クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

文字の大きさ
上 下
25 / 125

25 一条瑠璃

しおりを挟む



 初めは黄色い髪の男の子に惹かれて始めた。

 メインは金髪碧眼の男の子のようで、彼をクリアしないと赤い髪や黄色い髪の少年は攻略出来ないつくりになっていた。

 はいはい、よくある乙女ゲームのつくりね。仕方ない。黄泉くんのためにも、この青葉というキャラクターをプレイするか。

 どうやらこのゲーム、乙女ゲームにしては珍しい全攻略キャラ冷めてる、いわゆる『クーデレ』と言われる何とも好みが偏っているゲームらしい。

 ふーん、正統派王子様にツンデレ。あ、黄泉くんはフェミニストなのか。

 残りは……俺様? 俺様なのにメインじゃないのか。ますます珍しいな。

 黄泉くんをプレイするにはまず王子をプレイして、その後ツンデレくんをプレイすればいいのか。


 よし、いっちょ頑張りますか!


 黄泉くんを目当てにはじめたゲームのはずだった。そう、そのはずだった。

 けれども次第に私は他のキャラクターに惹かれていってしまう。

 万人受けしそうな優しい王子様、一条青葉。


 ──ではなく。
 その婚約者である『立花雅』だ。


 なにこの子、超可愛い!! THEお嬢様なぱっつん姫カット。つやつやとした漆黒の髪。雪のように白い肌。

 クスリとも笑わないのが、彼女の美貌と相俟って、人々にお人形さんのように感じさせるのだろう。

 そんな彼女が唯一頬を染める相手が青葉だった。


『君のことを激しく求めたことはないけれど、傍にいてくれると落ち着くんだ』
『……私は青葉様のことお慕いしておりますし、おそばに置いて欲しいです』
『知ってる。君は本当に僕のことが好きだよね、……だからこそ、そんな君の気持ちに応えたいと思ったんだ。これから僕は君と同じ気持ちになれるよう努力していきたいと思う』


 青葉から2人の昔話を聞いた時、自分がヒロインであることを忘れて、もう2人が結婚しなよっと叫んだのは私だけじゃないはずだ。

 ヒロインも「青葉様は優しいですね! 雅様も青葉様のそんな所を好きになったんだろうな」じゃないよ。ほら、そこ。青葉もこんな陳腐な台詞で一々頬を染めない。

 優しいだなんて言われ慣れてるでしょうに。こんなことで青葉くん呼びを許されるようになるなんて。もうわけがわからない。

 正直彼の気持ちが理解できなかった。自分を一途に慕うこんなに素敵な婚約者がいるというのに。どうしてヒロインのような何の取り柄もない少女を好きになるのだろう。

 ヒロインである『結城桃子』の唯一の取り柄といえば、どんなにいじめられてもめげない精神力。言うなればタフなのだ。でもそれだけ。

 特段可愛いわけでも、スタイルがいいわけでもない。

 そんな彼女が、学園中誰からも愛され憧れられている婚約者に勝てるとは思えない。

 それに彼は以前彼女に告げたじゃないか。

 自分を好きでいてくれる彼女の気持ちに応えたいと思ったと。

 その彼女を裏切ってまでヒロインを選ぶなんて。やっぱりどうしても私には理解できなかった。


 そうしている内に、彼のルートに入ってからも中々親愛度は上がらず、私はノーマルエンドすらクリア出来ていなかった。

 バッド、バッド、バッドエンドの繰り返し。

 他のゲームみたいに同一のバッドエンドならすぐに飽きてしまったかもしれない。けれどこのゲームの素晴らしいところは様々なバッドエンドがあること。

 ヒロインが好きだが、結局婚約を破棄出来ずに別れるエンド。青葉のことは好きだが、婚約者がいるからとヒロイン自ら身を引くエンド。

 おかげで何とか飽き性な私でもゲームを続けることが出来た。


 またいつもの如く、バッドエンドに差し掛かった時。いつもとは違うことが起きた。

 あの今までずっと青葉に一途だった雅が、なんと突然身を引いたのだ。婚約を解消して欲しいと。


 ……あの『立花雅』がだよ!?


