6 / 9
(6)――「それが魔女という生き物なのさ」
しおりを挟む
次に魔女が目を覚ましたとき、その身体は見覚えのない場所にあった。
いや、厳密に言えば知らない場所ではない。
魔女自身の転移魔法で飛んできたここは、数百年前に拠点にしていた家だ。人間が立ち入らない深い森の中に建てた家で、その自然の豊かさを気に入り、長居した場所でもある。
まだ残っていたのだな、と安堵した、そのとき。
がちゃりと音を立ててドアが開き、そこから見慣れた真っ白な少年が姿を現した。
「起きたのか、ネリネ。調子はどうだ?」
少年の手には、魔女の看病に使おうとしたのだろう、替えの包帯や、身体を拭く為のタオルがある。
「全身が痛い」
「だろうな。お前、三日間も眠ってたんだぞ」
「そりゃあ、苦労をかけたな」
そんなやりとりをしながら、少年は魔女の身体が横たえられているベッドの側にあった椅子に座る。
「傷は、治るんだよな?」
「いいや、もう治らない」
少年に妙な期待を持たせても意味がないと判断した魔女は、ばっさりと言い切る。
「私の身体に生まれつき在った魔術回路が破壊されたんだ。この身体に受けた傷は、もう二度と治ることはないだろうよ」
「そんな……。人間だって傷は治るのに……!」
少年は、信じられないと言わんばかりに声を震わせていた。
「それが魔女という生き物なのさ。はは、全身穴ボコだな」
茶化すように言って空気を和ませようとした魔女だったが、それは失策に終わる。
少年は、静かに涙を流していたのだ。
「僕以外に殺されそうになってんじゃねえよ……」
「安心しろ、ライ。私はまだ生きている。だからお前の手で、美しく殺してくれ。な?」
そう言って、魔女は少年の頭を優しく撫でた。
それさえやっとの思いで手を動かさなければならず、魔女は人知れず苦虫を噛み潰した。
いや、厳密に言えば知らない場所ではない。
魔女自身の転移魔法で飛んできたここは、数百年前に拠点にしていた家だ。人間が立ち入らない深い森の中に建てた家で、その自然の豊かさを気に入り、長居した場所でもある。
まだ残っていたのだな、と安堵した、そのとき。
がちゃりと音を立ててドアが開き、そこから見慣れた真っ白な少年が姿を現した。
「起きたのか、ネリネ。調子はどうだ?」
少年の手には、魔女の看病に使おうとしたのだろう、替えの包帯や、身体を拭く為のタオルがある。
「全身が痛い」
「だろうな。お前、三日間も眠ってたんだぞ」
「そりゃあ、苦労をかけたな」
そんなやりとりをしながら、少年は魔女の身体が横たえられているベッドの側にあった椅子に座る。
「傷は、治るんだよな?」
「いいや、もう治らない」
少年に妙な期待を持たせても意味がないと判断した魔女は、ばっさりと言い切る。
「私の身体に生まれつき在った魔術回路が破壊されたんだ。この身体に受けた傷は、もう二度と治ることはないだろうよ」
「そんな……。人間だって傷は治るのに……!」
少年は、信じられないと言わんばかりに声を震わせていた。
「それが魔女という生き物なのさ。はは、全身穴ボコだな」
茶化すように言って空気を和ませようとした魔女だったが、それは失策に終わる。
少年は、静かに涙を流していたのだ。
「僕以外に殺されそうになってんじゃねえよ……」
「安心しろ、ライ。私はまだ生きている。だからお前の手で、美しく殺してくれ。な?」
そう言って、魔女は少年の頭を優しく撫でた。
それさえやっとの思いで手を動かさなければならず、魔女は人知れず苦虫を噛み潰した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
白の魔女の世界救済譚
月乃彰
ファンタジー
※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。
白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。
しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。
そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
神の狗は十字を背負う~ワケあり吸血鬼の災難な日々~
隆駆
ファンタジー
〈草食系吸血鬼×口の悪い女王様〉
吸血鬼でありながらそれを隠し牧師を生業とする異端の青年、ヴァーニスは、その正体を知る女性異端審問官、エメラルドによって半ば脅迫されるような形で巷を騒がす「吸血鬼狩り」に参加する羽目に。
だがそこには、彼を狙う大きな闇が待ち構えていた。
※※※※※※※
足元を見よ。
暗がりはすぐそこに有り。
あぁ、月を見よ。
光はあれほどまで遠く、闇は己のすぐそばに。
哀れなる神の狗どもよ。
日に焼け焦げて闇へ沈め。
【完結】婚約破棄は許しましょう。でも元魔法少女だからって、煉獄の炎で火あぶりの刑って・・・。それ、偽物の炎ですよ。
西東友一
恋愛
貴族の令嬢として、婚約の話が進んでいたミーシャ。
彼女には一つ秘密があった。それは小さい頃に迷子になって、魔法使いさんに教わった魔法が使えることだ。知っているのは妹だけ。なのに婚約者のアレクにバレてしまって・・・。
あなたの心の炎は、怒りの炎?煉獄の炎?それとも・・・聖火?
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる