天底ノ箱庭 春告鳥

Life up+α

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5章 狼は彼と空に行きたくなりました

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明嵐が仕事に出かけてから数時間後、静かだった屋敷にチャイムが鳴り響く。
「ご無沙汰してます」
扉を開けると眼鏡の華奢な男が相変わらずの無表情で待ち構えていた。
「わざわざ足を運んでもらってすまないな」
「いいえ。通話だと盗聴される可能性もありますし、僕の自宅は狭い上に壁が薄いので合理性を求めれば珠女さんのお屋敷に伺うのが最善です」
一切気を使わない彼の言葉に乾いた笑いを返しながら招き入れる。
昨日のメールでの依頼について「調査結果について会ってお話したい」と蓮岡から連絡があったのはつい今朝のことだった。
「しかし昨日の今日でもう話すほどの結果が出るなんて…犬売だって聞いていたが探偵かなんかを兼業しているのか?」
彼をリビングに案内しコーヒーを淹れながら尋ねる。
「ミステリー小説で探偵に憧れたことはありますが、兼業するほどスキルはないですよ。探偵は収入が不安定で、1度の稼ぎもたかが知れてます」
「これだけ色々できるなら探偵1本でも十分やって行けそうだと思うが…」
コーヒーとお茶菓子のクッキーをテーブルに並べ、俺も椅子に腰をおろす。
「では、アイスブレイクもここまでにして本題に移りましょう。まずは戸籍を明嵐さんに返すという件についてです」
世間話もそこそこに蓮岡は話し始める。
「戸籍を譲る、というのはそもそもグレーゾーンですが、譲られた戸籍を返すというのは前例がありません。あまり頻繁に戸籍を変えては周囲に不自然がられるでしょうし、ラプラスの目を誤魔化せてもいずれSの耳に入ってに目を付けられます。少なくとも半年はダウンタイムを置くべきでしょう」
「ラプラス?」
「地下を管理するスーパーコンピューターとAIですよ。今回のようなグレーゾーンはあまり認識しないみたいです。助かりましたね」
蓮岡は深いため息をつく。
俺はスーパーコンピューターとそのAIだなんて言う割には戸籍の偽装をあっけなく見逃していいものなのかと突っ込みたい気持ちを抑えた。あっけなく見逃すようなおざなりコンピューターだったからこそ俺も明嵐も何事もなく過ごせているのだろうから…。
「つまり…そのラプラスってAIの目をごまかすために半年大人しく暮らす必要があるってことか」
その間明嵐はああして決して楽ではない仕事に出る必要があるという意味にもなる。
「ダウンタイムを挟めば、明嵐は今まで通り人間として暮らせるんだな?」
「今の状態を見て彼が一生涯犬のままだと勘違いする者は多少残るでしょうが、そうすれば人権は戻ります」
明嵐が犬である間、首輪を着けて俺が飼い主として守ることは出来る。しかし、その後の勘違いや軽蔑もついてまわるのは何となく想像がつく。
俺は地上からやってきた身だからか、突然人間になっても関わったことのある店員に不思議な顔される程度で済んでいるがそれもあまり気持ちのいいものではない。
「じゃあ、もう1つの件については?何かわかったことはなかったか?」
明嵐に戸籍を返したところで、帰れなくては意味が無い。地下から地上に渡る手段が他にもないか俺は改めて蓮岡に尋ねた。
「それについて情報を徹夜て総当りしてみました」
とても徹夜した顔には見えないが…彼は淡々と話を続ける。
「1つだけ、前例が見つかりました。犬が地上に買われた記録です」
「本当か!?」
思わず勢いよく立ち上がる俺に蓮岡は特に反応することもなく、こちらを見上げる。
