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第2話 能力検査
【語り部:五味空気】(6)――おかしいな、俺は今、気絶しているはずなのに。
しおりを挟む「ひゅー! ドクター格好良いっ! ひゅーひゅー!」
「うるせえ的無、はやし立てるな」
「いやあ、闘うドクターってのはマジでかっけーっすね! 超絶激レアなのがもったいないっすよ。あ、いっそ本格的に特殊課のほうで一緒に仕事しましょーよ」
「その場合、俺の所属はどこになるんだ?」
「え? もちろん我らが〝K〟班っすよ?」
「清風んところじゃねえか」
「ですです。わたしもいるっす」
「ガキばっかの雑用班は、死んでも嫌だね」
「あーっ、ひっどーい! 清ねえに言いつけてやるっすよっ!」
「ドウゾ、ご勝手に」
医者猫男と女子中学生の声が聞こえる。
おかしいな、俺は今、気絶しているはずなのに。まるで金縛りにあったかのように身体は動かないが、二人の会話だけははっきりと耳に入ってくる。
「んでドクター。検査結果のほうはどうっすか?」
「……なんとも言えねえな」
「おや珍しい。地下牢に行く前は『拳を交えりゃすぐわかるさ』とか言ってたのに」
「わかると思ってたんだが……逆に混乱した」
「というのは?」
「的無も見ててわかったとは思うが、五味空気には戦闘能力がある。それは間違いない」
「そっすね。非戦闘員の格好した人間からの攻撃に即座に反応できてたし、ドクターの攻撃が見えてたみたいですし。なにより、ペイント弾が心臓にドンピシャっすもんね」
「動きにも一切の無駄がなかった。ありゃあ、そんじょそこらのゴロツキじゃねえな。間違いなく人間の殺しかたを知ってる奴の動きだ」
「は? なんすかそれ」
「相手を『止める為』の攻撃か、『殺す為』の攻撃かってことだよ。五味空気は最初から最後まで、俺を『殺す為』の立ち回りをしていた」
「そりゃあドクターが殺る気満々で来てるんだから、そうなんじゃないんすか?」
「俺が混乱してんのは、まさにそこなんだ。五味空気は『殺す為』の立ち回りができる。だが、『殺す』攻撃はぎりぎりまで仕掛けてこなかった。一回だけ、わざと溜めるふりして隙を作ってみたが、そのときにこいつは攻撃してこなかった。どころか、殴られて受け身を取る準備をしてやがったくらいだ」
「なるほど、それは気味悪いっすね」
「ペイント弾にしてもそうだ。あれだけ動ける奴が、ペイント弾如きで動揺するはずがねえ。そうとわかれば、即座に別の行動に切り替えても良さそうだってのに。それこそ、殺し合いなんかに固執しねえで、強行突破して逃げられる状況だったんだが……あーくそっ。わけわかんねえ。ああいう奴は殺されるくらいなら殺すって考えが定石だと思ってたんだが……俺の勉強不足か?」
「いえ、その見識で合ってると思うっす。たぶん、この悪趣味な茶髪さんが特異なだけっすよ」
「的無、お前のほうはどうだったんだ? 五味空気の思考は読めたのか?」
「んー、まずまずっすね。記憶がない所為かノイズが多めで、めっちゃ読みづらかったっす。でもまあ、思考パターンはまず普通っすね。普通に戦い慣れしてるやべえ奴って感じっす。あ、でもひとつ気になったことがあったんすよ」
「なんだ?」
「『避けなきゃ俺が殺される』とか『間違いなく俺は殺されてしまう』とか、なーんか言葉選びに違和感を感じたんすよね。単に、悪趣味な茶髪さんの日本語が下手なだけかもしれないっすけど」
「確かに、他でもない自分の身に起きてることなのに、妙に他人事くさくはあるな」
「そうそう」
「……。清風を疑うってわけじゃないが、五味空気は殺人鬼じゃねえような気さえしてくるな」
「というと?」
「全くの別人が、こいつをいいように使ってるだけなんじゃねえのかってことだ。こんな阿呆丸出しの面構えで、ああも人が殺せるとは思えねえ」
「適当な一般人を捕まえて、洗脳して現場に放り投げた――とかっすか?」
「ああ、感覚的にはそれが一番近えかもしれねえ。今回は洗脳状態のスイッチが入らなかったのかもな」
「いやでも、今回は銃を試しただけじゃないっすか。まだ刃物のほうが残ってるっすよ」
「……そうだな。あの情報屋から報告が上がるまで、結論を出すのは保留にしとこう」
よし、地下牢にこいつを戻すから、手伝え的無。まずは首輪の交換からだ。
その言葉を合図に、二人分の足音が近づいてくるのがわかった。このまま寝たふりを続けられるかどうかと思うと一気に心拍数が上がったが、しかし俺の心配は空振りに終わる。
なんとも奇妙なことだが、まるで二人の足音を子守唄にしたかのように、俺はすとんと眠りに落ちたのであった。
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