天底ノ箱庭 春告鳥

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3章 恋焦がれた黄色の太陽はここにはありませんでした

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ダージリンティーのパックをつまんでマグカップに入れる。
「だーじりんってなにー?」
「紅茶だよ」
口元にホクロがある亜麻色の髪の男が俺の頭を撫でて微笑む。男の顔には沢山のガーゼが貼られ、片目には眼帯をしている。
「お父さんはね、犬なのに家だけは喋ることを許されている特別な犬なんだ。だからお母さんの仕事を沢山手伝わないといけない」
ポケットからマグカップへお湯が注がれ、花のような香りがたつ。
俺はあまりこの匂いが好きじゃない。母さんと同じ匂いがする。
「幸樹のお母さんはいつも忙しいけど、とても優しいんだ。僕との子供なのに、人間として届け出てくれた。だから幸樹は人間でいられた」
男は俺に視線を合わせるようにしゃがむ。その瞳はどこか虚ろで、今にも泣き出しそうにも見えた。
「だから、幸樹もお母さんに感謝するんだよ。お母さんがいるから、僕らは生きていけるんだ」

ふと目を覚ます。汚い木目。見慣れた俺の部屋の天井。
起きるといつだって身体が痛い。ベッドが小さいからだとは分かっている。だけど、部屋が小さくて大きいベッドを置いたら他の家具が置けなくなる。
だからって他の部屋にもいたくない。俺は犬じゃない。ここは俺に与えられた唯一の部屋。母親以外の人間が唯一暮らすことを許された部屋。
母親の部屋は花のような匂いがするから入りたくない。だから遺品の整理も掃除も出来ない。3年間、使用人だけが気持ち程度に掃除しているらしい。
目覚まし時計を見ると時間はまだ8時を示していた。クリフの飯を作るにもまだはやい。
俺はベッドから起き上がると手ぐしで髪をとかしながら部屋を出る。
長い髪は邪魔だ。本当は短くしたい。だけど、短くしたらどっかの誰かと区別が付かなくなるから絶対に切ってやらない。
朝は憂鬱だ。何のために一日が始まるのか分からない。さっさと終わればいいのに、死ぬのは痛いから死にたくない。
虹を見れば願い事が叶う、なんて父親は言った。生気を失った目で神を信仰するように、それにすがるように毎日。
だから部屋に虹を描いたのに、筆もなけりゃなけなしの小遣いで買った絵の具もそのものも汚かった。
クリフの部屋に向かう。
クリフの顔を見れば、少しは気が晴れるような気がした。

いつものことだが、部屋をノックしても反応はない。返事が許されていないんだから当たり前っちゃ当たり前ではある。ひと拍置いてから扉を開くと読みかけの本を抱えたままサイドボードのライトもつけっぱなしでクリフは眠っていた。夜に
本を読みながら眠ってしまってそのまま朝になってしまったのだろう。俺はつけっぱなしのスタンドライトを消す。
最近、クリフはよく俺とコミュニケーションを取るようになってきた。リードを自ら持ってきて外出をせがんだり、キッチンにいると飯を作るのを手伝ってくれたり。本を読んでいる時にちょっかいを出しても、前ほど嫌がられないようになっていた。
クリフと過ごす時間は楽しい。俺が何をしてもめげない神経の太さも、ネコのようなマイペースさも好きだ。犬としてのルールを守りながら自分の意見を主張する姿はカッコイイとすら思う。
何より、クリフは俺の名前を呼んでくれるんだ。
クリフの寝ているベッドの脇に腰を下ろして、俺はクリフの寝顔を見つめる。買ってきたばかりの時は飯を食べなくてますます痩せこけていたが、最近は少しふっくらしてきた気がする。もう少し肉を付けてもいいくらいだとは思うが。