「正しくは買われたというより、買い戻されたです。昔、犬として売られた少女を買い戻したいと地上からコンタクトが来たことがあったそうです。もちろん、そんなこと原則認められることはありません」
「…なら、どうして?」
「地上に残されていた少女の記録が証拠になったそうです。記録を証拠に裁判でも起こされては世間は酷く混乱するでしょう。そうならないよう政府がSに多額の慰謝料を渡すことで、特例で少女を売り渡したんです」
「じゃあつまり…仮に俺が地上に帰っても、明嵐はこのまま…」
もし犬としてでも明嵐を地上に連れていくなりできるならそれもありかと思っていたが、地上に関する何らかの記録で違法な売買の証明が出来なければそれは叶わない。
生まれも育ちも地下の明嵐を犬のまま地上に連れていく手立ては無いと言える。
俺の言葉に同情する様子もなく彼は淡々と答えた。
「そうですね。やるとするなら明嵐さんを人間に、そして地上であなたの記録を手に入れてもらい提示すること。最も犬として売られた時点で大方の記録は処分されるはずなので、見つけるのは簡単じゃありませんよ。前例がひとつしかないのがその証拠です」
「そうか…」
父に売られたのであれば家にあったであろう写真や学生証はとっくに処分されているだろう。
地上を全く知らない彼が証拠を見つけることが出来るだろうか。
そもそも、明嵐は協力してくれるだろうか。地上に出た彼が俺のために動いてくれる保証などどこにも無い。
次から次に浮かび上がる不安をぐるぐると頭の中で巡らせていると、コーヒーを飲み終えた蓮岡が立ち上がる。
「要件はこれぐらいですかね、僕はそろそろお暇します。コーヒーご馳走様でした。」
彼を玄関まで見送ろうと俺も席を立つ。
「とりあえず明嵐さんにお話してはいかがですか、まだ何も話してないのでしょう?」
扉に手をかけた蓮岡がふとこちらを振り返り尋ねた。
確かにまだ明嵐には何も話していなかった。
地上に帰りたいと言えば明嵐はやはり俺だけ地上に返そうとするだろう。彼を地上に連れていきたいのは俺の勝手なエゴだ。「地上の方がいい」だなんて地上で生まれ育った俺の主観で、地上を知らない明嵐がどう感じるかのか俺にはわからない。
「ああ…そのうち…」
「明嵐さんは信用に足りますし、珠女さんにご執心なようですから協力してくれると推測します。珠女さんが明嵐さんを信用できないなら、半年の間に代打を探しましょう」
1度受けた仕事はきっちりこなすといった彼の様子は、相変わらず業務的だが少しだけ気が楽になる。
「そうだな、どっちにせよ半年は何も出来ないだ。ゆっくり考えてみるよ」
蓮岡はいつものように深々とお辞儀をするとポンコツワゴンに乗り込み、何度かエンジンをかけ直しガタガタと車体を揺らしながら去っていった。
「…パンクしてたよな…あれ」
気づいてないということはないだろうに…。
俺は彼の車が見えなくなるまで眺めていた。

蓮岡が帰った後、風呂の掃除をしたりシーツを洗って庭に干した。
洗濯の量は2人分なのでそう大変ではないのだが風呂がなんとも広いものでさほど汚れていないとはいえ、床から浴槽まで磨くと結構な労働だった。
途中石鹸を踏んで盛大に転んだおかげで頬から腿まで体の半分に赤い痕をのこした。すこしヒリヒリしてため息を着く。何をやってもイマイチ上手くいかないのは地上にいる頃と何ら変わらない。
明嵐が帰る時間に合わせて浴槽にお湯をはる。
どぼどぼとお湯が溜まっていくのを眺めながら昨日の夜のことを思い出していた。
耳に残るあのメロディを耳にした時、明嵐に手酷く陵辱されていた時の感覚に囚われて意思に反して体が反応し辛くなった。快感を与えられれば犬のように悦んで答えてしまう。
