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80 これじゃあ、どちらがプレゼントをもらったのかわかりませんわ
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「今回はお兄様のためを思って、ご自分の気持ちよりお兄様の気持ちを優先してくださったんですよね? 素敵じゃないですか。それのどこに責められる要素があるというんです?」
いつも自分のことばかりだと黄泉様はいうけれど、私はそうは思わない。『一条青葉アフタヌーン事件』の時だって、大好きなお兄様と喧嘩することになっても、ご友人であるお姉様をかばってくださった。それにダンスパーティーの衣装だって、勝手にドレスを購入した私に合わせてスーツを新調してくれた。確かに人並みならぬ優れた容姿をしているけれど、全然見た目だけじゃないわ。
「わたくしは黄泉様のお兄様への気持ちを知っていましたから……どうして急にお兄様とお姉様の仲を取り持つようなことをなさるんだろうってずっと疑問だったんです。聞けてスッキリしましたわ。前野さん……ということはあの時様子がおかしかったのはそのせいだったんですね。やっぱりあなたを独りにしなくて正解でした」
辛い時、そばにいられてよかった。無理にでもダンスに誘ってよかった。
「……ちょ、ちょっと待って……整理させて。……何? 瑠璃はオレの気持ちずっと知ってて……」
「はい」
「オレが青葉との婚約を邪魔するために雅に近づいたら、後で自分を責めるだろうから今まで止めてくれてて……」
「ですね」
「……そこまでしてくれる理由は何? ……もしかして、瑠璃。オレのこと好きなの?」
「好きですよ?」
「なわけないか~……って、え!?」
「少なくとも、お兄様とお姉様くらいには、黄泉様のこと好きですよ。好きじゃなきゃ今回だって、ベストカップルを目指したりしませんよ」
「……兄妹揃って話が急すぎる……もう少しオレにもわかるように話してよ~……」
容姿以外でお兄様と似ていると言われたのは初めてだったので少し驚いた。……お兄様ほど急じゃないと思うんだけどなあ。まあ、いいか、と私は黄泉様にも理解できるように順を追って説明する。
「……わたくし、ベストカップルになれるのなら、本当に相手はどなたでも良かったんです。赤也でも、黄泉様でも、どなたでも。結果的に黄泉様とペアを組むことが出来て、手間が省けましたけど」
「そこまでそのネックレスが欲しかったの~?」
「少し違います。わたくしは、このネックレスとカフスボタン、2つとも欲しかったんです。……黄泉様は、ベストカップルの商品であるこのネックレスとカフスボタンの『ジンクス』をご存知ですか?」
「『ジンクス』~?」
彼の反応からして知らないようだった。それならその説明もしなくてはと、私は話を続ける。
***
ジンクスなんて、そんなものオレは知らない。それよりも知りたいのは、瑠璃の気持ち。オレのことを好きだというけれど、それってどういう意味で? 恋愛感情だって思っていいわけ? ……それにしては随分恥じらいのない告白だったけど。
「これら2つを身につける男女は幸せになれるそうです」
「……それってつまり……」
「はい、わたくしはこれらを黄泉様に──」
オレのことが好きだから一緒に身につけたかったってこと!? 瑠璃ってそんなにオレのこと好きだったわけ? でも、オレには青葉がいるし……まあ、悪い気はしないけど。
「黄泉様に差し上げたかったんです!」
「……はあ? 一緒に身につけたかったんじゃなくて?」
「わたくしは先ほど十分堪能しましたから。これは黄泉様に差し上げます」
はい、とネックレスの入った細長いジュエリーボックスごとオレに差し出す。
「ずっとあなたの気持ちを知っていたのに、何も出来なかったことが気がかりで……両家の跡取りのことを考えると黄泉様はいずれ令嬢と婚約しなければならないでしょうし……だからせめて黄泉様が大切にしたいって、幸せにしたいって思う相手に差し上げてください。わたくしに出来ることはそれくらい……」
