したようだった。
「毒か、しかも強力そうだな」
先ほどの戦いで倒れたやつらは追って来ていないようで、10人いた男たちはこれで5人。しかし、あの銃には特に注意しないと。俺はリュックを背負い直し、男たちを睨みつける。
銃口をこちらに向けていた男が再び銃を構え、彼に近寄れないように半数が前に出る。
俺の背後にある建物の壁は登れないこともないが、排水管が壊れていて下半分がない。室外機や窓も上の方にあるので、排水管を足がかりに登りたいところだが、地面からではすぐに掴むことができない高さだ。
少し相手をして怯ませ、隙を作ってから登るのが確実だろう。
手を前に出して指を手前に折り曲げ、かかってこいと合図する。相手も今がチャンスと思ってか一斉に距離をつめてくる。
先頭で走り込んで来た男のスタンガンをかわし、相手の腕を掴んで捻りあげる。悲鳴を上げて崩れる男を蹴り飛ばして壁へよけると、今度はナイフが首を目がけて横切る。
ナイフから身をそらしてかわし、そのままバク転の要領で男の顎を蹴りあげた。俺のすぐ背後にはメリケンサックを持った男が待機している。
飛んでくる拳を振り返りざまに手のひらで受け止める。今まで戦ってきた人間の中では1番力強い拳だった。
メリケンサックの男に足払いをかけるが、彼はそれを受けてもよろけることはなく受け止めた拳と反対の手でもう1発パンチをお見舞いしてくる。
咄嗟に身を逸らしてある程度力を逃がしたものの顔にキツい一撃を貰って一瞬視界がぐらりと揺れた。
何とか踏みとどまり、攻撃の直後で体勢の崩れたメリケンサックの男にもう一度足払いをかけると流石によろけ倒れる。
「今のは痛かった」
流れてきた鼻血を拭い体勢を立て直そうとすると、奥に立つ男の銃口が俺を捕える。
咄嗟に背を向け銃を背のリュックで受ける。中のお菓子大丈夫だろうか…。
そうこうしている間にメリケンサックが起き上がり、再び拳を構えて俺を見る。
「厄介だな」
人数は多いものの一人一人は大した強さは感じない。しかしあのメリケンサックだけはやたら強く、飛び道具の銃の男も厄介だ。
先に銃の方を片付けないとこちらも動きづらい。
狙いをメリケンサックから銃の男に変え俺は壁を蹴って三角飛びの容量でメリケンサックの男を飛び越え、銃の男の目の前にに素早く踊りでる。
メリケンサックの弱点はその攻撃範囲の狭さくらいなものだろう、ならあいつが追いつく前に銃の男にカタをつければいい。
次の射撃も壁を蹴って交わし、そのまま銃の男の頭に強烈なかかと落としを食らわせた。
遠くから戦う術しか持っていなかったのか、銃の男は頭をそのまま地面に打ち付けてバウンドする。白目を剥いているので、恐らくもう動かないだろう。
遅れてメリケンサックの男が俺に手を伸ばすが、俺は逆にその腕の勢いを利用して体勢を崩させる。
よろけたメリケンサックの男の背中をジャンプ台代わりに壊れた排水管目掛けて飛び上がった。
「じゃあな、次はもう少し鍛えてこい」
メリケンサックの男に別れを告げて俺はそのまま室外機とベランダを足がかりにビルの上まで登りしばらく走ると、諦めたのか見失ったのかもう彼らの気配は無くなっていた。
その足で屋敷まで戻ると鼻血にまみれた俺の顔にぎょっとしたものの、正面口から通してくれた。
「ヴィクトール、帰ってきたぞ。今日は玄関から入った、凄いだろ」
部屋にはすっかりいつも通りのフォーマル姿のヴィクトールがベッドの上で足を伸ばして読書をしていた。彼は俺の声に顔を上げると、笑みを浮かべていた口元を驚いたように開いて、本を布団の上に開いたまま伏せた。
「うわ!なんだその顔…やっぱりやられたのか?大丈夫?」
俺に来いと言っているらしく、素早く手招きを繰り返す。
「ああ、ちょっと喧嘩ふっかけられてな。それよりこれ、みんなで作ったんだ!」
俺は背中のリュックを下ろし中を漁りながら彼のベッドに足を進める。リュックにはさっきの針の着いた矢先が刺さったままになっている。幸いお菓子は少し形が崩れただけで済んでいる、よかった。
