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18.――「彼シャツ……」

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「なんか、もう疲れた……」
 無事に洗浄を終え、これからが本番だというのに、俺は羞恥を上回り疲れ切っていた。まさかナカを綺麗にしてすぐシャワールームに連れ込まれるとは思ってもみなかった。身体の隅々まで洗われて、くすぐったいやらナニやらで、もうぐったりである。
「ヒイロ、こっちこっち」
 一方で機嫌の直りつつあるロイドはといえば、上は裸で下はスウェットのズボンという格好で手招きしていた。その小脇には、コンドームもローションも準備済みである。
「あのさあ、これ、着る意味あった?」
 招かれるまま、ロイドの隣に座りながらに問いかける。
 シャワールームを出たらなし崩し的にヤるのかと思っていたのだが、丁寧に身体を拭かれて被されたのは、ロイドのトレーナーであった。だいぶ着古しているようで、ただでさえ俺には大きい服が余計に大きく感じる。そんなものを上だけ着せられて、下は装備無しとなると、俺としては困惑せざるを得ない。
「え、ヒイロ知らないのか? 彼シャツって、日本じゃ知らない男はいないって聞いたぞ?」
「彼シャツ……」
 その概念は知っている。知ってはいるが、男が男に実践するものじゃないだろう。体格差を如実に示されてるようで、切なくなってくる。というかロイドは、一体どこでそういう情報を仕入れてきているのか。
「とっても萌えるぞ、ヒイロ! 素敵だっ!」
「あんたが満足なら、別に良いけどさ」
 言いながら、ロイドの頬に触れるようなキスをする。
「でも、それだけで満足なのか?」
 最初のセックスこそ役割として義務的に捉えていたが、ロイドへの気持ちを自覚してからは、俺も彼とのセックスが楽しみになっていた。気持ちは最期まで伝わらなくても構わない。けれどこうして彼の腕の中にいられるうちは、その温もりを一番近くで感じていたかった。
「じゃあヒイロ、えと、つんつば……、んん? よんばつ……?」
「四つん這い?」
 珍しく言葉が出てこないらしいロイドに助け舟を出してみると、そうそれ、と指を鳴らした。
「こっちに尻を向けて、四つん這いになって」
「……わかった」
 ヤることはヤっているんだから、いまさら羞恥もなにもないはずなのだけれど、思えばこうしてロイドにまじまじとアナルを見られるのは最初のとき以来だと思うと、顔面が一気に熱を持った気がした。
「こう?」
「もうちょっと腰を上げて……そうそう」
 ばくばくと鳴る心臓の音が伝わらないように平常心を装って、言われた通りの格好を取る。ただ、顔だけは制御が効かなかったので、手近なクッションをひっ掴み、そこに顔を埋めた。
 指先で後孔の周りをなぞられれば早くその指が欲しくなり、誘うようにひくつく。
「ひゃっ?!」
 だから予想外のことに、俺は声を上げて驚いてしまった。
 てっきり指を入れて慣らすのだと思っていたのだが、予想に反し、そこにあてがわれたのは舌であった。
「えっ、なに、どこ舐めて――んうっ」
 身体を捻って抵抗しようとするが、腰や脚を掴まれているからというには不可解なほどにがっちりと固定されてしまって、振り返ることさえ困難であった。それを良いことに、ロイドは好き放題に舐め回していく。アナルの周りの皺を伸ばすように。そうしてそこから陰嚢と睾丸に舌を這わせる。
「――ぁっ、やだ、だめ……っ」
 慣れない感覚に頭がふやけそうになっていると、ナカに肉厚な舌が侵入してきて、思わず制止をかけた。が、それでロイドが止まるはずもなく。
「ひははふはいほ」
「ひんっ」
