クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

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10 ……エレガンスコンビかぁ

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「雅さん」
「赤也っ! どうでした?」


 2人っきりじゃないと話しにくい話もあるだろうから、有栖川親子には他の部屋を用意した。こっそり覗き見をしたいくらいには気になっていたけれど、それはやめておいた。親子の仲に水を差すような真似はしたくないもの。


「……その……好きとは、言って貰えませんでした」


 よく見たら少し目が赤い。まるで泣いた後みたいに。


「もしかしておじ様にひどいこと言われたの!? わたくし文句言ってきます!」
「ち、ちがうんです! そうじゃなくて……」


 今すぐにでも、と息巻く私を、赤也は焦ったようにひきとめる。え、ちがう? どういうことだろう。じっと赤也の返事を待つと、照れくさいのか少し俯きながらつぶやく。


「愛してると、言ってくれたんです」
「な、なんだあ~~……」


 正直もしかしたらを考えなかったわけじゃない。

 赤也にはいつもポジティブなことを言ってはいても、本当はすごく不安だった。

 アリスおじ様が、赤也の言うように赤也のことを愛していないかもしれないって。でも、良かった。安心したら腰が抜けてしまった。座り込んで上手く立ち上がれない私を赤也が引っ張って立たせてくれる。


「だ、大丈夫ですか!?」
「えへへ、良かったね、赤也」


 思わず頬が緩む。雅さんのおかげですって言ってくれたけど、私は何もしてないよ。でも紛らわしい言い方はびっくりするから今度からやめてほしいな。……え? なんだか恥ずかしかった? ……なら仕方ないか!


「雅さんにこれを渡したくて……」
「あら、胡蝶蘭ね。とってもきれいだわ!」
「家の庭から少し頂いて花束にして貰いました」


 有栖川家にはまだ1度しか行ったことがないけれど、確か大きな庭園があったはずだ。こんな綺麗なお花が咲いているなんて、素敵ね。今度是非案内して貰いたいなあ。


「ありがとう。とっても嬉しい」


 赤也がくれた花束は、どちらかといったら丸みを帯びていてミニブーケみたいだった。そして、今日の私のドレスと同じく、赤也のスーツも上下ワインレッドで赤系統だ。

 なんだか今の状況結婚式みたいだなあなんて、ふと思ったら急に気になってきてしまった。

 気のせいか周りから生暖かい目で見られてる気がするし……私の羞恥心が伝染してしまったのか、赤也ももじもじしてる。


「あら、可愛らしいカップルね~」


 なんだか気まずい私達の沈黙を、透き通ったソプラノが破った。


すず叔母さん!」
「久しぶりね、赤也」


 鈴叔母さんと呼ばれた人はキリリとした大きな流し目が特徴的で、あまりの美しさに私は目が離せなくなる。赤也と同じ赤毛は彼女に非常にマッチしていて、艶かしい。


 その姿は、どこか高校1年生の『有栖川赤也』を彷彿とさせた。


 1人だけおいてけぼりの私に、彼女は母親の妹だと赤也が紹介してくれた。

 赤也のお母様は蘭さんといって、2人合わせて鈴蘭姉妹と呼ばれていたらしい。随分可愛らしいコンビだな。

 なんかいいなそういうの。私のお兄様が優だから、私達だと『優雅』……エレガンスコンビかぁ。……なんか、すごいセンスだな。全然可愛くないや。……うん、でもさすが立花家。ロイヤルファミリーだね!


「それにしても、『ピンクの胡蝶蘭』ねぇ、ふぅん。なるほどねぇ」
「ち、ちがっ!」
「あ~ら、私は何も言ってないわよぉ?」


 私が独り物思いにふけっていると、何やら赤也が顔を真っ赤にさせながら慌てていた。

 鈴さんの美しさに魅了されちゃったのかなあ? わかるよ。私も同性なのにぽーっとしちゃったもん。


「雅ちゃん、胡蝶蘭の花言葉知ってる?」
「花言葉、ですか」


 急に話を振られて内心驚く。

 胡蝶蘭の花言葉かぁ。前世で一時期花言葉とかにハマった時期があったなあ。確か昔見たマンガでは『私はあなただけを見つめる』という花言葉のひまわりを渡して告白してたっけ。ああいうの、憧れたな~。今思うと少し怖いけどね、私だけをずっと見つめられても。もっと周りも見て欲しいなって思うし。確か胡蝶蘭の花言葉は……


「あっ! なるほど! 知ってます知ってます!」
「えっ!」
「あら!」


 あの、深い意味はなくてと、さっきよりも焦った様子で、赤也は両手を顔の前で勢いよく振る。そんなに照れなくてもいいのに。


「恥ずかしがらなくてもわかってますよ、赤也の気持ち」
「め、迷惑でしたよね……」
「いえ、全然」


 そんなことないと即座に否定する。迷惑なはずないわよ。だって、胡蝶蘭の花言葉って……


「確か『幸福が飛んでくる』でしたよね? よっぽど嬉しかったんですね、お父様との仲を修復出来たのが。先程もわたくしのおかげだと言ってましたし、わたくしに幸せのお裾分けでもしたかったんですよね?」
「…………」
「そのお気持ちだけで嬉しいです。迷惑なわけありませんよ! お返しと言ってはなんですが、わたくしからのクリスマスプレゼントは『アリスおじ様との休日』です。楽しんできてくださいね」
「あ、ありがとう……雅さん」


 あれ? 思っていたより反応が薄いなあ。


 もっと喜んでくれると思ってたんだけど、嬉しそうっていうよりも少し肩を落としているようにも見える。鈴さんに至っては笑いをこらえてぷるぷる震えていらっしゃる。


 え、私今そんなにユニークなこと言いましたか?



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