 その原因の一端は青葉にあった。

 雅の不安を煽るようなくだらない噂話や憶測が飛び交う中、ほんの少しだけ不安になってしまった彼女に対して青葉は冷たくあしらった。

 そして自分を信じない彼女に対し辛く当たった。

 まるで自分が被害者かのように、一方的に突き放し落胆した。本当の被害者は『立花雅』だろうに。

 傷つく彼女を癒したのは、大好きな婚約者ではなく、自分を姉のように慕う幼なじみのツンデレくんだった。


『……私、もう疲れたの。……お願い、青葉様のことを忘れさせて』
『ああ、もう独りで悲しまないで……これからは僕がずっと傍にいるから』


 ……ええ、そうね。この際許そう。ツンデレくん、あなたなら雅様を任せられる。

 本当は青葉が良かったけれど、主人公に揺れ動く青葉なんかよりもずっといいよ。

 雅はずっと幼なじみの自分への好意に気づいてはいたけれど。きっと姉を慕う気持ちなのだと見て見ぬふりをしていた。

 自分が青葉を好きでいる限り、彼の気持ちは報われない。

 そんなところまで姉である自分に似なくてもいいのにと思いつつ、彼の恋心は傷ついた雅の心を癒すには十分だった。


 その現場を目撃した青葉は初めて嫉妬というものをする。男の嫉妬とは恐ろしいもので、婚約解消を彼女から求められた時に刺し殺してしまう。


『……どう、し、て……ケホッ……あお、ば、さ、ま』
『……やっと気づいたんだ、自分の本当の気持ちに。君が誰かの物になるくらいならさ、僕が君を殺してあげるよ』


 どうしてそういう結論に達したのかはわからないが、いやだいやだと涙を流す彼女とは違い、青葉は満足そうに笑っていた。


『い、や……あ、かや』
『……どうして君は他の男の名前を呼ぶの? 君は僕の物なのに』


 いけない子だね、と優しく抱きしめる。

 たった今、彼女の腹部を刺したとは思えないくらい大切そうに。

 その矛盾が、雅をより混乱させた。


『……こんなにも君を激しく求めたことなんてない。ああ、やっぱり僕は君が好きみたいだ! 今になって君がいとおしいよ!』


 最後の最後でようやく結ばれたことを、雅はどう感じただろう。

 こんな過激な2人の最後だ。色々な意見があって、仕方ないと思う。

 雅が可哀想だと言う人も、雅が赤也に目移りしたからだと言う人もいるだろう。気持ちはわかる。

 だがこの時、私は彼らの最後に興奮していた。なんだろうか、この高揚感。今まで感じたことのない喜びは。

 ようやく2人が本当の意味で結ばれた気がした。

 今までだって度重なるバッドエンドの中で、何度も青葉はヒロインではなく雅を選んでいる。

 けれどもそれは雅の気持ちに応えないのは可哀想という同情からくるものや、一条家を裏切れないという責任感からくるものが理由で。決して雅を好きだったからとかそういう理由ではなかった。

 むしろヒロインのことが好きだった。だけどヒロインのことはその程度・・・・の好きだったのだ。

 だってそうじゃない? 青葉はヒロインを殺害したりなんてしなかったもの。

 結ばれないとしても、仕方ないと納得し、理性的だったわ。

 決して感情的には行動せず、互いのためにも別れを選んだわ。

 だけど雅様は違う。

 嫉妬に狂うほど愛していたのよ!

 ああ、良かった!

 青葉はちゃんと雅様のことが好きだったのね!

 私の雅様は愛されていたんだわ!

 その事実がわかっただけで十分だった。

 他のキャラにも出てくるかしら? 多分このツンデレくんのルートには必ず出てくるでしょうね。

 ……この際青葉のハッピーエンドはいいや。ノーマルエンドを1つだけクリアしていたし、次のキャラに進むことが出来るはずだ。

 ……私、もっと知りたいわ。雅様の葛藤や不安。ううん、青葉のことをどれだけ愛しているのかも! 他のキャラと彼女との関わりも!

 そんなふうに彼女の魅力に取り憑かれた頃には、当初の目的であった黄泉くんのことなどすっかり忘れてしまっていた。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

気だるげの公爵令息が変わった理由。

三月べに
恋愛
 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。  王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。  そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。 「生きる楽しみを教えてくれ」  ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。 「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」  つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。  そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。  学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。 「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」  知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。 「無視してんじゃないわよ!」 「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」 「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」  そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。 「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」  ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。 (なろうにも、掲載)

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...