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13 へえー、キミがあの『立花雅』さんかぁ
しおりを挟む「清水はいるか」
メガネの似合う真面目そうな男の子。どうやらたまたま扉の近くにいたから私に声をかけたようだった。
「葵ちゃんですね。ちょっと待ってください」
そうメガネくんに告げると、すぐさま彼女に伝える。清水というのは私の友人の名字だ。清水葵ちゃん。幼稚園から同じで、今は同じ麗氷学園幼稚舎の同じクラスだ。桜子ちゃんと3人で、今でも親しくさせて貰っている。
「ああ、あず……白川ね。ありがとう雅」
「いえいえ、お気になさらないで」
相変わらずクールだなぁ、かっこいい!
女の子にしては短い髪の毛はクールな葵ちゃんによく似合っている。いつも落ち着いていて、表情を崩すことが少ないから無表情だと誤解されやすいが、実は案外顔に出るんだよね~。今は、少し嬉しそう? 何かいいことでもあったのかな。
「ちょっと梓~! オレを置いていくだなんてひどいじゃないか!」
「置いていったわけじゃない。お前が遅いからその間に用を済ませてただけだ」
そう言ってシラカワくんは適当に友人をあしらう。……ん? シラカワ? し、ら、か、わ? ……『白川』?
「えええぇぇぇ!?」
「み、雅!? だ、大丈夫?」
「な、なんだ。どうしたんだいきなり」
急に大声を出したことはごめんなさい。謝ります。でも今はそれどころじゃないのよ。
シラカワって、もしかしなくても白に川!? 白って、……もしかして、このシラカワくんが最後の攻略キャラ?
『有栖川赤也』、『一条青葉』、『西門黄泉』、全員名前に色がつく。だから見落としていた。たまたま3人がそうだっただけで、名字につく可能性だってないわけじゃなかったのだ。
「あ、あのぉ! ……あなたのお名前を漢字で教えて頂いても?」
「……白川梓だ。普通に白いに川、梓は弓によく使われる樹木の梓だ」
『白川梓』くんかぁ。どうしよう。聞き覚えがちっともない。これじゃあ攻略キャラなのかどうかも判別しかねる。
見た目は他のキャラほどではないが、普通に整っているし。まあかっこいい。将来メガネの似合うイケメンになって、寡黙恋愛音痴系キャラになってそうでもある。よく考えれば乙女ゲームにメガネキャラは必須だし! ……やっぱり白川くんが?
「それで、人に名乗らせておいて、自分は名乗らない気か」
「ちょっと、あず……白川。何もそんな言い方……」
「申し遅れましたわ、わたくし立花雅と申します。突然大声を出してしまってごめんなさい。ちょっとわたくし勘違いしたみたいで……」
もっと上手な誤魔化し方があったと思う。突っ込まれたら何て言おうかと、内心焦っていたけれど、私の心配をよそに白川くんは「ああ君があの」と合点がいったような顔をした。
「話はよく聞いている」
「あ、そうなんですか……」
誰からだろう。なんだか親しそうだし葵ちゃんからかな。大親友とか言われてたらどうしよう。照れるなあ。……って違う違う。今は白川くんについてだ。
まじまじと彼を見るけど、やっぱり確信は持てなかった。どっちかといえば、今彼の隣りで目を見開いている彼の方が整っていて、まるで攻略キャラみたい……──え。
「へえー、キミがあの『立花雅』さんかぁ」
ニコニコしながら私の両手をぎゅっと握る。な、何故今手を握る必要性が?
悪態ならすぐに思いつくのに、今の私には彼に告げる余裕はない。
「この学園にいることは知ってたんだけど、違うクラスだったし、これがはじめましてだよね。あっ、当然、オレのことは知ってるよね?」
もちろん知っていますとも。というか、クラスといっても2クラスしかないのだから、入学して半年以上経てば嫌でもみんなの顔を覚えるけどね。
「えっと、西門くんでしたかしら?」
「そう、オレがあの西門家の末っ子、西門黄泉さ。もしかしたら結婚するかもしれないんだからさ、前もって仲良くなっておこうよ。立花雅さん」
『西門黄泉』とはクラスも違うし、今まで接点はなかった。移動教室も彼の取り巻き集団を見かけたらこそこそ隠れてやり過ごしていたし。まさかこんなことで今までの努力が水の泡になるとは……。
そしてなんだか今結婚とか聞こえたような? 気のせいかな?
