クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

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75 ……まったく響いてないな

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「やあ」
「一条くん……ごきげんよう」
「い、一条さん!? じゃ、じゃあ僕はこれで! 立花さん、またウィンターパーティーで!」
「あ、田中くん! …………行っちゃった」


 ダンスパーティーの前に、少しでもダンスの練習をしておきたくて、たまたま声をかけてくれたクラスメイトの田中くんと踊っていたら青葉に声をかけられた。

 青葉が私に声をかけたことで浮気がバレた間男みたいに逃げて行ってしまったけれど……。

 今年は数少ない私の参加するパーティーで、青葉によく遭遇するなあ。彼と出会うまで、そんなこと1度もなかったのに。

 麗氷の図書館で会って以来、数週間ぶりに会う青葉は何だかスッキリした顔をしていた。


「ドレス、似合ってます」
「あ……ありがとうございます」


 青葉ってパーティーで顔を合わせるといつもドレス褒めてくれるよね~。きっとみんなに言ってるんだろうけど、社交辞令でも嬉しいな~。

 この前瑠璃ちゃんに、去年のサマーパーティーで着用したドレスの全体写真が欲しいって連絡がきたため、あの頃の写真を見返していたら急にイエローのドレスが欲しくなったんだよね。

 幸いにも今の季節は冬。あの時と違って私に似合いそうな濃黄のドレスたくさんあったし。自分でもこのドレスは似合っていると思うし、気に入っているから褒めてもらえて嬉しい。単純だけどね。


「……そのドレスを見ていると、去年のサマーパーティーを思い出すね。あの時は黄泉に合わせてドレスの色を決めたのかい?」
「え、ええ。パーティーではいつも相手の方と並んだ時に見栄えが良いように、合わせているんです。今年は赤也とペアなので赤いドレスを。去年はお父様がパートナーが黄泉に決まった際に、絶対黄色にした方がいいと言うのでイエローのドレスにしたんです」
「……ふーん」


 ……って、男の子にドレスの話してもつまらなかったよね。嬉しくてつい色々話してしまったけど、青葉も興味なさそうだし……。


「……そのイエローのドレス似合っているけど、えっとピンクとか、淡い女の子らしい色合いが、君には似合いそうだよね」
「……え、そ、そうですか?」


 私、どっちかっていうとモノクロや紺みたいな落ち着いた色のが似合うと思うけどなあ。パステル、ましてやピンクなんて、似合う色合い探すのが困難なくらいよ?


「……まったく響いてないな」
「えっ?」
「いいえ、こっちの話です」


 ここで乙女ゲームのヒロインなら、その有り余る鈍感力を活かして「今なんて言ったんだろう? まあいいか」と突発性難聴を引き起こすのだろうけど。……私は悪役令嬢なので、そんなこともなく。

 響いてないって、何が? もしかして、こいつ嫌味通じてねえーなってこと!? 急に笑顔で嫌味を言うなんて……私、青葉の逆鱗に触れるようなことした!?


『いや、君に聞いて欲しい話があったんだけど……一応婚約者候補の君に他の令嬢の話をするのは、デリカシー的にどうなんだろうと思って……』
『何ですかそれ。今更過ぎますよ。一条くんが無配慮で無神経でデリカシーがない人だなんてとっくに知っていますもの』
『……そこまでかなあ!?』


 ……あ、言ってた!! 割と無意識に酷いこと言ってる私も!!


「……花柄とかさ、君にぴったりだよね」


 次はどんな嫌味を浴びせられるんだろうと、内心ぶるぶると震えている私に、青葉は追い打ちをかけるようにそう言った。

 え、それは「脳内お花畑のお前には花柄がぴったりだな」って言いたいの? こわっ! この世界の『一条青葉』性格悪過ぎない!?


「……それは、どーも」


 お世辞でも褒めてくれて嬉しい、なんてのんきに浮かれていた少し前の自分に言ってやりたい。それは褒め言葉ではなく強烈な嫌味ですよ! と。



***



 さて、どうしたものか。さっきまでは田中くん以外にも、明後日ウィンターパーティーで踊る予定の横山くんとか川上くんとかと、交代で踊りながら楽しく談笑していたというのに。

 シャンデリアに照らされてキラキラと輝く金色の髪をした碧眼の王子様こと『一条青葉』が、私のそばに来てから、彼らはそそくさとどこかに行ってしまった。……もう少し踊りたかったんだけどなあ。

 恨みがましく隣りの王子様を一瞥する。……肌白いなあ。それに髪もつやつや。お手入れとかしてるのかな? もしナチュラルでこれなら腹が立つけど、必死でお肌や髪をケアしてる青葉もなんか嫌だなあなんて、くだらないことを考えて、暇を持て余していた。

 青葉みたいに色素が薄い髪色なら、きっとパステルカラーも似合ったんだろうな。私は見ての通り漆黒だから、去年はドレス選びに苦労したっけ。懐かしいなぁ……あれからもう1年半も経つんだ。

 思い起こせば色々あったなあ……と過去を想起する。


『……さようなら、『立花雅』さん』
『さようなら、『一条青葉』くん』


 突然青葉が私に会いに来たり。


『1曲踊りませんか?』


 仲直りのためにダンスに誘われたり。


 『一条青葉』のことは、彼のルートをやり込んだから、ゲーム内で得た知識としてならよく知っている。だけど、今そばにいるこの人のことはあまり知らない。私なんかより、黄泉や瑠璃ちゃん、真白様の方が──いいえ、『伊集院薫子』さんの方がよっぽど知っていると思う。


 でもね、私は私なりに彼のこと分かっているつもりなのよ。


 多分、この前彼は私に、「あなたなら彼女の気持ちに応えられるわ、頑張って」と、……そう言って欲しかったのよ。前野くんが以前青葉の言葉で心を動かされたように。彼は強烈な憧れの気持ちを抱いていた私に、──『立花雅』にそう言って欲しかったのよ……。

 あの時この期に及んで、私を『立花雅』として扱った彼に腹が立ったわ。彼は私と彼女は全く異なる存在だと認識してくれていると思っていたから。

 ……でも同時に憐れにも思った。無意識だとしても未だにいもしない彼女に心惹かれ、この世界におけるあのゲーム『立花雅』のポジションにいる子に気づけないなんて。なんて可哀想な人なのだろうと。多分、その方がある意味最もあなたの理想に近い存在なのに。

 だから背中を押すことはしなかったけれど、少しだけヒントをあげた。私の言葉なんてなくても、彼が自分の意思で決断出来るように。

 ……一条くん、人生は短い、どう生きるかは自分で決めなきゃ。あなたがそのご令嬢と婚約したいって言うなら私は止めないわ。そう心の中で思いながら。
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