未だに食事に顔を近づけようとしてしまうし、首輪がない違和感にも明嵐に飼われた数ヶ月の習慣は思っていたより体に染み付いているようだった。
しかしあんなに火照って辛かったのに、明嵐の穏やかな行為で満たされて、あのメロディを愛しいと感じたり…ともかく不思議な感覚だった。
それと同時に、今更のように明嵐に口の行為を下手だと言われたことを腹を立ったし…それに。
これから仕事で彼が他の人間を抱くのだろうと思うと、なんだかわからせてやりたくなったんだ。
俺を好きだとか可愛いだとか言って…仕事先でもっといい思いしてるんじゃないかとか考えたら何故か無性に心配になる。
ムッとした気持ちに整理を付けようとあれこれ考えているとザバザバと水の流れる音にはっと我に返る。
浴槽からは既にお湯が溢れ始めており、浴槽の縁に肘を着いていた俺の服はずぶ濡れになっている。
「あっ!!」
慌ててお湯を止めようと立ち上がるもホースに足をひっかけフックから外れたシャワーが浴室内で暴れ回る。
「ただいまー」
遠くで明嵐の声が聞こえるがそれどころじゃない。暴れるシャワーを何とか止めて更にずぶ濡れになったまま「クリフー?いないの?」と俺を探し回っているらしい明嵐に答えた。
「…おかえり」
「びちゃびちゃじゃん!どうしたの!?」
明嵐は慌てて脱衣場のバスタオルを手に取ると両手で俺の頭を包んで擦る。
「風呂沸かしてた。もう入れるぞ」
「風呂じゃなくてクリフも沸いちゃったな」
頭を拭かれながら浴室を指さす俺に明嵐は笑って答えた。
「…仕事どうだった?」
「んー?」
明嵐は俺の頭を拭いて、次に身体を拭きながらいつもと変わらない笑顔で首を傾げた。
「まあ、疲れるけどやってけそうではあるかなあ。初日で75000円!頑張ったっしょ?」
思っていたより明るく答える明嵐に安心したような面白くないような複雑な気持ちが湧いてでる。
俺の顔を拭こうとした時、明嵐は急に手を止めた。
「あれ?誰かにビンタでもされたの?ほっぺ赤いよ」
心配そうに明嵐は優しく俺の頬を指で撫でる。
「…?ああ…思いっきりやられた」
「え!?誰に!?なんで!?襲われたの!?」
「浴室掃除してたらな…思い切り床に…」
石鹸を踏んで転んだと言うのがなんだか間抜けでみっともないと思い、俺は目を逸らして適当に言葉を濁す。
明嵐はわなわなと顔を青くすると、心配そうに周囲を見回した。
「ひでぇ…クリフちゃんと人間なのに…可愛いからって…そんなやつ何処から入ったんだ。どっかセキュリティ甘いのかな…」
「…なんの話してるんだ?」
話が噛み合ってないのを感じ俺は眉をしかめ首を傾げる。
「襲われたんでしょ!?床に頭押さえつけられて!大丈夫?エロいことされなかった?他に怪我は!?」
カッと目を開いて明嵐は声を上げる。ぺたぺたと俺の身体を触って異常がないか確かめているようだった。
「まて、誰が床に押さえつけられたなんて言ったんだ!…転んだんだ、その…石鹸を踏んで…」
頭に血が上っていく明嵐をなだめながら、段々と声を潜めるように詳しい怪我の経緯を話すと明嵐は目を点にしてこちらを見てから、大きくため息をついて濡れた床にベッタリ腰を下ろした。
「なんだー!びっくりした!」
「明嵐、そこ濡れてるだろ」
しゃがんで明嵐に目線を合わせると彼は「あっ…」という顔をしてから笑う。
「どーせ風呂入るからもういいよ」
「そうだな、早いとこ入れ」
そう言ってずぶ濡れのまま肩にタオルだけかけて浴室を出ようとすると、ぐっと手を引いて引き止められる。
明嵐は床に座ったまま口を開くが、少し不安そうに目を伏せ、もう一度顔を上げた。
「…2人でびしょびしょだし、一緒に…」
