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7章 紫に染まる夕闇の中で彼は狼の名前を歌いました
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俺の言葉に幸樹は眉間にシワを寄せる。
「殺し屋…?始末屋のこと?」
俺が頷くと幸樹は顎に手を当てて視線を下に落とす。
「…なんでそれをクリフが知ってるの?俺ですら探さないと見つからないような存在だよ、そいつら」
「俺は…そいつらに…依頼をしてみないかと話を持ちかけられた。その時教えられたのが…あの店だ…」
俺は震える唇で蓮岡が立てた仮説や、その日の夜に現れたガスマスクの男の事を話した。
「クリフのおとんが消されたかもって…じゃあその真犯人がクリフが戻ったこと知ったら…」
「口封じに殺されるか、もう一度地下に叩き落とされるかもな…」
幸樹に洗いざらい吐き出したおかげか、先程よりは震えもおさまり少しだけ気持ちが落ち着く。
彼は俺の震えの残る手を両手で包み、悲しそうに目を伏せる。
「俺が…犬が欲しいなんて人に話したから…」
小さな声で呟く。やるせなく目をキツく閉じて、俺の手をぎゅっと握った。
「…俺は、そんなやつ消されていいと思う」
「幸樹…でもそれじゃ犯人のした事と…変わらないんだ」
ガスマスクの彼に依頼してしまえば自分の身も、幸樹も母もみんな守られる。
しかし、もし犯人にこれ以上関わる気がないのなら無益な殺生を産みたくはない。
「俺は…どうしたら…」
幸樹の腕にしがみつく。どうしたらいいかなんて自分以外に聞いても解決しやしないのに。
「…クリフは何もしなくていいよ」
幸樹は俺のことを優しく抱きしめると、いつもやるように頬を俺の頭に擦る。
「俺が依頼して消すから、クリフはそのままでいて」
「ダメだ!幸樹…教えただろ…殺しはだめだ、依頼だって同じだ…」
「俺、クリフには話してなかったけど、もう人殺したことあるんだ」
俺を抱きしめる彼の表情は見えない。
「母親を自分の手で殺した。だから、俺は生きてる。身を守るには、そうしなきゃいけない時はあるよ」
彼の母の話はこれまでに何度か聞くことがあった。幸樹の思い出に巣食う母親の影は今でも彼を蝕み苦しませる。
それほど彼にとって非道な存在だったのだろう…自分の身を守るため、そんな母を手にかけたという話を聞いても、責める言葉は出なかった。
「…だとしたら俺は尚更…幸樹を頼る訳には…」
俺の言葉を遮るようにインターフォンが鳴り響く。タイミングがタイミングだけに嫌な汗が滲んだ。
動けない俺の肩を優しく叩く。彼はその場を離れ、静かにインターホンに近付いた。画面に映り込む人影はよく見えない。
幸樹は応答ボタンを押すと、静かに低い声で話しかける。
「…どちらさまですか」
「白猫宅配ですー」
時計を確認する。時刻は23時。こんな時間に宅配など来るだろうか。
「少々お待ちください」
彼は応答ボタンを切り、俺にダイニングへ行くよう顎でしゃくる。
玄関の脇に置かれた金属の骨組みで出来た傘立てを持ち上げ、中に入っている傘を地面に投げる。一応武器の代わりにするようだ。
「…穏便に済ませてくれよ」
小さな声で幸樹に伝えると、彼は片方の口元だけ上げておどけるように肩を竦めた。
俺は玄関から視覚になる廊下の角に引っ込み様子を伺うことにした。
玄関が開かれる音の後、明るい男の声が聞こえる。
「こんばんはーっす、サインお願いしますー!」
「はい」
幸樹がサインを書いているのか数秒2人の声は途絶えた。
「あれ、ここって珠女さんのお宅でお間違いないですよね?サインに明嵐とありますが…」
「今は俺の家ですけど…珠女への荷物ですか?知り合いにいますよ」
まだ警戒しているらしく、幸樹は険しい声色で答える。傘立てを置いたような音もなかったからきっとまだ片手に持っているんだろう。怪しいだろうに…。
「あー、でしたら再発送致しますので彼の現在の住所か連絡先などご存知ないですかね?」
「珠女は今、ホテルを転々としてますのですぐにはちょっと分からないですね。連絡は…とれるにはとれますが、本人に聞かないと」
幸樹は上手く話を交わしているようだが、ただの宅配員がここまで個人の情報を根掘り葉掘り聞こうとするものだろうか…。
「えーなるほどなるほど…では今から連絡取って頂いても?この荷物今日中に届けてしまいたいなと思っているんで。ほら、だからこんなに夜にわざわざ配達しに来たんですよ!」
「じゃあ俺から渡します。もう帰っていいですよ」
幸樹の声がより低くなり、威圧するように答える。
「いやー困りますよ!もし荷物が紛失でもしたら僕の責任になってしまいますから!」
「だから…」
何やら2人は言い争いを初めてしまったらしい。
ハラハラしながら隠れているとガシャンと何か叩きつけられるような音が鳴り響く。