「腹減っただろ、ほら美味いぞ。お前のには劣るけどな」
驚いたような丸い目のままの彼にチョコケーキポップの入った紙袋をさしだす。
「え、あ、ありがとう…」
彼はいつものように口の端をあげて受け取るが、俺の顔を見て眉を八の字に下げた。
「凛が教えたの?ちゃんと形になってて凄いな。お前絶対作れないのに、何してたの?」
お菓子の袋からチョコケーキポップを1本取り出して、ヴィクトールはそれを口に入れる。モグモグと咀嚼しながら俺の顔を優しく確かめるように触り、サイドテーブルに置いてあるウェットティッシュを何枚か手に取った。
「ほとんど凛が作ったな。その大きいのは颯が、そっちのチョコスプレーが大量にかかってるのは匙が手伝った、俺は後片付けをやった」
「後片付けか。確かにお前には適任だな」
ヴィクトールは小さく笑いながらウェットティッシュで俺の顔を拭く。少し腫れているのか、触れるとヒリヒリと痛むが、ウエットティッシュのひんやりとした感触が気持ちいい。
「結構強烈なのもらったんじゃねえの、これ。腫れそうだな…」
「そうだな。でも大したこと無かったさ」
「ホント元気だな。まあ、それを見込んで捕まえたんだけどさ」
そこまで言うと、ヴィクトールは深いため息をついて困った笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「こりゃ、俺が行動不能になるまでセックスすんのはなしだな。無理させてごめんな」
「お前が動けないのは俺がセックスしすぎたからなんだろう?お前が謝ることじゃないし、それに俺は無理もしなかった」
「男前か~」
俺の言葉にヴィクトールが声をあげて笑う。彼は時々ああやって俺うを褒めながら笑ったりするが、なにがそんなに面白かったのか俺にはよく分からない。
ひとしきり彼は笑うと、俺の方を見て自分の膝に頬杖をついた。
「お前もボコボコだし、俺も着替えるので手一杯で風呂がまだなんだ。大分動けるようになったんだけど、入浴介助お願いできますかね。お前の髪も久しぶりにちゃんと解いて洗おうぜ」
今まで頻繁に体を洗うことなんてなかったから、正直まだ風呂に入るほど汚れているようには思わないが…ヴィクトールが髪を洗ってくれると言うのはなんだか嬉しいような気がした。
「わかった、手伝う。お前を連れていけばいいのか?」
「うん、ちょっと支えてくれれば多分歩けるし」
ヴィクトールに言われるまま肩を貸して彼が歩くのを手伝うが、これ俺が担いだ方が早くないか?担ぐんじゃだめなのか?
「歩く手伝いより、こっちの方が速い」
そう言ってヴィクトールの脇の下に腕を差し込み、両足をもう片腕でさらって抱き上げる。
ヴィクトールはちょっと驚いたように目を丸くしたが、またいつものように笑い、俺の首に両腕を回して身を預けた。
「お前、こういうの気のないやつにあんまりやるとストーカー増えるぜ」
「やらなくてもストーカーされたし、今日も10人はいた。だから今更増えたって気にしない」
どうしてこんな行為でストーカーが増えるのか原理は分からないが、あの程度の奴らなら何人増えようと敵ではないだろう。
ヴィクトールを抱いたまま浴室の脱衣場に運ぶと、肩を叩かれたので優しく地面に下ろした。するすると彼は服を脱いで裸になると、脱いだのに何故かタオルを腰に巻く。
「脱ぐの手伝ってやろうか?」
にやにやと笑う彼が何を考えているのかは分からなかったが、汗をかいたせいか服が思うように脱げないのは事実だ。
「頼むよ、汗をかくと脱ぎづらくて困る」
両腕を軽く広げるとヴィクトールは俺の服に手をかけて脱がしていく。
「なんかこうやってると、捕まえた時のこと思い出すよな。まだ1週間と少ししか経ってないとか、ちょっと信じらんねえよ」
Tシャツを引っ張って取り払うと「ズボンは脱げるか」と小首を傾げた。
腰の金具をカチャリと外し足で引っ張って脱ごうとするが、元々腰周りがピッタリしてる上に汗で滑りが悪い。
「面倒だ、任せる」
「しゃーねえな」
