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10月7日(月)
(4)――大切な友達のために、足を止める気はなかった。
しおりを挟む保健室を出ると、教室のほうから生徒達の声が聞こえてきた。
恐らく、六限目が少し早めに終わったクラスがあるのだろう。それがあいつらのクラスでない保証はどこにもない。であれば、チャイムが鳴るまで本当に時間がない。
教室へ自分の荷物を取りに行く時間はない。
そう判断した僕は、その身ひとつで学校を飛び出し、自転車を取りに向かった。
こんなとき、頭は余計なことばかりを考える。不安と恐怖が綯い交ぜになって、あることないことばかりが様々に想像を巡らせてしまう。こんなときばっかり想像力豊かでも、意味がないというのに。
背後から、六限目の終わりを告げるチャイムが鳴るのが聞こえた。ああくそ、いよいよもって時間がない。
心臓を誰かに掴まれているような感覚に襲われながら、僕は走る。自転車を隠している場所までは五分とかからない場所なのに、三十分も歩き通したような気分だった。
果たして、僕の自転車は無事だった。
先生受けの良さを保とうとするあいつらのことだ、授業が終わってから、べらべらと喋りながら、ゆっくり神社へ向かうに違いない。大丈夫、これなら僕のほうが先回りできるはずだ。それなら確実に少女を神社から脱出させられる。
鈍い痛みを訴え続ける身体に鞭打って、僕は自転車に跨がり先を急ぐ。
学校から神社までを繋ぐ道は、三つ。
国道か、県道か、農道か。
僕は一瞬だけ迷い、それでも確実性を取って、僕は県道を選んだ。こんなときに一か八かの賭けで農道を選び、変な場所に出てしまったら目も当てられない。
「――わっ」
道路の亀裂にハンドルを取られ、転倒してしまった。受け身も取れなかった僕の身体は、無様にコンクリートの地面に叩きつけられた。田舎の道路は整備不良のところが多くて、本当に嫌になる。しかしそれは、いつもなら普通に避けられていたものだった。
「くそ、くそ……!」
悪態をつきながら、倒れた自転車を起こす。
気持ちばかりが急いだって、ろくなことはない。
落ち着いて、冷静に。
「――あ」
ふいに神社のある方角へ目を向けた、その先。
その木々の隙間から、数人の人影が見えた。
この距離では顔までは判別できないが、人影は三つ。全くの別人であればと願うが、この状況ではあいつら以外だと思うほうが難しい。
このままじゃ、あいつらのほうが先に神社に着いてしまう。
――アキに一言もなくここから出て行きはしない。
昨日の約束が、まるで呪いのように頭の中で反響する。それを振り払うように、僕は乱暴に自転車に乗り直した。
かつて経験したことのない不安と吐き気で、視界が歪むような錯覚を覚える。それでも僕は、先へ進むのをやめようとは思わない。
あのときああしていれば、なんて後悔は、もうしたくないんだ。
だから僕は、どれだけの恐怖と不安にまとわりつかれようとも。
大切な友達のために、足を止める気はなかった。
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