12 / 125
12 この俺様が? あんな鈍臭い女を? はっ、笑わせるな
しおりを挟む麗氷学園幼稚舎に入学してから数ヶ月が経とうとしている。
私の通う麗氷学園は、幼稚舎から大学まであり、幼稚舎からはそれ相応の家柄か、もしくはそれを補えるだけの富豪でないと入学出来ない。
数多くの優秀な人材、つまりエリートを輩出してきたため、麗氷学園に通っている、それだけでステータスになる。
そう、お金持ち学校の最高峰なのだ。
この学校が特殊なのはそれだけではない。中高一貫校ならいざ知らず、小中一貫校なのだ。珍しいよね、小中一貫校。
豊かな人間性を育むことを教育理念に掲げ、のびのびとした自由な校風の麗氷学園幼稚舎。男女ともにのほほんとしたお嬢さまおぼっちゃまが多い。
質実剛健を重んじた教育内容で、勉強だけでなく部活動まで力を入れる麗氷学園男子幼稚舎。小学4年生からは強制的に部活動に加入しなくてはいけないという中々ハードな学校。
上流階級で生きる女性に必要な女礼を中心に身につけ、上品で礼儀正しい女性の育成を目指す麗氷学園女子幼稚舎。和歌、書道、お琴など、昔ながらの和風教育も多数存在し、明らかに『立花雅』はここだったなと思う。
それぞれ小中一貫校が3校に分かれており、高校で1つに集まる。かつ外部生も受け入れるため、一気に人数が増えることになる。今は少数精鋭って感じだ。
まあ、校舎は違えど、同じ敷地内にあるから行事は一緒にやることが多いしね。3校に分かれててもあんまり関係ない気はする。
それぞれ通称【麗氷】、【麗氷男子】、【麗氷女子】。私は唯一共学である麗氷に通うことにした。
前世でも共学しか経験したことないからさ、女子校って少し憧れるけれどやっぱり怖いんだよね。
よくあるおっさん化してしまうパターンなのか。それとも、壮絶ないじめが発生するパターンなのか。どちらも違った意味で恐ろしいよね。
それにお父様には恋愛結婚がしたいと言っておきながら女子校なんて選択したら、「こいつ受け身すぎるだろ! やっぱり婚約しなさい」って思われそうで。
本当はお兄様と同じ学校が良かったんだけど、麗氷男子だから不可能だった。
ひどいわお兄様! 私のことを考えてせめて共学にして下さいよと思ったが、私が生まれた頃にはもうお受験が終わって入学していましたよね。
女子校にしなかったことで1つ懸念があった。
それは『一条青葉』と『西門黄泉』と同じ学校になるかもしれないということだ。
もし同じ学校なら、それだけで関わりを持ってしまう可能性が高くなる。私はパーティーで顔を合わせるよっ友くらいでいいのだ。クラスメイトなんて……ああ、恐ろしい。
乙女ゲームの世界では高校2年生の5月という中途半端な時期から始まる。『結城桃子』と出会い徐々に変わっていく彼らがメインになっており、そのためそれ以前の彼らのことはあまり詳しく描写されていない。
確実なのは私『立花雅』を含め、主人公以外のメインキャラは全員生粋の麗氷生、【純血】と言われる存在だった。つまり幼稚舎からずっと麗氷学園なのだ。
立花家なんて兄妹そろってだよ? よくそんなお金あるなあ、とはしみじみ思うが今はそこは重要ではない。
そう、2分の1の確率で『一条青葉』と『西門黄泉』は私と同じ共学に通うかもしれないのだ。
厳密には2人とも麗氷男子に通う確率は25%。つまり、2人とももしくはどちらか一方が共学に通う確率は75%なのだ。
……詰んだ。正直そう思ったが天は私に味方した。
『一条青葉』は麗氷男子だった!
…………うん、『西門黄泉』はね、共学でしたよ。
まあまあまあ。彼のルートは攻略していないのでよくわからないけれど、少なくとも赤也や青葉ルートには1度も出てこなかったし、元々関わりのないキャラなんじゃないかな?