「一緒に…?」
そこまで復唱して明嵐の意図に気付く。一緒に風呂に入りたい…ということが言いたいんだろう…多分。察しはしたが…あえて言葉の続きを待つ。さっき俺に皆まで言わせた罰だ。
「あっ…エロいことしないから…あーでも、嫌なら別に…。それだったら俺が後で入るし…」
もにょもにょと俺の手を掴んだまま明嵐は口ごもる。
「まあ…いいかこんなもんでも…」
「え?」
皆まで言わせてやろうとおもったがいじらしく食さがる姿は見れたからいいだろう。
「…一緒にはいるか?」
俺の言葉に明嵐はバッと顔を上げる。顔には大きな字で嬉しいと書いてある。
「いいの!?やったー!」
勢い良く両手を上げて笑う。
明嵐の姿を見て俺は少し面白いことを思いつく。
軽く両腕を広げ、至って真面目な顔で明嵐を見下ろす。
「濡れて服が肌に張り付いて脱ぎづらい。脱がせてくれ。エロいことはしないんだろう?」
「えっ!」
明嵐は座ったまま俺の姿を上から下へ下から上へ何度も見てからおずおずと立ち上がって、言われた通りに俺の襟のボタンに手をかける。
脱がせること自体は慣れているのかするするとボタンを外していくが、目が完全に身体を凝視している。シャツのボタンを外してするすると張り付いたシャツと身体の間に手を入れて剥がしていくが、鼻息も荒くなっていく。
「鼻づまりか?息が荒いな?」
俺はわざとらしく明嵐に話しかける。エロいことはしないと言いつつ、興奮してるのがまるで隠せていない。俺の裸なんて飽きるほど見ただろうに今更鼻息荒らげるほどか…?
明嵐は俺の言葉にブンブンと首を横に振り、スウッと息を吸って止めた。もう根本をやめたようだ。
シャツを完全に脱がすと何故か既にやり切った顔の明嵐に「まだ半分だぞ」と声をかける。明嵐は首を縦に振ると息を吐き出し、もう1回吸い込んで息を止めた。
ベルトを外し、ジッパーを下ろして優しくズボンを下に下げていく。彼の目線が腿と股間に釘付けだ。
下着に手を掛けて下ろしながら、明嵐の指が少しだけ尻を揉みたそうに動く。
「今、尻触ったか?」
すかさず声をかけると明嵐の手がビクッと反応する。なんてわかりやすいやつだ。
「あっ、いや!ちょっと…その…揉んでない!」
一瞬白状しかけるのに、何故か唐突な嘘をつく。
「そうだな、エロいことはしないんだもんな。まさか尻を揉もうとなんてするわけないか」
内心笑いが漏れそうだったが、平静を装った声で釘を刺す。明嵐は自分で言ったことを後悔してるのか、不服そうに眉を寄せて小さな声で「うん…」と返事した。俺の服を脱がせ終えた明嵐は何故かしょんぼりと肩を落としている。
今度は俺が彼のカットソーに手を滑り込ませると彼は驚いて身じろぎする。
「えっ!?」
「え?じゃないだろ。自分だけ脱がせて貰っといて終わりって男じゃないぞ俺は。脱がせてやるから大人しくしろ、エロいことはしないから」
ちょっと何か期待してた彼の表情が分かりやすく曇る。それでも嫌ではないらしく、大人しくその場に留まった。
改めて彼のカットソーを脱がせるためにたくしあげる。わざと指先を肌に滑らせるように進めると、明嵐はくすぐったいのか少し身をよじらせた。
「明嵐は背が高いから脱がせるのも大変だな」
そう言いながら俺は彼の腕から服を抜くために彼に胸が触れるほど近寄り背伸びをした。なかなか上手くいかないと何度か背伸びして踵をつけてを繰り返すと、肌が擦れる感覚に明嵐は興奮してしまったのか真っ赤になって下唇を噛んで苦悶の表情を浮かべている。
「次は下だな」
そう言って彼のベルトに手をかける。
「あっ、下は自分でやるよ!」
慌てたように手で隠そうとする彼のズボンはパンパンに膨れ上がっている。