「……なんて、紛らわしい言い方」
そういやさっき相手はオレじゃなくても誰でも良かったって言ってたもんね。……早とちりしちゃったじゃん。……多分、さっきの好きは人としてとかそういう意味なんだろうな。
「え? 何がですか?」
「クスッ……ううん、こっちの話」
ずっと瑠璃が苦手だった。彼女の説教はくどいし、黙っていれば青葉に似て可愛いのに、口うるさくてやかましいからすごくすごく苦手だった。
だから正直、オレのことが好きで今までの説教がオレのためっていきなり言われてもあんまり実感湧かなかったし、信じられなかった。でも、あれだけ手に入れて嬉しそうにしてたネックレスを、オレのために差し出せるくらいには大切に想ってくれてるんだって思ったら、なんかすごく嬉しくなった。
「……バカだねぇ、キミは。オレは多分、これから先もずっと青葉が好きで、青葉以上に好きになれる人なんて作れない。……せっかくもらっても、無駄にしちゃうかもしれないんだよ?」
「……確かに! その可能性は思いつきませんでしたわ。……はあ、わたくしっていっつもこう。こうだって思ったら突っ走ってしまって、全然相手の気持ちを考えてない……なんて自分勝手。お姉様の時に反省したのに……全然変わってない」
「それでもいいなら、もらってもいい~?」
「……えっ、も、もちろんですわ! そのために頑張ったんですもの!」
ありがとうと感謝の気持ちを伝えて、ジュエリーボックスを受け取る。確かに瑠璃は思い込みが激しいところがあるし、人の話全然聞かないけど。何ヶ月も練習を頑張ってたのをオレは知ってるし、その努力の結晶をいらないと放り出すことなんてできないほどにはほだされていた。
「……ねぇ、瑠璃。オレも瑠璃と踊るのが好きだよ。キミと一緒に踊っていると楽しい気持ちになれる。だから、ペアに誘ったんだ。代わりなんかじゃない。瑠璃が良かったんだ。瑠璃だから誘ったんだ」
「……黄泉様。……これじゃあ、どちらがプレゼントをもらったのかわかりませんわ」
ふわりと笑った顔が少しだけ泣きそうに見えた。嬉しいって言いながら、どうしてそんな表情するんだろう? そんなふうに笑わないで欲しい。いつものように押しの強い笑顔でいて欲しい。……じゃないと、オレの調子が狂うじゃん!
いつも自分のことばかりだと黄泉様はいうけれど、私はそうは思わない。『一条青葉アフタヌーン事件』の時だって、大好きなお兄様と喧嘩することになっても、ご友人であるお姉様をかばってくださった。それにダンスパーティーの衣装だって、勝手にドレスを購入した私に合わせてスーツを新調してくれた。確かに人並みならぬ優れた容姿をしているけれど、全然見た目だけじゃないわ。
「わたくしは黄泉様のお兄様への気持ちを知っていましたから……どうして急にお兄様とお姉様の仲を取り持つようなことをなさるんだろうってずっと疑問だったんです。聞けてスッキリしましたわ。前野さん……ということはあの時様子がおかしかったのはそのせいだったんですね。やっぱりあなたを独りにしなくて正解でした」
辛い時、そばにいられてよかった。無理にでもダンスに誘ってよかった。
「……ちょ、ちょっと待って……整理させて。……何? 瑠璃はオレの気持ちずっと知ってて……」
「はい」
「オレが青葉との婚約を邪魔するために雅に近づいたら、後で自分を責めるだろうから今まで止めてくれてて……」
「ですね」
「……そこまでしてくれる理由は何? ……もしかして、瑠璃。オレのこと好きなの?」
「好きですよ?」
「なわけないか~……って、え!?」
「少なくとも、お兄様とお姉様くらいには、黄泉様のこと好きですよ。好きじゃなきゃ今回だって、ベストカップルを目指したりしませんよ」
「……兄妹揃って話が急すぎる……もう少しオレにもわかるように話してよ~……」
容姿以外でお兄様と似ていると言われたのは初めてだったので少し驚いた。……お兄様ほど急じゃないと思うんだけどなあ。まあ、いいか、と私は黄泉様にも理解できるように順を追って説明する。
「……わたくし、ベストカップルになれるのなら、本当に相手はどなたでも良かったんです。赤也でも、黄泉様でも、どなたでも。結果的に黄泉様とペアを組むことが出来て、手間が省けましたけど」