 舌を入れたままそんなところで喋られると、吐息がくすぐったく感じるのももちろんのこと、舌がナカでびくびくと動き回った。そんな反応をロイドが見逃すはずがなく、舌は遠慮など皆無にナカへ這入っていく。その度、ぞわりぞわりと鳥肌の立つような未知の感覚に襲われる。浅いところだけを舌でなぞられれば、自然と身体が弛緩してしまう。完全に彼を受け入れる為に躾けられたアナルは、もっと奥を刺激してもらいたくて疼いた。
「んっ……、ぁ、ロイド、ねえ、もっと、奥も……」
「うん」
 耐え切れずにそうお願いすると、思いの外あっさりと受け入れられた。ずるりと舌が抜ける。
「ヒイロのイイところ、たくさん触ってあげる」
 指にローションを絡めると、勿体を付けるようにその中指を侵入させた。そこに自分以外の指が這入ってくるのは久しぶりで、それだけでも興奮し、ペニスからはだらしなく先走りが垂れている。まだ、前は触ってないのに。
「っ、んぅ……!」
 指先で叩くように前立腺を刺激されれば、抵抗も虚しく嬌声が漏れる。
「ねえ、ヒイロ」
「ぁ、んっ、なに……?」
 執拗にそこだけを撫でくり回し、あまつさえもう一本指を増やしながら、その手の動きを止めず、ロイドは言う。
「ここ、すっごく柔らかいんだけど、もしかして一人でシてた?」
「……っ」
「どうなの?」
「ぁあっ、や、あア!」
 二本の指で押し込まれると、それだけで身体中に電気を流されたような感覚に陥る。
「ねえ、ヒイロ?」
「んぅ、あッ……、し、した! 一昨日の夜に、ぃ」
「一昨日だけ?」
「や、そこ、ぁあッ!」
 イキそうでイケない絶妙な攻められかたに、頭がおかしくなりそうだった。
「さ、さっき……ちょっとだけ」
「さっきって、いつ?」
「んっ、ぁ……、ロイドが、来る前、風呂入ったとき……指、一本だけ」
「それで?」
「ろ、ロイドなら、どんな風に触ってくれるかって、考えながら……ぁ、んんッ!」
 絞り出したような声で答えると、ロイドは、ふうん、とだけ相槌を打った。そこに少し興奮の色が混じっているように感じたのは、俺の自惚れだろうか。
「ヒイロ、そのあとは? 僕に触られることを想像して、それで?」
 問いかけながら、三本目を入れるロイド。
 最初はあんなに時間をかけて解していたアナルは、今は信じられないくらいに柔らかい。少しでも早く彼を受け入れられるように従順に躾けられたそこは、三本目も難なく飲み込んでいく。
「そ、れから……前も、ロイドがやる、みたいに、さわって……ひっ!」
「こう?」
 空いていたもう片方の手が、昂るそこを優しく掴んだ。その感触だけでもびくびくと震え、先走りが溢れてしまう。それを指に絡め、陰茎に塗りたくるように上下に擦られれば、あまりの快感に腰が浮かんだ。
 内から、外から、快楽の波が襲ってくる。
「ぁう、んんッ、あッ、イッ――ぁああ!!」
 一瞬、目が眩んだような錯覚と共に絶頂に達し、精を吐き出した。あまりの快楽に、身体から余計に籠っていた力が抜けていく。
「――ッ、ぁ……はあ……」
 腰を突き上げた状態のまま脱力する俺から、そっと指が抜かれる。たった今射精したばかりだというのに再び昂ぶりだしたそこは、俺が息を整えるのに合わせてゆらりと揺れる。
「ロイドぉ……」
 四つん這いのまま、片手でアナルを拡げて見せる。早くそのいきり立った肉棒が欲しくて、はくはくと誘っているのが自分でもわかった。
「ヒイロはすっかりせっかちさんになったね」
 コンドームを被せたペニスの先を俺の後孔に押し当てては離しを繰り返しながら、ロイドは言う。
「早く挿れて欲しくて、きゅうきゅう吸いついてくる」
「――ッ、ロイドは、んッ……、こういう俺、きらい?」
「まさか。僕だけのヒイロ、大好きだよ」
「ん……」
 覆いかぶさり、首元にキスを落とすロイド。その頭を愛おしげに撫でる俺は、一体どんな顔をしているのだろう。この気持ちが明け透けに伝わってはいないだろうか。
「挿れるよ、ヒイロ」
 そう言われれば、躾けられた身体はすんなりと力を抜く。
「ぁ、――ッ、んん……っ」
 熱い肉棒が襞を割って這入ってくる。普段よりもゆっくりと這入ってくるそれに、いつも以上にナカでロイドのかたちがわかるようでどきどきする。それを見透かしているのかいないのか、ロイドは速度を速めようとはしないままに俺の敏感なところを攻める。
