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無期限インターアクション

(3)――「『わたし、死んでもいいわ』」

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「お前に告白されるまで、俺はお前をそういう目で見たことが一度もなかった。だから告白されて、すごく驚いたっていうのが、正直なところだ」
 お前の気持ちを伝えられて、それから考えた。
 ドーナツを食べて、胃もたれを起こしながら考えた。
 胃のむかつきと脳のざわめきと葛藤した。
「男同士だし、俺はお前を友達としか見てこなかったし。どうすれば良いんだろうなって、ずっと、そればかり考えた」
 だけど考えれば考えるほど、『詩村三久』個人を否定する言葉は全く浮かばないことに気がついた。
 世間体とか、そういうのばかりが頭の中を占拠していたから気づくのには時間がかかったけれど、俺はこいつ自身を否定しようとは考えなかったのだ。
 三久との縁は絶対に切れないものだと、俺は確信した。
 いやそうじゃない。
 切れないんじゃなくて、切りたくない。
 俺だって、三久の隣に居たいんだ。
 たとえば、高校時代。
 夕日の射す部室で、二人きりの勉強会。
 あの雰囲気と距離感が、俺は大好きだった。言ったら気持ち悪がられると思って言わなかっただけで、俺は三久と一緒に居るときが一番好きなんだ。
「俺は三久が好きだ。お前の言う『好き』にはほど遠いものかもしれないけど、俺はお前を嫌いにはなれない。お前に告白されたところで、俺のこの気持ちに変わりはない。俺は、お前の隣に居たい」
「……僕は」
 黙って俺の話を聞いていた三久は、視線を手元に落したまま口を開いた。
「僕はお前と、その……キスしたり、セッ――いや、エロいことをしたいとか、考えてるんだけど」
「お、おう」
 どうして言い直した、とは突っ込まない。真面目な話をしているのだ。
「それでもお前は、僕の隣に居てくれるのか」
 三久の顔は、赤らんでいるようにも、青ざめているようにも見えた。そんな三久を見ている俺は、今どんな顔をしているんだろう。わかるのは、正面に居るこいつだけだ。
「――そういえばお前の新作、もう読んだんだけどさ」
「話を逸らすな」
「逸らしてない。良いから言わせろよ」
 三久未来の最新作の結末は、歪みに歪んだ思考の結果、全員が死んで終わった。好き過ぎたが故のバッドエンド。主人公は、女を殺してしまうくらいに愛していた。
「お前にだったら殺されても良い。なにされたって構わない。嫌だなんて思わないし、嫌じゃない。それくらいの覚悟はあるし、それが俺の気持ちなんだ」
 それまで不機嫌そうな、或いは泣きそうな顔をしていた三久は、途端に目を丸くした。
「それって、つまり――」
「『わたし、死んでもいいわ』」
「そうか」
 目が合って、二人して笑った。
 なにが面白いというわけじゃない。
 ただ、ほっとしたら、自然と笑みがこぼれたのだ。
「あ、おい。お前アイスが――」
 持っていたアイスが、もう限界ぎりぎりまで溶け出していた。溶けた部分は俺の手を滴って、数滴ほど床に落ちている。アイス本体がまだ棒にひっついているのが不思議なくらいだった。
「おわっ」
 咄嗟に、アイスをテーブルの上にあったマグカップへ突っ込んだ。たぶんこれ、こいつがいつもコーヒーを飲むときに使ってるやつだ……。どうやら中身は入っていないようだが、なんだか複雑な気分だった。床に落としてしまうよりはマシなんだろうけれど。
「アイスのこと、すっかり忘れてた……。これ、溶けても喰えるかな」
「ネットだと、塩胡椒とかで味を整えれば、煮込んでもいけるとか書いてあったな」
「よし、じゃあ後で試そう。それより三久、ティッシュ取ってくれ。手がべとべとだ」
 時計をつけていないほうの手で良かった、と安心しながらティッシュを要求したのだが、三久はティッシュを手に取ることなく、俺のほうへと距離を詰めてきた。

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