クリフの頬を指で撫でる。白い肌がほんのり桜色で可愛い。
犬は犬らしくあるべきだと人は言う。それは常識だ。俺もそう思う。
処理用として買ってきたんだから、本当はクリフを毎日抱き潰すくらい遊ぶのが普通なんだろう。
だけど、傍にいればいるだけ手が出しずらくなる。ガラス玉みたいな目で見つめられて、名前を呼ばれると彼が人間だと錯覚しそうになる。
「家の中くらい人間として扱ってやっても誰も分からねえんじゃねえのかな…」
すやすやと寝息をたてるクリフの唇をぷにぷにと指で押す。何度も怪我をしていたが、今はすっかり元通りだ。
俺はクリフの隣に潜り込む。朝起きるまで一緒にいたって、それくらいいいだろう。
もう4日くらいセクハラはおろかスキンシップは手を繋ぐくらいしかしていない。本当はもっと触れたいけど、心のどっかで嫌われたくないと思って躊躇う自分がいることに気付かされた。
眠るクリフの肩に頭を埋めて目を閉じる。
クリフがもっと楽しく一緒に暮らしてくれるように何か出来ることがあるのかな。犬でも安全に外を歩けるようにしてやりたいな。
もっと信頼されたいな。
名前、もっと呼んでくれないかな。

目が覚めるとクリフはもう部屋にいなかった。少しだけ残ったぬくもりが、さっき抜け出したのだと告げている。
「あー好感度たりねー」
腕を伸ばして欠伸をする。でもよく寝た気がする。
「クリフー?」
部屋を出て、廊下でクリフの名前を呼ぶ。すると、クリフは何故か俺の部屋から顔を出す。
「あれ?なんで俺の部屋にいんの?」
俺はクリフの方へと小走りに近寄る。少し慌てた様子で首を横に振る。 
「あんま俺の部屋綺麗じゃないからじっくり見られるの照れるんだけど…探し物?」
俺の言葉に反応したようにハッと目を見開くと今度は急に首を縦に振る。
「何か俺の部屋にあったっけ…見つかってないならもうちょい見てってもいいけど…」
正直、私室は最高に自堕落な過ごし方をしているし、家具も古くて見栄えが悪いので恥ずかしい。けど、別に隠すものもないのでクリフが背を向けている部屋の奥を手で示す。
「ちょっと…なんか臭ったらごめん。洗濯物結構溜めちゃうからさ」
クリフは遠慮がちに再び部屋に踏み入るが、なんだか気まずそうに探し物をする様子もなく下を向いたままだ。
「…どうしたの?汚すぎて引いた?」
床に散らばった脱ぎ散らかした衣類をサッカーの要領で蹴飛ばして1箇所にまとめる。後で洗濯機に入れないといけない。
長いこと閉めっぱなしだったカーテンを開けると、外の明かりが部屋に差し込む。
何故か落ち着かないようにそわそわと部屋を見回すクリフを俺はベッドに腰掛けて見守る。
何を探しているんだろう…クリフの視線を追っていると、クリフは何かを見つけたように目をパッと開いて勉強机の下に手を伸ばす。
彼が手にしていたのはオズの魔法使いの絵本だった。
「え?絵本探してたの?」
クリフは力強く首を縦に振る。でもそんなもん俺の部屋にあるだなんて話したことあったかな。
オズの魔法使いは俺にとって1つだけ知ってる童話だ。父親が好きだとかなんとかで母親が俺に買い与えた。
「いいよ、あげるよ。好きなだけ読んでくれ」
俺の言葉にほっとしたように絵本を抱える。そんなにこの絵本が読みたかったのだろうか。
「…オーバーザレインボーって曲あんじゃん。オズの魔法使いの劇中歌だかなんだか知らないけど」
俺が話しかけるとクリフはこちらに控えめに視線を投げた。
「虹の向こうって意味なんだっけ。願いは叶うって言う歌でしょ。俺のおとんが虹には願い事を叶える力があるっていつも言っててさ」
