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109 キミ、発言は辛口なのに食べ物は甘口だもんね
しおりを挟むこの前5年生になったかと思えばあっという間に7月。夏休みなんてもうすぐだ。
5年生になってから勉強も難しくなってついていくのが大変だったし、オレが通う麗氷は高学年から委員会活動が盛んだ。
ちなみにオレは卒業アルバム委員会。麗氷、麗氷女子、麗氷男子、3校の同学年の卒業アルバムに使用する写真を選んでいる。
本当は全員の映っているシーンが均等になるようにしなきゃいけないんだけど。そこは卒業アルバム委員の特権。さりげな~く、自分と青葉の写真を多くしてる。あ、ついでに雅と梓もね。
雅と梓とは今年は一緒のクラスになった。雅とは実はこれが初。いつも一緒にいるから意外だけど。
それを青葉に自慢したら「あまり興味ないかな」ってバッサリ切られた。さすがにちょっと青葉冷たくない~? もう少しオレの話に興味持ってくれても良くない~?
そう雅に愚痴を零したら、ものすごく微妙な顔をされてしまった。なんでだろ~?
まあ、でも雅にとっては良いことかもしれないよね。だって雅は青葉に関心を持たれるのをイヤがっていたし。
青葉曰く、今は薫子との婚約を考えているみたいだし。案外もう雅との婚約に興味がなくなったのかもね。それって雅にとっては万々歳じゃない?
どうせいつものようにそうね、と返されると思っていた。けれども、彼女から出た返答は──想定していたものとは違った。
***
「今、誰かと話してませんでした?」
「ああ、うん。瑠璃と。キミのこと探してたみたいだからさ、あっちに行ったよ~って教えてあげてたんだ~」
「それ、正反対の方向じゃないですか……」
小さな苛立ちと原因不明の胸のざわめき。よくわかんないけど無性に意地悪をしたくなったんだから、仕方ないじゃないか。
『黄泉様!』
『瑠璃、キミもこのパーティーに参加してたんだね~』
『ええ。あの、赤也を見ませんでしたか?』
笑顔で駆け寄ってきたと思ったら、オレのことよりも赤也くんのことを気にする瑠璃。──もっと、オレと会えたことを喜んで欲しかったのに。あの子はオレのことより赤也くんを優先したから。
『……赤也くん? ……何?……キミ、赤也くんを探してるの?』
『はい、ちょっと用事がありまして』
『オレのことは探さないのに?』
『? 特に用事もありませんでしたし……黄泉様は探さずとも、今こうして会えたじゃないですか』
『ああ、そう。ふーーん。……赤也くんならあっちの方に行ったよ』
『本当ですか!? 黄泉様ありがとうございます!』
だからわざと正反対の方向を教えた。本当は赤也くんは逆方向のドリンクコーナーで、オレと自分の分のドリンクを取りに行っただけだと知っていたのに。ここに入ればすぐに戻ってくることも教えてあげずに。
「はぁ……西門さんって、すぐ瑠璃に意地悪言いますよね……」
先程のことを思い返していると赤也くんにものすごく呆れられていた。
「そういうの幼稚すぎて恥ずかしくありません?」
「はい」とドリンクを渡されながら、年下の赤也くんに窘められる。なんだか居心地が悪くて少し乱暴に受け取る。
「ドリンクありがとう。それにしても意外だねぇ、瑠璃のこと庇うんだぁ? 雅以外の人なんて、み~んなどうでもいいのかと思ってた」
「失礼ですね、そこまで偏ってませんよ」
ふうん。どうだか。
「今日オレに話しかけてきたのだって、雅のクラスメイトになったオレに、大好きなお姉様の近況を聞きたかったからでしょ~?」
「……そうですけど……言い方に悪意があるのは僕の気のせいですか」
「さあ?」
クールな彼が唯一心を砕く相手は、彼の姉のような存在である幼馴染みの雅だけだ。
姉思いって言ったら聞こえはいいけど、要はシスコンってこと。以前赤也くんに冗談交じりに、いつになったら姉離れ出来るんだろうねぇって言ったら、する気ないんでいいんですって真顔で返された。本当シスコン。しかも重度の。
