クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

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110 ……まぁ、あれでも一応姉さんの次くらいには大切な子なんで

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「……いや、オレの周りでコーヒーっていったら青葉くらいしか思いつかなかっただけ。知らないけどね、本当のとこは」
「……どういうことで──」
「あ、やっと見つけたわ!!」


 赤也くんの言葉を遮ったのは、鈴を転がすようなソプラノ。青葉の妹の瑠璃だ。

 今日の瑠璃は、桃色のドレスを身に纏い、同じ色のリボンで髪を飾っていた。そんな彼女が、手をブンブンと振りながらオレたちに近寄ってくる。

 遠目でも、かわいらしい容姿をしているのが見て取れた。赤也くんを見つけてよほど嬉しいのか、オレを見つけた時より笑顔な気が……。

 やっぱりなんか気に入らない。……でも、なにがそんなに気に入らなかったのだろう?

 そんなことを考えている内に、瑠璃が近くまできていた。


「はあ、はあ……やっと見つけたわ、赤也! 黄泉様がおっしゃっていた方向には、全然見当たらないんだもの! もう会場中赤也を探し回って、喉カラカラよ!」
「そ、ドリンクコーナーならあっちだよ」
「……えー、とってきてくれないの!?」
「なんで僕が。それくらい自分で行ってきなよ」
「相手がお姉様だったら取りに行くくせに!」
「そりゃあね。でも残念、瑠璃は姉さんじゃないから」


 赤也くんの素っ気ない反応に、瑠璃は頬をぷくぅーっと膨らませながら、ドリンクコーナーへ行ってしまった。……2人のやり取りは気の置けない感じがして、完全にオレは蚊帳の外。

 瑠璃が彼と親しいのは元々知っていたけれど、改めて思い知らされるとますます面白くない……。


「西門さん、何むっとしてるんですか?」
「…………してない」
「してるじゃないですか……はぁ。不機嫌の理由は知りませんけど、また瑠璃を虐めるつもりですか?」
「……さあね。もしそーだとして、キミに関係ある?」
「……まぁ、あれでも一応姉さんの次くらいには大切な子なんで。……関係は、ありますよ。だから、あまり瑠璃を虐めないでやってくださいね」
「…………ふぅーーん?」


 照れることなく、当然のようにそう答えた赤也くん。……それって、実はかなり瑠璃のこと好きってことじゃない? 今までそんな素振り全然なかったのにさ~! 彼の言葉に増々オレのイライラが募る。


「そういう西門さんは、瑠璃のことどう思ってるんですか? いつも意地悪ばかりですけど」
「……そうだねぇ、親友の青葉の妹だしね。……オレにとっても、一応妹みたいなもん、かな?」


 まあ、見ていて面白いし、割と気に入っている。けれども、自分で言っておいて、『妹』という単語に違和感があった。瑠璃と妹という単語がイマイチ符号しない。……だけどそれ以外の答えが見つからない。


「なんだ、好いているのかと思いました」
「オレがぁ~? 瑠璃ぉ~?」
「ええ、それならつい意地の悪いことをしてしまうのも納得できますし」
「まさか、ないない」


 それは有り得ないと笑いながら、顔の辺りで手のひらを振る。

 そりゃあ、好きだと言われた時は嬉しかったし、優越感も抱いた。少なくとも、会う度に好きだと言って欲しいと思うくらいには。

 それに、昔と比べて今はさほど瑠璃に対して苦手意識はないし、そこそこ気に入ってもいる。

 しかし、そこに恋愛感情があるのかと問われれば、違う気がした。だって、オレが好きなのは瑠璃の兄である青葉だ。いくら顔が似ていても、瑠璃じゃない。


「ではどうしていつも瑠璃にだけ意地悪を?」
「瑠璃にいつも意地悪しちゃうのは、反応が面白いから。他意はないって」


 俺の返答に納得がいっていないのか、赤也くんは「はぁ」とまるでわかってないような返事をした。

 うん、だってそんなはずない。俺が好きなのは、今も昔も青葉だけだから。



***



 ドリンクをとって2人の元へ戻ると、何やら微妙な空気が流れていた。


「なんですかこの微妙な空気は……どうしました? お2人喧嘩でもしました?」
「……喧嘩、はしてないよ」
「そうだね~、喧嘩はしてないよねぇ~。だってある程度親しくないと、喧嘩なんか起こりえないもん。そもそも喧嘩するほど、オレと赤也くんは親しくないしね~」
「……珍しく意見が合いますね、僕もそう思います」


 ……な、仲悪っっっ!! 私達ってお姉様含めて4人で過ごすことが多かったけど、この2人ってここまで仲悪かったの!? ……今思い返せば、確かにこの2人が話してるところはあまり見たことがなかった気がする。

 でも、赤也がここまで人に毒づくのって、ある程度親しくないとないんだけどなぁ。もちろん、お姉様を除いて。……それって、黄泉様には気を許してるってことじゃないかしら?