「…幸樹!!」
玄関に飛び出ると宅配員の男性と幸樹が取っ組み合って攻防していた。
床に落ちた荷物と思われる小さなダンボール箱からは鉄の塊のようなものが飛び出している。その傍には鉄の骨組み部分が折れ曲がった傘立てが転がっていた。
「てめえ…どおりでやけにしつこいと思ったんだよ…!」
ぐぐぐっと組み合っていた手で相手を突き飛ばすと、幸樹は宅配員の鳩尾を蹴り飛ばす。宅配員が怯むのを見て、彼は俺の手を取って外へ走り出す。
「逃げよう!思ってるよりやべえ!」
俺の手を引いて彼は先ほどまで遊んでいた街の方へと向かう。
恐らく人気のある場所を探したのだろうが、街はもう人がすくなくなっており、誰に狙われてるとも分からない現状では安全とは言い兼ねる。
幸樹の足の速さに着いていけずに足がもつれていた俺に気付いたのか、街に入ると速度を緩め歩きだす。
「はぁ…はぁ…」
幸樹は俺の震える手をしっかりと握りしめる。
彼の腕に視線を落とすと、先程殴られたのか大きな青アザが出来ていた。
「…幸樹、その腕…!」
「え?へーきへーき!ほっときゃ治るよ」
明らかに腫れ上がり、紫とも赤とも言いきれない色を称えているが、幸樹は笑って見せる。
「どうしよ…財布しかない…。財布あるだけマシか…ネカフェにでも泊まる?危ないかな…」
「大丈夫なわけない、病院に行くべきだ…折れてたらどうするんだ!」
「病院はやってないし、救急で行くと目立つから今は避けた方がいい」
ふざけていたと思えば、彼は真剣な声色で返答する。
「…とりあえず、安心して休めるとこ探そ。な?」
ニッと笑う彼に笑い返す余裕が出来ず俺は俯く。
その時ふと嫌な汗が頬を伝った。
「…母さんは!」
俺の言葉に幸樹が振り返る。少し迷ったように視線を動かすが、意を決したように俺に財布を渡す。
「そこのネカフェに入ってて。クリフのお母さんは俺が連れてくるから」
「そんな、お前は怪我してるだろ!行くなら俺も一緒に…」
「クリフはダメだ!珠女の名前が狙われてるなら、親子そろって並んでるのが相手にとっては1番美味しい状況なんだよ!関係ない俺一人で行ったほうが助けやすい!」
俺の肩を力強く掴むと、彼はまっすぐこちらを見て話す。
彼の言う事は最もだ。でも相手の意図も素性も分からないのに、幸樹が全く狙われないとも言いきれない。しかし、自分がついてて何ができるだろうか…変に足を引っ張って動きづらくさせてしまうだろう。
「…わかった」
「ありがと」
彼は笑うと俺の頭を撫でて、額にキスをするとそのまま振り返らずに走り出す。
俺は彼の姿が見えなくなると近くのネットカフェに身を隠した。
幸樹を見送ってから30分くらい経過した。
ここから母のアパートはそう遠くはない。
往復でも20分もあれば余裕で行き来できるはずだ…説得するにしても時間がかかりすぎな気がする。
胸騒ぎを覚えた俺は大急ぎでネットカフェを飛び出し母のアパート走る。
アパートの前にたどり着くと、点々と部屋の明かりは着いているものの外は不気味なほと静まり返って人の気配はない。
「母さんの部屋の明かりが…ついてない…」
嫌な予感を抱えながら母の部屋の玄関に手をかける。
きいと小さな音を立て扉が開く、鍵はかかっていない。
「だれか…居ないのか?」
部屋の明かりを付けると荒らされた、もしくは争ったような痕跡があるだけで人の姿はない。
「そんな…」
頭から血の気が引いていくような感覚に足元がふらつく。
恐らく母と幸樹は先程の偽宅配員か、その仲間に連れていかれてしまったのだろう。
「あの時…やっぱり着いていけば…」
過ぎたことを言ってもどうにもならない。しかし足が、体が糸が切れたように動かない。
「…ガロウズ」
俺たちを襲った者の正体も目的も未だハッキリしていない。父親を殺した人物と同一かと言われればそうかもしれないとしか言えなかったが、恐らくは地下に関わる何かではないかと予想が着く。
地下の殺しのプロや痕跡を消すという人々を相手に、地上の警察は太刀打ちできないだろう。
「………」
重い足を引きずるように幸樹が見つけた店、ガロウズの前にたどり着いた。
震える手で店の扉を開いて足を踏み入れる。中は想像よりも普通のバーで、渋い赤茶色の木造の内装。高級感のあるカウンターに赤いクッションのついカウンターチェアが均等に並べられていた。壁の装飾に機能しないダーツ盤や牛頭骨が下げられ、なんの写真か分からないが随分と古いモノクロ写真が大判で額に入れられている。
「…いらっしゃいませ」
バーのマスターは優しく微笑みながらグラスを磨く。カウンターの後ろの棚に並べられた大量のグラスと酒瓶。その隣の扉に描かれたイラストは絞首台に使われるような首吊りロープだ。
恐る恐るカウンターの前まで足を進めマスターらしき人物を見上げる。
「あの…」
「はい」
紺色の長い髪を高く結い上げた男性は人の良さそうな笑みを浮かべる。