小さく笑うと、ヴィクトールは俺の足元で立ち膝をし、ズボンを丁寧に脱がせる。
ちょうど股間の辺りにヴィクトールの顔があると、何故だか昨日の夜にそこを舐められたことが頭の隅に湧いて出る。
「なんかそうやってると昨日の夜みたいだな」
「ん?ああ」
彼は俺の顔を見上げると、目を細めて少し悪そうな笑みを浮かべた。
「フェラのことね。また近いうちしてやるよ」
そう言って俺の股間に触れるだけのキスをして立ち上がる。彼のその行為は俺を何とも表現し難い気持ちにさせる。
「ああ…わかった」
俺はパッとしないモヤモヤを抱えたまま首を傾げて答えた。
壁を伝いながらゆっくり浴室に向かう彼について俺も浴室に入ると、ヴィクトールは洗い場の方で手招きをする。
「簡単に身体を先に流そうぜ。俺もうベトベトなんだよ、隣の大きい人のせいで」
「俺のせいか?」
これも昨日のことを言っているのだろうか。でもベトベトになったのは俺のせいじゃなくて、ヴィクトールの自業自得だと思う。
洗い場に腰を下ろす彼のすぐ傍、俺は床に直で腰を下ろす。
「そうだよ、お前のせいだよ」
ヴィクトールは腰に巻いたタオルを少しだけめくると、尻から太もものあたりを見せる。そこには昨日の夜に見た白い液体がついていた。
「お前が大量に出すから、座ると出てくるんだ。腹ん中たぷたぷだよ」
「それはお前がもっともっとってせがんだじゃないか。中に出していいとも言ったし喜んでたろ」
まあ確かに出したのは俺らしいが、俺は許可されて出したのだから悪くない。いいと言われたのだから責められる言われはないだろう。
しかし、ヴィクトールの尻をじっとみてると先程感じたモヤモヤとした違和感が大きくなるのを感じる。
その違和感は次第に股間に集中して熱を持つような感覚を覚えた。
「うん、せがんだわ。またしてよ」
楽しそうに笑っていたヴィクトールがふと俺の下半身に視線を投げる。
「…なんかちょっとおっきくなってね?思い出しちゃった?」
「そうか?でも思い出しはした。お前の尻の中は暖かくて狭くて気持ちよかったよ」
別に隠すことでもないので思ったことをそのまま口にすると、ヴィクトールはまた目を細めて笑う。
「それは嬉しいね。もし身体が動くんならお誘いするんだけど」
シャワーを手に取り、彼はお湯を出すと手のひらにかけて温度を測る。
「俺のこと洗ってくれたら、お礼にフェラしてあげるけど、どうする?」
「元々手伝うつもりで来たんだから、そのくらいするさ」
多分、前に子供たちを洗った時みたいにすればいいんだろう。
俺は体を洗うための石鹸を手に取り、シャワーを浴びた彼の体を撫でるように洗う。
俺は力が強くて、強くしすぎたら痛いから優しく洗うんだと教えられた通りそっと撫でる。
腕や背中、細すぎて折れそうなヴィクトールの体を壊さないように洗うのは、何でか子供を相手するより緊張している気がする。
昨日沢山動いたから胸の辺りもきっと汗をかいただろう。暑い季節になると子供たちがよく、汗のせいでここを真っ赤にさせて痒がるからちゃんと洗ってやらないと大変だ。
「んっ…」
胸の先を俺の指がかすり、ヴィクトールが身体を小さく跳ねさせて声を漏らした。昨日聞いたような不思議な声に顔を上げると、彼は少し照れたように赤くなった顔で笑った。
「何だ今の声、ここの所為か?」
そういえば昨日、そこを触ってほしいとせがまれた気がする。
「そうか、昨日はあまり触ってやらなかったもんな、触ってほしかったんだろ」
昨日彼に言われたように先端をつまもうとしたが石鹸の所為もあって、彼の小さな先端はつまもうとしても指先から逃げるように滑ってしまう。
何度も繰り返し試みるがなかなか難しい。
「い、いいって!今はいいよ!」
昨日は頼んできたくせに、彼は慌てたように俺の腕を止めようと掴んでくるが、指先が滑った拍子に先端を弾いてしまい、それに彼はまたビクビクと身体を震わせる。
「うぅ…」
ヴィクトールの顔がどんどん赤くなっていくが、比例して俺の手を止めようとする力も弱くなる。