地下に虹なんか出来ない。大人になってから知った。いや、正確には出来ないことはないんだろうが、有害物質でしかない雨が降って、薄暗い明かりの中で虹が出来たとこで人間たちは外には出ないし、それは絵本のように美しくない。
「…おかんから小遣いもらってさ。500円だけだったけど、嬉しくて外に買い物に行ったら絵の具が売ってたんだ。『RAINBOW』とかいう、胡散臭い名前の色。これ1本あれば虹が描けるって思って、欲しくなってさ。2500円もするその絵の具を見つけた日からコツコツ金貯めて買ったんだ」
クリフは俺の話を聞きながら部屋の壁を見つめる。壁には俺が昔、指と水だけで描こうとした虹がある。虹なんて綺麗なもんじゃないけど。
「分かりやすい詐欺だろ?そんな色なんかありゃしないのにさ。出てきたのはきったねえ絵の具でよ…でも、7本の線ひいたら虹になるんじゃねえかって壁に描いた。結果はあの通り」
俺はクリフに肩を竦めて見せる。
彼は壁にひかれた7本の線を、ただ静かに見つめていた。
「虹なんて本当にあんのかね」
俺はひとしきり話すとベッドから立ち上がる。しょうもない話をしてしまった。
「…どうでもいいよな!それよか外にでも行く?あーでも最近ずっと街に出ずっぱりだからさすがに疲れるか…」
明日は前に調教した犬の飼い主からアフターケアの申し込みがあった。スケジュールをずらして休みを取ってはいるが、無料期間中のサービスはさすがに断れない。
飼い主の家まで行って調教の仕方にアドバイスをしなくてはならないので、あまりクリフを構う時間がないと思うとついつい連れ回してしまう。
それでも、俺の言葉にクリフは下に向けていた視線を上げてこちらを見た。
「いく?」と再度尋ねるとこくりと頷いた。
「じゃあ行くか!あまり遠出しない方がいいよな」
近所となるとどこがいいだろう…近くの大通りは遊び尽くしたし、この辺は意外と遊ぶものがない。
クリフは少し考えるそぶりを見せると早足に自室に戻っていく。クリフの後を歩いて追いかけると、俺が部屋にたどり着くより先にクリフが紙をもって部屋から出てきた。
彼はいつものように紙を俺の目の前に差し出す。
『庭が見たい』
珍しい申し出だ。そんな近場でいいなら全然構わない。
「いいぜ、外出ようか」
玄関にパスワードを入れ、手をスキャニングさせる。ガチャリとドアを開けクリフに外を見せる。
「庭より外に出るなよ?特別にリードは付けないでおくから」
庭に出るとクリフは時折俺の方を確認しつつも興味津々といった様子で庭を歩き回る。
以前脱走したときに落っこちた植え込みや噴水をのぞき込んだり門や家の敷地を囲む塀など観察しているように見えた。
俺は噴水の脇の芝生に寝転がる。クリフは楽しそうだが、俺は20年もこの庭を見てきているから今更物珍しいものはない。
上を見上げると人工的な明かりを発する巨大な蛍光がびっしりと天井に設置されている。
昔は地上に空や太陽があったらしいが、俺からすればこれが当然の視界だ。
ムクリと起き上がるとクリフの姿がない。裏手まで回ったんだろうか。
庭から出るには正面のゲートを通る以外に道はない。屋敷を囲む塀はうちの仕事柄か2メートルをゆうに超えているし、リフォームの際に補強してもらったから登るような窪みもないだろう。
「ここで待ってりゃいつか戻ってくるだろ」
裏手には古い焼却炉しかない。キッチンからダクトで直接繋がっていて、昔はそこにゴミを溜めて燃やしていたらしい。臭うので今は普通にゴミ出ししているし、使う用途はなくなった。
