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第2話 能力検査
【語り部:五味空気】(16)――「明日、午後一時にお会いしましょう」
しおりを挟む「では、今日のところはこれで失礼します。明日はなにかと忙しくなると思いますし、しっかり休んで、心の準備をしておいてくださいね」
こんな環境に拘束している側の人間がなにを言うか、と突っ込みたくなったが、それ以外にも引っかかる言葉があった。
「明日? 心の準備?」
「あれ? ドクターから聞いてませんか?」
目をぱちくりとさせる少女。少女の言う『ドクター』とは、恐らくあの医者猫男のことなのだろうが……。
「なんにも聞いてない」
今日はスタンガンを使われたり、ナイフを使った検査でぼこぼこにされたりしていただけだ。説明の「せ」の字もあったもんじゃない。
「……さすがにあれは心の準備が必要だから、決定し次第早めに伝えてくださいって言ったのに……」
「え、待って、なんの話してるの?」
「あー、えっと、ですね……」
少女は明らかに、どう説明すべきか困惑していた。いや、困惑というよりかは躊躇のような感情が見え隠れしている。
「私、明日は貴方のことについて調査していた情報屋のところに行くんです」
「へえ」
であれば明日、少女がここを訪れる頃には『五味空気』という人間に対する情報が格段に増えているというわけだ。絶賛記憶喪失中で回復の見込みなしの俺としても、それは喜ばしいことである。
だが、心の準備が必要とは、どういうことだろう。その情報屋とやらから、あらかじめ心の準備をしておくように言われるほどのえぐい情報でも入手したのか? しかしそれは、捕虜の身の上である俺の精神状態まで心配される理由にはならない。むしろ、えぐければえぐいほど、思い出すきっかけになるようにも思える。
「へえ、じゃないですよ。貴方も一緒に行くんです」
「え? で、でもさ――」
自分で言うのもなんだが、業務妨害の殺人鬼として拘束している男を、おいそれと外に出して良いものだろうか。
「その点に関しては大丈夫です。きちんと上の許可を貰っています。それに、もし貴方が妙な真似をしようものなら、拘束具が爆破するしかけもついてますから」
「は?」
「ばーん、と爆発すれば、首どころか上半身も吹っ飛ぶでしょうね。それはそれで、貴方の回復力の実験になるので良いですけれど」
「ひっ……」
そんな物騒な機能までついてんのか、この首輪。うっかり寝返りも打てなくなってしまったじゃないか。
「情報屋が貴方と会うことを条件に出してきたんだから、これはもう決定事項です。面倒は多いですけど、貴方を外に連れ出すほかないんですよ」
常識をひっくり返すような要求を、こうも簡単に突き通してしまう情報屋。それは如実に有能性を示しているわけだが、そいつが俺に会いたい理由は不明のままである。調査の結果、実は俺、すごい人物だったとか?
「そういうわけですから明日、午後一時にお会いしましょう」
重ねて言いますけれど、と少女は続ける。
「絶対に折れない強くて寛大な心の準備を、どうぞよろしくお願いします」
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