そういう反応を見ているとなんだか妙な感覚にとらわれる。
「…かわいいな?」
子供とか、動物の絵とか、そういうものとは少し違ったその感覚。それなのに口をついて出たその言葉以外の表現を俺は思いつかなかった。
「えっ、可愛いとか…」
ヴィクトールはちょっと驚いたように目を開いてこちらを見たが「まあブサイクよりはいいか」などとブツブツ呟きながら赤い顔で半笑いする。
ヴィクトールのそんな『かわいい』反応がもっと見たいような気がして、片手で彼の腕を押さえこんで同じように先端を指先で触れる。
「うあっ、待って…あんまりされると困るんだって…!」
俺の腕の中でヴィクトールがもじもじと暴れるが、特に力を入れなくとも彼は腕から抜け出せないようだった。
摘むのは難しいので、親指の腹で先端をこねる。ヴィクトールはそのたびにビクビクと震えて、そのうち俺の腕にしがみつくように身を預けてきていた。
「おま、え…これ…どうしてくれるんだよ…」
こちらを見上げて来る彼の顔は昨日の夜に見たのと同じように気持ちよさそうで、細めた目は潤んでいた。
「どうしたらいいんだ?」
しがみついてくる彼を抱き上げるように体勢を直して再び先端に触れると、それは先ほどよりも硬さをもっていて少しつまみやすくなったように思う。
「ふぁ…っ」
摘んで軽く引っ張ってみると彼の身体が反り返る。フルフルと震えながらヴィクトールはぎゅっと目を閉じたと思うと、目を開けて俺に挑発的な笑みを見せた。
「こういうの…本当は本番前にやるんだぜ」
俺の内ももに彼は手を滑らせると、いつの間にか硬くなった股間のものを優しく撫でた。
「あとでフェラしてあげるから、指でお尻触ってよ」
胸を触っていた手をヴィクトールはまるで誘導するように自身の尻まで持っていく。
薄くとも柔らかさを持つ彼の尻を撫でたり、手のひらで軽く握ってみる。
「ここもいいのか?」
「撫でられるのも好きだけど、どっちかって言ったら昨日お前が突っ込んだ場所かな」
彼は俺の手を更に下へと滑らせる。割れ目に沿って撫でていくと、指先が窪みに当たった。
「こーこ」
そこはまだヌルヌルとした液体が彼の肌を覆っている。昨日俺が出したってやつがまだ残ってるようだ。
くぼみに指を押し当てると簡単に温かい彼の中へと侵入できる。液体のヌルヌルが指が滑るのを手助けしているようで、中指の付け根まで簡単に押し進められた。
「はぁ…お前、指まで太いよね…」
ヴィクトールが気持ちよさそうに目を細めて呟いた。
中は肌とも口の中とも違った湿り気を持つ柔らかな壁に覆われていて、昨日突っ込んだのもさながら指でじっくり感触を確かめるのもなかなか気持ちがいい。
ぐるぐると中を探るたびに手を伝ってあの白いヌルヌルがあふれ出るのがわかった。
「こんな感じか?」
問いかけると、彼は熱を帯びた顔で微笑む。俺の手に自分の手を重ね、一緒に中に入ってくると、俺の手を動かしてある場所で止める。
「ここ…好きなんだ。いっぱいつついて」
言われてその場所を撫でてみると他の場所に比べで少しふくらみを感じる。指の腹で押してみたり少し強めにぐりぐりと刺激してみると、ヴィクトールは先程よりも体重を俺に預けて寄りかかってきた。
「はっ…ぁ、上手。めっちゃ気持ちいい…」
俺の肩に頭を乗せ、片手は縋るように俺の腕を掴む。強く押したり力を弱めたりするたびに彼は息を荒くして、全身に力をいれたり抜いたりを繰り返していた。
「…ねぇ…、指をすこし、抜いてから押し込ん、で。もっと強いのが欲しくなってきた、から」
彼の力が抜けてもずり落ちないように、先ほどよりしっかりと抱き寄せて指を出し入れさせる。
だんだんその動きを速めていくと彼は俺の耳元で、またあの『かわいい』声を漏らした。
もう抵抗されなくなり手持無沙汰になった片腕を彼の胸元に戻し、先端を撫でるように触れる。
「んぅ…っ、あっ、ぅっ…きもち…」
はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら身体をビクビクと痙攣させる。キスを求めているのか、とろけた顔でこちらを見ると、顔を寄せて俺の口や頬をちゅっちゅっと音を立てて食んでくる。
ヴィクトールの口に自分の物を重ねると彼の舌は迷うことなく俺の口に侵入し、昨日と同じく強請るように舌を絡める。
それに答えるように口を食むと吐息混じりに甘えるような声で鳴いた。
「やっぱりお前はかわいい。その顔見ると心臓のあたりがきりきりする」
快感とも不快感とも取れない全く変な感覚を、不思議と『もっと』と強請らずにはいられない。
「あっ、ベロア…っ、もう…」
しがみついてくるヴィクトールの震える手に力がこもる。それとほぼ同時に指を入れていた中の壁がキツく締まって痙攣する。手の甲に温かい物がかり、それはポタポタとタオルの下で白い水溜まりを作った。
「終わりか?」
彼から放たれた白い液体は俺の物より幾分、水っぽく滴る。それを手に取りながらゆるゆると胸に添えたもう片手はそのままに声をかける。
「…うん、ありがと…」
まだ赤みが引かない顔で彼は肩で息をして呼吸を整える。
「だめだ~、お前どんどん上手くなるから我慢できなくなりそう」
困ったように眉を寄せて笑いながら、彼はまた俺の肩に頭を乗せて寄りかかった。
「上手くなってるのか。それならもっと上手くなりたい」
手持無沙汰にまだ硬さを持つ彼の先端を触りながらヴィクトールの顔を覗き込む。
「だから、それは本番前に…っくしょ!」
彼のくしゃみに自分が今風呂に来ていたことを思い出した。そうだ、俺はいいけどコイツは弱いから冷えると風邪をひくかもしれない。
「先に洗おう。それから練習するよ」
使い方を覚えたシャワーを彼の頭の上からかぶせて、殆ど消えかけていた泡を流した。
身体を洗った後は一緒に湯船に浸かって、前にやってもらったようにヴィクトールが髪を解いてくれた。丁寧なその作業は、初めてされた時と同じように気持ちよくて眠気を誘う。今思えば、あの時から俺に対してヴィクトールに敵意はなかったのだと気付く。
髪を洗って脱衣場に出ると、洗面台の椅子に2人で並んで座って、やっぱりヴィクトールが俺の髪を乾かした。髪の乾かし方くらいもう分かると伝えたのだが、何故か彼がやりたがったので任せた。
俺の髪をブラシで解かしながら乾かす彼は終始上機嫌で、知らない歌を口ずさんでいた。まだ少年の面影を残す少し高い歌声は、とても耳触りが良かった。
「はい、終わった」
風呂から戻ると、今度は彼の部屋で凜がしてくれるあのあみあみにしてもらった。
風呂上がりは体が火照るし、どうせ寝る時には脱ぐからとズボンだけ履いた状態だ。
「おもってたより上手だな」
「でも、こんな時間までかかった。凛には負けるわ」
ヴィクトールが指をさした時計の見方はわからなかったがなんとなく夜遅いことを示しているのだろうと感じた。
「そうか、通りで腹が減るわけだ。飯の時間はまだなのか?」
「あー…風呂の時間に被ったから下げちゃったのかもしんねえな。冷蔵庫の中に多分あるよ、取ってきたら?」
「家の中なら多分安全だから」とベッドに腰掛けたままヴィクトールは首を傾けた。
「じゃあ取ってくる」
そう言って窓に向かう俺にヴィクトールは「廊下から行け」と言われて渋々廊下に出る。
一階のキッチンに行くために使う階段を回ると少し遠回りだから面倒なんだがな…。
廊下に出て少し歩くと吹き抜けになったフロアから一階の廊下が見える。
「そういえば廊下から行けとは言われたが、階段を使えとは言われなかったな」
俺は手すりを飛び越えてそのまま一階廊下に飛び降りる。
「きゃっ!」
1階の廊下に着地すると、目の前に見覚えのある白髪の女性が立っていた。彼女は俺が降りてきたことに驚いたのか、身体を小さくして怯えていた。
彼女をじっと見下ろして、誰だったかと少し考えるとタレ目がちな瞳に白いまつ毛はヴィクトールの面影を感じる。
「あ…母親か、驚かせて悪かった」
謝罪すると、彼女は肩を限界まで狭めていた姿から、徐々に肩から力を抜き始めた。
