天底ノ箱庭 春告鳥

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7章 紫に染まる夕闇の中で彼は狼の名前を歌いました

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地上にクリフが来たらあんなことやこんなことろうって1人の時はめくるめく煩悩に思いを馳せて、時には眠れない夜を過ごし、時にはクリフをめちゃくちゃに抱く夢で夢精したり、それはもう欲に埋もれていたわけなんだが、いざ本物を4ヶ月ぶりに目の前にしたらハグすらまともに出来なくて正直辛い。
地上は過ごしやすい良い場所だ。喧嘩もなけりゃ強姦も窃盗もない。堅苦しいと最初は思っていたが、住めば都で警戒しない楽さを覚えた。危機感が死んでても生き延びられそうな平和ボケした街だ。
だけど、逆に言えば街の真ん中でフリーセックスするとか野外プレイが横行してない分だけみんな奥ゆかしい。野外プレイやフリーセックスなんか論の外で、もはやキスすら人前は恥ずかしいらしい。手を繋いで歩いてたらラブラブだねってレベル。みんなの羞恥心が凄まじい。
そんなギャップに4ヶ月も悩んでいたら、何が正しいのか分からなくなって、クリフの手を握るタイミングすら見失う始末。ようやく手を握って家路に着いたが、本当にようやくだ。もう本当はずっと握っていたい。
手を繋いだまま家につき、俺はそのままクリフの手を握ったままダイニングへ向かう。
ダイニングの扉を開けるときにさり気なく手を離された。母親の前はダメなのか…俺はしょんぼりと空になった手を背中に引っ込める。
クリフの母親は俺の帰宅を歓迎すると、それからまもなく本当にアパートに帰った。徒歩5分のアパートだからと楽しげに手を振って帰ったのでクリフの話は本当なんだろう。
「…俺、ここ出てくつもりだったから、家具全然買い揃えてないんだけど」
クリフの母親を玄関で見送った後、クリフに言い出すタイミングを見失っていた家具の話を告白する。
「ベッド…シングルベッドが1個しかない。2人で寝るのクソ狭いかも」
「…なんでそれを早く言わないんだ」
クリフは眉間にしわを寄せてこちらを見つめる。やっぱりシングルはさすがに狭すぎたかな…。俺は黙って肩を落とす。
「まあでも…地下の屋敷でもベッドは大きいのにやたら詰めてくる奴がいたからな、シングルでもダブルでも大差ないだろ」
俺を見たままわざとらしく文句を言って見せるクリフはいたずらな笑みを見せた。
彼のその表情を見るのが久しぶりで、可愛さのあまり頭に熱が勢いよく上がってくるのが分かる。夜に1人クリフをオカズにしようと頭で思い出すのと、本物を目の前にするとでは雲泥の差だ。
「えっ、じゃあ俺床で寝なくていい?」
「むしろ床で寝るつもりだったのか…家主としてもプライドとかないのか?」
笑顔のまま呆れたようにため息をつく。居候は自分だと付け加えて俺の胸をトンと叩く。
「えー…なんか納得いかねえんだよなあ」
この家を買ったのは確かに俺だが、住むつもりはあまりなかった。少しはあったけど。
クリフと一緒にダイニングへ行くと、広いキッチンに置かれた釣り合わない小さな冷蔵庫の前にしゃがみ、中を覗く。
「晩飯どうする?俺あんま腹減ってないけど、作る?」
「ポテチ二袋も食ったらそりゃ腹減らないだろうな、だから一袋にしとけって言ったのに」
そういいながらクリフも後をついてきて冷蔵庫を覗く。クリフはあんまり食べてなかったからお腹空いてるのかも。
冷蔵庫の中には昼の残りの肉が少しと昨日の余った冷ご飯。あとは野菜がちらほら…。
クリフは冷蔵庫をにらみながら難しい顔をする。
「これで何か作れるか?」
「野菜と混ぜて炒め物にでもしよっか?」
何せ冷蔵庫の容量が小さくて、材料らしい材料がない。あり物となったらそれくらいしか思いつかない。
俺の返答にクリフはじっと俺を見つめる。炒め物…嫌いだったかな?
「…久しぶりに幸樹の飯…食べたいけど、お前は腹減ってないなら自分で作ろうかな」
「えっ」
そんな可愛らしくお願いされたら答えたくなっちゃうじゃん。世の中の可愛いって概念が最近、自分の感じてるものと違うかもって思うけど、クリフが真顔でじっとこちらを見つめてお願いしてくるのは大概可愛い。
「いいよ!俺作ってやるよ!」
「本当に?いいのか!」
珍しくクリフが目をキラキラさせちゃったりなんかしてこっち見てる。可愛い。今世紀最大に可愛い。
「もちろん!でも、そうだなあ…」
俺はふと口の端を片方だけあげる。
「ちゅーしてくれたら、より美味しく出来る自信あるなあ?」
「それだけでより美味しくなるのか」
クリフは俺の顔に手を添えて自身の顔を寄せ、そのまま照れるでもなく唇に触れるだけのキスをした。
もうちょっと渋られると思いきや、あんまり流れるようにキスをされたので一瞬脳内がフリーズする。え、待って?イケメンか?でも味わう前に終わってしまったんだが?