婚約もしてないのに、何言ってるんだこのお子様は。あ、今は私もお子様か。
「まだ、そうと決まったわけでは」
「ええ~? でもでも、父上と花ちゃんおじ様はすっかりその気だし~、時間の問題じゃない?」
何が、ええ~ですか!
小首を傾げて、可愛いとでも思ってるのか! ……可愛いけども!
なんかあざといなこいつ。
あらやだわ。こいつなんて乱暴な言葉、立花家のご令嬢が使ってはいけないわね。でも赤也の可愛らしさと違って、彼のは人工的というかわざとらしいんだよね。
話し方やポージングまで、すべて計算づくされていそうなこの感じ。私が言うのもなんだけど、……本当に小学1年生か?
「あっ、もしかしてこのオレに自分なんかは相応しくないとか思って遠慮しちゃってる~? あはは、おじ様がそんなこと言ってたけど気にしなくていいのに~」
お、お父様あ~~!!
いくら仲良しの友人に、自分から持ちかけた婚約話断りにくいからって私を出しにするな~!
そもそも私が婚約のお話は全て断るように言ったから、今はそういった話がないだけで、お父様としてはまだチャンスを狙っているようなのよね。
私がやっぱり婚約するといつ言ってもいいように、完全には婚約話を断ってはいないのだ。ワンチャンなんてないからね?
だからお父様。虎視眈々とそのチャンスを狙わないで頂きたい。
「キミもオレほどじゃないけど、まあまあ見映えが良いし、2人並んだらなかなかルックスがいい夫婦になると思うんだよねぇ~」
「……はあ」
上から下までじろじろ見られるのって、予想以上に気持ち悪い。
一応褒められているみたいだけど、いったい何とどう比較したんだろうか。私にも失礼だけど、比較された相手にも失礼な発言だ。
まだたった7年しか生きていないあなたの基準ではかられても全く嬉しくないわよ。
喉元まででかかった言葉を必死で飲み込む。我慢だ。我慢だ私。
今彼に突っかかるのは良くない。
こういうタイプは甘やかされて育って、女の子に食ってかかられたことなんてないはずだ。
下手に文句なんて言えば、『こんな女初めてだ、お前面白いな』パターンか『この俺様に向かって舐めた口聞きやがって』パターンだ。下手に好かれても嫌われても面倒なだけ。ここは平凡に笑顔で聞き流す。
「黄泉、それくらいにしておけ。彼女が困っているだろう」
「あずー! ちょっと何その言い方~!」
「真実だ。だいたい女性に対してその言い草、紳士的じゃない」
あら、思ったよりも白川くんはいい人そうだ。ありがとう、あずー!
最後は「こいつが失礼なこと言って気分を害したなら済まない」と頭を下げてくれた。彼はちっとも悪いことなんてしていないのに。すごく出来た子だ。『西門黄泉』も友達ならさ、ちょっとは見習いなよ。
「まあ、いいや。その気になったらいつでも声かけてね~」
そう言って授業に遅れるからと、2人は立ち去った。その気になることはこれからもないでしょう。
白川梓くんかあ、絶対変な女だって思われたよね。そりゃいきなり奇声をあげたら誰だってびっくりするよね。仕方ない。私が悪い。
攻略キャラか否かは置いといて、いい人そうだったからせめて友人にはなりたかったんだけど。
少し落ち込んでいたら、葵ちゃんに「梓は特に気にしてないと思うよ」と励まされてしまった。
さっきからずっと気になっていたんだけど、葵ちゃん、ちょくちょく白川くんのこと名前で呼びそうになってたよね。今なんて呼んじゃってるし。もしかしなくてもそういうことなのかな?
でもそれを突き止めるのは野暮な気がしてやめておいた。いつか彼女から相談された時まで待とう。
恋の相談なら任せてほしい!
伊達にお兄様と韓国ドラマみてないわよ!
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