「いえ、私こそ…あなたは、えっと…」
「ベロアだ」
「ああ、ベロアさん…主人から聞いたような気がするのだけど、ごめんなさい」
彼女はまた目を伏せると、何故か気まずそうにもじもじと手を弄る。
「あの…あなたはヴィクターと…息子とは仲良しなの?」
仲良しかどうか意識して考えたことはなかったし、出会いだけを思えば印象は最悪だったが…最近は仲良くやれているような気はしている。
「俺は仲はいいと思ってる。一緒に飯食うし、一緒に寝るし、風呂も一緒だ」
「そうなの?どこでも一緒なのね」
彼女は少し安心したように笑うと、小さくため息をついた。
「あなたのこと、最初とても怖い人だと思ってたの。息子がどんどん変な道に進んでいる気がして、あなたがそそのかしているなら止めないとって」
そこまで話すと、彼女は少し間を置いて俺を見あげた。
「でも、この間うちの息子を担いでどこかに出掛けたでしょう?あの時の息子が本当に楽しそうだったから、あなたは違うのかなと思い始めていたの。本当は私もあなたとこうして会話が出来る立場ではないのだけど…聞いてみたくて」
「ヴィクトールは外を走るの好きだと思う。あと菓子を作ることとか、俺のことも好きだしな」
「あいつは俺のファンらしいから」と付け加えると彼女は少し悲しそうな笑顔を浮かべて「そうね」と頷いた。
「なんでそんな顔するんだ?ヴィクトールと話をする時もそうだ。家族はそんな顔で会話したりしない」
俺と子供達を家族だと表現したヴィクトールは、俺と子供達とは似ても似つかないこの母親をどのように見ているのだろう。
「…複雑なのよ。私たちは犬売みたいなものだから、犬との関係がとても難しい。あの子は、この家を継ぐには犬に優しすぎるから」
彼女はそこまで言うと沈黙してしまう。俺が首を傾げると、彼女はまた困ったように笑って首を振った。
「あなたに話しても仕方ないわよね。ところで、ヴィクトールとあなたはどこか行きつけの場所とかあるのかしら?」
彼女の言葉に俺は少し身構える。俺の事を父親に話したのは彼女であるとヴィクトールは言っていた。
子供達のことを話せば、あの子たちが危険にさらされる可能性は低くないだろう。
俺が押し黙ると、彼女は少し慌てたように手を振った。
「あっ、場所は言わなくていいの。ただ、そこは安全な場所なのかしら?あの子は変なことをしていない?心穏やかに過ごせる場所なのか、知りたくて」
そう答える彼女は、デタラメを言っているようには見えなかった。
「…子供たちにあってる。菓子の作り方や食器の使い方を教えてくれた」
こんなことを母親に話したといえばヴィクトールはなんて言うだろうか。
しかし、何故だか彼女には話しても大丈夫ではないかと、ヴィクトールが子供たちのためにしてくれたことを知ってほしいとつい口走ってしまった。
彼女は俺の言葉に目を丸くしたが、穏やかな笑みを浮かべると「そう」と短く答えた。
「…あなたは息子を連れてそこまで行くのは得意なのよね?あれだけの監視の目をくぐっているんだもの」
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俺が「それなら簡単だ」と言うと彼女は安心したように笑った。
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彼女は頭を下げると、俺に背を向けて廊下を歩き出した。
彼女の背中を見送ってからキッチンに行き、冷蔵庫から冷えた四角い器に入った食べ物を持って部屋に戻った。
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「おかえり。それドリアじゃん、温め…たわけはねえか」
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冷えたままのドリアに手をつけると、表面のチーズだけが剥がれ下からホワイトソースとバターライスがむき出しになった。