「え、ちょ…もう一回!」
クリフの顔が離れきる前に今度は俺から顔を近づけて唇を重ねる。本当は今すぐ舌つっこんで舐め回したいけど、それやったらもうキッチンで大変なことになるイメージしか沸かないのでグッとこらえる。
「欲張るな」
味わう隙もなく肘で押し返されて逃げられた…。せめて舌入れなくていいから唇食んで味わったろうって思ってたのにな。
「じゃあ、ご飯できたら呼ぶね」
ダイニングテーブルにそそくさと座るクリフに声をかける。
「すまないな、楽しみにしてる」
言うて冷蔵庫に残ってたものまとめてジャーっと炒めるだけなのになんでそんなに期待した目で見てくるの?
クリフは席に着いたはいいものの、暇なのかぼんやりこっちを見たり部屋を見回したりしている。
なんか珍しいなと思っていたけど、もしかしてクリフ何も持ってないんじゃ…。俺も地上出る時に結構荷物検査あったし、没収されたものも沢山あったからクリフなんて何も持ってこれてなくてもおかしくない。
「クリフ、良かったら俺のスマホでネサフしてていいよ」
別に見られて後ろめたいものもないし、アプリとか未だにちょっと使い道わからないものが多すぎて娯楽に乏しいような気もするが、まあないよりいいだろう。
クリフは俺の言葉にダイニングテーブルに放ってある赤い俺のスマホを手に取る。
「パスワードは?」
「変えてないから0000」
地下の腕時計はどうあがいても自分しか画面を開けないからパスワードを付ける習慣はなかった。でも、スマホなんて金が入ってるわけでもねえし、取ったところで誰が得するんだろ。
「変えとけよ…不用心だろ」
そう言いつつクリフは慣れた手つきで画面をスラスラと指でなぞる。ああいうのを見てると、本当に地上の人なんだなあと思ってしまう。
クリフは静かにスマホを眺めている。何を見てるのか気になるなあなんて考えながら、いい暇つぶしなったようで良かった。
ジャーっと炒めただけの肉と野菜の炒め物を皿に盛り、レンジでチンした冷ご飯をテーブルに並べる。
熱心にスマホから目を離さないクリフを俺は後ろから覗き込む。
「何見てんの?デンシショセキ?」
「ん、ああ…お前のメールの送信履歴。お前が蓮岡とどんなやり取りしてたのかと思って」
そう言ってクリフが見せてきた画面には俺がクリフに毎日したためたラブコールのメールの数々だ。
これは…見られないことを前提にもどかしい気持ちを自己満足で吐き散らかしただけのメールだから大分恥ずかしいぞ…。
「毎日送ってきてくれてたなんてな。俺も早くスマホ買ってじっくり読まないとだ」
ニヤニヤと含んだ笑いで、その恥ずかしい文章が連ねられた本文画面のままスマホを返される。
もう何を書いたかなんて詳細を忘れてしまったが、薄目で読むとまあ女々しいことが沢山書き連なっていて、これは出来ればお読み頂きたくないかもしれない。
「いや…でも、メールなんかよりもっと面白いものスマホに一杯入ってるから、今時メールアプリなんて入れなくても…」
もごもごと無限に出てきそうな言い訳を呟きながら俺は自分のスマホをポケットに入れる。クリフの前の席につくと、クリフは手を合わせて食事に手を付け始めた。
「俺が食べてる間に読み上げてくれてもいいんだぞ?」
てっきりクリフはクールだから、もうメールのこと忘れて食事しよって流れなのかと思いきや読み上げをご所望とは驚いた。
「いやあ…楽しくないって!それより今日一緒に読んだ漫画の続編とかデンシショセキで続き読めるし…」
「クリフがいないと布団の中が寒くて眠れない。ずっとくっついてられたらいいのに…」
ボソリと口にされる身に覚えのあるフレーズに俺はビクリと肩を震わす。一気にこみ上げる恥ずかしさに顔に熱が集まるのを通り越して背筋が寒くすら感じる。
「他にもあるだろ?明日スマホ買いに行くのが楽しみだ」
クリフはその後も俺が話を逸らそうとする度に、聞き覚えのある背筋が凍るようなフレーズを口にするのでもうそっとしておいた方がいいかもしれない…なるようになるしかないんだ。
飯を食べ終えて、寝る前に何かしようと思ったけど、家具を最低限にとどめてしまったこの家にはパソコンはおろかテレビもソファも何もないので、ゴロゴロするにもシングルベッドじゃないと背中が痛いし、ダイニングにいたってさっきのクリフみたいにぼんやりと空を眺めることしかやることがない。
忙しく色々調べて回っていたからただ寝に帰るだけの場所に、いざくつろげる時間を求めようとするとこんなに難しいんだと改めて思い知る。
「…暇だなあ」
ベッドに横になって俺が呟くと、クリフはその隣に腰をかけて俺の髪をいじったり、時々俺の顔を触って反応を楽しんでいるらしい。
「…せっかく構ってくれるんなら、一緒に横になってくれてもいいんだが?」
チラリとクリフを見ると、彼はキョトンと拍子抜けした顔をしてから口元を緩める。
