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世界終焉の、一週間後。
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一ヶ月前、世界終焉の日が全世界に通達され。
二週間前、選ばれた人たちは宇宙へ旅立った。
一週間前、冗談みたいな天変地異に見舞われ。
そうして、世界は滅んだ。
そのはずだった。
「なんで生きてっかなあ」
「そりゃあ、死んでないからっしょ」
世界終焉の、一週間後。
滅んだはずの世界の端で、私は友達と海辺に居た。
ほとんどの生き物は死滅した。一週間前に起きた地震と大雨と洪水と津波と……それから、なんだったか。とにかく天変地異が起き続け、それによって滅んだのだ。
この場合はもちろんというべきか、文明も同時に死んだ。世界情勢なんてものを知る術はなく、果たして生き残ったのは私たちだけなのか、世界規模で見れば他にも何人か居るのかさえ、わからない。
「こういうところで運を使いたくなかったなあ」
「わかる。どうせならこの間のサマージャンボで一等当たって欲しかった」
「でも、それで一等が当たってたとして、使う時間なんてなかったんじゃない?」
「当選日に世界が滅んだからね」
夏と冬に宝くじを買うのは、何年か前からの私たちの習慣だった。
当選したら二人で山分けをするのだ。
これまでで一番の高額当選は十万円で、そのときは二人で良いところのディナーに行ったのを覚えている。お肉がとても美味しかった。
今回も例に漏れず、梅雨明け頃から販売開始される夏の宝くじを買っていたのだけれど。結果は先の会話の通り、わからず仕舞いになってしまった。
もしまた高額当選していたら、どこか旅行にでも行きたかった。いや、世界は滅んだのだから、そんな「もしも」は存在しないのだけれど。
「それじゃあ代わりに、これあげる」
「飴?」
「そ。さっきコンビニの跡地で見つけたやつ」
「あ、これ、金箔ついてるかもしれないやつじゃん。懐かしいー」
「残念、こっちは普通の紫色だ」
「え、わたしのは緑色なんだけど。緑ってなんだったっけ」
「覚えてないなあ。でも色が違うんだから、ラッキーなんじゃない?」
「そう思うことにしよう」
二人して、からころと飴を口内で転がす。
本来であれば天変地異のいずれかで死んでいたはずの世界を眺めながら舐める飴は、子どもの頃に食べたときと全く同じ味がした。
そんなことで、生を実感する。
しかし、生きてて良かったとは思えない。
滅亡した世界でこれから先、どうやって生きていけばいいのだ。
そんな不安が、この一週間頭の中をぐるぐるとのたうち回っている。私たちにサバイバル知識なんてない。グランピングさえしたことのない人間は、文明の残り滓が尽きたら死ぬしかないだろう。
そんな漠然とした不安に苛まれながら生きるくらいなら、大半の人間と共に死ねていれば、どれだけ楽だったか。
「ねえ、今日はなにする?」
「んー。とりあえず、食べるものと寝る場所を確保したくない?」
「この一週間、ずっとそれじゃん」
「そうだけどさ。なにかやることがあるだけ、マシじゃん?」
「それもそうか……」
飴を舐め終え、私たちは歩き出した。
終わった世界で、生活を続ける為に。
終
二週間前、選ばれた人たちは宇宙へ旅立った。
一週間前、冗談みたいな天変地異に見舞われ。
そうして、世界は滅んだ。
そのはずだった。
「なんで生きてっかなあ」
「そりゃあ、死んでないからっしょ」
世界終焉の、一週間後。
滅んだはずの世界の端で、私は友達と海辺に居た。
ほとんどの生き物は死滅した。一週間前に起きた地震と大雨と洪水と津波と……それから、なんだったか。とにかく天変地異が起き続け、それによって滅んだのだ。
この場合はもちろんというべきか、文明も同時に死んだ。世界情勢なんてものを知る術はなく、果たして生き残ったのは私たちだけなのか、世界規模で見れば他にも何人か居るのかさえ、わからない。
「こういうところで運を使いたくなかったなあ」
「わかる。どうせならこの間のサマージャンボで一等当たって欲しかった」
「でも、それで一等が当たってたとして、使う時間なんてなかったんじゃない?」
「当選日に世界が滅んだからね」
夏と冬に宝くじを買うのは、何年か前からの私たちの習慣だった。
当選したら二人で山分けをするのだ。
これまでで一番の高額当選は十万円で、そのときは二人で良いところのディナーに行ったのを覚えている。お肉がとても美味しかった。
今回も例に漏れず、梅雨明け頃から販売開始される夏の宝くじを買っていたのだけれど。結果は先の会話の通り、わからず仕舞いになってしまった。
もしまた高額当選していたら、どこか旅行にでも行きたかった。いや、世界は滅んだのだから、そんな「もしも」は存在しないのだけれど。
「それじゃあ代わりに、これあげる」
「飴?」
「そ。さっきコンビニの跡地で見つけたやつ」
「あ、これ、金箔ついてるかもしれないやつじゃん。懐かしいー」
「残念、こっちは普通の紫色だ」
「え、わたしのは緑色なんだけど。緑ってなんだったっけ」
「覚えてないなあ。でも色が違うんだから、ラッキーなんじゃない?」
「そう思うことにしよう」
二人して、からころと飴を口内で転がす。
本来であれば天変地異のいずれかで死んでいたはずの世界を眺めながら舐める飴は、子どもの頃に食べたときと全く同じ味がした。
そんなことで、生を実感する。
しかし、生きてて良かったとは思えない。
滅亡した世界でこれから先、どうやって生きていけばいいのだ。
そんな不安が、この一週間頭の中をぐるぐるとのたうち回っている。私たちにサバイバル知識なんてない。グランピングさえしたことのない人間は、文明の残り滓が尽きたら死ぬしかないだろう。
そんな漠然とした不安に苛まれながら生きるくらいなら、大半の人間と共に死ねていれば、どれだけ楽だったか。
「ねえ、今日はなにする?」
「んー。とりあえず、食べるものと寝る場所を確保したくない?」
「この一週間、ずっとそれじゃん」
「そうだけどさ。なにかやることがあるだけ、マシじゃん?」
「それもそうか……」
飴を舐め終え、私たちは歩き出した。
終わった世界で、生活を続ける為に。
終
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