「いや、俺も脱がせてもらったんだから脱がせるべきだろ?何もしないから心配するな」
俺は明嵐の手を軽くはらいながらベルトをゆるめ少しずつズボンを下に引っ張った。
「…何もしてくれた方が嬉しいのにな…」
ブツブツと小声で明嵐は文句を垂れるが、抵抗するのを諦めて俺の行動を目で追っている。
ズボンを脱がせた後下着もスルスルと下に下ろす。途中で興奮した彼の物が引っかかるのに気づかない振りをして少しずつ下に引くと、膨張しきった彼のものが下着から飛び出すように顔を出す
「…文字通り、飛び出したな」
明嵐は真っ赤な顔で気まずそうに目をそらす。
「だから自分で脱ぐって言ったのに…」
口を尖らせて文句を言うが、抵抗や嘘は諦めたらしい。
「さて、じゃあ風呂入るか」
エロいことはしないと言う彼の言葉を組んでやろうと俺は話を切り替える。
俺は適当にシャワーを浴び、それを持ったまま手持ち無沙汰に突っ立っている彼に手招きをする。
「背中、流してやろうか?」
「うー…」
不満そうだが逆らえないのか渋々と寄ってくる。
軽く体を濡らしてから石鹸を手に取り泡立ててゴツゴツとした傷だらけの背中を撫でるように洗う。
「…傷だらけだな」
「んーまあね。犬やってたようなもんだし」
へへっと彼は困ったような笑い方をする。
明嵐の過去はあまり幸せと呼べるものじゃないんだろう。俺は少し気まずそうにする彼の背中に自分の胸を押し当てるように背中から抱きしめる。
彼はちょっと驚いたように振り返るが、嬉しそうに俺の腕を掴んで、抱きしめ返すような動作を見せた。
「…でもこれちょっとムラムラする…」
嬉しそうだが、苦笑いで彼が呟く。
「エロいことはしない。俺は今お前を洗ってるだけだから気にするなよ?」
そう言って体勢を変えないまま泡の付いた腕で明嵐の体をあちこち撫で回す。
「もう充分エロくない?」
撫でられながら明嵐が首だけでじっとこちらを見る。
「洗ってるだけだろ」
肩から胸へ胸から腹へ手が下っていく。頑張って鼻息はこらえているようだが、隠しようもなく主張している股間は、身体を撫でるたびにビクビクと上下している。
「動いてるぞ」
「動かしたいわけじゃないもん…」
顔だけでなく身体まで熱が集まっているのか、シャワーだけで彼の身体はぽかぽかしている。
「次は俺を洗ってくれるか?」
明嵐に石鹸を差し出して言うと、明嵐はそれを受け取り、何か思いついた顔をする。
「任せろー!」
俺がしていたのと同じように明嵐は背中に回ると、石鹸を勢いよく泡立てて背中を洗い始める。
背中を洗い終えると背後から抱きしめるように腹へ腕を回す。背中に元気になったものが完全に当たっているが、もう開き直って押し付けてくる。
腹から胸に手が滑り込むと、なんだか触り方がいやらしい。
「エロいことはしないんじゃなかったのか?」
「洗ってるだけ!」
乳首のあたりを優しく指でなぞり、先端を押し込むように指を回して刺激してくる。
「隅々まで綺麗にしないとダメだよねー」
自身の股間に次第に熱が集まるのを感じつつも平静を装いながら明嵐の腕に手を添え、軽く止める。
「隅々と言うよりそこばかりやっているだろ」
「あれ?そう?」
もう声が完全に開き直っている。あっけらかんと答えると、彼は続けて俺の内腿へと手を滑らせ、少し硬くなりつつある方へと手を伸ばす。
丁寧に根元からしごき、窪みに指を滑らせる。
「このへんゴミ溜まりやすいの知ってる?洗わないと」
「俺は…そんなとこまで触って…ないっだろ…」
震える声を隠すように答えるが明嵐は楽しそうに手を止めない。
「男だったら綺麗にする場所じゃん?ご主人様のなら尚更ぴかぴかにするべきかなって」
先端を指でぐりぐりと押してはたまに手で全体をつつみ、しごくを繰り返す。