「そうだな…せっかくすぐ側に居るんだもんな」
ちょっと冗談まじりに言ってみたら、彼はホントに隣に体を寝かせてきた。狭いシングルベッドの中央に寄り添うように俺に体を預けてくる。
目の前に寝転ぶクリフはあの透き通った目で俺をまっすぐ見つめている。4ヶ月も離れていたせいもかあるが、クリフの匂いはなんだか懐かしくて、ほのかに屋敷を思い出させた。
「…なんか、久しぶりだと照れんね」
素直に感想を口にする。
「…そう言われるとこっちまで恥ずかしくなるだろ」
クリフはちょっと顔を赤くして目線をそっぽに向けて呟く。その仕草すら懐かしい。
俺はクリフの肩に顔をうずめて、彼の背中に腕を回した。ぎゅっと抱きしめると暖かくて嬉しくなる。
「…んー…クリフの匂い…」
「こういうのも懐かしいな」
俺の背中を優しくさする彼の手つきは4ヶ月離れていてもぜんぜん変わらない。
「やることも無いし、今日はこのまま寝てしまおうか?幸樹もちょっと疲れたんじゃないか?」
優しく撫でられていると、確かに少しずつ瞼が重くなるのを感じる。感じるが…。
下半身が反比例するみたいにちょっとずつ元気になってしまうんだが、この板挟みをどうしてくれよう…。
クリフが足元に丸まった毛布をたぐろうと体勢を変える、股間にクリフのももが擦れてしまう。
「…ん?」
「あっ、いや…これはその…」
モゾモゾとクリフから腰を離してくの字になる。せっかくいい雰囲気なのに「このエロザル!」って言われたら台無しだ。多分、クリフはそんなこと言わないだろうけど。
「…久しぶりだって言うのにぜんぜんキスも手を出すこともしてこないから、何かあったんじゃないかって心配したら…別に興味なくて勃たないって訳でもなくて安心した」
困り眉で吹き出すクリフは「このっ」と俺の股間に手を当てて小突くように軽く擦った。
「ぬあっ!?ちょっと、久しぶりなのにそんないきなり…」
驚きとよろこびで思わず身体が跳ねた。
そりゃもうこんなことしたくてしたくてしたくて4ヶ月の間に何回眠れない夜を過ごしたと思ってんだ。大歓迎だよ!ちくしょー!
「遠恋の再会初日にガツガツこられると引くって地上のネットで読んだから…我慢しようと思って…」
「…なるほど、そういうことか」
クリフそれを聞くとあっさりと股間から手を離して俺の背中に手をもどす。
「思っていたより何もされない上に、恋人なんてまで言われたのに…やけに大人しいから具合でも悪くしたのかと思って心配した」
クリフはクスクスと笑うと手元のリモコンで部屋の明かりを消した。
えっ?あれ?寝るの?
「ま、待って!今のする流れじゃ…?」
「幸樹が地上の文化に馴染もうとしてるのを邪魔する理由はないからな…具合悪いとかでないならいいんだ。ゆっくり休めよ?」
彼はまるで子供を寝かしつける親のような優しい口調と声色で囁く。
えー…。
えーーーーー!?
俺はクリフが使った照明のリモコンを奪うと電気を少し明るくする。
「やだ!クリフがいいなら地下と同じくらいセックスしたい!!したい!!」
「でかい声でいかがわしいことを言うな!」
クリフに頭を小突かれて俺はムッと口を尖らせる。
「だって!クリフと地上で恋人面するなら、地上の人っぽい方がいいんだろうと思って練習してただけだもん!俺、そういう感覚は地下のが性に合ってるもん!」
「そこは家と外とでメリハリつけてやってくれ、家の中でああしろこうしろとは言わないから」
上体を起こして駄々をこねる俺を毛布の中に引き戻して無理やり自身の胸元に顔を抱え込むと、わさわさと髪を撫でられる感覚にちょっと冷静さが帰ってくる。
「メリハリ?俺が犬やってた時みたいな?」
「そうだ、得意なんだろ?」
クリフの胸に顔を埋めたまま尋ねると、彼は俺の頭上でくすくすと笑っていた。
彼の薄い胸に顔を押し付けて、しばらく懐かしいその感触を味わってから俺は顔をあげる。
「…俺ね、クリフいない時にめっちゃシコったんだよね。人生初の体験だった」
「…いいと言った途端ぶっ込んできたな」
クリフはツボに入ったように笑いを少し堪えて答えた。
「…それで?めっちゃ発散してどうだった?」
楽しそうに話の続きを待つクリフに、俺は少し笑って続けた。
「オナニーってくそ虚しいな!終わったら頭スッキリするけど、一緒にくっついて寝る人もいないし、俺クリフの中に入ったまま寝るのが1番至福なのに、至福の部分がなんもないの絶望だった」
「良かったよ、またこうして一緒に眠れて」
穏やかに目を閉じるクリフは俺の体温と布団の温かさにうとうとしはじめているらしい。
うとうとするクリフって可愛いからついちょっかいかけたくなっちゃうんだよなあ…。
「寝ちゃうの?」
目を閉じたままのクリフの顔に触れるだけのキスを何度かしながら尋ねる。
「ん…寝るならどうする…?」
