1 / 24
0章 プロローグ
【第1話】8月11日 未明
しおりを挟むジャグラック デリュージョン!
4話目くらいまで世界観の説明多めかもしれませんが
よろしければお付き合い頂けますと幸いです…!
後半、イチャイチャ要素多めです!
**********************
涼しい表情を変えずに黒髪の男は片足を前に出すと、もう片方の足で蹴りを入れる。捻りの効いた鋭い蹴りだった。足のつま先が的確に鳩尾に食い込み、俺は身体を折った。
腰を折った俺の髪の毛を鷲掴みにして、男が俺の顔面に膝蹴りを入れた。反射的に身体を身体を蛾の群れへ変化させ、身体を宙に霧散させる。
「随分と気持ちの悪い能力だけど、利便性は高いみたいだね。さすが俺の弟だな~」
俺の傍にいた赤髪の女が腰を落して、独特なステップを踏む。男の前へと滑り込み、踊るように回し蹴りを繰り出す。それを男はいとも簡単に腕のガードでいなすと、女の軸足に蹴りを入れる。彼女の両足が地面から離れ、後ろ向きに転倒しそうになる。
「金成(かんなり)!」
その隙間に入り込むように蛾を集合させ、名前を呼んだ彼女の身体を抱きとめる。いつも彼女の身体は軽いと思っていたが、そこにまるで重さは存在しなかった。
「咲凪(さなぎ)~、いつまで現実逃避してるんだ?」
男が俺の名前を呼びながら、ハンカチで拳を拭う。そこには大量の鱗粉がついていて、拳を拭った彼のハンカチは汚い七色になる。
むやみやたらに色を混ぜたそれは虹なんて程遠い。ただ黒く濁った、ガソリンオイルの表面に浮かぶマーブルのようだ。
「なんでこんなことすんだよ!お前、なんか今日おかしいぞ!」
彼は確かにちょっと短気で暴力的な部分はあったが、ここまで酷い暴力は初めてだったし、いつだって厳しくても俺を守ってくれる存在だった。その彼にどうしてここまでされなくてはならないのか、全く理解できない。
俺たちは何も悪くない。身内の犯罪を止めただけだ。
「おかしいのは咲凪の方だろ」
男が俺の顔面目掛けて蹴りを入れる。それを肩で受け止め、腕の中の女を庇う。彼女は何故か真顔のままで、どこを見ているのか分からない。その表情は精巧な人形のようにも見えた。
女が腕の中から弾き出されるように立ち上がると、そのまま素早く男の背後に回り込む。彼女の両腕はまるで折れてしまったように関節が変な方向を向いていたが、その力の抜けた腕が男に絡みついた。
ギリギリと男を両腕で締め上げるが、腕が不規則に伸びたり縮んだりする。彼は困ったようにその腕を見つめ、パッパと両手で払った。
女の腕が霧散する。霧散しては男にまとわりつく。その様子はさながら電気に群がる蛾の群れのようだ。彼が起こす些細な風で統率を乱す、無力な羽虫。
「あーあ、鱗粉まみれになっちゃうよ」
そう言って男が笑う。なんの悪意もない、優しい、いつもの笑顔だ。
「さすがに弟の頼みとは言え、これ以上は付き合えないな」
マッチでも握るように右手の指先を丸めると、男はそれを左腕に滑らせる。シュッと指とテーラードジャケットの生地が擦れる小さな音。彼の指先の動きに合わせて火の粉が舞った。
それは赤い鱗粉のようにも見える、細かい赤の光。チカチカと小さく点滅すると、それは小爆発を起こすように空気中で燃え上がる。
炎と共に凄まじい熱風が駆け抜けた。男の身体に組みついていた女の身体が燃え上がり、散り散りに炎の中へと飲み込まれていく。
「うっ、嘘だ!金成!金成!!」
目の前の光景が信じられずに俺は炎に向かって叫ぶ。空気中で燃え上がった炎は彼女の姿を焼き尽くし、もはや臭いの一つも残さずに消えていく。
こんなの夢か何かに決まっている。俺の人生であってはならないことだ。俺は無我夢中で男の目の前へと駆け込んだ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
全体的にどうしようもない高校生日記
天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。
ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
普通の男子高校生である俺の日常は、どうやら美少女が絶対につきものらしいです。~どうやら現実は思ったよりも俺に優しいようでした~
サチ
青春
普通の男子高校生だと自称する高校2年生の鏡坂刻。彼はある日ふとした出会いをきっかけにPhotoClubなる部活に入部することになる。そこには学校一の美女や幼馴染達がいて、それまでの学校生活とは一転した生活に変わっていく。
これは普通の高校生が送る、日常ラブコメディである。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
今日の桃色女子高生図鑑
junhon
青春
「今日は何の日」というその日の記念日をテーマにした画像をAIで生成し、それに140文字の掌編小説をつけます。
ちょっぴりエッチな感じで。
X(Twitter)でも更新しています。
バスケ部員のラブストーリー
小説好きカズナリ
青春
主人公高田まさるは高校2年のバスケ部員。
同じく、女子バスケ部の街道みなみも高校2年のバスケ部員。
実は2人は小学からの幼なじみだった。
2人の関係は進展するのか?
※はじめは短編でスタートします。文字が増えたら、長編に変えます。
ここタマ! ~ここは府立珠河高等学校~
NKS
青春
府立珠河高等学校生物部の部員たちが巻き起こす学園コメディ。
進学したばかりの主人公の少年は校内で迷子に。そんな主人公を助けた人物は学校でも有名な名物人間だった。それが縁でその人物が部長を務めるクラブのお茶会に招待される事となる。
そのお茶会は怪しさ爆裂。癖の強い先輩たちの洗礼を受ける事となるが、少年はそれに染まる事なく無事に高校生活を送る事が出来るのか⁈
惑星ラスタージアへ……
荒銀のじこ
青春
発展しすぎた科学技術が猛威を振るった世界規模の大戦によって、惑星アースは衰退の一途を辿り、争いはなくなったものの誰もが未来に希望を持てずにいた。そんな世界で、ユースケは底抜けに明るく、誰よりも能天気だった。
大切な人を失い後悔している人、家庭に縛られどこにも行けない友人、身体が極端に弱い妹、貧しさに苦しみ続けた外国の人、これから先を生きていく自信のない学生たち、そして幼馴染み……。
ユースケの人柄は、そんな不安や苦しみを抱えた人たちの心や人生をそっと明るく照らす。そしてそんな人たちの抱えるものに触れていく中で、そんなもの吹き飛ばしてやろうと、ユースケは移住先として注目される希望の惑星ラスタージアへと手を伸ばしてもがく。
「俺が皆の希望を作ってやる。皆が暗い顔している理由が、夢も希望も見られないからだってんなら、俺が作ってやるよ」
※この作品は【NOVEL DAYS】というサイトにおいても公開しております。内容に違いはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる