クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

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71 ちなみにそこが1番気に食わないところだからね!?

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 うんうんなるほどね。と、先程の彼の助言を反芻しては僕は深く納得していた。


 シローくんは人間なんだから感情が制御できないのは当たり前のことだと言っていたけれど……。

 以前彼女が赤也くんとペアを組むんだって言われた時なんか感情に任せて赤也くんのことまで悪く言っちゃって……さすがの僕も反省したんだ。

 このままじゃいけない。これ以上彼女のことを傷つけたくなんかない。何か対策を練らなきゃいけないってね。


 でも良かった。シローくんに言われたことを守っておけば彼女に嫌われることなく、また傷つけることもなさそうだ。


 ずっと僕と彼女の間には、何かズレを感じていた。それも致命的な。


 シローくんは、僕と立花雅さんが仲違いしたのは、あの時の彼の発言が原因だと思ってるみたいだけど、違うんだ。僕らは根本的に考え方が、価値観が合わないんだ。だから、彼の発言がなくても、いずれこうなっていたはずだ。

 その価値観の相違がここまでズレを大きくしている要因のひとつだ。

 会話をしていると、彼女は時々なんとも言えない顔をするし、きっと僕が何か言ってしまったんだろうなって思うんだけど、僕自身まったく見当もつかなくて。

 ……多分、同様に彼女も僕がどうしてこの前感情的になったかなんてわかってないと思う。


  でも具体的にどういうところがデリカシーがないのかわかったことだし、今は早く実際に彼女と話して反応が見たい!


「……青葉? 何ブツブツ言ってひとりで歩いてるの~?」
「やあ、黄泉。……僕、声に出してた?」
「少しね。青葉じゃなかったら許されないレベル」


 ……僕なら許されるのか? 相変わらず彼は僕に非常に甘い。

 それは嬉しいけど、ブツブツ言いながら歩く男なんて、それはとても気味が悪かったんじゃないだろうか。黄泉が声をかけてくれなければ教室までずっと気味の悪い男のままだった。感謝だ。


「……ま~た前野と2人で会ってたの?」
「ああ、シローくんとの時間はとても有意義で楽しいよ」
「……ふーん」


 彼のこの様子に既視感を覚える。以前もそんな顔させてしまったことがあったような……ああ、昔僕が『立花雅』さんの話ばかりするもんだから彼に不愉快な想いをさせてしまった時か。


「……もしかして、黄泉は僕がシローくんと親しくするのは嫌かい?」
「今更!? イヤに決まってるよ! 青葉の鈍感!」


 薄々そうじゃないかなとは思ってたんだけどね。当たってたってことは僕は黄泉がいうほど鈍くないんじゃないかな? と思ったけど、黄泉の機嫌が悪化しそうなのでやめておいた。


「黄泉は、どうしてそんなに彼を嫌うんだい?」
「……アイツがあんな平凡な顔して、女子にそこそこ人気があるのも気に食わないんだけどねぇ、オレのこと名前で呼んだりヘラヘラ馴れ馴れしいとこも気に食わないの!」
「そ、そうかな……? あ、でも、彼、立花雅さんの初めての親しい男友達らしいよ。尊敬しちゃうよね」
「ちなみにそこが1番気に食わないところだからね!?」


 おや、どうやら地雷だったらしい。というか、黄泉は既に知っていたらしい。……周知の事実だったりするのかな? 僕はついさっき知ったけれど。


「で、その前野は青葉放っておいてどこに行っちゃったわけぇ? まだ昼休みは残ってるでしょ~」
「綾小路さんとダンスの練習あったの忘れてたんだって。途中で彼女が呼びに来たよ」
「はあ~!? 青葉との約束があるのにダブルブッキングとか有り得ないんだけど~!」


 僕は気にしていないと伝えると黄泉は「……青葉がいいならオレは別にぃ」と怒りをしずめてくれた。


「でもよかったよね、彼らがペアを組めて」
「少し前まで喧嘩した~って泣きついて来てたのにね」


 僕だけでなく黄泉も去年の彼らの様子を思い出したのか目が合うと笑い合う。

 そういえば黄泉はどうしてここにいるんだろう。こちらは麗氷男子が利用する校舎の方向で、黄泉の通う麗氷は反対方向のはずだけど……。

 浮かんだ謎を解明しようと考えていたら、それを察した黄泉に答えを言われてしまった。何でも瑠璃とダンスの練習の休憩中に、様子のおかしい僕を見かけて、気になって追いかけてきてくれたらしい。