ふふっと口元を笑わせるが相変わらず瞳を閉じたままのクリフが俺の顔をぺたぺたと触って反応を返す。
「クリフ寝るのかー、寂しいなー」
今度は口にキスをする。何度か角度を変えながら味わい、唇を食んで、舌で撫でる。
「寝かせない…って言うかと思った」
キスの間を縫うように言葉をこぼすクリフは舌の感触に薄ら目を開いた。
「だって今話したじゃん。俺、クリフの中入ったまま寝るのが1番好きって」
クリフの腰に手を回して、彼の柔らかい尻に手を滑らせていく。
「寝てもいいけど、中入りたいな?」
「なら、寝かせないでくれ」
寝ぼけてるのかわざと言ってるのかはわからないが、クリフは眠気でとろんとした瞳をこちらに向けた。
「そう言うなら遠慮なく」
クリフの口に再びキスを落とすと、今度は舌先を彼の唇の隙間に当ててなぞる。
クリフは拒むことなくそれを受け入れ、眠そうな顔とは裏腹に積極的に舌を絡ませてきた。
さては眠くないな?俺はクリフの舌に自分のも遠慮なく絡ませる。
彼の腰に回した手を、そのまま衣服の中へと忍ばせる。優しく下を脱がせようと下に引っ張ると、彼は腰をさり気なく浮かしてそれを手伝う。積極的で俺の息子が爆発しそうだ。
腰から下を指先でなぞるように撫で、彼の入り口を軽く指先でつつく。
中へ入ろうとすると、それはキツく閉ざされていて侵入を拒んだ。 
「…4ヶ月、全く触らなかったの?」
キスの合間に尋ねると「ああ…」と答えかけてから、ふと思い出したように「ほとんどは…」と小声で付け加えた。
「オナニーしたけど、柔らかくなる前にやめたやつ?」
俺は彼の中を指先でほぐしながら聞く。それにしてもオナニーしたなら指の1本くらいすんなり入りそうなものだが…クリフの指、細いからかな。
「いや…ほら…地上に来る前にあっただろ…服全部脱がされて…」
「え!?」
俺は思わず上体を起こす。
「何それ知らない!クリフ処理用だからって最後に酷いことされたの!?まさか…」
強姦の文字が頭をよぎったが、不意にクリフの中が未使用並にキツいことを思い出して俺は冷静になる。
え?じゃあ全裸に剥く必要ある?
「違う、酷いこととかじゃなくて…不審なものを隠し持っていないかチェックされたろ、口の中とか耳の中も…」
モゴモゴと話すクリフは次第に顔が赤くなる。
俺が受けたのは荷物検査だけだ。中身を全部チェックはされたが、3億支払っての地上への旅は旅行みたいに見送られただけで、そんな全裸に剥かれたりはしない。
でも、確かに犬が地上となると、支払いの関係はもちろんのこと買い戻しなのだからクリフは商品扱いになる。検品みたいなものなのかもしれない。
「そりゃ大変だったな…でも口の中や耳の中なら全裸になる必要ないのにな?」
「いや…だからその…見られた…穴という穴はくまなく…」
気まずそうに目をそらすクリフの言葉に俺はしばらく考える。
穴?鼻の穴とか?でも身体にある穴って…そこまで考えてから、今自分が触っている彼の身体に視線を落とす。
確かに全裸じゃないと見られない部位がそこにはあった。
「…ああ…そうだったんだ…」
中がキツいあたり本当にただ覗いただけなんだろう。なんかもうそれは可哀想だ。1周回って切なくなる。
「…てっきり地上に行く奴皆…だからお前もそうなのかと…なんかすまない…」
「ごめん、俺は無事だった…」
俺は再び布団に潜り込むと、クリフは少し恥ずかしそうに目をそらしていた。
それがなんだか可哀想で可愛い。クリフの頬や額にまたキスを落として俺は笑って見せる。
「でも無事で良かった!クリフ可愛いからまた道端で誰かに回されたりしてないか心配してたんだよね」
俺は彼をうつ伏せに転がし、再び入り口を指で広げるように掻き回す。
「そんな…何度も襲われて…たまるか」
指がいい所に当たったのか、時々声をつまらせながらクリフ「勘弁してくれよ」と笑ってみせる。
「襲いたくなる気持ちは分かるけどね、クリフめっちゃ可愛いもん」
指で少し広げてから俺はそこに口を近づけて舌を這わす。入り口をなぞるように舐め、指で広げながら奥へと舌を入れる。
「ちょ…おい…それはダメ…ん…」
少し体を反らせて俺の頭を押し返す彼の手首を捕まえて続行する。
「…好きじゃなかった?」
口を離して尋ねると、クリフ顔を真っ赤にして「き、嫌いじゃ…ないけど…」と恥ずかしがった。
「じゃあ受け入れて」
してやったりと笑って見せてからもう一度同じ場所を念入りに舐める。ぎゅっと時折締め付けて狭くなるそれを指で押し返して奥へと入る。唾液でふやけたそれに指を増やして奥を広げていく。
「初めての時よりすぐ広がったね」
3本目の指を受け入れたそれの中を撫でながら言うと、すっかりとろけたクリフが涙目でこちらに目を向ける。
「も…もう…よくないか?」
「そう?痛くない?」
指を抜いて自分も服を脱ぐ。ずっとズボンの下で爆発しそうになってたものを外に出すと、楽しみすぎてか、たまに動いて反応する。
「…入れる前に1回これにキスしてくれたり…?」
なんてお願いをしてみる。フェラしてくれとまでは言わないから、キスしてもらえたりするとめちゃくちゃ嬉しいので好きだ。
クリフは少し体を起こすと俺の股間にゆっくりと口を近づけてくる。
先端にキスを落としそのまま滲み出ていたぬめりけのある体液を唇で塗り広げるように滑らせる。
久しぶりのクリフの唇が柔らかくてぞくぞくする。せっかく先に溜まっていたものをクリフがならしてくれたのにまたすぐに体液が滲む。
クリフはそのまま徐々に唇を舌にすり替えて再び滲んだ体液を舐め、唾液と混ざりぬるぬると俺のものを滑る。
「…はぁ…ありがと、もういいよ」
クリフの頭を撫でながら息を漏らす。興奮しすぎてしんどい。マジで可愛い。
しかしクリフはそのまま先っぽを咥えて口の中に押し込み始めた。暖かい口内と柔らかい舌が俺のものにまとわりつくように絡んでくる。
「うっ…いいよ大丈夫だよ?本番しよ?」
さっき入れて欲しそうにしてたのに我慢させてるし、フェラは嬉しいけど甘えていいのかという気持ちが脳内で摩擦を起こす。拒否することも出来ずに一応言葉をかけるが、クリフは聞き入れずに吸い上げたり舐め回すのに夢中になってる。
「…幸樹…触って…」
口を俺のものに触れさせたまま横に寝転び控えめに足を開くと、先っぽから透明な糸を引いて反応するクリフの物があらわになる。
今までこんなお願いされたこと1度もなかったので驚いたが、驚きよりもクリフがエロいってことで脳みそが支配された。
俺は頷いて、クリフのものを優しく握る。片手で擦り、もう片手で先端部分を包み込む。先の方は俺と同じようにぬるぬるしていて、塗り広げると滑りが良くなってしごきやすかった。
クリフが声を漏らしつつ口に頬張ってしゃぶっているのを眺めながら、手の中でピクピクと動く彼の物を摩るのは新鮮で妙な高揚感が湧く。
「ふ…んん…あっ…はぁ…」
彼の熱い吐息が唾液にまざってかかると、気持ちよくて頭がふわふわする。
「…俺も舐めよっか?反対向きになるから」
クリフの頭側とは逆に頭を向けて横になる。
彼は少し状況がわかってないようで俺のを咥えたまま、不思議そうにこちらに目線を飛ばした。
「そのままクリフは俺の舐めてて」
口元だけで笑って見せると、俺は目の前にある彼のものを口にくわえる。
先端から優しく吸い上げながら、口の奥へとゆっくり押し込む。
「んん…!ぁ…こう…きっ…」
足をビクビクと震わせながらも俺のを頑張って舐めるクリフの舌使いまでぴくぴく反応するのが新鮮だ。こんなに乱れてても口を離さないようにする姿が愛おしくて死ぬ。
俺は口に中のものを舌で撫で上げ、窪みに舌を絡ませる。空いた手で彼の腰をホールドし、もう片手で穴の中に指先を入れて悪戯した。
「あっ…そこ…ずるっ…いっ」
穴を弄りながら口で刺激を与えると、イタズラを止めようとするかのように指をきゅっと締め付けてくる。それに構わず指を奥へと進める。口の中で彼が一際びくびくと反応する。
やっぱり穴の方が好きなんだなあ、なんてことを考えると申し訳ないような嬉しいようなで手が止められない。
「あうっ…ま、まって…出る…まって…止めて!」
口の中のものは限界まで固く熱を持つ。クリフは腰を丸めて逃げようともがき始めたが、俺は掴んだ彼の腰をより強く抱き込んで引き戻す。
「…出していいよ」
口を離してそう伝えると、もう一度それを口に含んで唇でしごいた。
「だっ…ダメだ!やめ…あ…ううっ…」
限界まで我慢しているのか足も腰もガクガク震え始め、追い打ちをかけるように穴のいい所をとんとんと押し込む。
「ああっ…はぁっ…あっ…」
口の中の物が今までになく勢いよく口の中にトロリとした温かいものを吹き出させる。
出してもしばらくは腰を震えさせて余韻のように痙攣するものからぴゅるぴゅると残ったものまで漏らすように吐き出す。
こんなになるクリフ見るのは初めてな気がする。口の中いっぱいに入った液体を飲み込み、まだ少し出続けるそれを出た先から舌先で舐めとる。
口の中から出さずに彼が出し切るまで舌で弄ぶ。感度の高くなったそれは舐める度クリフの体を反らせ、ぐったりと横たわるものの股間のそれは元気に上を向いたままになっている。
「…疲れた?」
俺は硬さを失なわない彼のそれを人差し指で撫でながら尋ねる。
「っあ…そこ…やめ…」
かたで息をしながらそこを触られると逃げ腰で答えた。さすがに可愛いので、俺は彼が離れる分だけ近付いて先端にキスをする。
「もうおしまい?休憩?第2ラウンドする?」
ニヤニヤする俺に彼は顔を赤くして目をそらす。
「まだ…入れてないから…」
ぎゅうっと胸が苦しくなる。何それ?可愛いすぎない?俺もめっちゃ入れたいです!
