ジャグラック デリュージョン!

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【第1話】8月11日 未明

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ジャグラック デリュージョン!

4話目くらいまで世界観の説明多めかもしれませんが
よろしければお付き合い頂けますと幸いです…!
後半、イチャイチャ要素多めです!

**********************

涼しい表情を変えずに黒髪の男は片足を前に出すと、もう片方の足で蹴りを入れる。捻りの効いた鋭い蹴りだった。足のつま先が的確に鳩尾に食い込み、俺は身体を折った。

腰を折った俺の髪の毛を鷲掴みにして、男が俺の顔面に膝蹴りを入れた。反射的に身体を身体を蛾の群れへ変化させ、身体を宙に霧散させる。

「随分と気持ちの悪い能力だけど、利便性は高いみたいだね。さすが俺の弟だな~」

俺の傍にいた赤髪の女が腰を落して、独特なステップを踏む。男の前へと滑り込み、踊るように回し蹴りを繰り出す。それを男はいとも簡単に腕のガードでいなすと、女の軸足に蹴りを入れる。彼女の両足が地面から離れ、後ろ向きに転倒しそうになる。

「金成(かんなり)!」

その隙間に入り込むように蛾を集合させ、名前を呼んだ彼女の身体を抱きとめる。いつも彼女の身体は軽いと思っていたが、そこにまるで重さは存在しなかった。

「咲凪(さなぎ)~、いつまで現実逃避してるんだ?」

男が俺の名前を呼びながら、ハンカチで拳を拭う。そこには大量の鱗粉がついていて、拳を拭った彼のハンカチは汚い七色になる。

むやみやたらに色を混ぜたそれは虹なんて程遠い。ただ黒く濁った、ガソリンオイルの表面に浮かぶマーブルのようだ。

「なんでこんなことすんだよ!お前、なんか今日おかしいぞ!」

彼は確かにちょっと短気で暴力的な部分はあったが、ここまで酷い暴力は初めてだったし、いつだって厳しくても俺を守ってくれる存在だった。その彼にどうしてここまでされなくてはならないのか、全く理解できない。

俺たちは何も悪くない。身内の犯罪を止めただけだ。

「おかしいのは咲凪の方だろ」

男が俺の顔面目掛けて蹴りを入れる。それを肩で受け止め、腕の中の女を庇う。彼女は何故か真顔のままで、どこを見ているのか分からない。その表情は精巧な人形のようにも見えた。

女が腕の中から弾き出されるように立ち上がると、そのまま素早く男の背後に回り込む。彼女の両腕はまるで折れてしまったように関節が変な方向を向いていたが、その力の抜けた腕が男に絡みついた。

ギリギリと男を両腕で締め上げるが、腕が不規則に伸びたり縮んだりする。彼は困ったようにその腕を見つめ、パッパと両手で払った。

女の腕が霧散する。霧散しては男にまとわりつく。その様子はさながら電気に群がる蛾の群れのようだ。彼が起こす些細な風で統率を乱す、無力な羽虫。

「あーあ、鱗粉まみれになっちゃうよ」

そう言って男が笑う。なんの悪意もない、優しい、いつもの笑顔だ。

「さすがに弟の頼みとは言え、これ以上は付き合えないな」

マッチでも握るように右手の指先を丸めると、男はそれを左腕に滑らせる。シュッと指とテーラードジャケットの生地が擦れる小さな音。彼の指先の動きに合わせて火の粉が舞った。

それは赤い鱗粉のようにも見える、細かい赤の光。チカチカと小さく点滅すると、それは小爆発を起こすように空気中で燃え上がる。

炎と共に凄まじい熱風が駆け抜けた。男の身体に組みついていた女の身体が燃え上がり、散り散りに炎の中へと飲み込まれていく。

「うっ、嘘だ!金成!金成!!」

目の前の光景が信じられずに俺は炎に向かって叫ぶ。空気中で燃え上がった炎は彼女の姿を焼き尽くし、もはや臭いの一つも残さずに消えていく。

こんなの夢か何かに決まっている。俺の人生であってはならないことだ。俺は無我夢中で男の目の前へと駆け込んだ。
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