空いた片手は胸にもどり、彼は心底楽しそうに俺の肩に顎を乗せて様子を見ている。
「もう…綺麗になっ…たから…やめろ」
すっかり元気になってしまった前と胸の先端を執拗にいじられて俺は耐えかねた声を漏らしてしまう。
すると彼は不意に手を止める。ふうとため息をつきながら俺の腹に手を回して抱きしめて笑った。
「…って感じで、俺もクリフもしんどいんだけど…どうする?」
「…俺の意地悪を逆手にとって仕掛けてくるなんて、さすが元調教師様だな」
ため息ついて背中に当てられた膨張したものを擦るように体をよじる。
「明嵐なら、この後どうする?」
彼はにまーっと笑って「俺に聞いて後悔しない?」と言うが、ゆっくりと手を穴の方へと滑らせた。
「あ、でもここ、床固いから立ってする方がいいかな?膝痛くなっちゃう」
「…っ、ここでなのか?!」
「え!?今つらいのに風呂上がりまでお預けなの!?」
明嵐は驚いたように手を引っ込める。
「あ、いや…それはちょっと予想してなかったんだが…」
先程までさほど気にしていなかったが、明るい浴室には大きな鏡が備わっていて俺と明嵐の姿を全身写し出しているのがなんだか少し照れくさくて目をそらす。
「いつもと違う場所っていうのも…まあ…」
頬をかきながら目を床に泳がすと明嵐は小さく片手でガッツポーズをする。
「風呂でクリフとできるの新鮮だなー」
明嵐は俺の腰に手を添えて立ち上がる。どうやら移動を促しているようだ。
「なんだどうした、何処に行く?」
明嵐に促されるまま連れていかれると彼は鏡のすぐ側まで来て立ち止まった。
「ここに手をついて立ってもらってもいい?」
彼は「ここ」と言わんばかりに俺の目の前の鏡をぺちぺち叩く。
「なんで鏡に…」
とりあえず言われたままに片手を鏡につけて立つ。なんの意味があるんだこれ。
彼は俺の背後に回り込むと、腰を抱き込むように腕を回す。俺の背中に明嵐の胸があたる。
「多分両手で押さえてたほうがいいんじゃないかなあ」
鏡に映る彼は何やら楽しげに笑っている。なんなんだ?と思いつつもう片手も鏡に付けると鏡の中の自分と目が合うようだった。
下半身に彼の手が触れる。そのままそれは慣れた手つきで中へと侵入してくる。
「…ん」
弱めの感覚に少し声を漏らすが、まだ余裕がある。鏡の中の明嵐に目を向けると彼は不敵な笑みを浮かべて、鏡に映る俺の姿を見ていた。
「こうやると絶景じゃない?」
明嵐は指を奥へ奥へと入れ込んでいく。知り尽くしてると言うように、俺の弱い部分を的確につついてくる。
「絶景ってお前んっ…なあっ…」
肩の高さで鏡についていた手が足や腰の位置が下がってきたぶん、いつの間にか肩より上の位置に来ていた。
「良くなってきた?」
下がる俺の腰を片腕で明嵐は持ち上げると、指を抜いて自分のものをあてがう。
「俺もちょっと我慢辛いからいつもより早いけどいい?」
さっきまで中を触っていた手も俺の腰に回し、抱き込むようにゆっくり押し入れてくる。
鏡に写っている明嵐が俺の肩に頭を乗せて、気持ちよさそうに目を細めているのが見えた。
「あー…気持ちいい…」
「へんな…声…だすっ…なよ…」
普段の行為中はあまり見えない彼の顔が、鏡に映ったものとはいえすぐそこにあってなんだか顔が熱くなる。
「へへ…クリフ顔真っ赤で可愛いね…」
鏡の中の彼がこちらを見て笑う。
俺を抱えこんだまま、彼は少し速度を上げて腰を振り始める。
「胸もすぐ膨らむのほんと可愛い…」
手を俺の胸に滑らせると、先ほど弄られて硬くなっている先端を優しく指先で転がし、少しだけ引っ張る。
「う…明嵐…これ…全部見え…てっ…」
「そのために来たからねえ」