「繋がって寝るのが目標だもんね」
俺は起き上がると、ぐったりと寝転ぶクリフを仰向けに転がして彼の足を広げる。足と足の間に身体をいれると、入り口に自分のものを当てる。
「痛かったら言ってね?」
グッと押し込むと、想像以上に中がキツい。
痛がってないか心配になり下のクリフに目を向けると、溶けるんじゃねえかってくらい目を潤ませて小さく震えて善がってる。これは大丈夫そうだ。
俺はゆっくりと押し込みながら、彼の口にキスをする。
こんなに閉じられたものを押し広げていくと、彼と初めてした時を思い出すが、まるで痛がらないで受け入れてくれることに感動すら覚える。
重ねた唇に舌を入れると、当然のように反応を返してくれるのが可愛い。1年前は絶対こうなれないと思っていた。
「…中キツくない?」
キスの合間に言うと「幸樹のが、大きくなったんじゃないのか」なんて恥ずかしそうにしてる。
「年々デカくなるのは勘弁だな」
冗談を言いながらもう一度唇を重ねる。奥に押し込むと、いつもの壁が半分くらいで侵入を拒んでくる。
グッと力を入れるが、さすが久しぶりなのでまるで開けてくれる気配がない。慣れてると少し体重かけるだけで開くのに。
「開けてくんないの?」
あんまり開けてくれないので、思わず笑いながら聞く。
「べ、別に閉めようとしてる訳じゃない…もっと強くやったら…いいんじゃないのか」
自分の膝をぐっと抱き寄せるようにしてクリフがこっちを見る。
「…早く欲しい」
えーーーーこんなこと言う???こんな抱きやすいように足丸めておねだりとかしちゃう???めっちゃ可愛いくて無理なんですけど…恋人特権なの?サイコー!
「じゃあお言葉に甘えて」
もう脳みそ介さずに思ったこと全部口から出そうだったけど、ぐっと堪えて余裕のある俺を演出。本当は今すぐぶち犯して抱き潰したいけど我慢我慢…。
クリフに被さると、少し腰を引いて一気に奥へと突き上げる。
「んっっ…ふぁ…はぁっ…」
奥に当たった途端俺の背中に手を回して必死にしがみつくように抱きしめる。彼は少し苦しそうに荒い息を吐いた。
「苦しくない?大丈夫?」
奥はいきなり入れたせいで中が慣らされていなくてギチギチだ。あんまり締め付けるから、油断してたら搾り取られそう。
「はっ…だい…じょうぶだ…うごいて…」
俺にしがみついたまま震える声でおねだりまでされてる。
ご所望とあれば仕方ない。俺めっちゃ我慢したし、許可出たんだからたくさん動きたいし、ちょっと激しくしても許されるだろ。
「じゃあ、動くよ」
奥から引き抜くと中が絡みついて名残惜しそうにするが、中の壁がまたゆるく閉じてしまう。最初の頃はいつもここが閉まるから、慣れるまで激しく押し込んだのをよく覚えている。
奥まで届くように強く突き上げては引き戻しを繰り返し、徐々に速度を上げる。身体がぶつかる音にまざってクリフが飛ばないか心配になるほど甘い声でよがった。
喘ぎ声と一緒に彼の口の端から垂れる唾液を舌で舐め取り、吸い上げる。
「…もうちょっと激しくしてもいい?」
すでに乱れまくってるクリフの耳元で囁く。耳に舌を這わすと、  穴がきゅっと俺のものを締め付ける。
「あっ…んん…はぁっ…」
既に俺の声が聞こえていないのか答える余裕がないのか、彼は乱れたまま目をきゅっと閉じている。
「こっち見て欲しいなあ」
瞼にキスをして、彼の背中に腕を回す。抱きしめたまま一際強く腰を打ち付けると、ゆっくり目を開いて潤んだ瞳に俺の顔が写る。
「やっと見てくれた」
潤んだ目元にキスをすると少ししょっぱい。ガラスみたいな瞳なのに、やっぱり生きてるんだなって思うと神秘的にすら感じる。
彼の片足を肩にひっかけて体勢を変えると、より奥に入るように上体を倒して腰を動かす。スパートをかけるように速度を上げた。
もう余裕がないからか、彼は何も言っていなかったが、腹部には彼から漏れ出した白濁液が散らされている。
「…っ…俺も出していい?」
いよいよ我慢が限界に達して問いかけると、背中に回した彼の腕に力が入る。
「おもい…きりっ…ほしっ…」
言われるがままに1番奥まで突き上げて、彼の中に注ぐ。どくどくと中で脈打ちながら、止まらない射精に俺は入れたままクリフにかぶさって身を預ける。
「…すっげ出る…きもちよ…」
「はっ…多っ…いっ…」
中の感覚にクリフは足を震わせて答える。
2人で重なったまま出し終わるのを待つ。こんなに出たのはさすがに生きてて初めてだ。我慢しすぎの興奮しすぎだったのではと、ちょっと笑ってしまう。
出し終わってもクリフの中は時折きゅっとしまって俺を離そうとしない。可愛くてすぐ硬くなってしまう。
「…続けてしたら怒る?」
半笑いで控えめに尋ねると、クリフは中をきゅうっと締め付けながら俺の腕に自信の腕を絡める。
「…いくらでも」
ふんわり頬を染めて俺に微笑みかける。いつも凛とした彼の表情からは想像も付かないような、少し気の抜けた優しい笑顔。こんな表情を知っているのは世界に俺1人なのかと思うと胸がいっぱいだ。