「そこまでそのネックレスが欲しかったの~?」
「少し違います。わたくしは、このネックレスとカフスボタン、2つとも欲しかったんです。……黄泉様は、ベストカップルの商品であるこのネックレスとカフスボタンの『ジンクス』をご存知ですか?」
「『ジンクス』~?」
彼の反応からして知らないようだった。それならその説明もしなくてはと、私は話を続ける。
***
ジンクスなんて、そんなものオレは知らない。それよりも知りたいのは、瑠璃の気持ち。オレのことを好きだというけれど、それってどういう意味で? 恋愛感情だって思っていいわけ? ……それにしては随分恥じらいのない告白だったけど。
「これら2つを身につける男女は幸せになれるそうです」
「……それってつまり……」
「はい、わたくしはこれらを黄泉様に──」
オレのことが好きだから一緒に身につけたかったってこと!? 瑠璃ってそんなにオレのこと好きだったわけ? でも、オレには青葉がいるし……まあ、悪い気はしないけど。
「黄泉様に差し上げたかったんです!」
「……はあ? 一緒に身につけたかったんじゃなくて?」
「わたくしは先ほど十分堪能しましたから。これは黄泉様に差し上げます」
はい、とネックレスの入った細長いジュエリーボックスごとオレに差し出す。
「ずっとあなたの気持ちを知っていたのに、何も出来なかったことが気がかりで……両家の跡取りのことを考えると黄泉様はいずれ令嬢と婚約しなければならないでしょうし……だからせめて黄泉様が大切にしたいって、幸せにしたいって思う相手に差し上げてください。わたくしに出来ることはそれくらい……」
「……なんて、紛らわしい言い方」
そういやさっき相手はオレじゃなくても誰でも良かったって言ってたもんね。……早とちりしちゃったじゃん。……多分、さっきの好きは人としてとかそういう意味なんだろうな。
「え? 何がですか?」
「クスッ……ううん、こっちの話」
ずっと瑠璃が苦手だった。彼女の説教はくどいし、黙っていれば青葉に似て可愛いのに、口うるさくてやかましいからすごくすごく苦手だった。
だから正直、オレのことが好きで今までの説教がオレのためっていきなり言われてもあんまり実感湧かなかったし、信じられなかった。でも、あれだけ手に入れて嬉しそうにしてたネックレスを、オレのために差し出せるくらいには大切に想ってくれてるんだって思ったら、なんかすごく嬉しくなった。
「……バカだねぇ、キミは。オレは多分、これから先もずっと青葉が好きで、青葉以上に好きになれる人なんて作れない。……せっかくもらっても、無駄にしちゃうかもしれないんだよ?」
「……確かに! その可能性は思いつきませんでしたわ。……はあ、わたくしっていっつもこう。こうだって思ったら突っ走ってしまって、全然相手の気持ちを考えてない……なんて自分勝手。お姉様の時に反省したのに……全然変わってない」
「それでもいいなら、もらってもいい~?」
「……えっ、も、もちろんですわ! そのために頑張ったんですもの!」
ありがとうと感謝の気持ちを伝えて、ジュエリーボックスを受け取る。確かに瑠璃は思い込みが激しいところがあるし、人の話全然聞かないけど。何ヶ月も練習を頑張ってたのをオレは知ってるし、その努力の結晶をいらないと放り出すことなんてできないほどにはほだされていた。
「……ねぇ、瑠璃。オレも瑠璃と踊るのが好きだよ。キミと一緒に踊っていると楽しい気持ちになれる。だから、ペアに誘ったんだ。代わりなんかじゃない。瑠璃が良かったんだ。瑠璃だから誘ったんだ」
「……黄泉様。……これじゃあ、どちらがプレゼントをもらったのかわかりませんわ」
ふわりと笑った顔が少しだけ泣きそうに見えた。嬉しいって言いながら、どうしてそんな表情するんだろう? そんなふうに笑わないで欲しい。いつものように押しの強い笑顔でいて欲しい。……じゃないと、オレの調子が狂うじゃん!
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