クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

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78 自分の気持ちばっか大切にして、ちっとも相手のことなんか見てなかった

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「青葉お兄様ですよね、黄泉様の好きな人」


 瑠璃にそう告げられて、何も言えなかった。というか、言葉すら出なかった。

 真っ直ぐな瑠璃の視線が、オレを射止める。その目を見て、ああこの子は憶測で言っているんじゃないんだってすぐにわかった。

 でも、どうして? オレは誰にも言ってない。たったひとり、彼女にしか……。

 女の子の中で唯一オレを「黄泉」と呼び捨てにする彼女の笑顔を思い出す。

 ……違う。雅は他人の秘密を言いふらすような人じゃない。でも、じゃあどうして──。

 すぐに思い至ったのは誤魔化さなくては、という考えだった。何とか違うと否定しなくては。


「……オレはっ、」


 でも、オレは言いかけてやめた。きっと瑠璃には誤魔化しは通用しない。オレの気持ちを全てわかった上で、そう言ってるんだから。


「……はあああ~。……いつから?」
「え?」
「いつから知ってたの? オレ今まで上手く誤魔化してきたつもりなんだけどな~」


 観念したオレは気になったことを尋ねる。冗談ぽくヘラヘラしながら問いかけたけれど、これはオレの本心。絶対誰にもバレてないって思ってた。雅だって、オレが言うまで気づいてもいなかったのに。どうして、瑠璃が……。昔から瑠璃のことを知っているけれど、彼女にそこまで洞察力があるようには見えなかった。


「初めは伊集院さんかとも思ったんです。ほら、黄泉様って昔から彼女に優しかったじゃないですか」
「……そうだね~」


 薫子を見てると安心する。

 薫子はオレと違って普通に女の子で、青葉に想いを伝えて婚約することだって出来るのに、彼女にはそんな勇気はない。そして彼女が勇気を出さなくちゃ、鈍感な青葉は意気地無しの彼女の気持ちに絶対に気づかない。でも他の女の子よりは優しくしてくれる。それは彼女が青葉にとって幼なじみで兄の婚約者候補だから。特別だけど、恋愛対象外。

 だから、薫子を見ていると安心した。元々そういう対象になり得ないオレと違って、努力すればどうとでもなるのに、なんて憐れなんだろうって内心バカにしてた。表面上は「頑張ってね」なんて言いながら、同情してるオレは多分相当性格が悪いのだろうとそこはかとなく自覚している。


「……でも、あなたの性格上好きな人の恋路を応援するわけないでしょうし、そうなるとお兄様かなって思ってたんですけど、確信は持てませんでした」
「……へぇ、よくオレのことわかってるね~。それで? いつ確信したの?」
「はっきりと確信したのは、あなたがお姉様に婚約を迫っていると知った時です。お兄様が好きだから、……だからお兄様がお姉様と婚約するのが耐えられなかったんですよね?」
「……そこまでわかってるんだ」


 すべてこのアクアマリンの瞳に見透かされているようで気まりが悪い。オレとしては、はいこの話はおしまいと切り上げたかったのだが、瑠璃はそれを許さなかった。


「聞いてもいいですか?」
「イヤだって言っても聞くんでしょ~? キミは」
「今までの黄泉様でしたら、お兄様とお姉様がペアを組むなんて、全力で阻止しようとしたでしょう? ですが今回はお姉様を誘うように背中を押したり相談に乗って差し上げたり……むしろ協力的に思えましたわ。それはどうしてですか? ……黄泉様はお2人が結ばれることを望んでいないかと思ってましたのに」
「もうね、ほんっとにイヤ。嫉妬で気が狂いそうになるくらい」


 青葉が雅を視界に入れるだけで腹が立つ。言葉を交わすだけで不愉快になる。楽しそうにしていると嫉妬でどうにかなりそうになる。でも──。


「でも、綾小路さんに対する前野の気持ちを見てて、オレの気持ちよりも青葉の笑顔の方が大事って思い出したから」


 あの時、綾小路さんを追いかける前野を見て気づいたんだ。前野とオレと赤也くん、オレ達は全く共通点のないようでいて、実はよく似てると。

 誰よりも好きなのに、その相手に気づいて貰えないところも。気づかせないようにしてきたところも。この想いを伝える機会を見失っているところも。

 だけど、似ているようで全然違ってた。2人は相手の気持ちを考えて気持ちを伝えずにいるのに、オレは違う。自分のために伝えずにいるんだ。そのくせ、誰か青葉に気持ちを伝えるのも、青葉が誰かに気持ちを伝えるのも許せない。自分の気持ちばっか大切にして、ちっとも相手のことなんか見てなかった。

 自分の選択が間違っていたんじゃないかって、思ってしまったんだ。

 今でも青葉が誰かのものになるのなんて本当にイヤだ。その気持ちに変わりはないけれど、何より青葉の気持ちを大切にしたい、そう思う気持ちも決して嘘じゃないんだ。もうこれ以上、オレの気持ちを押し付けるようなことはしたくないんだ。


「……本当に、あなたは昔からお兄様が大好きですわね」
「……本当にキミは、全部わかってるんだねぇ」
「何年一緒にいると思ってるんですか。わかりますよ、見ていれば、それくらい」


 可哀想な人、以前オレは雅にそう言ったけれど、本当に可哀想なのは雅でも赤也くんでもない、オレなんだ。薫子みたいな子と比べないと、自信が持てなかった。

 薫子は一条家とも家柄も釣り合ってるし、オレと違って婚約だって出来る。そのチャンスはいつだってあったのに、何も動けない意気地無し。そんな子よりは、そばにいられて、大親友として頼られて、何より好かれてる。彼女よりはマシだ。そう思っては、自分を励ましてた。……情けないよ、惨めだ。


「でも、そうですか。そうだったんですね。……ずっと気になっていたので聞くことが出来て、やっとスッキリすることができましたわ!」
「……えっ! それだけ!?」
「それだけですが……何か?」


 本気でわからなそうにぽかんとしている姿は悔しいけれど、すごく可愛い。青葉と同じ顔だから当たり前なんだけど……ってそうじゃなくて!


「オレのこと、責めたり、怒ったりしないの!? いつものキミなら、ネチネチネチネチ怒るでしょ~!? 大好きなお兄様と大好きな雅さまの邪魔をするなって! それはもうこっちがげんなりするくらいそりゃあ口うるさくてやかましく」
「……今までそんなふうに思ってたんですか? まったく、失礼ですわね」

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