「そうだヴィクトール。明日は引越しだ。出発は夕方、準備しておけよ」
ドリアを食べながら要件だけを簡単に伝えると、彼は笑みを浮かべたまま首を傾げた。
「え、引っ越したばっかでない?部屋狭かった?」
「部屋は狭くない。引っ越すのは俺とヴィクトールだ。明日からお前は、あっちで俺と子供たちと5人で暮らす。あ、荷物はお前を含めて両手に抱えられるくらいでまとめてくれ」
ますます話が見えないという様子で困惑の声を上げるヴィクトールに、俺は器に着いたホワイトソースを指ですくいながら先程彼の母親と交わした会話をそのまま伝えた。
すると、彼はあからさまに顔をしかめた。
「なんでそんな話したんだよ…話したはずだろ。アイツのせいで声帯を取られたやつがいる。それに、お前の存在だって父親にチクったんだ」
「あの人は悪い人には見えないし、場所までは教えてないから平気だ。だから頼みも聞く」
「今日だってお前は危ない目に遭っただろ!」
珍しく彼は声を荒らげるが、次第にその顔は怒りよりも不安が強く出た表情へと変わっていく。
「…俺は、お前らが心配なんだよ。お前だって、子供たちが心配だろ」
「でも、大丈夫だ。彼女は嘘を吐いてるように見えない」
「俺は信じない」
キッパリとそう言い切る彼に俺は首を傾げる。
「俺の意見は聞かないのか」
「え?」
「今回の部外者は俺だぞ。部外者の意見はアテになるってお前が言ってたじゃないか」
原理まではわからないが、ヴィクトールがそう言ってたからそうなのだろう。
それに、彼の意見をアテにして子供たちに名前をつけたとき、長らく痞えていたものが軽くなったような感覚になったのも記憶に新しい。
俺の言葉に、ヴィクトールは口をへの字にして眉を寄せる。俺から視線を逸らして彼は沈黙していたが、ふうと息を吐くと目を閉じて笑った。
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「キスはどうやったら上手くなる?」
俺はヴィクトールを捕まえてキスできる位置まで引き寄せる。彼の顎を上に持ち上げるとちょっと驚いたような顔をしたが、いつものニヤニヤとした笑みに戻って俺の顔に手を添えた。
「じゃあ、もっと寄ってよ。お前身体デカいから遠いんだよ」
「あたりまえだろ。俺くらい強いと体もでかくなる」
俺は答えながら座ったまま、彼の目線と同じ高さになるように四つん這いになって彼の顔を覗き込む。
「こうか」
「ははっ、かがみ方がワイルド」
ヴィクトールは鼻先がくっつく程の距離まで顔を近づける。
「まずは、キスをする時は歯がぶつからないように角度に気を付ける」
彼は首を少し傾け、ゆっくりと目を閉じながら俺の唇に自分のものを重ねた。彼の唇はとても柔らかく、俺の下唇を優しく食べるように挟んで吸った。
顔を離すと、彼は目を開けて俺の顔を見て笑う。
「次に、舌の絡め方はお前の自由で良いと思う。これは相性だし、相手に合わせるのが1番気持ちいいよ」
「合わせる?」
「相手の舌に絡めるわけだから、合わせないわけにいかないじゃん?拙くてもいいから、ゆっくりね。やみくもに動かすのは相手が大抵萎えちゃうから、焦らないでやるんだよ」
そこまで話すとヴィクトールはまた俺の口の端や鼻先に触れるだけのキスをしてから微笑む。
「じゃあ、そういうことで実践。オッケー?」
「わかった」
彼はまた俺の唇に自分の唇を押し付けると、俺の唇をなぞるように舌を差し込んでくる。
相手の舌に合わせてゆっくり、ヴィクトールの説明ではいまいちわからなかったがとりあえずは言われた通りに意識して舌を動かす。
彼と同じように相手の唇を軽く撫でると、俺の口の中から彼の舌が絡まる。
ヴィクトールの舌を追うように自分の舌を動かしてみるが、これで合わせてると言えるのだろうか。
「わからない」
彼の肩を押して口を離して俺は声を出す。
「大丈夫だよ、上手」
「自分じゃ上手くできてるかわからないじゃないか」
そう言うと彼は「お互いに気持ちよくなれてればいいの」と柔らかく笑う。