視線を落とすと自分の体を弄ぶ手元もしっかり反応した下半身も丸見えなのが恥ずかしくて視線を上にそらすと、鏡の中にいる明嵐と目が合ってしまう。目のやり場に困って視線を泳がせると情けなく緩みきった自分の顔が視界に入る。
「これ…やっぱ…場所変え…」
「…なんで?」
明嵐が耳元に口を寄せて熱い息を混ぜて囁く。
「めっちゃ可愛いから見て」
彼はそっと俺の顎を掴むと鏡の中の俺を見るように促す。
胸を触っていた手を俺の下半身に伸ばし、大きくなったそれを腰の動きに合わせて一緒にこする。
「あっ…やっ…ちょっと…」
喘ぐ度に鏡の中の自分がだらしなくよがる。すぐ横にいる明嵐の口元が俺の耳に触れるほど近くによせ、俺を見てにやにやと悪戯な笑みを浮かべる。
「…もうちょっと激しくする?」
耳元で彼はそう言うと俺の耳を唇で軽く食む。
腰を打ち付ける速度をあげ、強く奥まで押し付けた。
「ふぁ…あっ…みあ…ストップ…!」
待てとかタンマとか静止を促す言葉をかけても彼は止まることなく、むしろ激しさを増すようですらあった。食んだ耳を軽く吸ってみたり舌でなぞってみたりする度にぞくぞくと俺を襲う快感に足がふらついてくる。肌と肌を打ち付ける音や俺の声が浴室内に反響して余計に大きく聞こえる。
「足、疲れてきた…?」
意図的なのか、彼は耳元で囁くのをやめない。
落ちてくる俺の腰をその度に抱えなおし、彼は打ち付ける強さを上げる。
「あと少し頑張って」
明嵐の声に反応するように俺は鏡にもたれ鏡の中の自分と唇を触れ合わせるような距離で何とか足に力をこめる。
「みあ…らっ…も…だめ…っ」
「一緒にイけそう?」
どんどんと力が抜けていく俺を支えようと、明嵐も鏡に手をついて更に力強く腰を持ち上げる。
鏡と明嵐に挟まれるような体勢になって逃げ場をなくした体がビクビクと限界を知らせる。
「もっ…でそ…だっ…」
「俺も…」
荒い息で明嵐が今にも崩れそうな俺の背中に顔をくっつける。
「…中でいい?」
答える余裕がなくただ喘ぐだけの俺に苦しそうに呻く。
「ごめ…出る…っ」
ぐっと1番奥まで押し込まれ、奥で温かいものと一緒に中で彼がビクビクと痙攣する。
一気に足から力が抜け、腰を支えていた明嵐が慌てて両腕でささえ、ゆっくりと一緒に床にしゃがんだ。
「…大丈夫?やりすぎだった?」
「いや…平気…だ…」
明嵐の肩に手を触れながら俺は息を整える。
「仕事のあとだってのに…元気だな」
彼は俺の言葉に首を傾げるとにんまりと屈託ない笑顔を作る。
「クリフは別腹!」
「ふっ…別腹ってお前…腹じゃないだろ」
明嵐の言葉に思わず吹き出し、一頻り笑ってから彼の肩にどっかりと身を投げる。
「はぁ、今度こそゆっくり風呂に入ろう…」
「いい汗かいたもんな」
そう言うと明嵐は俺を軽々と持ち上げて湯船へと持って行く。足が疲れていると思ったのだろう。
「み、明嵐!自分で歩ける」
「まあ、ほら、付き合ってもらったお礼だと思ってよ!」
おろす気配もなく、彼は俺を腕に抱き抱えたままゆっくりと湯船に腰をおろす。
「明嵐…もう下ろしてもいいんじゃ?」
彼の胸を肘で小突きながら少し困ったように聞いた。明嵐は聞いているのかいないのか分からない相槌をうちながら、俺をおろす気配を見せない。
「こっちのが暖かくて俺は好きかなー」
俺の頭に頬を寄せて、彼は頬ずりをするように軽く顔を擦り付けた。
「なんだよ、やけに元気だな、ったく…」
風俗の仕事に就いて、こっちは心配したし気も使ったのに思っていたよりあっけらかんとしてなんだか拍子抜けだ。心配して損した。
俺はしばらく明嵐に頬ずりを好き放題やらせてから、彼の頭を胸にぎゅーっと抱きしめる。
明嵐はびっくりしたように目を見開いて、俺を見上げたり正面を見たりと視線を行ったり来たりさせた。