そう全てのルートの悪役令嬢をやらされたら、たまったもんじゃないわよ。
あー、やんなっちゃうわ~。もしそうなら神様もいい加減にして下さいって感じよ。
そんなことを考えていた私を天はすぐに見放した。
「…………ここはどこなのぉ~~!」
よく雑用を押し付ける木村先生と目が合ってしまったのが運の尽きだった。
行ったこともない別棟の校舎に到底小学1年生の女児1人では持てないような量の資料を置いて来るという大役を仰せつかった。
ここで少しでも嫌な顔をしたらまたネチネチ絡まれることは、前の席の前野くんにより証明済みなので、賢い私はおくびにも出さず笑顔で了承した。
麗氷にまだこんな建物があったのか、と思うほどボロボロの校舎。本当にここであっているのだろうかと疑いたくなる。
校舎の番号的にここであってはいるのだが、本当にここなのか?
正直今すぐ帰りたいくらいだ。雑草はボーボーで私の膝まで伸びきっているし、気のせいかカラスの鳴き声まで聞こえてくる。
どうしよう。木村先生はこのさいどうでもいいが、1度担った役割を途中で投げ出すなんて、真面目すぎる私にはどうしてもできなかった。
「何してるの?」
「ひいぃぃ!」
「ひどいなぁ……幽霊じゃないんだから」
クスクスと笑い声が頭上から聞こえる。困り果てた私に声をかけてくれたのは私より少し背の高い男の子。制服から私と同じ麗氷学園幼稚舎の学生だとわかる。
「随分と重そうだね、貸して」
「えっ、あっ……」
ひょいと奪い去られた資料を彼は軽々と持つ。
さっきは驚いてよく見えなかったけれど、この人ものすごく美形だっ……!
そう、それはまさしくガニュメデス様!
男も一目惚れする美貌だよ!
……負けた。女なのに完全に美しさでも負けているっ!
完敗だよガニュメデス様!
「じゃあ行こうか」
そんなことを考えて、本日何度目かわからないフリーズをしていたら、ガニュメデス様はにこやかにエスコートしてくれる。
「す、すみません。あの、お気持ちは嬉しいですが、わたくし自分で持ちますわ」
「女の子にこんな重たい物持たせられないよ。それに初めて先輩らしいことが出来て嬉しいんだ。ここは僕に花を持たせてくれないかい?」
「そういうことなら……」
こういう人って本当にいるんだな。先輩ってことは私より年上だとしてもまだ小学生よね。小学生にしてこの気遣い。麗氷学園は着実に優秀な人材を育てていると実感したよ。
「その代わりと言ってはなんだけど……」
何か私に出来ることがあるのかと思わず目を輝かせる。
「扉の開閉は君に任せてもいいかな?」
「……ええ! 喜んで!」
ありがとうと彼はまた笑ったけれど、それを言うのはこちらの方だ。
***
どうやら私が迷い込んでしまったのは、今は使われていない旧校舎の方だったようだ。
たまたま通りがかったガニュメデス様が新校舎へ案内してくれた。
彼がいなかったらきっと私は無理にあそこに入っていたと思う。危ない危ない。
「うーん、あそこに入るのはあまりおすすめしないかなあ」
「何かいわく付きなんですか!? テケテケ!? 口裂け女!? トイレの花子さん!?」
「いや、妖怪の類はよくわからないけど、単純に老朽化が進んでて、足がすっぽ抜ける可能性があるからさ」
なーんだ。学校の怪談はないのか。
でも生きてる人間が1番怖いっていうし、下半身が床にめり込んでいる姿のまま誰も来ず放置されたらと思うと、ものすごく恐ろしい。
何より立花家のご令嬢ともあろうお方がそんな間抜けな姿を人様に晒すなんて、社会的に死んでしまう。良かった、本当に入る前じゃなくて。
それもこれもこのガニュメデス様のおかげ!
……そういえば、ガニュメデス様のお名前はなんていうのかしら?
