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22 愛されてるね、立花さん
しおりを挟むその後も何度目か探りを入れてみたけれど。どうやらとびきりポジティブでブラコンな彼女から青葉の情報を引き出すのは難しそう。
瑠璃ちゃんと出会ってからしばらく経つけれど、青葉については何の情報も得られてはいなかった。
わかったことといえば、黄泉が瑠璃ちゃんを苦手としていることくらい。
なんでも、私と青葉の婚約を阻止しようとしていたことが瑠璃ちゃんにバレて、こっぴどく叱られたらしく、それ以降私のクラスを訪ねなくなったようだ。
純粋にどうして急に来なくなったのかは気になっていたから、理由がわかってスッキリした。
あの黄泉でも頭が上がらないだなんて。2人の意外な上下関係に驚いたのは記憶に新しい。
最近は私と青葉の婚約を邪魔しないという約束の元、黄泉を含め4人でこうしてお昼休みを過ごすことが多い。
「立花さん、顔どうしたの」
「はい?」
「すんごいブサイクになってるけど」
いくら寝不足で頭が回らないからと言って、さすがに暴言を吐かれたことくらいはすぐに理解できた。
ブ、ブサイクだと!?
確かに黄泉は誰がどう見ても美少年だけど。自分が美少年だからって、人の容姿のことをとやかく言うのはどうかと思う!!
いくら外見が素晴らしくても、内面が伴っていないんじゃモテないよ? ……まあ、私も人に誇れるほど外見も内面も素晴らしいわけではないけどさ。
くすん。私よりも、外見だけでも優れている黄泉の方がまだいいんじゃないかと思ったら、我ながら悲しくなってきた。
これじゃあ、言い返せもしない。
「……黄泉様!! 雅様はどんなお姿だって素敵ですし、そんな言い方レディに対して失礼ですわ!!」
反論できない私の代わりに言い返してくれたのは、花も実もある瑠璃ちゃんだった。
黄泉もさすがに彼女には文句が言えないのかタジタジだ。いいぞ、もっとやれ!
「……いや、そうじゃなくて。オレは立花さんが──」
「西門さんは姉さんの顔色が悪いから心配してくれたんだよ」
なるほど、そうだったのか。心配してくれていたのはありがたいことだけれど、その相手に対してブサイクはどうなんでしょうね。いや、別に根に持ってませんけどね?
「姉さん、最近眠れてないんでしょ? 優さん心配してたよ。もちろん僕も姉さんがまた倒れるんじゃないか心配だよ」
「そう、お兄様が……」
それに比べて赤也とお兄様はやっぱり素敵なジェントルマン。
どうやら夜中や明け方にうなされて起きていることもお兄様には気づかれていたのか。さすが私のお兄様。
赤也も未だに出会ってすぐに私が倒れたことがトラウマになってるみたい。もしかしてその刷り込みでこんなに過保護になったのではないだろうか。今考えると申し訳ないことをしたなあ……。
というか、最近両親に虐められてないかやたら聞かれるのはそのせい? いや、本当に虐められてはいないわよ。
まあ、たった今西門黄泉に暴言を吐かれたけどね。
「わたくしは大丈夫よ、赤也。心配してくれてありがとう」
「ちょっとオレは? 一応心配してあげたんだけど!」
「……あーら、わたくしブサイクですので、よく聞こえませんわ~」
「ものすごく根に持ってるよね!?」
いえいえ、本当に根に持っていませんって。私がブサイクなのは事実ですから。
ええ、全く気にしていませんとも。
「……オレはキミの顔色があまりにもあれだから」
「……あれ、とは?」
「……とても正常な健康状態の人間には見えないってこと」
自分では自覚がなかった。私そんなにひどいのか。
クラスの人達は心配こそしてくれたけれど、私の顔色については何も言ってくれなかった。
いや、わかるよ。私も友人の顔色が悪くてもなんとなくストレートに言えないもの。言ったことで本人が気にして悪循環になってしまわないかとかさ。それこそ、もし気のせいだったら、相手にショック与えてしまわないかとかさ。
なんとなく親しき仲にも礼儀ありじゃないけれど、気を遣っちゃうものね。
そう考えると、黄泉は皆が言いにくいことを率先して言ってくれたのかもしれない。むしろ感謝すべきなのかな?
……でもブサイクはなあ。もう少し言葉を選んで欲しかった。1度傷ついた私のハートはなかなか治らないよ?