子供くらいしか通れない大きさで、うちに預かる犬はまず成人済みばかりなので通れる奴はいない。そもそもボルトでキツくとめたから開けられないだろう。
芝生で昼寝をするでもなく目を閉じていると誰かが枕元に近づき立ち止まる。
目を開けるとクリフが頭のすぐ横にしゃがんで覗き込むように俺を見ていた。
「…いい運動になった?」
口元だけで笑って見せると、クリフはコクリと頷きそのまま座りこむ。
芝生に投げ出された長い俺の髪をしげしげと眺め指先で控えめに撫でる。
「髪が長い男ってやっぱキモい?」
髪をいじるクリフに視線だけ投げて尋ねる。よく母親は俺が髪を伸ばすとヒステリーを起こしたもんだ。
クリフはしばらく髪を撫でたり手に取って触った後にこちらに目を向け、少し迷ってから「べつにいいと思う」と小さな声で答えた。
犬は喋ったらいけない。注意しないといけない。そう思ったが、俺は思わず笑う。
「初めて言われた!」
なんでか一緒にいるのが楽しい。ただ地べたに寝そべってるだけなのに不思議だ。
庭で遊んでから俺たちはまた自由に屋敷の中で過ごした。晩飯時になったら誰が言い出すでもなくリビングに集まって、飯を作って食って、クリフが選んだコーヒーを食後に飲んだ。
クリフは俺の無駄話に黙って付き合って、食器を片付けにキッチンへ消えた。
「あー、そういえばさ」
キッチンにいるクリフに俺は少し声を大きくして話しかける。
「明日は仕事あるから朝飯作ったらすぐ家出るわ。だから暇させるかもしれないけど、留守番よろしくな」
俺の言葉にクリフはすこしだけ振り返って頷く。今日も逃げ出すような素振りもなかったし、この様子なら大丈夫だろう。
立ち上がって俺はクリフの後ろに立つと、控えめにクリフの頭を撫でる。少し硬いけど、綺麗な髪だ。
「じゃ、明日早いから寝るわ」
クリフの頭から手を放し、その手で軽く手を振る。クリフがそれにも小さく頷くのを確認して、俺は私室へ戻る。
ジャージに着替えて小さなベッドに横になる。足を丸めて転がると、人間としての尊厳を失ったような気持ちになる。
俺は人間だ。犬じゃない。ドアの足元にある檻だったものを見ながら爪を噛む。
俺は犬じゃない。俺は犬じゃない。毎晩同じ呪文を頭の中で唱えて目を閉じる。

父親が死んだのは俺が10歳の時だった。俺の顔は父親によく似ていた。もう少し母親に似せてくれたら良かったのに。いや、父親によく似ていたから人間でいられたのか。
母親は父親のことが大好きだった。だから壊して治して壊して治して最終的に壊してしまった。
だから、母親は俺に父親と同じであるように檻に入れた。父親と同じ振る舞いをするように壊そうとした。
母親しかいない屋敷には俺の名前を呼んでくれる人はいなかったんだ。
明嵐幸樹なんて名前の人間は、この世界にいないんじゃないかって何度も部屋の中で考えた。
目を閉じると母親の声が聞こえるんだ。俺の目を見て父親の名前を呼ぶ。

ハッと目を覚ます。寝る前に見ていた私室の扉。嫌な汗で髪が顔に張り付く。
時計を見ると深夜の2時をさしていた。
「はあ…嫌だ…違う…」
頭に手を当てて首を振る。
「俺は父さんじゃない…俺は犬じゃない… 」
部屋を出る。こういう夜はだめだ。もう眠れない。
自分が自分なのか不安になる。自分が何者なのか分からなくなる。誰か俺の名前を呼んでくれないか。名字じゃなくて、下の名前で呼んでくれないか。
よろよろと廊下に肩を擦り付けるように歩く。
ああ、そうだ。1人だけいる。名前で呼んでくれる人が1人だけいる。
クリフの部屋につくと、ノックもせずにそのままドアを開けた。
部屋は窓から入るほのかな外の明かりで照らされ布団には、穏やかに眠っているクリフがいた。
俺はクリフのベッドまで行くと、そのまま毛布に潜り込む。寝ているところを起こすのは悪いと思うが、どうにもならずにクリフを抱き寄せる。
「ん…?」
さすがに目を覚ましたクリフは軽く目を擦ると驚きで目が覚めたようで俺の体を押し返しながらもがき始める。
「…ごめん…」
もがくクリフに俺はぎゅっとしがみつく。
「ごめん…今だけ…」
喋ると声が震えた。涙が出そうで喉が痛い。
クリフはいつの間にかもがくのをやめていた。戸惑ったように俺の頭に手を添え、遠慮がちに撫でる。
「名前…呼んで…」
クリフの背中に顔を押し付けすぎて声がこもる。掠れた声で、こんな声聞こえんのかと笑う自分もいるが笑えない。
「……幸樹?」
クリフは戸惑っているようだった。そりゃそうだろう。散々自分を虐待した人間がこんな様じゃ誰だって驚く。
でも、抵抗することも無く心配そうに名前を呼んだ。呼ばれた名前を聞いて、溺れていた肺に酸素を送り込まれたように呼吸が楽になる。安堵からか両目から一気に涙が溢れた。
「うっ…うぐっ…」
馬鹿みたいに身体が震える。情けない嗚咽が口をついて漏れる。
クリフは腕の中でもぞもぞと何とか寝返りをうつと俺と向き合う体勢になる。
「…泣くなよ…幸樹」
逃げる様子も嫌がる素振りも見せず、頭をポンポンとなでて困った顔でまた名前を呼ぶ。
名前を呼ばれるたびに、自分がここにいていいと、父親にならなくていいと言われているようで嬉しくて、胸が苦しくなる。
クリフの小さな胸に顔を押し付けて抱きしめる。肉付きが悪い薄い胸だが、暖かくて気持ちいい。
クリフのシャツの下に手を入れる。人肌が恋しかった。クリフは俺の手が入ってくる感覚に一瞬だけ身を竦める。
「ちょっ…ま…んっ…」
俺が肌を撫でると、くすぐったそうな反応を見せたが拒絶はしなかった。
「あったかい…」
腕の中で少しだけ笑うクリフの首に顔を擦り付ける。首を軽く唇で食むと「やめろって…」と身を捩らせるが本当にくすぐったいようでまた笑いが零れる。
クリフの小さな笑い声が自分の行為を許してくれている気がして嬉しい。泣いた後だからか寒い身体を暖めたくてクリフのシャツを少しずつ上へ捲り上げる。自分のシャツも上にずらして肌をくっつけると気持ち良かった。
クリフは時折俺の腕に手を添えるが、俺の吐息が首に当たるのがくすぐったいのか小さく笑う。そのせいかあまり抵抗されているようには感じなかった。
クリフの首にキスを落として控えめに舌を這わせてみる。
「おいっ…それ…くすぐったいから!」
クリフは俺の顔から逃げるようにもがくが、やっぱりそれは嫌がっているというよりじゃれる子犬のように見える。
「…中入りたいな」
「っはは…は?え?」
「寒い」
笑うクリフのズボンに手をしのばせる。下半身へするすると肌を伝って下りると、太腿の付け根から目的の場所に指を這わせた。
「お、おい…!」
クリフはさすがに焦って体を起こそうとしたような素振りを見せるが俺が鎖骨に舌を這わすとまた抵抗することをやめる。
指を優しく押し込む。久しぶりだと言うのにふんわりと指を飲み込んだ。
「あったかい…」
指を奥に入れてみるがクリフに痛そうな反応がないので指を増やす。暖かくてみずみずしいそれを触っていると、自分のズボンもキツくなる。
「う…お前…それはっ」
指を動かすとクリフが応えるように声を漏らす。
穴の中を指で優しく掻き回しながらクリフの胸元にキスを落として、胸に舌を這わせる。軽く吸うとびくんと体を跳ね、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「…もうダメだ、入る…」
