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13.――「……だから、優しくしなくたって良いんだよ……」
しおりを挟む「――っ、は」
懐かしい悪夢をみて、目を覚ました。
どうやらまだ夜明け前であるらしく、室内は薄暗い。
「……」
隣に目をやると、ロイドはぐっすりと眠っていた。職業柄、あまり睡眠は深くないのかもしれないとも考えたが、どうやら彼は、その部類の人間ではないらしい。
ここにはロイドの部下が、三人も居る。なにかあれば真っ先にロイドを起こしに来るのだろう。簡素なようでいて、その実、固い絆で結ばれた信頼関係だと思った。ロイドにとっても、ベレントさん達にとっても、互いに互いが他には代え難い大切な存在なんだろう。
だけれどそれを羨ましいとは思わないし、思えなかった。
「……」
そっとベッドを抜け出し、忍び足で部屋を出る。
悪い夢をみたときは、外の空気を吸いたくなるのだ。
普段なら近くのコンビニまで行って飲み物を買い、川沿いのベンチに座ったりなんかして気持ちを落ち着けていたりしていた。だが今の俺は、この屋敷からは離れられない身。敷地内を出歩く許可は出ていたが、どこまでが敷地なのか、俺ではいまいち判断ができなかったので、今日のところは中庭に出るまでにしておいた。
夜風がやんわりと顔を撫でる。その風には、少しだけ秋のにおいが混じっていた。
中庭にはテーブルとイスも置いてあるが、今はどうしてもそこに座る気になれず、壁を背にして座り込むことにする。ひんやりとした感触が背中を包み、早鐘を打つようだった心臓の音が徐々に落ち着いていく。このまま緩やかに止まってしまえば良いのに。そう思いながら、心臓の音に耳を傾ける。
「……」
今度、改めて敷地の範囲を尋ねておこう。そうしたら、またあの夢をみてしまったときに外へ出られる。
そんなことを頭の隅で考えながら、しかし瞼の裏をちらつくのは先にみた悪夢の記憶だった。
死ぬな生きろと盲目的に言う両親の姿が、まだ頭から離れない。
もうあの人達と会うことはないのに、俺はまだ、あの人達から「責任」を背負わされている。これはきっと、永遠に続く呪縛だ。
その証拠に、俺はあれ以来、自殺しようと思わなくなった。
いいや、また失敗してしまったらと思うと、それが怖くて、ただ生きることを続けることしかできなくなったと言ったほうが正確かもしれない。死にたいという感情はずっとあるけれど、実行に移せるほどの行動力は、あの日、根こそぎ奪われてしまった。
「……」
けれど、俺は遂に手に入れたんだ。
「鵜久森日色」として「必要」とされる「役割」を。
用済みになったら、確実に殺してくれるであろう居場所を。
男の愛人として男に囲まれ抱かれるというのは流石に想定外だったが、喉から手が出るほど渇望していたものを手に入れる為と思えば、我慢できる。
俺は、我慢強い男だ。
だから。
「……だから、優しくしなくたって良いんだよ……」
そんな風にされると、まだ生きていたいと、勘違いしそうになる。
死ぬ為の場がここまで揃っているのに、そんな情けない感情を芽生えさせたくはなかった。
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