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49.正しい選択
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「この街に護衛依頼はないんですか?」
「うーん、アルゴン帝国に行く護衛依頼は今のところないわね。他の街に行く護衛依頼ならあるんだけど……アルゴン帝国に行ける商人となると、それなりに大規模な商隊となるでしょうし、王都のほうが質のいい冒険者も集まりやすいのよね」
質のいい冒険者か……それって、
「僕たちFランクですけど、大丈夫なんですかね?」
ヨークたちにも初心者って言われたし、Fランク冒険者が質の良い冒険者とは到底思われそうにない気がする。
「ネオンもついていくんでしょ? 彼ならAランクだし、なんとかなるかもしれないわ。あとは、それで受け入れてくれる商隊を探すしかないわね。あ、でも、あなたたちはFランクじゃなくなるわよ?」
「え、そうなんですか?」
「ええ、今回のあなたたちの功績でEランクに昇格よ。まあそれでも、護衛任務ってなると普通は最低Dランク以上なところがあるんだけどね。あとは、あなたたちの実力を依頼主に見せるっていう方法もあるけどね」
「依頼主に実力を見せる、ですか……」
ふーむ、今のままだと依頼を受けるのは結構難しいかもしれないなぁ。
たしかにネオンがいれば、パーティーとしてのランクは底上げされるけど、そのほとんどはEランクなわけだし……依頼主はあまりいい顔しないよなぁ。
あれ、そもそも――、
「ちゃんとネオンの意思を確認してなかったけど、これからまた僕たちと一緒に旅してくれるの?」
僕はもっとも重要なことを今さら確認した。
「もちろんです、姐御!」
「そか、よかった。でも、この街でネオンが一番頼りにされてる存在なんでしょ? いなくなっちゃって本当に大丈夫なのかな」
「う、それは……」
ネオンが口ごもってしまった。
すると――、
「姐御! 後のことは俺らに任せてください!」
ヨークたちだった。
「お前ら……」
「兄貴、心配しないでください。これからは、心を入れ替えて兄貴のようにこの街のために尽くします。だから、安心して姐御のお側にいてください」
ヨークが胸を張ってそうネオンに言った。
いつの間にか、ネオンの真似をするように『姐御』呼びになってしまったみたいだ。
「姐御、あの時は本当にすみませんでした。依頼をこなした疲労感と達成感で変なテンションになってしまって、姐さん方にもご迷惑をかけてしまって本当に申し訳ないです。今度こそ、兄貴の弟分として恥ずかしくないよう、きっちり冒険者として頑張ります。だから、どうか兄貴をよろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いします!」」」
そう言って、ヨークたちは一斉に頭を下げた。
彼らの瞳を見る限り嘘はついてないように思えた……まぁ、僕はあんまり人を見る目がないみたいだけどね。
でも、ネオンのことは信頼しているから、その弟分である彼らのことも信頼してみようと思う。
「うん、わかったよ。ネオンの顔を潰さないように今度はちゃあんとやるんだよ?」
「へい、姐御!」
ヨークたちは、さっそく今回のスタンピードで被害があったところに手伝いに行くと言い、冒険者ギルドを出て行った。
セレンさんによると、彼らは今回の報酬を固辞して補償に充ててくれと言ったそうだ。
人が変わったみたいに、積極的に働いて貢献してるみたいだ。
これなら、あの言葉を信じてみてもいいかもしれないね。
それじゃあ準備が整い次第、さっそくに向かおうか。
こうして僕たちはレオンとともに王都に向かうことになった。
◆◇◆
――ボロン王国 王都近郊
「チヨメ様、軍内部に忍び込ませることに成功しました。徐々に情報も集まってくるかと思います」
「……そう」
チヨメたちくノ一は、アルゴン帝国の『影』と呼ばれる諜報部隊としてボロン王国に侵入していた。
目的は軍事関連の機密情報の入手とモーリブ商会長の暗殺だった。
「……暗殺は私が実行する。あなたたちはこのまま情報を集めることに集中して」
「チヨメ様にはこのまま指揮を取っていただいたほうがよろしいかと。暗殺でしたら私が――」
「――いい」
チヨメは部下を一顧だにもせず、即座に否定した。
「ですが……」
「私がそれを望んでいる。問題ない」
「……承知しました」
一度決めたことは何があってもひっくり返さないという頑固さを、部下である彼女は知っていた。
捕まってしまった仲間のこともあり、チヨメ自らがもっとも危険な任務に就くことを願っているのだろうと、彼女は理解した。
「何かあればお呼びください。すぐに駆けつけます。では……」
そう言って、チヨメの前から姿を消した。
チヨメは空を見上げ――、
「お館様……」
もう何百年も会えない、会うことのできない敬愛する彼女の主の名前を呟いた。
「私は……チヨメは、これで正しいのでしょうか……?」
ボロン王国の軍事情報を入手し、商会長を暗殺するのは、すべてアルゴン帝国の勝手な都合だ。
部下を守るためとはいえ、罪もない一般人を殺すことが正しい選択とはとても思えなかった。
しかし、チヨメにはもうどうしていいかわからなくなっていた。