 だけど2人は頑なに認める気はなさそうだ。まあ、何でもいいんだけど。


「……珍しいね~、そういう色のネックレス」


 ふと、黄泉様が私の胸元に視線を移す。確かに私にしては珍しいピンク色の宝石を用いたネックレス。普段は瞳の色に近い、グリーンやブルー系の宝石を私は好んで身につけている。黄泉様の指摘は最もだ。


「最近のお気に入りなんです。……似合ってませんか?」


 指摘されるほど、違和感を覚えるほど、私から浮いているのだろうか。黄泉様に言われると、少し不安になる。……そんなはずないと思ってはいるけれど。


「まあ、似合ってるんじゃない~?」


 彼の言葉に良かったとほっと胸を撫で下ろす。


「……ですよね! ありがとうございます。以前お姉様も似合ってるって言ってくださったんです! わたくしも、我ながら似合ってると思っていますの!」


 自画自賛と言われようと構わない。だって似合ってるものは似合ってるんだもの! 黄泉様にちょっと「うわぁ……」って顔されたけど、気にしない!


「ネックレスを見せたくて僕を探してたの? それならこの前見たよね?」


 そこでようやく今日の目的を思い出す。


「あ、そうだったわ。このイヤリングを見てほしくて!」


 これこれ、と右手の人差し指で右耳をさしてアピールする。


「イヤリング? ああ、ネックレスと同じ宝石のを新調したんだね」
「ふふっ、もちろんオーダーメイドよ? どうかしら?」
「うん、よく似合ってるね」


 赤也は普段は素っ気ないけど、割と褒め言葉はストレートに言ってくれる。お姉様の教育か知らないけれど。

 そんなストレートな言葉は、私をすごく嬉しくさせる。あのゲームのようにツンデレじゃない。むしろツンデレのツの字もない。

 『有栖川赤也』ならデレるまで『立花雅』以外の変化に気づきもしないだろうし、変化をアピールしても「だから何? 興味ない」って言うだろう。


「赤也も、そのカフスボタン似合ってるわ」
「……瑠璃、会う度言ってくれるよね。嬉しいけどね」
「だって本当に似合ってるんだもの! それにわたくし達2人の・・・努力の結晶でもあるでしょう?」
「いっぱい頑張ってたもんね、瑠璃」


 大変だったけど、たくさんたくさん一緒に練習したよね。赤也と見つめ合いながら、過去を想起する。

 そもそも、あれだけ練習して選ばれないとかありえないわよ。

 私達の会話を聞いて、何故か黄泉様だけが小首をかしげていた。



***



「……『努力の結晶』って、何のこと?」


 いまいち要領を得ない会話に、自分だけ仲間外れにされたように感じ、またもやイライラしてしまう。

 ……おかしいな。自分はここまで短気ではなかったはずだが……と不思議に思う。カルシウム不足なのかな、オレ。

 加えて、じゃれ合うような会話。ほんっと仲良いよね、2人とも。……別にどうでもいいけど~! オレには関係ないし!


「ほら、この前わたくしと赤也でベストカップルをとったじゃないですか。黄泉様もご存知でしょうけど」
「はあ!? それは全然ご存じじゃないよ!?」


 何それ聞いてない。なんでそんな大事なことオレに言わないわけ? 意味わかんないんだけど。


「あらそうでしたっけ?」
「そうだよっ!」
「てっきりお伝えしたかと……まあ、それはいいとして」


 全っ然良くないんだけど!?

 俺の気持ちを置き去りにして、瑠璃はサクサクと話を進めていく。


「で、今年はお互いペアを組みたい人もいないし、なら赤也と一緒に組もうかなって」
「うん。そしたら瑠璃がベストカップル狙いたいって言い出すから。ならちゃんと練習しないとまずいねってことになって……」
「土日も習い事がない日はどちらかの邸で練習してたのよね~……大変だったわ」
「なにそれ、聞いてないんだけど!? なんで言わないの!? オレに!! そういうことはちゃんとオレに言ってよ!!」
「ですからご存知かと……まあ今お伝えしましたよね。……それに、いちいち黄泉様に報告する義務がわたくしにありますか……?」
「……うっ、それは……」


 さっきから聞いていれば、それが好きな男に対する態度?

 今まで気が付かなかったけど、ネックレスと揃いのイヤリングに加えて、赤也くんのカフスボタンで使用している宝石の色が同じだ。

 ……別にオレだって、瑠璃とベストカップルをとったことがあるし、お揃いのネックレスとカフスボタンを持っている。が、瑠璃は一向にそれを着けてくる気配がない。

 以前、瑠璃からイエローの宝石がついたネックレスをジュエリーボックスごと貰った。なんでも、オレが大切にしたいって、幸せにしたいって思う相手にあげてほしいとのことで。

 けれどもそんな相手当分現れそうにないし、使わないで腐らせるものもったいないから、どうせなら瑠璃に使って欲しいとしばらくしてから押し付けたのだ。

 だけど、頑固な瑠璃は一時的に預かるだけだとそのネックレスを着用したことは、オレの知る限り1度もない。たったの1度もだ。ホント頑固すぎ。

 それが何? 赤也くんとお揃いのネックレスは何度も身につけてるってわけ?

 なにそれ、まるでオレとのベストカップルより、赤也くんとのベストカップルのが嬉しかったみたいじゃないか。

 目の前で笑い合っている両者を見て、オレはわずかに顔をしかめる。さっきから距離が近い。もっと離れなよ。

 今回の件、瑠璃は気にしてないだろうけど、オレは心が広い男じゃないからすっごい気にする。


「赤也?」


 オレがそんなことを、独りモヤモヤ考えていると、背後から彼を呼ぶ声がした。

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