クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

文字の大きさ
上 下
10 / 125

10 ……エレガンスコンビかぁ

しおりを挟む




「雅さん」
「赤也っ! どうでした?」


 2人っきりじゃないと話しにくい話もあるだろうから、有栖川親子には他の部屋を用意した。こっそり覗き見をしたいくらいには気になっていたけれど、それはやめておいた。親子の仲に水を差すような真似はしたくないもの。


「……その……好きとは、言って貰えませんでした」


 よく見たら少し目が赤い。まるで泣いた後みたいに。


「もしかしておじ様にひどいこと言われたの!? わたくし文句言ってきます!」
「ち、ちがうんです! そうじゃなくて……」


 今すぐにでも、と息巻く私を、赤也は焦ったようにひきとめる。え、ちがう? どういうことだろう。じっと赤也の返事を待つと、照れくさいのか少し俯きながらつぶやく。


「愛してると、言ってくれたんです」
「な、なんだあ~~……」


 正直もしかしたらを考えなかったわけじゃない。

 赤也にはいつもポジティブなことを言ってはいても、本当はすごく不安だった。

 アリスおじ様が、赤也の言うように赤也のことを愛していないかもしれないって。でも、良かった。安心したら腰が抜けてしまった。座り込んで上手く立ち上がれない私を赤也が引っ張って立たせてくれる。


「だ、大丈夫ですか!?」
「えへへ、良かったね、赤也」


 思わず頬が緩む。雅さんのおかげですって言ってくれたけど、私は何もしてないよ。でも紛らわしい言い方はびっくりするから今度からやめてほしいな。……え? なんだか恥ずかしかった? ……なら仕方ないか!


「雅さんにこれを渡したくて……」
「あら、胡蝶蘭ね。とってもきれいだわ!」
「家の庭から少し頂いて花束にして貰いました」


 有栖川家にはまだ1度しか行ったことがないけれど、確か大きな庭園があったはずだ。こんな綺麗なお花が咲いているなんて、素敵ね。今度是非案内して貰いたいなあ。


「ありがとう。とっても嬉しい」


 赤也がくれた花束は、どちらかといったら丸みを帯びていてミニブーケみたいだった。そして、今日の私のドレスと同じく、赤也のスーツも上下ワインレッドで赤系統だ。

 なんだか今の状況結婚式みたいだなあなんて、ふと思ったら急に気になってきてしまった。

 気のせいか周りから生暖かい目で見られてる気がするし……私の羞恥心が伝染してしまったのか、赤也ももじもじしてる。


「あら、可愛らしいカップルね~」


 なんだか気まずい私達の沈黙を、透き通ったソプラノが破った。


すず叔母さん!」
「久しぶりね、赤也」


 鈴叔母さんと呼ばれた人はキリリとした大きな流し目が特徴的で、あまりの美しさに私は目が離せなくなる。赤也と同じ赤毛は彼女に非常にマッチしていて、艶かしい。


 その姿は、どこか高校1年生の『有栖川赤也』を彷彿とさせた。


 1人だけおいてけぼりの私に、彼女は母親の妹だと赤也が紹介してくれた。

 赤也のお母様は蘭さんといって、2人合わせて鈴蘭姉妹と呼ばれていたらしい。随分可愛らしいコンビだな。

 なんかいいなそういうの。私のお兄様が優だから、私達だと『優雅』……エレガンスコンビかぁ。……なんか、すごいセンスだな。全然可愛くないや。……うん、でもさすが立花家。ロイヤルファミリーだね!


「それにしても、『ピンクの胡蝶蘭』ねぇ、ふぅん。なるほどねぇ」
「ち、ちがっ!」
「あ~ら、私は何も言ってないわよぉ?」


 私が独り物思いにふけっていると、何やら赤也が顔を真っ赤にさせながら慌てていた。

 鈴さんの美しさに魅了されちゃったのかなあ? わかるよ。私も同性なのにぽーっとしちゃったもん。


「雅ちゃん、胡蝶蘭の花言葉知ってる?」
「花言葉、ですか」


 急に話を振られて内心驚く。

 胡蝶蘭の花言葉かぁ。前世で一時期花言葉とかにハマった時期があったなあ。確か昔見たマンガでは『私はあなただけを見つめる』という花言葉のひまわりを渡して告白してたっけ。ああいうの、憧れたな~。今思うと少し怖いけどね、私だけをずっと見つめられても。もっと周りも見て欲しいなって思うし。確か胡蝶蘭の花言葉は……


「あっ! なるほど! 知ってます知ってます!」
「えっ!」
「あら!」


 あの、深い意味はなくてと、さっきよりも焦った様子で、赤也は両手を顔の前で勢いよく振る。そんなに照れなくてもいいのに。


「恥ずかしがらなくてもわかってますよ、赤也の気持ち」
「め、迷惑でしたよね……」
「いえ、全然」


 そんなことないと即座に否定する。迷惑なはずないわよ。だって、胡蝶蘭の花言葉って……


「確か『幸福が飛んでくる』でしたよね? よっぽど嬉しかったんですね、お父様との仲を修復出来たのが。先程もわたくしのおかげだと言ってましたし、わたくしに幸せのお裾分けでもしたかったんですよね?」
「…………」
「そのお気持ちだけで嬉しいです。迷惑なわけありませんよ! お返しと言ってはなんですが、わたくしからのクリスマスプレゼントは『アリスおじ様との休日』です。楽しんできてくださいね」
「あ、ありがとう……雅さん」


 あれ? 思っていたより反応が薄いなあ。


 もっと喜んでくれると思ってたんだけど、嬉しそうっていうよりも少し肩を落としているようにも見える。鈴さんに至っては笑いをこらえてぷるぷる震えていらっしゃる。


 え、私今そんなにユニークなこと言いましたか?



しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

気だるげの公爵令息が変わった理由。

三月べに
恋愛
 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。  王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。  そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。 「生きる楽しみを教えてくれ」  ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。 「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」  つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。  そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。  学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。 「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」  知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。 「無視してんじゃないわよ!」 「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」 「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」  そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。 「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」  ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。 (なろうにも、掲載)

処理中です...