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61.言いしれぬ不安

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 それから僕が促すと、チヨメは少しずつ話してくれた。

「……お館様を見つけるため、いろいろな国に行きました。どこに行っても手がかりすら見つからない中、アルゴン帝国に『錬金術師』の情報があると報告がありました。それが始まりでした」

「アルゴン帝国……それじゃあ『影』とか呼ばれてる諜報部隊って、本当にチヨメたちくノ一のことだったの?」

「はい。『錬金術師』の情報を入手するため、ケイとスズの2人をアルゴン帝国に送り込みましたが、彼女たちは捕らわれてしまい人質となりました」

 チヨメが悔しげに下を向く。

「相手はアルゴン帝国宰相のブロウ・ミーンという男でした。2人の囚われている場所は掴めず、ミーンは解放を条件に私の率いるくノ一を『影』という諜報部隊としてアルゴン帝国に貢献するよう命じました……」

「あなた、そんな条件を飲んだの?」

「……そう、私は受け入れた」

「はぁ? 馬鹿じゃないの? セラフィよりよっぽど馬鹿ね」

「セラフィは馬鹿じゃないのですよ!?」

 リリスは、とても仲間に向けるような顔とは思えないほどの冷たい表情で吐き捨てた。

「リリス、言い過ぎだよ!」

「主様、甘過ぎますわ。チヨメはそんな愚かで浅はかな考えで主様を傷付けたんですもの。……主様の前でなければ、私自ら手を下したいところですわ」

「リリス……」

「ソーコ様、もちろんご主人様のいかなる決定にも従いますが、気持ちとしては私もリリスと同じです。ソーコ様を傷付けたという事実が、何よりも許し難いです」

「アンジェ……」

 彼女たちサポーターは人一倍忠誠心が高いので、仲間意識よりもまずは僕のことがもっとも高い優先事項なんだろうな。
 正直、チヨメも十分反省してるみたいだし、僕としては何も気にしてないんたけど……。
 まぁ、この忠誠心の高さからチヨメも自害しようとしたんだろなぁ。

「まぁ2人とも落ち着けよ。そんなんじゃ、姐御の立場もないだろが。それにまだ話の続きも聞けてないぞ?」

「……そうね。ま、主様を傷付けられてちょっと我慢できなかったから一言言いたかっただけよ。眷属を持つ私もチヨメの気持ちがわからないわけじゃないしね」

「私はもともとソーコ様の判断に従うつもりです。ただリリスの言うように、同じサポーター仲間として釘を差しただけですよ」

「リリス……アンジェ……」

「はいはい、それじゃあとりあえず話を進めようね。チヨメ、続きを話してくれる?」

 上手いことネオンが間に立ってくれたので、これ幸いと僕は話の続きを促した。

「はい。最初のうちは様々な国への諜報活動を主にしていましたが、今回は2つ命じられてボロン王国に潜入しました」

「それは?」

「1つは軍の情報を持ち帰ることです。ボロン王国軍の内部に潜入し、可能な限り軍事情報を集めろと……」

「アリシアさんに聞いた通りのことになりそうですね」

 アリシアさんとセラフィがフランさんに会いに来たその日、再会を果たしたアリシアさんはこの国に来た目的を教えてくれた。
 それはボロン王国とアルゴン帝国で近いうちに戦争が起こり、アリシアさんの住むエイスフル教国もボロン王国側につくと……。

「そのようですね。まさかソーコさんのお仲間がアルゴン帝国の『影』だったのは予想外でしたけど……」

「う、面目ないです……」

「ほら、あなたの行動1つで主様に迷惑を掛けるのよ?」

「お館様、申し訳ありません……。アリシア殿、すべての罪はこのチヨメにある。お館様は関係ないから、どうか責めるのは私だけにしてほしい……」

「あー! またアリシアがいじめてるのです!?」

「ち、ちがっ……私はただ驚いただけで! 本当に責めるつもりなんてないですから!」

 セラフィが大きな声を出すと、アリシアさんはあわあわと慌てて訂正した。
 この2人、なんだか本当にいい関係を築けてるみたいだ。
 こんな時だけど、セラフィの成長を見られて良かった。

「アリシア、そんなに慌てなくても大丈夫ですわ。みんなわかってますわよ。ね、フェルさん」

「え、あ、はい! アリシアさんが優しい人なのはフェルも知ってます!」

 フランさんとフェルがアリシアさんをフォローした。
 この2人も結構一緒にいるのを見かけるから、友達のようになれたみたいだ。

「おいおい、いつまでも話が進まねぇぞ。それでもう1つの命令ってのはなんなんだよ?」

「そうだね。もう1つはなんだったの?」

「……モーリブ商会の商会長を暗殺することです」

「なんですと!?」

 テッドさんはまさかここで自分の名前が出るとは思わず、驚きの声を上げた。

「お、お父様を……?」

「あなた……」

 フランさんとリリアンさんも、驚き心配そうな顔を浮かべた。

「……それで、チヨメがここにいたってことか。僕を襲ったのは見つかったからかい?」

「はい……」

 チヨメは蚊の鳴くような小さな声で返事をした。

「それであの時あんな思い詰めた顔をしてたんですね……」

「でも、どうしてアルゴン帝国はお父様を……?」

 アリシアさんは納得したように呟き、フランさんは疑問を口にした。

「そう言われれば、たしかにそうですね。軍の幹部とかならわかるけど、なんで商人のテッドさんが?」

「……理由は聞いてませんが、モーリブ商会が王国を支えている商会なので狙われたのもかもしれません。恐らくミーンは、戦争で勝利するために食料や物資の供給元を潰そうとしたのかもしれません」

「我が商会はこの国ではもっとも大きな商会だと自負しています。……チヨメ殿の言うように、私が倒れれば商会に混乱が起きます。そのタイミングで戦争が起きれば我が国は一気に形勢が不利になるでしょうな。ううむ……」

 テッドさんが難しい顔で唸る。
 国と国が争う事態が大きく動き出したことに、僕は言いしれぬ不安を感じるのだった。
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