「お高い肉屋を…知らないか?」
俺の言葉に彼は笑顔を崩さずに「そうですね」と小首を傾げた。
「今は仕事がありますので、1時のクローズまでお待ち頂けますか。お肉は私も大好きなので、詳細を話そうとすると時間がかかるものでして」
そんなに悠長にしていられないと言葉が出かかるが、もう彼以外にあてがないのだと思い出した声を飲み込む。
「…分かりました…店内でお待ちしてもいいですか?」
「ええ、もちろんです。当店は皆が休める憩いの場ですから、安心してお寛ぎ下さい」
店内にちらほらといる客に作った酒を手渡し、彼は不意に後ろの部屋へと消える。ほんの数分もせずに彼は表へ出てきたが、それきり何をするでもなく接客に勤しんでいた。
俺にはサービスだと冷たく冷えた牛乳を出された。出された時は親切だと少し安心したが飲むうちに「(もしかして子供扱いされているのでは)」と気づいてしまった。俺はもう20歳を超えているのに…。
やがて閉店の1時を回り、客が全員はけ、店内には彼と自分だけが残る。
彼は店の扉にクローズの看板を下げると、カウンター内へと俺を招いた。
「この先の扉の奥へどうぞ。素晴らしいお肉屋さんをご紹介します」
あの夜にあったガスマスクの男を思い出す。マスターの指す肉屋というのが彼なのだろうか。
彼に招かれるまま俺は扉を開いた。
部屋は真っ暗闇だ。電気を探して中に足を踏み入れる。
「どうぞごゆっくり」
突然、背後で扉が閉まる。
「…!!」
真っ暗闇の中、足音がする。それは床のリノリウムと擦れるゴムのような音。その足音の主は部屋の壁に設置された電気のスイッチを押したのか、部屋に橙色の明かりが灯る。
「待っていたよ」
部屋にいたのはあのガスマスクの男だった。この前は暗闇で見えなかったが、腰に下げたカービングナイフと柄の長い二股の黒い屠殺用のフォークがベルトから下がっている。
腰のエプロンや黒いゴム手袋、ゴムの長靴を履いたその姿は確かに肉屋を彷彿とさせた。
「依頼かな?」
「…母親と…大事な人がさらわれた…父親と関係あるか…わからない」
俺がもごもごと話す言葉を、彼は急かすでもなく促すでもなく、ただ黙って静かに耳を傾ける。
「助けてほしいと依頼したら…お前は人を殺すのか?その見返りに…何を要求する?」
「始末屋の意味を知っているなら無意味な質問だ。君は僕らの世界でいかにお金が大事か分かるだろう?」
彼は静かに首を傾げる。
「お金は命より重い。だから、僕は人の命を奪う報酬に金銭を要求しよう。消し方にもよるが、最低でも1人につき150万以上は必要かな」
幸樹が俺のためだと稼いだ金を…汚していいのか…俺は言葉に詰まった。
でも…幸樹が精いっぱい守り抜いてくれたおかげて俺は今ここにいる。俺は選択を出来る。
「…頼みたい。二人を助けてほしい」
「僕は正義の味方じゃない。救える保証はしないよ」
彼はそう言うと片手の手袋をとり、もう片手の袖をめくる。地下で見慣れた腕時計を操作したいのだが、恐らく素手でないと反応しないのだろう。
「それでいいなら喜んで依頼を引き受よう。想定としては何人を消すんだい?どれくらい痕跡を消して欲しい?」
それを言われて俺はハッとする。相手が一人なのかも地上の人間か地下の人間かもわからないのにどう依頼したらいいんだ。
「それは…えっと…」
「…君の父親に汚名を着せた人かい?」
彼のいつも先回りしていたかのように俺に言葉を投げかける。ロボットのような声も相まってどうにも人間に見えない程だ。
「そいつが…2人をさらったのか」
「どうだろう、でも可能性は高いんじゃないかな。君の父親が消された理由を思えばね」
やっぱり彼は真相を知っている。
「父を殺した犯人を知っているなら…教えてくれ。父はどうして殺されたんだ」
俺の言葉に彼は少しの沈黙を置いてから話し出す。
「正式に君が僕の依頼人になるなら話そう。前金として100万円を保証して欲しい。依頼を遂行した場合、報酬の一部として前金を差し引いた金額を請求する。キャンセルする場合も前金は頂くよ」
100万円、遂行する場合は差し引き有り。
こんな数字でも思っていたより安いんだなとか感じてしまうあたり、金銭感覚が鈍ってきたんだろうか…。
「わかった…話を聞かせて欲しい。遂行するかはそれから考える」
そう答えると、彼はゆっくりと話し始めた。
「君の父の会社が傾いた原因…専務のミスが発端だったそうだよ。専務の彼はその回復のために務めたけど、回復どころか経営は苦しくなる一方だった」
「父さんの会社…そんなに…」
「このままでは間違いなく首になる。そう思ったが、会社を立て直すにはそこそこの纏まったお金が必要だった。どこかで地下の人身売買を知った彼は、まあ手ごろな君に目をつけたんだろう」
俺が地下に攫われる前、覚えている限りでは自宅で1人で夕食を…そうだ、それで確か宅配が…!
