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魂喰い
少年は合流した(絵有)
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遠くに、しゃがんだアイラスと側に立つレヴィが見えた。トールの姿がどこにもない。焦って駆け足になると、レヴィがこちらに気付いて、アイラスに声をかけていた。
少女は弾けるように立ち上がり、ロムの方へ顔を向けた。そのままレヴィに抱きつき、はしゃいでいる様子が見て取れた。
何だか複雑な気持ちだった。
無事を喜んでくれるのは嬉しい。でも、そんなに心配されるほど、自分は信用されてないのだと情けなくなった。実際、危なかった。
近づくと、トールは猫の姿で横たわっているのだとわかった。ひとまず安心して、アイラスに声をかけた。
「遅くなってごめん。トールはどうなの?」
ピクリとも動かない彼が心配で、のぞきこんだ。息をしていないように見えて、心臓が縮みあがる思いがした。
よく見ると、酷く浅い呼吸をしている。以前、白い悪魔にやられた時に似ていた。
再び嫌な予感がした。喉が渇き、指先が痺れるような感覚があった。
アイラスは重い表情で目を伏せていて、聞いておきながら、答えを聞きたくなかった。
「心配すんな。壊死した肉体はアイラスが治してくれたし、今は生き返っている。後は……」
「……後は?」
「傀儡に奪われた魂を取り戻すだけだ。おそらく、城内のソウルイーターが持っている」
視界がグラリと歪んだ。倒れそうになった気がして、足に力を入れた。なんで悪い予感って当たるんだろう。
「情けない、なぁ……。何が『神の子』だよ……やられてばっかり、じゃん……」
強がって笑おうとしたけれど、声が震えているのが自分でもわかった。
「そうだな。叩き起こして説教だな」
レヴィのからかうような声に顔を上げた。彼女の表情はよくわからないけれど、口元は笑っていた。
それは自分と同じ強がりなのか、自信なのか。どちらにせよ、諦めてないのだとわかった。
「どうせぶっ殺す予定で来たんだろ? さっさと倒してトールも取り戻すぞ」
「……手は、あるの?」
「ああ。お前が戻ってこなかったら、二人で二人を取り戻す予定だったしな」
「心配かけて、ごめん……」
先程はしゃいでいたアイラスを思い出した。しゃがみ込んでいる彼女を見下ろすと、炭を持ってスケッチブックに何か書き込んでいた。
「何を書いているの?」
「ソウルイーターを倒す準備だヨ」
「不完全な状態の言霊を書いてんだよ。文字が欠けてんだろ? 書ききると、今発動しちまうからな」
「俺にはわかんないよ……」
気づくと、アイラスの手が震えていた。顔をのぞきこむと、視線に気付いて手を止めた。目を合わせてきた顔は、酷く申し訳なさそうだった。
「ごめんネ……」
「何で謝るの?」
「本当は……本当はネ。たくさん準備、してたノ……」
アイラスは炭を置き、スケッチブックをパラパラとめくった。半分以上に、びっしりと何かが書き込んであった。
ロムには理解できない記号のような文字。それらは全部、言霊なのだとわかった。
「さっきみたいに、襲われた時に、防ぐ魔法や、攻める魔法を……。でも、とっさに、使えなかった……」
ため息をついて、またスケッチブックをめくった。先ほどのページを開いて、膝の上に置いて炭を拾った。でも、手の震えは止まらないようだった。
「アイラスは頑張ってるよ」
震えるその手を、上から包むように握った。それはとても冷たかった。
「相手が悪かったよ。トールだって反応できてなかった。俺だって、守れなくて……ごめん」
「そんな事ない、ロムだって頑張ってる。あんなの速すぎだヨ。あんなのから、よく逃げ切れたなって思うもん」
「そうだよね。飛ぶとかズルイよね。あんなのとらえられるの、レヴィくらいじゃない?」
「なんで俺が引き合いに出されるんだよ」
笑い声が響き、小さな手の震えは止まっていた。心無しか、温かくなっていた。
「ごめんネ。もう少し、準備に時間かかるから……」
頷いて手を離し、ずっと見ていたらやりにくいだろうと思って、レヴィの方を向いた。
「そうだレヴィ。あいつ、なんか妙だったよ」
「何がだ?」
「俺の位置を正確に把握できない時があったんだ。俺が魔法使いじゃないからかな……」
「それは関係ねえ。あいつは音しかわからねえんだよ」
あっと思った。
狙いを外したのは、ロムが足音を消して移動した後だった。最初に襲われた時は、レヴィが呟いていた。トールも叫んだ直後に襲われた。
自分を追ってきたのは、立ち止まった足音を聞き、呼びかけに反応しただけだったのか。
仕組みがわかると、希望が見えてくるようだった。音を立てなければ、自分でもやれる。次は当てられる気がした。
「魔力が関係ないなら、この魔具はレヴィが持っておいてよ。その方が安心だし……」
「いや待てよ。そんなに簡単に決めるな。お前、作戦の内容も聞いてねえだろ?」
「俺は何をすればいいの?」
「それを今から決めるんだよ。お前がな。リーダーだろうが」
こんな状況で、押し付けられたリーダーの話を出さないで欲しい。
