美しい嘘

四十九院紙縞

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(7)――「私は今夜、死ぬだろう」

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 不死身の魔女の終わりは、魔女狩りの襲撃から数年後、緩やかに訪れた。
 むしろ、身体中を矢に貫かれた状態で数年ももったほうが奇跡としか、言いようがなかった。
 少年は毎日甲斐甲斐しく魔女の傷の手当てを行い、少しでも滋養がつくような食事を作り続けた。
 それでも、日々魔女は衰弱していく。
 魔女は、寝ている時間のほうが長くなっていった。微睡みの中を生きるような生活で、それでも魔女は、日記を書くことだけは辞めなかった。
「私は今夜、死ぬだろう」
 ある日の夜。
 二人で夕飯を囲っていた折、魔女は零すようにそう言った。
「……そっか」
 死期を悟った魔女に、少年はそれだけの言葉しか返せなかった。
 激励も間然かんぜんも、既にひとしきりやり終えたあとだったのだ。そのあとに残るのは、受容だけである。
 その後の夕飯は無言のまま終わり、少年は自室に引っ込んでしまった。
 少年にとってはこれが、初めて経験する身近な者の死になるのだろう。それに対してどう向き合えば良いのか、心の整理は必要だ。唐突に目の当たりにするより、事前に告知しておいたほうが良いだろうと思ってのことだったが、まさか自室に籠もるとは、魔女は考えていなかった。
 最期は人並みに見送られて死にたいものなんだな。
 そんなことを考えながら、魔女は嘆息した。
「ネリネ、起きてるか?」
 と。
 ドアをノックし魔女の部屋に入ってきたのは、ティーセットを持った少年だった。
 少年は慣れた手つきで茶を淹れると、そっと魔女の手に持たせた。魔女一人の力ではティーカップさえ碌に持てなくなった今、当然少年の補助つきだ。
「このお茶は毒入りだ。あんたは、僕特製の毒入り茶で死ねるんだ」
 少年のその言葉に嘘が含まれているかどうかは、今の魔女でも把握できる。魔術が使えなくても、少年は思考が顔に出やすいのだ。それは、金輪際教えてやるつもりはないのだけれど。
 魔女は淹れてもらった茶を見、それから、少年の顔を見遣った。
 自信に満ち足りた顔。それでいて、僅かに浅い呼吸。
 ああ、そうか。そうなのか。
「嬉しいなあ」
 それは、これ以上ない美しい死にかただ。
 魔女はにこやかに笑い、少年の手を借りて茶を飲み干したのだった。
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