クリフをぐるりと反対向きに転がすと、ズボンを太腿まで手で引き下げる。自分のチャックを開けると限界まで膨張していたのか、指で空間を開けるとすぐに外に出てきた。
ぐっとクリフの穴に押し当て、ゆっくりと入れると中が熱くてゾクゾクした。
「あっ…まっ…まて…」
クリフは少し逃げるように腰をずらすが、少しづつ押し進めるとそれ以上逃げずにビクビクと体を震わせて喘ぎ声を耐えているようだった。
うなじを舐めて、片手で腰を抱き込む。空いている手で胸の先を摘むと彼の中が痙攣した。
「中あったかい…」
半分まで入っていた自分のものをゆっくりと奥に推し進める。いつも勢いよく突き破る壁も味わうようにじっくりと押し上げると、クリフはいつもとは違った反応を見せた。
いじらしく声を我慢するのに中はせがむように俺の物を締め付けるのが愛おしくてたまらない。
クリフは自分の声を抑えるように自分の手で口を塞ぎ震える。
「声聞きたい…」
クリフの手を掴んで優しく口元から離させる。
そのまま腰を押し上げると、ゆっくりと壁が開いて俺が全てクリフの中へ入り込む。
「…ああっ!」
奥に到達すると同時に塞ぐものの無くなったクリフの口からひときわ大きな声が漏れた。自分の声に自分で照れたようで耳まで真っ赤に染めて彼は顔をシーツに伏せたがる。
「クリフ可愛い」
真っ赤になった耳を優しく噛む。熱を持ってるのが唇でも分かる。
「…何処にも行かないで」
繋がった状態のまま抱き込んで、俺はクリフの背中に顔を当てる。
「お前がいないと、俺の名前呼んでくれる人いなくなっちゃう」
背中からクリフの心臓まで声が届けばいい。鼓動するたびに思い出してくれたらいいのに。
「好きだよ」
自分の耳にも届くか分からない小さな声で心臓に向かって呟く。クリフの耳には多分、届かない。
「…幸樹?」
振り返るクリフに俺は頬にキスする。
腰をゆっくりと動かす。中がまとわりついて気持ちいい。引いて押し込んでを自分でも驚くほど楽しんでる。こんなに気持ちいいものが存在するなんて思わなかった。
クリフはもう抵抗しようとしない。彼の甘い喘ぎ声を聞きながら、普段触らない彼の前に手を添える。
「一緒に出して」
耳元でねだると手の中に収まったクリフの膨張したそれはぴくぴくと小さく反応する。
腰を動かすのに合わせて一緒に手で擦る。手の中で反応を返すそれも可愛いくて仕方ない。
「んっ…あ…はあっ」
「…出そう?」
尋ねるとクリフは小さく頷く。
「俺も…もう限界…」
話しながら笑ってしまう。もっとしたい時に限って持久力がない。
「あっ…も…むりっ…ん!」
クリフの言葉に合わせて1番奥まで突き上げる。俺が中に注ぐと同時に彼のものを包んでいた両手に温かいものが出たのが分かった。
「はあ…っ」
俺はクリフのうなじに頭をくっつけて、深く息を吐く。
「めっちゃ気持ち良かった…」
話しながら俺の声が笑い声に変わる。クリフもくたっと力が抜け多様に荒い息を整えつつ、逃げることも文句を言うこともせずに俺の腕の中で身を預けていた。
「…このまま寝てもいい?」
繋がったまま上半身を少し起こして尋ねると、
白い頬を紅に染めながら目を細めて応える。
「…今日だけなら」
まだ少し荒い呼吸を隠して、いつも通りを装ったクリフの声。俺は不思議な安堵感に包まれて再びクリフのうなじに顔を寄せて目を閉じた。
大好きだと声に出して言えない言葉を何度も何度も心の中で復唱した。
明日起きたら、クリフに伝わってくれたらいいのに。
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