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7.――「その、昨日のが、まだナカに残ってて……」

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「Good morning」
 寝起きで微睡む意識の中、そんなことを悶々と考えていたところに、隣で横になっていたロイドに優しく声をかけられた。
「おはよう」
 挨拶を返すと、ロイドはこちらに身を寄せ、腕を伸ばしてきた。鍛え上げられた、筋肉質な腕。よく見ればそこには細かい傷がいくつもあり、この人は日々危険に晒された仕事をしているのだと、改めて認識させられる。反対に、手のほうには傷がほとんどないのは、それだけ手先を大事にしているからなのだろうか。だとしたら俺は昨晩、その綺麗な手に射精するわ噛みそうになるわで、とんでもないことをしてしまった。
「ろ、ロイド」
「うん?」
 伸ばしてきた両手は、ゆったりと俺の頭を捕まえた。髪をくしゃくしゃにし、指一本一本で頬を撫でる。その手の上から、俺は自分の手を重ねる。
「手、大丈夫か? 昨日は、その、なんていうか……いろいろさせちゃったから……」
「なんの問題もない。というか、僕が好きでやったことだから、ヒイロは気にしなくて良いんだよ」
 そう言うと、ロイドはぐいっと腕を回して俺を抱え込むと、起き上がりざまに、軽々しくも持ち上げた。
「それより、お腹空いたろう? 朝食にしよう」
「うん。あのさ、ロイド。俺、自分で歩けるから……」
「え?」
 いつの間にやらお姫様抱っこの体勢で抱きかかえられていた俺はそう苦言を呈するも、ロイドにはいまいちピンときていないようである。
「でもヒイロ、腰、痛くないかい?」
「痛くない! 痛くないから降ろして――っ、ゔ……」
 どうにかこの体勢から脱却を試みようと身体を捻ると、途端に腰が鈍痛を訴えてきた。だが、それだけではない。
「ほらやっぱり」
 ため息交じりに言いながら、このままで良いよね、と言わんばかりに勝気な表情を見せるロイド。
「ま、待って……。ほんと、一旦降ろして……」
「でも、腰は痛いんだろう? 無理しないほうが良い」
「そうじゃ、なくって……。その、昨日のが、まだナカに残ってて……」
「昨日の……? ああ、そういうことか! わかったよヒイロ」
 事情を察してくれたらしいロイド。
 であれば、すぐにでも俺をお姫様抱っこから解放してくれることだろう。そうしたらバスルームに駆け込んで、今度こそ掻き出しきらなければ。
「朝食の前に、もう一度、一緒にシャワーを浴びよう!」
「え? 違、ちょっと? ロイドさん?」
 痛みやだるさで動きが鈍いのを良いことに、ロイドは言うが早いが、バスルームへと足を進めた。その顔に浮かべた爽やかな笑顔たるや、眩しいったらない。
「一人でできる! できるからロイド、お願いだから、降ろしてってばっ!」
「駄目。僕がやる。やらせて」
 お願い、と耳元で囁かれると、昨晩のできごとが一気に脳内を駆け巡る。そして、いまさらじゃないかという諦観の念も沸いてきた。
「ヒイロ」
 そうして追い打ちをかけるように目を覗き込まれては、俺から出せる回答は一択しかなかった。
「……。じゃあ、お願いします……」
 その後。
 ナカの精液を掻き出すだけでは、もちろん終わるはずもなく。
 バスルームを出たところで、ロイドの部下が鬼の形相で、ロイドに向かってなにやら怒号を飛ばしてきた。全て流暢な英語だったから俺に聞き取ることは不可能だったが、恐らく、仕事に出る時間が迫ってきているのだろう。だから前立腺マッサージはやめろって言ったのに。
「ごめんね、ヒイロ。夜こそは、一緒に食べよう」
「うん、待ってる。いってらっしゃい」
 ひらひらと手を振って見送ると、ロイドは満面の笑みを浮かべた。
「いってきますっ!」
 そんな背中を見送り、一人で朝食をとった。
 一人で屋敷内を散策し。
 一人で昼食をとり。
 一人で本を読み、時間を潰した。
 夕飯を共にしようと言ったロイドは、どれだけ待っても帰っては来ず。
 いたずらに時間だけが過ぎて行った。
 俺なんて、ロイドにとっては数多くいる愛人のうちの一人でしかないのだ。飽きたら捨てられる、それだけの存在。約束なんて、あってないようなものである。
 もう帰る場所もないんだ。捨てられるそのときが、俺の最期となるのだろう。
 まるで首に縄をかけられ絞首台の上に立たされている気分だったが、足元の扉を開く責任が自分にないということは、どこか俺を安心させた。
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