「でも、思っていたより上手くいかなかったらしい。君をさらう際に父親と鉢合わせたんだ。それで脅しに使った刃物で殺してしまった」
父は殺された。頭では分かっていた事実だったが、実際に聞いてしまうとやはりショックが大きくて言葉を失う。
「君と君の父の遺体を積んで彼は取引にやってきた。息子はできるだけ高く売るようにと。君を見初めた犬売が相場よりもだいぶ高い値段をつけたそうで、彼はその金で掃除屋を雇った。自身の殺人と人身売買の痕跡を完全に消し去るって依頼だったかな」
「だから販売人が父の名前に…今回俺たちを襲ったのはそいつなのか?」
俺が息を荒くして尋ねると彼は首を傾げる。
「確証はないよ、僕は始末屋であって探偵ではないから。仕事の伝に聞いた話を繋いだだけだ」
彼は付け加えるように続けた。
「ただ、君の値段に大変味を占めたらしい。今では頑張って建て直した会社も放って犬売の卸業者みたいなことをしてるとか」
人を売ることに味を占めたのなら納得だ。自分でいうのもなんだが、破格の値段を叩き出した俺を再度売りに出すチャンスがあるなら狙うだろう。目的の商品が手に入らずにおまけか交換材料に母や幸樹をさらう理由にもなる。
2人をさらった犯人も、父を殺した男も同一人物で間違いないだろう。
「…わかったありがとう。依頼を頼みたいが…殺す以外の方法はないか…?」
俺が尋ねると彼は小首を傾げる。
「僕は殺すことを専門としているから、基本的には殺すことになる。それを望まないのであれば、身内の掃除屋に協力を依頼する。料金は倍以上かかるけど、大丈夫かい?」
倍以上と言われてさすがに尻込みするが…。
「例えば…その男を犬として地下に落とすとか…自分がしてきた事、そのまま返してやるとしたら…いくら位になる?」
俺の質問に彼は少し考えるように視線を俺から逸らす。それから腕時計を操作し、何かを計算しているのか数字を打ち込む。
「そうだね…地上から地下に跡形もなく連れてくるだけなら僕の身内だけで完結するから1人につき300万で引き受けられる。ただ、犬とするなら、犬売の仲介人が必要だ」
彼は再び俺に視線を戻し、赤いレンズで見えない瞳をこちらに向けた。
「僕のネットワークに犬売はいない。手配する料金は計算できないな」
「あ…犬売の知り合いなら一応…いるにはいるが…」
遠慮がちに彼に声をかける。彼は知り合いなのは嘘ではないし、とても信頼できる相手ではあるがこの始末屋がそれを受け入れるかと言われるとそれはまた…
「そうなのか」
心配をよそに彼は返答すると、少し意外そうなニュアンスの声を発し、悩むようにいじっていた腕時計のついた腕を下ろす。
「そうか、君は明嵐家の長男と番なんだったね。地下に君なりのネットワークがあるなら、それに甘えた方が安上がりだろう」
「つ、番って…ん…まあ…そうか…」
スルッと番認定されたことに驚いたが、ここまで膨大な情報を掴んできたくらいだ。そのくらい知ってて当然といえばそうだろう。
「じゃあ…犬売が必要なら蓮岡って男に頼みたいんだけど…」
「ああ」
今までロボットのような動きしかしなかった彼は、珍しく手をたたく。
「彼か。覚えているよ。君から連絡はとれるかい?取れないなら僕がコンタクトをとろう」
「今は…連絡手段が無くて、頼めるか?もし彼が報酬を要求するなら上乗せしてくれていいから…」
「承るよ」
彼はそう言うと壁にある電気のスイッチに手をかける。
「それなら僕は依頼に取り掛かるよ。他に質問はないかい?」
「依頼完了の知らせは…どうしたらいい?」
「3日以内に完遂する。連絡手段がないならここのマスターに聞けば分かるだろうし、いつでも僕に会えるよ。蓮岡という犬売にも伝わっているはずだから、心配なら彼にも確認を取ってくれ」
そう言ってから、思い出したように彼は付け加える。
「もし、僕の話を無関係の人にしたら、代償は君の存在抹消だ。覚えておいてね」
彼の手がスイッチを切る。部屋は再び暗闇に包まれた。
…うっかり幸樹に彼の話をしてしまったが、下手したら俺が存在消されてたのか…気をつけねば。
「殺し屋…?始末屋のこと?」
俺が頷くと幸樹は顎に手を当てて視線を下に落とす。
「…なんでそれをクリフが知ってるの?俺ですら探さないと見つからないような存在だよ、そいつら」
「俺は…そいつらに…依頼をしてみないかと話を持ちかけられた。その時教えられたのが…あの店だ…」
俺は震える唇で蓮岡が立てた仮説や、その日の夜に現れたガスマスクの男の事を話した。
「クリフのおとんが消されたかもって…じゃあその真犯人がクリフが戻ったこと知ったら…」