それからぶっ通しで朝まで楽しんだ。4回目くらいまでクリフは俺の言葉に辛うじて返事を返していてくれたが、5回目を超えたら時々フッと手足の力が抜けたり突き上げると飛び起きたような声を出したりした。多分意識がちょいちょいなくなってたんだと思う。
意識が朦朧としても穴はよく締まるしクリフは甘い声で鳴いてくれる。もうやめた方がいいんだろなとは何度も思ったが、限界を超えたクリフなんてそうそう見られないことに興奮してしまって結局7回までやって抱き潰してしまった。
クリフの中に入ったまま朝方に瞼を閉じる。起きるの夕方過ぎてしまうかもしれない。さすがにやりすぎって怒られるかな…怒られないといいな。
クリフに抱きついて眠ると暖かくて安心する。4ヶ月ぶりの温もりに、あっという間に意識がなくなった。

夕方に目が覚めると腕の中にはクリフのぬくもりがあった。
「…幸樹?」
背中越しに俺が起きたことを感じ取ったのかクリフはもそもそと首を反らせて声をかける。
「…ん、おはよ」
まだ眠い頭で返事をし、すっかり落ち着いた自分のをクリフの中から抜く。
ヤり尽くしてさすがにスッキリしてる。発情期の猿みたいだったと自分でも思う。
「昨日はどのくらいやったっけ…途中から記憶が曖昧なんだ」
体の向きを変えながらクリフは困ったように眉をひそめて笑う。
これ素直に言ったら怒られるかな?まあ…怒られたら謝ろう。
「えーっと…明け方まで?」
へへっと苦笑いすると、クリフは驚いた顔をした後苦笑いをした。
「長すぎないか?」
「…4ヶ月ぶりで興奮して…ごめ…」
やっぱりやりすぎだよねえ!俺はもごもこと謝罪を口にする。
「……いいよ。俺も…すっきりした」
自分の腹部を撫でて照れくさそうに視線を落とす。
え、何その反応。えっちじゃない???
「…もうここまでやらないから、またしてくれる?」
「ああ、今度は最後まで起きてる」
それってクリフの意識あったら、あるだけ許されるの?もしかして俺の腕が試されてる?
そんなことを考えていたら、思い出したように盛大に腹の虫が鳴った。
「…腹減ったね」
思わず自分の腹の虫に笑うと、彼もつられて笑った。
「飯、食いに行こうか」
クリフの言葉にむくりと起き上がる。昨日脱ぎ散らかした服を床から拾い集め、2人で着替える。
「服も欲しいなー」
「そうだな、俺も着替えくらい買わないと…家具ももっと必要だし今日は買い物だけで一日が終わりそうだな」
着替えながら俺の呟きにクリフがごもっともな話をする。確かに生活に足りないものがあまりに多すぎた。
「んじゃ、今日は色々買うぞー!思ってたより予算余ってるし!」
なんやかんやと貯金は想定していたクリフの買い戻し金が不要になったせいで6000万以上残っていた。さすがに異議申し立てでの犬の買い戻しに金を要求するのは反感を買うと思っているのか、蓮岡への支払いは政府がしたようだ。
俺は数少ない私服、クリフは地下から出てきた時の一張羅のまま街へ繰り出す。
腹が減ったので先に外食をした。牛タン定食を専門でやってる店があって、牛タンって何だと尋ねたらウシのベロだそうだ。
地下には肉があまり流通しておらず、肉と言えば動物の種類は分かれているが、基本的に部位に拘らず販売されている。むしろ肉ってだけで高級だ。A5ランクくらいの富裕層なら部位にもこだわるのかもしれないが、俺は調べたこともなかった。
ベロなんて不味そうだと言ったらクリフが美味いからと勧めるので入った。めっちゃ美味かった。ウシのベロやべー。
そのまま家具屋に行って一通りのものを買い揃え、服を買いに行った。
服屋には何故か半袖や生地の薄いものばかりが置かれていて、俺は首を傾げる。
「なんでこんな薄手のもんばっかり…こんなんじゃ寒くて出歩けないだろ」
「今は春先で、これから夏になって暖かくなるからな」
「ナツ?」
地下は年中無休で肌寒い。暖かい日なんて存在しないからいつだってみんな長袖に厚着だ。半袖の服はオシャレか室内でしか役に立たないので需要がない。
不思議そうに言葉を復唱する俺に、クリフはふと思い出したように目を開く。
「…そういえば、地下はずっと寒かったな。季節の調整をしていないのか?」
「キセツ…?」
「夏になれば気温が高くなるし、冬になれば気温が下がる。冬は雨の代わりに雪が降るんだ」
知らない単語の羅列に俺は面を食らう。
クリフの話によれば地上のシェルターには季節に合わせて空調が細かく変更され、雪とかいう白い冷たい物が降ったりするんだそうだ。
正直聞いていてもよく分からないが、とりあえず今は涼し気な服しかなくても生きていけるということなんだろう。
「まあ、これからずっと2人で地上に暮らすなら、嫌でも詳しくなれるよな」
買い込んだ服の袋を片手で肩に背負い、もう片手でクリフと手を繋いで歩く。