「……夏バテですかね」
「……ふーん? そういえばキミって病弱なんだっけ」
絶対夏バテだけのせいじゃないけれど。とりあえずみんなを納得させるためにもそういうことにしておこう。
どうして黄泉が私の病弱キャラ設定を知ってるんだろう。
記憶を思い出したり、出会うはずのなかった『有栖川赤也』と出会ったりしたことが原因で寝込んだ刹那的なものだったのだけどね。今は全くそんなことはない。
何でもあの当時花ちゃんおじ様から聞いたらしい。ほう。……やっぱりお父様か。なんとなくそんな気はしてた。
「……えっ、病弱!? そうなんですかお姉様!」
「……瑠璃、何でそんな嬉しそうなの」
何故か瑠璃ちゃんは私の病弱キャラ設定に目をキラキラさせている。儚げでお姉様らしいと褒められたけれど、不謹慎だと赤也はご立腹。
昔から身体は弱いのかとか、いつ倒れたのかとか、色々質問攻めにしてくる自称私のファンの瑠璃ちゃんに少し困っていたら、そんな私に気づいた赤也が止めに入る。
「……瑠璃、あまり僕の姉さんを困らせないでって、何度も忠告してるよね?」
「赤也、わたくしは気にしてないわ」
「姉さんは黙ってて。瑠璃にはこのくらいキツく言わないと伝わらないから」
大体瑠璃はいつも強引だと説教を始める赤也に対し、瑠璃ちゃんも負けじと赤也は少しシスコンが過ぎると応戦する。
「愛されてるね、立花さん」
「からかってないで、西門くんも止めて下さいよ」
黄泉は面白そうにそんな2人を見つめてる。私のために争わないでって、こういう時に使うんだろうな。
私が何を言っても2人の喧嘩が止まることはなさそうなので、私も諦めて黄泉と一緒に傍観することに決めた。
それにしても、こんな赤也は初めて見るわ。私にだって見せたことがない表情だ。
本気で怒っている訳ではないけれど、感情的になってムキになっている、そんな顔。
少なくとも赤也が誰かにこんなに感情的になる姿を見るのは初めてだ。姉である私だって今まで1度も見たことはない。
赤也は一見クールに見えるけど、本当はいつだってみんなに優しい。
私の家を訪ねる時は、毎回違った私好みのお菓子を買ってきてくれるし。興味がないであろう韓国ドラマも嫌な顔もせずに一緒に見てくれる。この前だって、私の突飛な発言に呆れながらも否定せず笑ってくれた。
そんな赤也が! 今、私の目の前で! 女の子と口論している! これはもしかしなくももしかするのではないか!?
これはいわゆる好きな人にはつい冷たくしたり、意地悪をしちゃうというやつではないだろうか。
攻略キャラが全員冷めている、いわゆるクーデレ系乙女ゲームの攻略キャラは、全員クーデレ以外にも属性があった。
確かクーデレ王子『有栖川赤也』はツンデレなクーデレキャラだったはず。……とすればやっぱり!!
以前赤也は恋愛には今はまだ興味がないと言っていたけれど。なんだ。してるじゃないか。こんなに可愛い女の子と。私なんかと同じ恋愛音痴だなんて思ってごめんよ。
「赤也と瑠璃ちゃん……お似合いだと思いませんか?」
「……は? キミそれ本気で言ってる?」
黄泉がありえない物を見る目で私のことを見てくる。
ははーん、黄泉にはわからないかもしれないけれど、私にはわかるんだなあ~。
赤也は確実に瑠璃ちゃんに気を許してるし、親しいからこそ何でも言えるのよ。
「……もしそれを本気で言ってるなら、やっぱりキミは可哀想な子だね」
「え?」
バレンタインにチョコを渡す相手がいないのかとおちょくってきた時と同じ顔をして、黄泉は私にそう言う。
「いや、この場合可哀想なのはカレの方かな~。他人からの好意に鈍すぎるキミよりも、弟であることを強いられているカレの方が、ずっと可哀想だね」
「……何が言いたいんですか?」
私のことはブサイクでも何でもどう言われても構わないけれど。いや、厳密には構うけれど。
赤也のことを悪く言うつもりなら、いくら鷹揚な心を持つ私でも座視できない。
「べっつに~。まあ、確かにいいコンビではあるかもね、あの2人は」
「……っ! ですよね? すっごいお似合いの2人ですよね!」
結局黄泉が言っている意味がよくわからなかったけれど。悪意があったわけでもなさそうだし。
何より2人がお似合いだということは同意してくれたので私はすっかり浮かれていた。
だからこの時は、黄泉の言葉の意味をあまり深くは考えもしなかった。
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