「……ありがとうございました」
「いえいえ。お役に立てて光栄ですよ」
じゃあ、僕はこれで、という先輩を引き止める。
「あの、よかったらお名前を……」
「名乗るほどのことはしていませんから」
そんなふうに笑顔で拒絶されてしまっては、これ以上食い下がることなんか出来ない。
因果応報とはこのことだ。
私だっていやなときはそれとなく笑顔で拒絶する。だけどやられた人の気持ちなんて考えたことなかった。申し訳ないな、とは思っていたけど、結構堪えるわね。告白してないのに振られた気分だ。
じゃあせめて、と立花家で作ってるフィナンシェを渡す。
お母様以外の家族が皆スイーツには口うるさいので、それを見かねたお母様にそんなに好きなら自分で作ってはどうだと言われたのがきっかけだ。
今まで食品には手を出していなかったお父様は目からウロコだったようですぐに取り掛かった。
このフィナンシェはその時出来た新商品なのだが、大変売れ行きが好調で、少し値が張るがご予約半年待ちの看板商品だ。
今日は偶々クラスの皆にお願いされて持ってきた余りがあったから私が後で食べようとポケットに入れていたのだ。
だけど正直試作から完成まで飽きるほどフィナンシェを食べたから、もう当分フィナンシェは見たくないのよね……。私としても貰ってもらえるとすごく助かる。
「美味しそうだね。ありがとう」
「……いえ! こ、こちらこそありがとうございました」
良かった、貰ってくれた。本当は拒否られたらどうしようかとも思ったんだけど。
あんなに美しく優しいガニュメデス様がそんなことするはずなかったわ。取り越し苦労だ。
……また、会えるかしら?
会えるといいな。
なんだかこういう気持ち久しぶり。会いたくない会いたくないと思うことはあっても、また会いたいだなんて思うこと少なかったもんね。
***
雅の中で、彼の呼び名がすっかりガニュメデスで定着しきった頃。少年は胡散臭い笑みを浮かべる、眼鏡をかけた友人に声をかけられる。
「何しとったん?」
「別に、いつも通り“人助け”さ」
相変わらずやな~とケラケラ笑う友人に、彼は何がおかしいのかと問いたくなるが、この友人には何を言っても無駄なことはわかっているのでなにも言わない。
「それ、やるよ」
「なんやこれ。……これは、幻のフィナンシェやんんん!」
よくわからないが、友人がこれだけ喜んでいるということはそれなりに価値のある物なのだろう。けれど少し潔癖の嫌いがある彼には名前も知らぬ人から貰った物はどうしても受け入れ難かった。
「あれ、あの子『立花雅』とちゃうん? ほら、立花家のご令嬢の」
少し離れた所にいる彼女の後ろ姿をみた友人は、お菓子と背格好からそう推測する。
「……ああ、青葉の“元”婚約者候補か」
あちらはどうか知らないが、少なくとも少年は『立花雅』を知っていた。
「珍しいな、マシロが女の子に興味持つなんて」
いくら弟の婚約者候補だからといっても、全員の名前を覚えているわけではない。けれど、特段興味があったわけでもなかった。
「この俺様が? あんな鈍臭い女を? はっ、笑わせるな」
穏やかに笑っていたガニュメデス様の姿はそこにはなかった。
「あんな女が、一時でも俺の義妹になるかもしれなかったと思うと、ゾッとするね」
ただの高慢ちきな少年──『一条真白』が彼女を罵り、嘲笑っていた。
そう、彼が最後の攻略キャラ、白の名を持つ『一条真白』だったのだ。
そうとも知らず、私『立花雅』が、まさか彼の本性がガニュメデスではなく堕天使ルシファーだと気づくのはもう少し先の話。
0
お気に入りに追加
1,332
あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

気だるげの公爵令息が変わった理由。
三月べに
恋愛
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。
王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。
そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。
「生きる楽しみを教えてくれ」
ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。
「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」
つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。
そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。
学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。
「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」
知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。
「無視してんじゃないわよ!」
「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」
「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」
そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。
「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」
ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。
(なろうにも、掲載)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる