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第3章 『ダンジョンとポーター』

18.追放

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 アビがダンジョンボスに挑む前に「英気を養いますよー」と言い、俺たちは休憩エリアで食事をとることにした。

「なぁ、メル」

「はい、アルゼ様。どうしましたか?」

 アビが料理してるのを横目に、俺はメルに相談することにした。

「さっきのアビの話なんだけどさ……」

「……はい」

「ここを攻略したら――その、いいかな?」

「――! はい、もちろんです!」

『アビは――ここから連れ出して欲しかったかもしれないのですよー』

 冒険者と一期一会の付き合いでダンジョンに潜る生活。
 打ち明けることのできないスキルを抱え、頼れる兄もおらず、彼女はこの街で生きてきた。

 ――でも、アビは俺たちに何かを感じたんだろうな。

 ここから連れ出してくれるかもしれないと、俺たちならと期待したんだろう。

「ありがとな、メル」

「え、いえ、私はなにも……」

「それでも、提案を受け入れてくれてさ」

「……きっと、アビがいたら少し賑やかになって、アルゼ様の毎日が楽しくなります!」

「そうだな」

「でも……たまにはメルのことを可愛がってくださいね?」

「――! も、もちろんだよ!」

 頬を少し染めて上目遣いでそんなお願いをされ、俺は思わず抱きしめそうになってしまった。

「まーたイチャイチャしてるのですか? そろそろできるのですよー」

「ア、アビ! からかわないでください――!」

「ハハッ、まぁ実際その通りだしいいじゃないか。さ、食べよう食べよう」

「ア、アルゼ様……」

 俺たちは大一番の前に、リラックスした気持ちでアビの料理を食べて、英気を養うのだった。


 ◆◇◆


「よし、準備はいいか?」

「はい! バッチリです!」

「いいですよー」

「それじゃ、開けるぞ」

 俺は黒い扉を両手で押し開ける。

「真っ暗で見えないな……」

「ですね……でも、気配は感じます」

「ふむ……」

 ――あ、こういうときにいいスキルがあったな。

「《夜目》」

 スキルを使うと、先ほどまで暗闇でまったく見えなかった部屋の中が見えてくる。
 だが――、

「あれ?」

 部屋の中には何もいなかった。

「どうしましたか?」

「いやさ、《夜目》で見てるんだけど、魔物が全然いないんだよ」

「え? そんなことってあるんですか?」

 俺は後ろにいるアビに「どうなんだ?」と尋ねたが、「こればっかはアビにもわからないのですよー?」とフルフルと頭を振った。

「とりあえず、入ってみるしかなさそうだな。慎重に行こう」

「はい、わかりました」

「わかったのですよー」

 俺たちは最後のボス部屋に足を踏み入れた。
 すると室内の松明に火がつき、ぼんやりと明るくなる。

「……最悪なのですよ」

 アビが珍しく顔を強張らせる。

「アビ……アレは何だ?」

 部屋の中央には、透けた物体がふよふよと漂っていた。
 どうやら、あの透けた体のせいで《夜目》を使っても見えなかったみたいだ。

「アレはレイスなのですよ。物理攻撃、魔法攻撃、状態異常なんかもし、聖属性しかダメージを与えられないのですよ」

「おいおい、それって――」

「はい、詰んだのですよ」

 アビは諦め顔でそう言った。
 聖属性を使える冒険者ならば、全員教会に行ってるだろうし、アビの言う『詰んだ』の意味もよくわかる。

「アルゼ様……メルがなんとか時間を稼ぎますから逃げてください――!」

 メルは決死の覚悟の表情でレイスを睨む。

「いや、それよりこの扉から出ればいいんじゃないか?」

「いえ、もう開かないのですよ。誰かが死なない限りはですけど」

「死なない限り? どういうことだ?」

「仕組みがそうなってるのですよー。パーティーの1人が死ぬと外に出られるようになるのですよ?」

「マジか……」

 つまり、誰かが犠牲になれば逃げることも可能ということになる。

「てか、あいつさっきから浮いてるだけで攻撃してこないけど、このままたおせないか?」

「ダンジョンボスは、ある一定の距離に近付くか攻撃しない限りは何もしていませんよ?」

「そんな決まりもあるのか……」

 最深部まで到達したが、まだまだダンジョンの仕組みは知らないことが多そうだ。

「――アビを追放するのですか?」

「――は?」

 アビが俺を真っ直ぐ見つめる。

「……たまにポーターがダンジョンから戻って来ないことがあるのですよ。こういった時、一時的なのポーターは切り捨てられることがあるのですよー……」

 俺はその話を聞いて愕然とする。
 それは話の内容がショッキングなわけではなく――。

「アビ、アルゼ様はそんなことしません」

 メルが即座に否定する。

「……人間いざとなればどうなるかわからないので――」

「絶対にありません。アルゼ様はアビと一緒に、この街を出たいと思ってるのです」

「え……」

 アビの目が見開かれる。

「そうだぞ、アビ。俺は……俺たちはお前に仲間になって欲しいんだ。だから――仲間をこんなところで追放するわけないだろ?」

「なぜ……アビを?」

「お前がそう望んだから」

「――っ」

「まぁ、なんとなく俺たちと重なるんだよ。お前のスキルの境遇ってのがさ。まだ言ってなかったけど、ここを踏破したら説明するからさ」

 俺はレイスを見る。
 さっきからずっと変わらず、ふよふよと浮いてこちらを見ているだけだ。

「でも倒すのは……」

「ちょっと試してみたいことがあるんだ」
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