そう思ったけれど、レヴィはこの状況を利用して、何か教えたいのかもしれない。無謀な計画を立てようものなら、彼女が正してくれるだろう。
頷いて、レヴィの説明を待った。
少女は弾けるように立ち上がり、ロムの方へ顔を向けた。そのままレヴィに抱きつき、はしゃいでいる様子が見て取れた。
何だか複雑な気持ちだった。
無事を喜んでくれるのは嬉しい。でも、そんなに心配されるほど、自分は信用されてないのだと情けなくなった。実際、危なかった。
近づくと、トールは猫の姿で横たわっているのだとわかった。ひとまず安心して、アイラスに声をかけた。
「遅くなってごめん。トールはどうなの?」
ピクリとも動かない彼が心配で、のぞきこんだ。息をしていないように見えて、心臓が縮みあがる思いがした。
よく見ると、酷く浅い呼吸をしている。以前、白い悪魔にやられた時に似ていた。
再び嫌な予感がした。喉が渇き、指先が痺れるような感覚があった。
アイラスは重い表情で目を伏せていて、聞いておきながら、答えを聞きたくなかった。
「心配すんな。壊死した肉体はアイラスが治してくれたし、今は生き返っている。後は……」
「……後は?」
「傀儡に奪われた魂を取り戻すだけだ。おそらく、城内のソウルイーターが持っている」
視界がグラリと歪んだ。倒れそうになった気がして、足に力を入れた。なんで悪い予感って当たるんだろう。
「情けない、なぁ……。何が『神の子』だよ……やられてばっかり、じゃん……」
強がって笑おうとしたけれど、声が震えているのが自分でもわかった。
「そうだな。叩き起こして説教だな」
レヴィのからかうような声に顔を上げた。彼女の表情はよくわからないけれど、口元は笑っていた。
それは自分と同じ強がりなのか、自信なのか。どちらにせよ、諦めてないのだとわかった。
「どうせぶっ殺す予定で来たんだろ? さっさと倒してトールも取り戻すぞ」
「……手は、あるの?」
「ああ。お前が戻ってこなかったら、二人で二人を取り戻す予定だったしな」
「心配かけて、ごめん……」
先程はしゃいでいたアイラスを思い出した。しゃがみ込んでいる彼女を見下ろすと、炭を持ってスケッチブックに何か書き込んでいた。
「何を書いているの?」
「ソウルイーターを倒す準備だヨ」
「不完全な状態の言霊を書いてんだよ。文字が欠けてんだろ? 書ききると、今発動しちまうからな」
「俺にはわかんないよ……」
気づくと、アイラスの手が震えていた。顔をのぞきこむと、視線に気付いて手を止めた。目を合わせてきた顔は、酷く申し訳なさそうだった。
「ごめんネ……」
「何で謝るの?」
「本当は……本当はネ。たくさん準備、してたノ……」
アイラスは炭を置き、スケッチブックをパラパラとめくった。半分以上に、びっしりと何かが書き込んであった。
ロムには理解できない記号のような文字。それらは全部、言霊なのだとわかった。
「さっきみたいに、襲われた時に、防ぐ魔法や、攻める魔法を……。でも、とっさに、使えなかった……」
ため息をついて、またスケッチブックをめくった。先ほどのページを開いて、膝の上に置いて炭を拾った。でも、手の震えは止まらないようだった。
「アイラスは頑張ってるよ」
震えるその手を、上から包むように握った。それはとても冷たかった。
「相手が悪かったよ。トールだって反応できてなかった。俺だって、守れなくて……ごめん」
「そんな事ない、ロムだって頑張ってる。あんなの速すぎだヨ。あんなのから、よく逃げ切れたなって思うもん」
「そうだよね。飛ぶとかズルイよね。あんなのとらえられるの、レヴィくらいじゃない?」
「なんで俺が引き合いに出されるんだよ」
笑い声が響き、小さな手の震えは止まっていた。心無しか、温かくなっていた。
「ごめんネ。もう少し、準備に時間かかるから……」
頷いて手を離し、ずっと見ていたらやりにくいだろうと思って、レヴィの方を向いた。
「そうだレヴィ。あいつ、なんか妙だったよ」
「何がだ?」
「俺の位置を正確に把握できない時があったんだ。俺が魔法使いじゃないからかな……」
「それは関係ねえ。あいつは音しかわからねえんだよ」
あっと思った。
狙いを外したのは、ロムが足音を消して移動した後だった。最初に襲われた時は、レヴィが呟いていた。トールも叫んだ直後に襲われた。
自分を追ってきたのは、立ち止まった足音を聞き、呼びかけに反応しただけだったのか。
仕組みがわかると、希望が見えてくるようだった。音を立てなければ、自分でもやれる。次は当てられる気がした。
「魔力が関係ないなら、この魔具はレヴィが持っておいてよ。その方が安心だし……」
「いや待てよ。そんなに簡単に決めるな。お前、作戦の内容も聞いてねえだろ?」
「俺は何をすればいいの?」
「それを今から決めるんだよ。お前がな。リーダーだろうが」
こんな状況で、押し付けられたリーダーの話を出さないで欲しい。
そう思ったけれど、レヴィはこの状況を利用して、何か教えたいのかもしれない。無謀な計画を立てようものなら、彼女が正してくれるだろう。
頷いて、レヴィの説明を待った。
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