「お館様……どうしたら……」
チヨメの問いに返す声はなく、その答えは見つからなかった。
「うーん、アルゴン帝国に行く護衛依頼は今のところないわね。他の街に行く護衛依頼ならあるんだけど……アルゴン帝国に行ける商人となると、それなりに大規模な商隊となるでしょうし、王都のほうが質のいい冒険者も集まりやすいのよね」
質のいい冒険者か……それって、
「僕たちFランクですけど、大丈夫なんですかね?」
ヨークたちにも初心者って言われたし、Fランク冒険者が質の良い冒険者とは到底思われそうにない気がする。
「ネオンもついていくんでしょ? 彼ならAランクだし、なんとかなるかもしれないわ。あとは、それで受け入れてくれる商隊を探すしかないわね。あ、でも、あなたたちはFランクじゃなくなるわよ?」
「え、そうなんですか?」
「ええ、今回のあなたたちの功績でEランクに昇格よ。まあそれでも、護衛任務ってなると普通は最低Dランク以上なところがあるんだけどね。あとは、あなたたちの実力を依頼主に見せるっていう方法もあるけどね」
「依頼主に実力を見せる、ですか……」
ふーむ、今のままだと依頼を受けるのは結構難しいかもしれないなぁ。
たしかにネオンがいれば、パーティーとしてのランクは底上げされるけど、そのほとんどはEランクなわけだし……依頼主はあまりいい顔しないよなぁ。
あれ、そもそも――、
「ちゃんとネオンの意思を確認してなかったけど、これからまた僕たちと一緒に旅してくれるの?」
僕はもっとも重要なことを今さら確認した。
「もちろんです、姐御!」
「そか、よかった。でも、この街でネオンが一番頼りにされてる存在なんでしょ? いなくなっちゃって本当に大丈夫なのかな」
「う、それは……」
ネオンが口ごもってしまった。
すると――、
「姐御! 後のことは俺らに任せてください!」
ヨークたちだった。
「お前ら……」
「兄貴、心配しないでください。これからは、心を入れ替えて兄貴のようにこの街のために尽くします。だから、安心して姐御のお側にいてください」
ヨークが胸を張ってそうネオンに言った。
いつの間にか、ネオンの真似をするように『姐御』呼びになってしまったみたいだ。
「姐御、あの時は本当にすみませんでした。依頼をこなした疲労感と達成感で変なテンションになってしまって、姐さん方にもご迷惑をかけてしまって本当に申し訳ないです。今度こそ、兄貴の弟分として恥ずかしくないよう、きっちり冒険者として頑張ります。だから、どうか兄貴をよろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いします!」」」
そう言って、ヨークたちは一斉に頭を下げた。
彼らの瞳を見る限り嘘はついてないように思えた……まぁ、僕はあんまり人を見る目がないみたいだけどね。
でも、ネオンのことは信頼しているから、その弟分である彼らのことも信頼してみようと思う。
「うん、わかったよ。ネオンの顔を潰さないように今度はちゃあんとやるんだよ?」
「へい、姐御!」
ヨークたちは、さっそく今回のスタンピードで被害があったところに手伝いに行くと言い、冒険者ギルドを出て行った。
セレンさんによると、彼らは今回の報酬を固辞して補償に充ててくれと言ったそうだ。
人が変わったみたいに、積極的に働いて貢献してるみたいだ。
これなら、あの言葉を信じてみてもいいかもしれないね。
それじゃあ準備が整い次第、さっそくに向かおうか。
こうして僕たちはレオンとともに王都に向かうことになった。
◆◇◆
――ボロン王国 王都近郊
「チヨメ様、軍内部に忍び込ませることに成功しました。徐々に情報も集まってくるかと思います」
「……そう」
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目的は軍事関連の機密情報の入手とモーリブ商会長の暗殺だった。
「……暗殺は私が実行する。あなたたちはこのまま情報を集めることに集中して」
「チヨメ様にはこのまま指揮を取っていただいたほうがよろしいかと。暗殺でしたら私が――」
「――いい」
チヨメは部下を一顧だにもせず、即座に否定した。
「ですが……」
「私がそれを望んでいる。問題ない」
「……承知しました」
一度決めたことは何があってもひっくり返さないという頑固さを、部下である彼女は知っていた。
捕まってしまった仲間のこともあり、チヨメ自らがもっとも危険な任務に就くことを願っているのだろうと、彼女は理解した。
「何かあればお呼びください。すぐに駆けつけます。では……」
そう言って、チヨメの前から姿を消した。
チヨメは空を見上げ――、
「お館様……」
もう何百年も会えない、会うことのできない敬愛する彼女の主の名前を呟いた。
「私は……チヨメは、これで正しいのでしょうか……?」
ボロン王国の軍事情報を入手し、商会長を暗殺するのは、すべてアルゴン帝国の勝手な都合だ。
部下を守るためとはいえ、罪もない一般人を殺すことが正しい選択とはとても思えなかった。
しかし、チヨメにはもうどうしていいかわからなくなっていた。
「お館様……どうしたら……」
チヨメの問いに返す声はなく、その答えは見つからなかった。
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