「…さっきのお返し」
目を見開いたままぽかんとする明嵐にそう言って1人風呂を出た。
「えっ?さっきってどれ?」
慌てて明嵐は風呂を上がると後ろからドタドタとついてくる。
「さっきはさっきだ!お前はまだ上がってくるな!!」
「えー…それご主人様命令?」
しょんぼりと脱衣場の前で立ち止まると明嵐は俯いて口を尖らす。
「別にそこまで…というかお前はいつもは都合のいい時だけご主人様扱いしてるだろ」
そう言って脱衣場に出ると明嵐はどこか嬉しそうに口の端を上に釣り上げて着いてくる。
乾いた服に着替える。時折、意味もなく明嵐が俺のシャツの前を留めに来たりと自ら世話を焼きに来たりした。
服に身を包み、明嵐が俺の濡れた髪をドライヤーで乾かし始めると、さっきまでご機嫌だった口の端を下げて、また不安そうな顔をする。
「…なあ、クリフは男に抱かれるのは嫌じゃないの?」
「急にどうした?」
「いや、俺は…楽しくやってるから嬉しいけど、クリフは不本意に買われて、無理やり俺に抱かれてたわけじゃんか」
ドライヤーで乾いていく髪を明嵐はコームを片手に持って優しくとかしながら目を伏せた。
確かに最初は無理やり抱かれて何度も何度も陵辱の限りを尽くされたという自覚はある。
「さっきも調子乗ったなあって…ごめん。普通は男に抱かれるのって屈辱だよな」
今更のようにそんなことを気にするのかと俺は少し驚いた。
「明嵐は俺が女でなくていいのか」
「俺は…」
俺の髪が乾くと、明嵐は続けて自分の髪にドライヤーの風を当てる。風に目を細める彼の表情は笑っているようにも、不安そうにも見えた。
「…むしろ男の方がありがたいかも。ちょっと女性って苦手なんだよね。別に性別なんて気にしてないけど、少しだけ」
彼の長い髪がなびく。妙な切り方をされた前髪。もしかしたら自分で切っているのだろうか。
「俺は気にしてない。嫌だと思ってるなら、今はいくらでもやりようはある」
革特有の光沢を持つ彼の首輪を指で撫でると、明嵐はバツが悪そうに肩をすくめる。
「そう…だけど…」
明嵐にされたことを許したのかと聞かれれば、許してないと言えるが、だからといって今さら彼に復讐しようとも捨て置いて忘れてしまおうというのもなんか違う。
犬に身を落とした事への哀れみか、彼の中にある過去に対する施しか…その気持ちの出処は分からない。
「ただ、1つ言えるのは…」
俺は背後の明嵐に寄りかかるように身をもたれて瞳を閉じる。
「俺は…今のお前が好きだよ」
俺の言葉に明嵐は返事を返さない。ドライヤーの音はやまない。
目を開けると明嵐は目を伏せて、寂しそうに笑っていた。
「…それなら良かった」
ドライヤーのスイッチを止め、明嵐は背もたれ越しに後ろから腕を俺の前に伸ばす。俺の肩に頭をうずめ、確かめるように抱きしめてすぐに手を離した。
「乾いたから晩飯にしよ!今日は何にしよっかな」
さっきの表情なんてなかったように彼は笑うと、俺に手を差し出す。その手を取ると、彼はぐっと手を引いて俺を立たせた。
「クリフが地下にいる間、不自由しないためにも明日も頑張って稼がねえと!精力つけんべ!」
冗談交じりに彼はそう言ってキッチンへ向かう。
「お前ばかり働かせてすまないな」
小さく呟くように謝ると、彼は少しだけ目線で振り、ニッと笑った。
「家にクリフがいてくれるから、大丈夫!」
蓮岡に提案されたことをいつ話そうか悩んでいるうちに明嵐はキッチンへと入ってしまった。
「家にか…」
やはり明嵐はこのままここで暮らす方が嬉しいのだろうか…。
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