「最近の姉さんは誰よりも前向きなのに、誰よりも落ち込んでいるふうに見えるんです。僕は姉さん本人じゃないから、想像しかできないですけど、何か悩んでるのかなって……新しいクラスに馴染めないとか」
赤也くんの言うことはなんとなく理解はできる。なんというか、不自然なほどに明るいのだ。それこそ無理をしているように。
「悩んでるなら相談にのりたいって? 悩みを教えて欲しいって? それって大きなお世話だって気がするけど」
雅が最近、以前と比べて、積極的に他者と関わりを持とうとしているのは、オレだって、何となく察している。図書委員会とか入ってよく忙しそうにしてるし。クラスの男子とも話すようにしてるし。
『……なんか雅、無理してない?』
『してないわよ』
『そう、ならいいけど。……助けはいらないってことだね?』
『……ええ、お気持ちだけ受け取っておくわ』
だけどさ、本人がいらないって言うのに、それ以上何ができるって言うの? 人間誰しも、触れられたくないことや話したくない悩みの1つや2つあるでしょう。オレにとっての青葉への恋心がそうであったように。
「雅は必要としてないのに、過剰に助けてあげたり、すぐにでも何とかしてあげたいって思うのは、キミがスッキリしたいからでしょ? それってただの自己満足だよね。傲慢だね、赤也くんは」
「……確かに、西門さんの言う通り、僕は傲慢かもしれない、姉さん自身はそんなこと……望んでないのかもしれない」
「なら……」
「でも、それでも。傲慢だろうと過保護だろうと余計なお世話だろうと」
「いや、オレそこまでは言ってないからね?」
「心配なものは心配なんです! 姉さんはすごく無理をするのが上手な人だから……また倒れてしまわないかって……っ!」
……今初めて、赤也くんは雅の弟なんだなって思った。血の繋がりなんてないし、もちろん顔も似ていない。そんな2人だけど、……馬鹿みたいにまっすぐなところはそっくりだ。……すこしだけオレの大切な人を連想させるその素直さは、嫌いじゃないから困る。
「……珍しく饒舌だね。まあ、雅なら無理してまた倒れかねないし、オレもこのまま放っておいてクラスで人が倒れたりしたら寝覚めが悪いし。いいよ、協力してあげる」
「……っ、ありがとうございます」
「で、新しいクラスに馴染めてないか、だっけ? その線はないと思うよ。今年は綾小路さんと清水さんもいるし、それにオレも梓も…………あと不愉快だけど前野も」
「……不愉快なんですね」
「それはもう、ね」
ただでさえ存在が不愉快なのに、最近のアイツは綾小路さんと上手くいっているのか何やら浮かれているし。いつにも増して不愉快極まりない。あー、腹立つ!
「つまり、西門さんでも、詳しいことは何も知らないってことですね……」
「あとは強いて言うなら新しく入った図書委員会だけど、この線も薄そう。本の場所覚えるの大変だけど充実してるって言ってたし」
「……もうお手上げじゃないですか」
このままだとオレがただの使えない奴になってしまうので、赤也くんにも意見を求めることにした。
「キミは何か雅の様子が変だなって思うことはなかったの?」
「…………あ、そういえば」
あ、なんだ、あるんだ? 閃いたように赤也くんはハッとした顔をする。
「……コーヒーゼリー」
「ハァ?」
「夏だしサッパリしたお土産がいいかなって、この前姉さんの邸に行った際に、コーヒーゼリーを手土産に持っていったんです。苦いのがあまり得意じゃない姉さんや僕でも食べられる、クリームたっぷりの甘いコーヒーゼリーを」
「キミ、発言は辛口なのに食べ物は甘口だもんね。でもそれと雅の悩みに何の関係が~?」
「と、ともかく、その時姉さんは言ったんです。『コーヒーゼリーを見ると魘されそうだから、なるべく視界に入れたくない』って」
「コーヒーゼリーに、人をそこまで追い詰める何かがあるとは思えないんだけど……」
コーヒーゼリーかあ……うーん、コーヒーゼリーねえ。コーヒーゼリーは知らないけれど、オレの中でコーヒーと聞いて連想する人が1人。
「……もしかしたらそれ、青葉のことかもしれない」
「……は? 一条さん?」
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