「んッ、は……ぁ、あ」
 背中に、熱い息がかかる。
 乳頭を、ロイドの手が撫でる。
 身体が、じわじわと侵略されていく。
「ヒイロの背中は、なんだか、儚く見えるね」
 徐々に腰の動きを速めていきながら、ロイドは言う。
 その低音を、俺の耳元で囁く。
「しなやかで、強かに見えて、だけど触れると壊してしまいそうな、そんな気持ちになる」
「っ、あ、なん……、ぁ」
 ほとんど独り言のような彼の言葉は、半分も聞き取ることは叶わなかった。それほど小声で、肌がぶつかり合う音に上書きされてしまう。
「ずっと、そんな君の隣にいたい」
「――ッ、ぁ、うわ」
 首筋をべろりと舐め上げると、ロイドは俺の右腕を掴みながらに上体を上げた。
「や、あッ、ふか、……ッ」
 奥を突かれると、快楽に意識を持って行かれそうになる。まだロイドと繋がっていたくて、左手でクッションを掴む。
「ヒイロ、だめ、こっち」
 しかし無情にもクッションは剥ぎ取られてしまい、あまつさえ左腕も掴まれ、さらにぐっと上半身を上げられれば、ナカの昂ぶりはより奥へと侵入を果たした。
「ぁ……、だめ、も、おく……っ」
 ふるふると身体が震える。気持ち良すぎて震えている。だというのに反り上がった身体はさらに奥へと進むよう促すようで、自分ではもうどうしようもない。
「っあ、……ン、ぁ……ッ!」
 ロイドのペニスが、俺のナカを掻き回す。
 俺とロイドとがひとつに合わさり、境界線がどろどろに融けていく。
「ヒイロ……ッ」
「あッ、ぁ、だめ……っ、おく、やだッ」
 ナカを揺さぶる速度は増していき、静かな室内には淫靡な水音だけが響き渡る。
 殺されるのではないかと思うほどの快楽の渦に巻き込まれていく。
 意識が飛ばないように、必死に歯を食いしばるしかない。
「――やだ、ぁ、こわいっ、ああァ……ッ!!」
 コンドーム越しに精液を吐き出されたのがわかった。それと同時に俺の身体は一際大きくうねり、射精することなく絶頂に達した。
「――ぁ、……んン……はあ……」
 視界が、ちかちかと瞬くような錯覚。
 意識が闇に溶けていきそうになる。
「ヒイロ? 大丈夫?」
 身体に力が入らない俺を抱え込み、ロイドが体勢を変える。胡坐をかいて座ったロイドの上に俺が乗るかたちになった。ぐるりと回転させられて、ロイドの肩に顔を埋める状態になる。これなら確かに、脱力してしまっている俺に適切な体位なのかもしれない。だが。
「っ、ふッ……う……」
 抜かれずにいたソレは再び熱と硬さを取り戻しつつあり、再びナカを刺激し始めていた。
「ヒイロ」
 名を呼ばれて顔を上げると、甘く深いキスが降ってくる。必死にそれを受け入れ応えようとするのだけれど、身体の震えが止まらずに声が余計に漏れる。
「ぅあ……、ろいど……ろいど……」
 自律神経は既に制御不能になっていて、理由もなく涙がぼろぼろと零れ落ちた。
「きもちぃの、とまらない……ッ、だして、ないのに、イくのとまんない……ッ」
「え? え、まさか、ドライで――」
 信じられないとでも言いたげに、俺の腹部に視線を送るロイド。
「も、こわい……、ぬいてぇ……」
 懇願する俺を余所に、ロイドはひくりと口角を上げた。
「え? ――ぅあッ」
 疑問符を浮かべたのも束の間、ひょいと押し倒され、気付けば仰向けの状態で脚を広げられていた。挿れっぱなしのペニスをさらに奥へと押し込みながら、ロイドは言う。
「先に謝っておく。ごめんね、手加減できそうにない」
 そう宣言したロイドは、まさしく肉食獣と表現して相違ない表情を浮かべていた。刈り取った獲物をしゃぶり尽そうと目をぎらつかせているようである。これから逃げることは不可能であることは自明の理だった。
「えっ、うそでしょ、ちょっと……アッ――!」
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