「そうだな、でもまずはもっと漢字を書けるようにならないと」
「読めるもん!」
「でも書けないだろ、あのノートひらがなだらけだった」
暇なときは勉強みてやるって笑うクリフに俺はむーっと口を尖らす。クリフに構われるのは好きだけど勉強苦手なんだよなあ…。
買い物をガチャガチャとしていたせいで、帰る頃にはすっかり夜だった。
「晩飯もどっかで食ってかない?」
「そうだな、今度は何にしようか」
悩みながら歩いていると、不意に良い匂いがして俺はそれにつられてフラフラと路地に入る。
その先にあったのは巨大なリヤカーみたいな木造のカウンターに暖簾がついた不思議なものがある。みんなそこに腰をかけて何かを食っていた。
「ねねね、何あれ」
クリフに謎のリヤカーを指さす。
「ああ、ラーメンの屋台だな」
「ヤタイ?ラーメン屋なの?そんなとこで商売して悪い奴に殺されない?強奪れそう」
俺は真剣に話しているのにクリフは肩を震わせて笑った。
「そんな奴いないだろ!」
「そうなの?地上人って平和だなあ」
「食ってみるか?」と屋台を指をさす。
ラーメン自体は食ったことはあるが、あれは当たり外れがデカくて麺がねちょねちょすることもザラにある。あまり気乗りしなかったが、クリフに付いていく。
クリフと一緒に席につくと彼はメニューを手に取り、俺の前に差し出す。メニューを見ると見たこともない種類がたくさん並んでいる。
「えっ、魚介出汁とかあんの?これ角煮乗ってるとか豪華じゃない?こっちは麺が辛いとかすごない?」
大興奮の俺にクリフは「麺の方さも選べるぞ」と付け加える。
えっ、地上のラーメンすごい。贅沢じゃね?これで550円から850円とかサービスすぎる。
「えっ、どうしよ…じゃあ辛い角煮で麺硬いやつがいい!」
「じゃあ辛角煮麺の硬めと魚介ラーメンの柔らかめで」
すると屋台真ん中で別の客にラーメンを出した店主が大きな声で答える。
「はいよー!今大盛無料キャンペーン中だけどお兄ちゃんたちいかが!」
「やったー!大盛りで!」
大盛りも無料にして破綻しない?大丈夫この店。ちょっと心配しつつ返事をすると、店主は嫌な顔1つせずに麺を茹で始めた。
出てきたラーメンは2つとも大盛りだった。俺の返事でクリフのまで多くなってしまったみたいだ。
「…まあ…伸びる前に食おうか」
何か言いたげにラーメンを見つめたが、クリフは普通に食べ始める。
クリフってそういえばあまり食べるの早くないんだよな…大丈夫かな…。
頼んだラーメンは地下で食ってたやつの何倍も美味くて、夢中になって食べた。地上の飯屋すげー。なんでもうめぇ。
俺が食べ切る少し前になって不意にクリフを見ると、クリフのラーメンはまるで減ったように見えない。
もしかして、のびて暈が増えてしまったのでは…。
「…俺、ちょっと足りないから分けて」
クリフの器に自分の器を近づけて、中に入れて欲しいと笑うと、彼はぱっと顔を上げた。
「魚介のやつも美味いぞ」と言って近づけた俺の器ごと自分の器で押し返してきた。俺が思っていたより彼の胃は限界なのかもしれない。
俺は残っていた自分の麺を全部食べると、彼の器とチェンジする。
あと1玉以上ありそうだが、まあ更にお代わりしたと思えば何とかなるだろ。
俺は何とか完食し、会計して屋台を出る頃には店はほとんど閉まってしまうような時間帯だった。
「あー食った食った」
ちょっと飛び出してるのが分かる俺の胃をさすりながらクリフの手を引いて路地裏探検をする。地上は安全らしいから、変なやつもいないだろ。
「幸樹?家はそっちじゃないぞ」
「なんか面白い店あるかもじゃん?穴場ってやつ」
そんなこと言いながら周囲を見回していると、ギラギラしすぎず上品に点灯する店の看板が目に入る。
「ガロウズ…?バーあるじゃん!」
俺はそのバーの入り口に立つと、クリフは急に青い顔をして俺の腕を強く引いた。
「こ、幸樹…早く帰ろう」
「え?食後にお酒…」
クリフは今までに見たことないほど必死に俺の腕を引っ張る。さすがになんか変だ。
地上のお酒に後ろ髪を引かれつつクリフに手を引かれて家へ向かう。クリフはずっと早歩きで、時々後ろを確認するように振り返るが、その視線は俺より後ろを気にしているようだった。
「ねえ、どうしたん?何かあった?」
「…あそこの店には近寄らない方がいい」
理由を聞いてもクリフは青い顔のまま理由を言わない。家についてからも何度も尋ねたが「あの店はダメだ」と首を横に振るばかりだ。
「なんで?何がそんなにダメなの?クリフ、あの店でなんかされたの?」
理由がなければ納得できるものも納得できない。クリフの肩を優しく掴んで顔を覗き込む。
「…あそこは…あの店には…」
クリフは限りなく声を殺して、耳をすまさなければ聞こえない程の声で呟いた。
「殺し屋がいる」
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