「俺は結構気持ちいいんだけど、ベロアは気持ちよくない?」
「俺は体を触られている方が気持ちいい」
そう答えると彼は悪巧みをする子供のような笑みを浮かべて、俺の内ももに再び手を這わせる。
「じゃあセットでやろっか。ベロアも俺の身体触ってくれていいんだぜ」
彼は四つん這いになっていた俺の体を、後ろに押して倒すように座らせた。そのまま俺のすぐ隣に身を寄せるように自分も座り直すと、俺の片手を自分の腰に回させる。
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ヴィクトールが俺の股間を触り始めると、先ほどまで大して気にならなかった絡めた舌のぬるりとした感触や温度、彼の息遣いが舌先から体に抜けていくようなくすぐったさを感じさせた。
「ヴィクトール…これだと、気持ちい気がする」
息をつく間に俺がぼそりと呟く。
「ね?じゃあ、ベロアも俺のこともっと触ってよ。腰だけじゃ物足りないや」
彼も呼吸の合間にそう答えると、またすぐに唇を重ねて再開する。
何処を触るべきか聞きそびれたと思いながら俺も腰に触れていた手を動かす。
手を尻の方へ滑らせると、彼は誘うように少し腰を浮かせた。
彼のズボンをずらしたくて下に引っ張るが、身体にピッタリとフィットしたそれはまるで動く気配がない。
ヴィクトールはキスの合間に小さく笑うと、顔を寄せたまま立ち膝で自分のズボンのボタンを外し、それを少しだけ下げた状態で俺の手を同じ場所に置き直した。
「…どーぞ」
そう囁くと腰を少し浮かせたままキスを再開した。
再び彼のズボンを下に引っ張ると、肌を滑るようにスルスルと彼の下半身をあらわにさせる。
指先で彼の尻の割れ目を探り、目当ての場所を見つけ指を押し当てる。
熱く水気のあるその場所は、難なく俺の指を受け入れて強請るようにぎゅっと指を締め付けるのがわかった。
舌先のねっとりとした温度と彼の指先から伝うゾクゾクとした言い様のない快感に加えて、ヌルヌルでふわふわとした熱さが指先に与えられる。
「んっ…ぁ、はぁ…っ」
指先を彼の好きだという場所に当てて擦ったり押し上げたりすると、舌を絡める彼の口から息と一緒に可愛らしい声が漏れる。
少しずつ息遣いが荒くなるにつれ離れて行くの彼の舌を逃がさないように絡めとり、空いた腕で彼の顎を引き上げる。
もう片腕は腰をがっちりと押さえ込みながら指先で、彼の中の感触を楽しんだ。
「はぁっ…きもちい…」
彼の手の動きが先程と少し変わる。
もどかしくなぞったり撫でたりするだけだったのが、片手で先程より強く俺のものを扱き上げる。もう片手は袋に添え、根元と一緒に押し上げたり、優しく揉んだりした。
「っは…玉がきゅーって上がってきてる…出そう?」
息継ぎの間に彼が熱い息と一緒に問いかけてくる。
口から指から伝う熱が、ヴィクトールの指先から与えられる快感に拍車をかける。
「うっ…くう…出る…」
ドクドクと脈打つような一際強い快感に襲われると、俺の股間のそれは白くドロドロとした熱い液体を飛び出させた。
粘度のあるそれは彼の手や頬にまで飛んだらしく、べっとりと付着している。
ヴィクトールは頬に跳ねたそれを少しだけ驚いたように指で拭き取り、何故か匂いを嗅ぐように鼻に近付けてから控え目に舌で舐めた。
「…すっげ勢いあったね」
こちらを視線だけで見つめて笑うと、まだ赤みの抜けない顔で首を傾げた。
「練習になった?」
「なったかな…わからないけど、気持ちよかった…」
なんだか全身の力を吸い取られてしまったようにすーっと体が重くなるのを感じる。
「…眠たい」
体と共に重みを増した瞼が視界をせばめていく。真っ暗闇の中じんわりと快感の余韻だけが俺を支配していくのが心地よかった。
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(他サイトに2021年〜掲載済)
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