「口封じに殺されるか、もう一度地下に叩き落とされるかもな…」
幸樹に洗いざらい吐き出したおかげか、先程よりは震えもおさまり少しだけ気持ちが落ち着く。
彼は俺の震えの残る手を両手で包み、悲しそうに目を伏せる。
「俺が…犬が欲しいなんて人に話したから…」
小さな声で呟く。やるせなく目をキツく閉じて、俺の手をぎゅっと握った。
「…俺は、そんなやつ消されていいと思う」
「幸樹…でもそれじゃ犯人のした事と…変わらないんだ」
ガスマスクの彼に依頼してしまえば自分の身も、幸樹も母もみんな守られる。
しかし、もし犯人にこれ以上関わる気がないのなら無益な殺生を産みたくはない。
「俺は…どうしたら…」
幸樹の腕にしがみつく。どうしたらいいかなんて自分以外に聞いても解決しやしないのに。
「…クリフは何もしなくていいよ」
幸樹は俺のことを優しく抱きしめると、いつもやるように頬を俺の頭に擦る。
「俺が依頼して消すから、クリフはそのままでいて」
「ダメだ!幸樹…教えただろ…殺しはだめだ、依頼だって同じだ…」
「俺、クリフには話してなかったけど、もう人殺したことあるんだ」
俺を抱きしめる彼の表情は見えない。
「母親を自分の手で殺した。だから、俺は生きてる。身を守るには、そうしなきゃいけない時はあるよ」
彼の母の話はこれまでに何度か聞くことがあった。幸樹の思い出に巣食う母親の影は今でも彼を蝕み苦しませる。
それほど彼にとって非道な存在だったのだろう…自分の身を守るため、そんな母を手にかけたという話を聞いても、責める言葉は出なかった。
「…だとしたら俺は尚更…幸樹を頼る訳には…」
俺の言葉を遮るようにインターフォンが鳴り響く。タイミングがタイミングだけに嫌な汗が滲んだ。
動けない俺の肩を優しく叩く。彼はその場を離れ、静かにインターホンに近付いた。画面に映り込む人影はよく見えない。
幸樹は応答ボタンを押すと、静かに低い声で話しかける。
「…どちらさまですか」
「白猫宅配ですー」
時計を確認する。時刻は23時。こんな時間に宅配など来るだろうか。
「少々お待ちください」
彼は応答ボタンを切り、俺にダイニングへ行くよう顎でしゃくる。
玄関の脇に置かれた金属の骨組みで出来た傘立てを持ち上げ、中に入っている傘を地面に投げる。一応武器の代わりにするようだ。
「…穏便に済ませてくれよ」
小さな声で幸樹に伝えると、彼は片方の口元だけ上げておどけるように肩を竦めた。
俺は玄関から視覚になる廊下の角に引っ込み様子を伺うことにした。
玄関が開かれる音の後、明るい男の声が聞こえる。
「こんばんはーっす、サインお願いしますー!」
「はい」
幸樹がサインを書いているのか数秒2人の声は途絶えた。
「あれ、ここって珠女さんのお宅でお間違いないですよね?サインに明嵐とありますが…」
「今は俺の家ですけど…珠女への荷物ですか?知り合いにいますよ」
まだ警戒しているらしく、幸樹は険しい声色で答える。傘立てを置いたような音もなかったからきっとまだ片手に持っているんだろう。怪しいだろうに…。
「あー、でしたら再発送致しますので彼の現在の住所か連絡先などご存知ないですかね?」
「珠女は今、ホテルを転々としてますのですぐにはちょっと分からないですね。連絡は…とれるにはとれますが、本人に聞かないと」
幸樹は上手く話を交わしているようだが、ただの宅配員がここまで個人の情報を根掘り葉掘り聞こうとするものだろうか…。
「えーなるほどなるほど…では今から連絡取って頂いても?この荷物今日中に届けてしまいたいなと思っているんで。ほら、だからこんなに夜にわざわざ配達しに来たんですよ!」
「じゃあ俺から渡します。もう帰っていいですよ」
幸樹の声がより低くなり、威圧するように答える。
「いやー困りますよ!もし荷物が紛失でもしたら僕の責任になってしまいますから!」
「だから…」
何やら2人は言い争いを初めてしまったらしい。
ハラハラしながら隠れているとガシャンと何か叩きつけられるような音が鳴り響く。
「…幸樹!!」
玄関に飛び出ると宅配員の男性と幸樹が取っ組み合って攻防していた。
床に落ちた荷物と思われる小さなダンボール箱からは鉄の塊のようなものが飛び出している。その傍には鉄の骨組み部分が折れ曲がった傘立てが転がっていた。
「てめえ…どおりでやけにしつこいと思ったんだよ…!」
ぐぐぐっと組み合っていた手で相手を突き飛ばすと、幸樹は宅配員の鳩尾を蹴り飛ばす。宅配員が怯むのを見て、彼は俺の手を取って外へ走り出す。
「逃げよう!思ってるよりやべえ!」