 ……本当、黄泉は視野が広い。それにとても優しい友人だ。

 何でもない、少し考え事をしていただけだと伝えると、彼は安心したのかホッと胸を撫で下ろしていた。


「行かなくていいのかい? 瑠璃が待ってるだろう?」
「まだ休憩中だから大丈夫~。そういえば、あずーが清水さんとペア組んだって聞いた?」
「梓が? へぇ、知らなかった。少し意外だね」
「ホントにね。いつの間にそこが~? って感じ。雅はすっごく喜んでたけど」
「……立花雅さんが」
「あずーは『誰のせいでこうなったと……』って恨み言を言ってたけど……なんでだろうね~?」


 僕に聞かれてもわからないなあ。そういうのは僕よりも黄泉の方が詳しそうだけどね。友人多いし、令嬢に人気だし。

 改めて僕の親友ってすごいなあって感心していると「……あ、青葉様っ!」と可愛い声で声をかけられる。……たしか、この令嬢たちは──。


「君らは薫子の友人だよね? 僕にいったい何の用かな」
「あ、あの! えっと……」


 2人は僕に用事があるみたいだけど、モジモジしてなかなか次の言葉を紡げずにいるようだ。……うーん、彼女の婚約者候補でもある真白兄さんならともかく、その弟でただの幼馴染みの僕に何の用なんだろう。

 僕が尋ねる前にしびれを切らした黄泉が尋ねる。


「キミたち青葉に用事があるんだよね~?」
「……は、はい」
「それはどんな用事なのかな~? ゆっくりでいいから、緊張しないで話してみて。ほらほら深呼吸して~」


 スーハースーハーと深呼吸をして息を整えることで落ち着きを取り戻したのか、彼女たちは再び僕を見やる。


「……わたくし達、いつも薫子様にはお世話になっていて、」
「そうなんです! 今日もダンスパーティーのペアとの仲を取り持ってもらって……」
「これじゃあいけないって思ったんです……! わたくし達、薫子様に元気になって貰いたくて……」


 とりとめのない彼女たちの話をまとめるとこうだ。いつもお世話になっている薫子の元気がないから、何かしたいと。そしてそれには僕の協力が必要だと。


「それで、僕は具体的にどうすればいいかな?」
「明日! 明日の昼休みに! 一緒にダンスの練習をしてくださいませんか!」
「……ダンスの練習? 僕でいいなら別に構わないけど」


 でもそういうことなら、同性のみでした方がいいんじゃないかな? 女性パートのダンスはもちろん覚えているけれど、君らに教えて上げられるほど得意ではないし。

 了承したが一抹の不安を覚える僕に「ペアの練習したいから、薫子の相手が必要ってことじゃない~?」と黄泉が耳打ちをしてくれる。


 あー、そういうことか。彼女なりの配慮ってやつなのか。薫子に恥をかかせないための。……これが、面子を潰さないってことなんだね!? シローくん!

 と思った矢先、その推論は彼女の発言によってひっくり返った。


「よかった~! 薫子様のペア・・でもある青葉様にも是非とも参加して頂きたかったんですよ~」
「…………はあ!?」


 黄泉は驚いて彼らしからぬ形相で奇声を発していたけれど、僕は固まって声も出せなかった。つまりはそれほど驚いてしまったってことさ。


 ……え~っと、彼女たちは僕が薫子とペアを組んでると勘違いしているってことかな?

 だから僕の明日の予定を確認しに来たと。そういうことなのかな、多分。


「……ちょっと、キミたち。なんか勘違いしてるみたいだけどねぇ、青葉は──」
「わかったよ。明日僕も参加する。薫子にもそう伝えといてくれるかい?」
「……はい! それはもちろん!」
「……あ、青葉!?」


 黄泉の言葉を遮り、薫子のペアという誤りを正すことなく、僕は明日の練習の件を了承する。


「えっ!? 何!? 青葉、いつの間に薫子とペア組んでたの!? ……なんで!? メリット感じないから今年はひとりなんじゃなかったの!?」


 彼女たちが立ち去ってからすぐに黄泉がその事を追及してくる。


「……黄泉、時には立てなきゃいけない面子があるんだよ」
「いや、それ誰のメンツ!?」


 ここで僕が薫子のパートナーではないというのは簡単だが、そうすれば薫子の面子を潰すことになる。それに、親しい友人たちはペアを引き連れて参加するというのに、彼女だけソロで参加するとは少しだけ可哀想だし。

 今までの僕だったら多分即否定して練習も断っていただろうけど……今ならわかる。うん、これが、前野くんの言っていた『嘘も方便』ってやつなんだね! 相手を傷つけないための嘘って大事なんだね。
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