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第4章 『王都と成り上がり』

55.逆鱗に触れる

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 どうやら、エクエスさんは俺が吹っ飛んで気を失った後も、たった1人でエンシェントドラゴンの相手をしていたようだった。
 身体の色々なところから血が流れ、盾は傷つき、息を切らしながらも、眼だけは鋭く相対する怪物を捉えていた。

 ――すごい……!

 その気迫たるや歴戦のまさしく『英雄』という言葉がぴったりと当てはまった。
 だが――、

「ぐお――っ」

 薙ぎ払うように振ったエンシェントドラゴンの腕が盾に当たると、エクエスさんは踏ん張り切れずに後ろに吹っ飛んだ。
 俺はたまらず大きな声を出しそうになるが、すぐに立ち上がった姿を見て、ぎりぎりのところで声を抑えた。

 ――これは、チャンスかもしれない!

 エクエスさんを囮にするようで申し訳ないが、今のエンシェントドラゴンは彼に意識が向いており、俺には気づいていない。
 この状態なら、無防備なエンシェントドラゴンへ最大の力で攻撃ができるかもしれない。
 もちろん、それはエクエスさんに大きな負担がのしかかってしまうが……。

 ――やろう。

 俺は、一撃にすべてをかけることに決めた。
 今ならまだエクエスさんは戦える。であれば、俺の最大限を以てして、一撃をエンシェントドラゴンにぶつけてみよう。

「まだまだ、俺は死なんぞ――ッ!!」

 エクエスさんが盾を構えなおす。

「グルルルルルル……」

 エンシェントドラゴンが、低い唸り声を上げた。これは、ブレスの前にする行為だ。
 俺は剣を構えなおし、攻撃を加える準備をする。
 《ドラゴンブレス》を吐いている間はエンシェントドラゴンも無防備になるので、大ダメージを与えられるチャンスだと考えたのだ。

「さぁ、焼き殺せるものならやってみろ!!」

 エンシェントドラゴンは盾を構えるエクエスさんに向かって、ゴオオオッっとブレスを吐いた。
 離れている俺にも感じるほどの熱気だが、

「ぐ、ぬぬ……う、おおおおぉぉぉぉぉ――っ!!!」

 エクエスさんはそれを完全に防いでいた。

 ――ほんとにすごいなあの人……。

 その勇姿に俺は感嘆するが、それよりもとエンシェントドラゴンを見る。
 《ドラゴンブレス》を吐いているエンシェントドラゴンの背中はがら空きで、きっと今のこのタイミングで攻撃されるだなんて微塵も考えていないだろう。
 俺はこのチャンスを逃さまいと、

「《駿足》、《見切り》――」

 静かにスキルを重ね掛けし、

「――《突進》」

 俺は一気に駆け出した。
 目指すはエンシェントドラゴンの頭頂部。そこに最大に力を込めた一撃をお見舞いするつもりだ。

「――ふっ!」

 エンシェントドラゴンの尻尾から背中を駆け上がっていく。
 違和感を覚えたのか、少し身じろぎするような仕草をしたが、ブレスはまだ続いている。
 俺は駆け上がる勢いのまま脚に力を込めて跳躍し、

「――《剛力》、《咆哮》……おおおおぉぉぉぉぉおおお――ッ!!!」

 2本の剣をエンシェントドラゴンの頭に突き刺した。

「ギャオオオオオォォォォォオオオオオ――――ッッ!?!」

「ぐ……っ!」

 突然の攻撃にパニックに陥ったエンシェントドラゴンは、頭を振って暴れだした。
 吐き出していた《ドラゴンブレス》は、エンシェントドラゴンが口を閉じたために収まり、むしろそのおかげで漏れ出た炎がエンシェントドラゴンの顔を包み込んでダメージを与えていた。
 俺は振り落とされながらもなんとか地面に着地すると、

「エクエスさん!!」

「アルゼ……?」

 盾を落として崩れ落ちたエクエスさんの元に走り寄った。

聖なる癒しホーリーヒール!」

 光がエクエスさんを包み込み、傷口を綺麗に回復させる。

「おぉっ! こんなことまで……! アルゼ、無事でよかった。すまなかった、助けられてしまったな」

「俺のほうこそエクエスさんに助けられましたよ。エクエスさんも無事でよかったです」

 エクエスさんの傷はすっかり治ったが、体力的にはかなり消耗していそうだった。

「ガアアアァァァァ――ッ!」

「くっ!」

「アルゼ、後ろへ!」

 たしかにエンシェントドラゴンへ大きなダメージを与えることができたが、一撃で決着をつけるほどではなかったようだ。

「相当苦しんでいるな……めちゃくちゃに暴れている」

「ええ、これで山に戻ってくれればいいんですが……」

 できれば、これで俺たちのことを少しでも脅威と思って、山に逃げ帰ってでもくれれば万々歳だ。
 だが、香の匂いに釣られたエンシェントドラゴンはそう簡単には離れないかもしれない、と考えていると、

「――団長! 各所で香の入った壺を発見、即時に破壊したと報告がいくつも上がってきています!」

「でかしたぞ!!」

 タイミングよく、兵士からの報告が上がってきた。

「これで大人しくなってくれればいいんですが……」

 俺は祈るような気持ちでエンシェントドラゴンを見た。
 未だ俺の攻撃に苦しんでおり、悶えるように動き回っていた。

「アルゼ、さっきのような強力な攻撃をまだできるか?」

「はい、できます」

「よし。ドラゴンの顎には『逆鱗』と呼ばれる弱点がある。そこを攻撃するとより一層暴れるかもしれないが、逃げ出すかもしれん。1つだけ逆さになっている鱗の部分だ」

「わかりました。やってみます」

 俺はウロウロするエンシェントドラゴンの顎の辺りに狙いを定め、

「《突進》!」

 一気に距離を詰めて下に潜り込んだ俺は、エクエスさんの言っていた辺りを見上げた。

「――あれか!」

 そこには、教えてもらった通りに1つだけ逆さまになっている鱗があった。
 ドラゴンは俺に気づき踏みつぶそうと手を叩きつけてきたが《見切り》で俺はそれを躱して、

「はっ――!」

 逆鱗に狙いを定めてジャンプした。

「おおおおぉぉぉぉ――っ!!」

 《剛力》と《咆哮》で攻撃力を底上げした俺は、2本の剣に力を込め、逆鱗に突き刺したのだった。
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