俺の手を引いて彼は先ほどまで遊んでいた街の方へと向かう。
恐らく人気のある場所を探したのだろうが、街はもう人がすくなくなっており、誰に狙われてるとも分からない現状では安全とは言い兼ねる。
幸樹の足の速さに着いていけずに足がもつれていた俺に気付いたのか、街に入ると速度を緩め歩きだす。
「はぁ…はぁ…」
幸樹は俺の震える手をしっかりと握りしめる。
彼の腕に視線を落とすと、先程殴られたのか大きな青アザが出来ていた。
「…幸樹、その腕…!」
「え?へーきへーき!ほっときゃ治るよ」
明らかに腫れ上がり、紫とも赤とも言いきれない色を称えているが、幸樹は笑って見せる。
「どうしよ…財布しかない…。財布あるだけマシか…ネカフェにでも泊まる?危ないかな…」
「大丈夫なわけない、病院に行くべきだ…折れてたらどうするんだ!」
「病院はやってないし、救急で行くと目立つから今は避けた方がいい」
ふざけていたと思えば、彼は真剣な声色で返答する。
「…とりあえず、安心して休めるとこ探そ。な?」
ニッと笑う彼に笑い返す余裕が出来ず俺は俯く。
その時ふと嫌な汗が頬を伝った。
「…母さんは!」
俺の言葉に幸樹が振り返る。少し迷ったように視線を動かすが、意を決したように俺に財布を渡す。
「そこのネカフェに入ってて。クリフのお母さんは俺が連れてくるから」
「そんな、お前は怪我してるだろ!行くなら俺も一緒に…」
「クリフはダメだ!珠女の名前が狙われてるなら、親子そろって並んでるのが相手にとっては1番美味しい状況なんだよ!関係ない俺一人で行ったほうが助けやすい!」
俺の肩を力強く掴むと、彼はまっすぐこちらを見て話す。
彼の言う事は最もだ。でも相手の意図も素性も分からないのに、幸樹が全く狙われないとも言いきれない。しかし、自分がついてて何ができるだろうか…変に足を引っ張って動きづらくさせてしまうだろう。
「…わかった」
「ありがと」
彼は笑うと俺の頭を撫でて、額にキスをするとそのまま振り返らずに走り出す。
俺は彼の姿が見えなくなると近くのネットカフェに身を隠した。
幸樹を見送ってから30分くらい経過した。
ここから母のアパートはそう遠くはない。
往復でも20分もあれば余裕で行き来できるはずだ…説得するにしても時間がかかりすぎな気がする。
胸騒ぎを覚えた俺は大急ぎでネットカフェを飛び出し母のアパート走る。
アパートの前にたどり着くと、点々と部屋の明かりは着いているものの外は不気味なほと静まり返って人の気配はない。
「母さんの部屋の明かりが…ついてない…」
嫌な予感を抱えながら母の部屋の玄関に手をかける。
きいと小さな音を立て扉が開く、鍵はかかっていない。
「だれか…居ないのか?」
部屋の明かりを付けると荒らされた、もしくは争ったような痕跡があるだけで人の姿はない。
「そんな…」
頭から血の気が引いていくような感覚に足元がふらつく。
恐らく母と幸樹は先程の偽宅配員か、その仲間に連れていかれてしまったのだろう。
「あの時…やっぱり着いていけば…」
過ぎたことを言ってもどうにもならない。しかし足が、体が糸が切れたように動かない。
「…ガロウズ」
俺たちを襲った者の正体も目的も未だハッキリしていない。父親を殺した人物と同一かと言われればそうかもしれないとしか言えなかったが、恐らくは地下に関わる何かではないかと予想が着く。
地下の殺しのプロや痕跡を消すという人々を相手に、地上の警察は太刀打ちできないだろう。
「………」
重い足を引きずるように幸樹が見つけた店、ガロウズの前にたどり着いた。
震える手で店の扉を開いて足を踏み入れる。中は想像よりも普通のバーで、渋い赤茶色の木造の内装。高級感のあるカウンターに赤いクッションのついカウンターチェアが均等に並べられていた。壁の装飾に機能しないダーツ盤や牛頭骨が下げられ、なんの写真か分からないが随分と古いモノクロ写真が大判で額に入れられている。
「…いらっしゃいませ」
バーのマスターは優しく微笑みながらグラスを磨く。カウンターの後ろの棚に並べられた大量のグラスと酒瓶。その隣の扉に描かれたイラストは絞首台に使われるような首吊りロープだ。
恐る恐るカウンターの前まで足を進めマスターらしき人物を見上げる。
「あの…」
「はい」
紺色の長い髪を高く結い上げた男性は人の良さそうな笑みを浮かべる。
「お高い肉屋を…知らないか?」
俺の言葉に彼は笑顔を崩さずに「そうですね」と小首を傾げた。
「今は仕事がありますので、1時のクローズまでお待ち頂けますか。お肉は私も大好きなので、詳細を話そうとすると時間がかかるものでして」
