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6.――「このタルトかケーキかで迷ってます……」

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「少し久しぶりだな。体調はどう?」
「大丈夫、だと思います」
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
 土曜日の昼下がり。
 侑誠さんは約束していたよりも随分と早い時間に、私を迎えにきてくれた。
 直前まで着ていく服に迷っていた私は、どぎまぎしながら侑誠さんを出迎えることとなった。今日の服、変じゃないかな。侑誠さんの好みに合ってるのかな。そんな不安でぐるぐるしている。
「ほら、流華はこっち」
 外に出ると、侑誠さんはすっと私を車道側から遠ざけた。
 その優しさがなんだかくすぐったくて、思わず頬が綻びそうになる。それを侑誠さんに見られるのはなんだか気恥ずかしくて、私は頬をぐにぐにといじって誤魔化した。
「今日も、いつもの喫茶店で良いんだよな?」
「はい。席は予約しているので、ご安心ください」
「予約?」
 私はなにか変なことを言ってしまったのだろうか、侑誠さんは不思議そうに私を見た。
「は、はい」
 頷いて、喫茶店から電話がきた経緯を話す。
 侑誠さんはぽかんとした様子で聞いていて、いよいよもって余計なことをしてしまった感が増していく。
「あの、もしかして私、余計なことをしてしまいましたか?」
 だから私は、率直に尋ねることにした。
 これまで予約していたのなら問題ないと思ったのだけれど、もしかしたら侑誠さんには内緒で行っていたのかもしれない。過去になにか一悶着あった可能性だって考えられる。
「いや、大丈夫。全然問題ないんだけど……その、流華が予約してたこと、僕は知らなかったから」
 そうして侑誠さんは、耳を赤くしつつ、言う。
「いつもありがとうな、流華」
 侑誠さんの不器用な微笑みに、私もつられて照れる。
「どど、どういたしまして」
 なんだか、居心地の良いような悪いような、ふわふわとした気分になった。
 ふわふわしていて、くつくつしていて。
 そうして、気づけば件の喫茶店に到着していた。
 席に着いて、各々メニューを広げる。
 季節のタルトとケーキがとても美味しそうだけれど、昼食を食べてからそう時間が経っていない今は、どちらかひとつが精々だろう。
「流華、なに頼むか決めた?」
「あ……ええと、ええと……」
 侑誠さんに問われ、慌てて決断を下そうとする。
 タルトか、ケーキか。
「なに、迷ってるの? どれとどれ?」
 メニュー表を共有するよう促され、私は正直に、
「このタルトかケーキかで迷ってます……」
と白状した。
「ふうん。……それじゃ、僕がタルトを頼むから、流華はケーキを頼みなよ。それで半分こすれば良いじゃん」
「い、良いんですか?」
「うん」
「やったあ! ありがとうございます」
 えへへ、と堪らず笑みが零れた。
 すると侑誠さんが、なにやら不意打ちを喰らったようにぐっと喉を鳴らしたが、急にどうしたのだろう。まあ良いや。タルトとケーキ、楽しみだな。


 侑誠さんとスイーツを半分こし、舌鼓を打ちつつ雑談に興じる。
 今の私にとっては雑談の引き出しがほとんどないのだけれど、侑誠さんがいろいろな話題を振ってくれるおかげで、私たちの間に沈黙が横たわることはなかった。
 こんなに楽しい時間を毎月過ごしていたのに、私はそれを忘れてしまっているんだ。
 そう思うと、胸が苦しくなった。
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