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51.おもてなし

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「ソーコさんたちはどちらから来ましたの?」

 王都に向かう馬車の中、僕はフランさんと向かい合っていた。
 本来なら、エドガーさんやアンジェたちのように馬車の外で護衛するはずだけど、なぜかフランさんに「お話相手になってくださいな」と誘われてしまった。
 なので今馬車の中には、僕とフェル、向かい合ってフランさんとフランさん専属メイドのアメリシアさんが同乗していた。

「僕たちはハイドニアから来ました。途中、へリニアの街で仲間と合流して、王都に向かってたんです」

「まあ、そうだったんですの。へリニアといえば、スタンピードが起きたと聞きましたけど……」

 さすが商人だ。耳が早い。

「そうですね。ちょうど僕たちが街に着いた頃にスタンピードが起きまして……でも、冒険者総出で対処してなんとか事なきを得ましたよ」

「素晴らしいですわ! ソーコさんたちも参加しましたの?」

「はい。あそこにいるネオンという者がAランク冒険者なので、かなり頑張ってオーガを倒してましたよ。僕たちも他の雑魚敵をちまちまと――」

「Aランク冒険者!? しかもオーガを!?」

 フランさんが急に立ち上がり、僕の目の前数センチにまで顔を近付けた。
 僕は跳ね上がる鼓動を鎮めつつ、

「え、ええ、まあ……」

「すごいですわ! Aランクなんて、王都でも少ないですのに……それにオーガなんて、1匹でも村1つを壊滅させるとまで言われるほどですわ。本当にお強いパーティーでしたのね。ソーコさんや他の方たちもAランクですの?」

「いや、彼以外は全員まだEランクなんです。もちろん僕も。ネオンは長年へリニアで冒険者として活動してたんですけど、僕たちはまだ登録して日が浅いので……」

 AランクとEランクでは差が大きすぎて印象が悪いかもしれないけど、ここは嘘をつかずに正直に話した。

「あら、そうなんですの。でも、実力はエドガーさんのお墨付きですし、きっとすぐにランクも上がりますわね」

「そうなれるように努力ですね。それはそうと……僕とフェルも外で護衛したほうがよくないですか?」

 僕たちがのほほんと馬車に乗ってるのに、他のみんなは外で働いてるのはなんだか申しわけなくなってくる。

「大丈夫ですわ。人数も増えましたし、それに護衛対象の近くにも護衛はいたほうがよくなくて?」

「まぁ、それはたしかに……」

「そうでしょう? それに……うふふ」

「?」

 フランさんが僕たちのほうを見て、なにか含みを持たせて笑う。

「私はかわいい子にがないんですの。特にお二人はかわいらしいですわ! それはもう、王都でもいないくらいに――」

「お嬢様、その辺にしたほうがよろしいかと……」

「じゅるり……ハッ! ――そ、そうですわね。おほほほほ……」

 アメリシアさんに窘められたフランさんの顔は、若干赤みがかっていた。

 ――あれ、なんかフランさんて……女の子が好きな感じかこれ?

 フランさんの態度から僕にはそんな感じがした。
 まぁ、言ってみれば僕も今は女の子の見た目だけど、好きなのは女の子だし。
 Win-Winな関係だから、それならそれでよしとしとこう、うん。


 ◆◇◆


「見えてきましたわ。ソーコさん、フェルさん、あれが王都ですわ」

「おー、やっぱリアルで見ると迫力あるなぁ」

「りある?」

「あ、いえ……」

 王都なだけあって、これまで訪れたどの街よりも壮大な佇まいだった。
 門の前にも長蛇の列ができており、いったいどれくらい待たされるのだろうと、今からうんざりするほどだった。

「あれ、列に並ばなくて大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫ですわ」

 僕たちを乗せた馬車は、並ぶ列の横を通り抜け、大きな門の前まで行って止まった。
 御者が衛兵に何かを言うと、衛兵は馬車を確認して、

「開門!」

 と大きな声で門を開ける指示を出した。

「えっと、フランさんってもしかしてすごい方です? 衛兵が敬礼までしてるし……」

 僕はフランさんに恐る恐る尋ねた。

「うふふ そんなことありませんわ。ただモーリブ商会は、この国で名の売れた商会ですの。ですから、 兵士の方たちが少しだけ融通をしてくださるのよ」

「少しだけ、ですか」

 ――どう考えても少しだけっていう兵士の態度じゃなかった気がするけどなぁ。

「ええ。それはそうと、このまま家に行ってもよろしいかしら? 報酬をお渡ししたいですし、それに是非お礼をさせてほしいですわ」

「お礼だなんてそんな……護衛の報酬だけで十分ですよ」

「そんな恥知らずなマネできませんわ! 命の恩人をもてなさないなんて、モーリブ商会の名折れですわ」

「そ、そうですか……わかりました、それなら喜んでお受けします」

 そこまで言われたらしかたないと僕が折れると、

「よかったですわ!」

 フランさんはパアッと顔を輝かせるのだった。
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