そんなに悠長にしていられないと言葉が出かかるが、もう彼以外にあてがないのだと思い出した声を飲み込む。
「…分かりました…店内でお待ちしてもいいですか?」
「ええ、もちろんです。当店は皆が休める憩いの場ですから、安心してお寛ぎ下さい」
店内にちらほらといる客に作った酒を手渡し、彼は不意に後ろの部屋へと消える。ほんの数分もせずに彼は表へ出てきたが、それきり何をするでもなく接客に勤しんでいた。
俺にはサービスだと冷たく冷えた牛乳を出された。出された時は親切だと少し安心したが飲むうちに「(もしかして子供扱いされているのでは)」と気づいてしまった。俺はもう20歳を超えているのに…。
やがて閉店の1時を回り、客が全員はけ、店内には彼と自分だけが残る。
彼は店の扉にクローズの看板を下げると、カウンター内へと俺を招いた。
「この先の扉の奥へどうぞ。素晴らしいお肉屋さんをご紹介します」
あの夜にあったガスマスクの男を思い出す。マスターの指す肉屋というのが彼なのだろうか。
彼に招かれるまま俺は扉を開いた。
部屋は真っ暗闇だ。電気を探して中に足を踏み入れる。
「どうぞごゆっくり」
突然、背後で扉が閉まる。
「…!!」
真っ暗闇の中、足音がする。それは床のリノリウムと擦れるゴムのような音。その足音の主は部屋の壁に設置された電気のスイッチを押したのか、部屋に橙色の明かりが灯る。
「待っていたよ」
部屋にいたのはあのガスマスクの男だった。この前は暗闇で見えなかったが、腰に下げたカービングナイフと柄の長い二股の黒い屠殺用のフォークがベルトから下がっている。
腰のエプロンや黒いゴム手袋、ゴムの長靴を履いたその姿は確かに肉屋を彷彿とさせた。
「依頼かな?」
「…母親と…大事な人がさらわれた…父親と関係あるか…わからない」
俺がもごもごと話す言葉を、彼は急かすでもなく促すでもなく、ただ黙って静かに耳を傾ける。
「助けてほしいと依頼したら…お前は人を殺すのか?その見返りに…何を要求する?」
「始末屋の意味を知っているなら無意味な質問だ。君は僕らの世界でいかにお金が大事か分かるだろう?」
彼は静かに首を傾げる。
「お金は命より重い。だから、僕は人の命を奪う報酬に金銭を要求しよう。消し方にもよるが、最低でも1人につき150万以上は必要かな」
幸樹が俺のためだと稼いだ金を…汚していいのか…俺は言葉に詰まった。
でも…幸樹が精いっぱい守り抜いてくれたおかげて俺は今ここにいる。俺は選択を出来る。
「…頼みたい。二人を助けてほしい」
「僕は正義の味方じゃない。救える保証はしないよ」
彼はそう言うと片手の手袋をとり、もう片手の袖をめくる。地下で見慣れた腕時計を操作したいのだが、恐らく素手でないと反応しないのだろう。
「それでいいなら喜んで依頼を引き受よう。想定としては何人を消すんだい?どれくらい痕跡を消して欲しい?」
それを言われて俺はハッとする。相手が一人なのかも地上の人間か地下の人間かもわからないのにどう依頼したらいいんだ。
「それは…えっと…」
「…君の父親に汚名を着せた人かい?」
彼のいつも先回りしていたかのように俺に言葉を投げかける。ロボットのような声も相まってどうにも人間に見えない程だ。
「そいつが…2人をさらったのか」
「どうだろう、でも可能性は高いんじゃないかな。君の父親が消された理由を思えばね」
やっぱり彼は真相を知っている。
「父を殺した犯人を知っているなら…教えてくれ。父はどうして殺されたんだ」
俺の言葉に彼は少しの沈黙を置いてから話し出す。
「正式に君が僕の依頼人になるなら話そう。前金として100万円を保証して欲しい。依頼を遂行した場合、報酬の一部として前金を差し引いた金額を請求する。キャンセルする場合も前金は頂くよ」
100万円、遂行する場合は差し引き有り。
こんな数字でも思っていたより安いんだなとか感じてしまうあたり、金銭感覚が鈍ってきたんだろうか…。
「わかった…話を聞かせて欲しい。遂行するかはそれから考える」
そう答えると、彼はゆっくりと話し始めた。
「君の父の会社が傾いた原因…専務のミスが発端だったそうだよ。専務の彼はその回復のために務めたけど、回復どころか経営は苦しくなる一方だった」
「父さんの会社…そんなに…」
「このままでは間違いなく首になる。そう思ったが、会社を立て直すにはそこそこの纏まったお金が必要だった。どこかで地下の人身売買を知った彼は、まあ手ごろな君に目をつけたんだろう」
俺が地下に攫われる前、覚えている限りでは自宅で1人で夕食を…そうだ、それで確か宅配が…!
「でも、思っていたより上手くいかなかったらしい。君をさらう際に父親と鉢合わせたんだ。それで脅しに使った刃物で殺してしまった」
父は殺された。頭では分かっていた事実だったが、実際に聞いてしまうとやはりショックが大きくて言葉を失う。
「君と君の父の遺体を積んで彼は取引にやってきた。息子はできるだけ高く売るようにと。君を見初めた犬売が相場よりもだいぶ高い値段をつけたそうで、彼はその金で掃除屋を雇った。自身の殺人と人身売買の痕跡を完全に消し去るって依頼だったかな」
「だから販売人が父の名前に…今回俺たちを襲ったのはそいつなのか?」
俺が息を荒くして尋ねると彼は首を傾げる。
「確証はないよ、僕は始末屋であって探偵ではないから。仕事の伝に聞いた話を繋いだだけだ」
彼は付け加えるように続けた。
「ただ、君の値段に大変味を占めたらしい。今では頑張って建て直した会社も放って犬売の卸業者みたいなことをしてるとか」
人を売ることに味を占めたのなら納得だ。自分でいうのもなんだが、破格の値段を叩き出した俺を再度売りに出すチャンスがあるなら狙うだろう。目的の商品が手に入らずにおまけか交換材料に母や幸樹をさらう理由にもなる。
2人をさらった犯人も、父を殺した男も同一人物で間違いないだろう。
「…わかったありがとう。依頼を頼みたいが…殺す以外の方法はないか…?」
俺が尋ねると彼は小首を傾げる。
「僕は殺すことを専門としているから、基本的には殺すことになる。それを望まないのであれば、身内の掃除屋に協力を依頼する。料金は倍以上かかるけど、大丈夫かい?」
倍以上と言われてさすがに尻込みするが…。
「例えば…その男を犬として地下に落とすとか…自分がしてきた事、そのまま返してやるとしたら…いくら位になる?」
俺の質問に彼は少し考えるように視線を俺から逸らす。それから腕時計を操作し、何かを計算しているのか数字を打ち込む。
「そうだね…地上から地下に跡形もなく連れてくるだけなら僕の身内だけで完結するから1人につき300万で引き受けられる。ただ、犬とするなら、犬売の仲介人が必要だ」
彼は再び俺に視線を戻し、赤いレンズで見えない瞳をこちらに向けた。
「僕のネットワークに犬売はいない。手配する料金は計算できないな」
「あ…犬売の知り合いなら一応…いるにはいるが…」
遠慮がちに彼に声をかける。彼は知り合いなのは嘘ではないし、とても信頼できる相手ではあるがこの始末屋がそれを受け入れるかと言われるとそれはまた…
「そうなのか」
心配をよそに彼は返答すると、少し意外そうなニュアンスの声を発し、悩むようにいじっていた腕時計のついた腕を下ろす。
「そうか、君は明嵐家の長男と番なんだったね。地下に君なりのネットワークがあるなら、それに甘えた方が安上がりだろう」
「つ、番って…ん…まあ…そうか…」
スルッと番認定されたことに驚いたが、ここまで膨大な情報を掴んできたくらいだ。そのくらい知ってて当然といえばそうだろう。
「じゃあ…犬売が必要なら蓮岡って男に頼みたいんだけど…」
「ああ」
今までロボットのような動きしかしなかった彼は、珍しく手をたたく。
「彼か。覚えているよ。君から連絡はとれるかい?取れないなら僕がコンタクトをとろう」
「今は…連絡手段が無くて、頼めるか?もし彼が報酬を要求するなら上乗せしてくれていいから…」
「承るよ」
彼はそう言うと壁にある電気のスイッチに手をかける。
「それなら僕は依頼に取り掛かるよ。他に質問はないかい?」
「依頼完了の知らせは…どうしたらいい?」
「3日以内に完遂する。連絡手段がないならここのマスターに聞けば分かるだろうし、いつでも僕に会えるよ。蓮岡という犬売にも伝わっているはずだから、心配なら彼にも確認を取ってくれ」
そう言ってから、思い出したように彼は付け加える。
「もし、僕の話を無関係の人にしたら、代償は君の存在抹消だ。覚えておいてね」
彼の手がスイッチを切る。部屋は再び暗闇に包まれた。
…うっかり幸樹に彼の話をしてしまったが、下手したら俺が存在消されてたのか…気をつけねば。
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