クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

文字の大きさ
上 下
70 / 125

70 嘘も方便って言うだろ?

しおりを挟む


「……ん? おい待てよ、今の話のどこら辺に悩む要素なんてあった? 良かったじゃねえか、楽しく一緒にケーキが食べられて」
「僕が食べたのはコーヒーゼリーだけどね」
「いいんだよそこは、どうでも!」


 あの日の彼女の食べっぷりは見事だったなあ。彼女すごく美味しそうにスイーツを食べるんだよね。見ていてこっちも満足してしまったよ。

 そのせいで食べ終わってから、多分余計なこと? を言ってしまったみたいなんだけど……。

 何が原因かはわからないけど、彼女すごく悲しそうにしてたし……。

 その事をシローくんに伝えると、彼は察しがついたのか納得がいった顔をしている。


「……完全に最後の一言は余計だったな」
「そう? でも、彼女いっつも体重の増加について気にしていたから、こんなに食べてよかったのかなって心配になっただけだったんだけど……」


 言い訳じゃないけど、僕なりの配慮のつもりで、彼女の気分を害するつもりなんてなかったんだ。


「……つまりお前の悩みって、立花につい余計なこと言っちゃうってことか? それも無意識で」
「うーん、それもそうなんだけどね。……少し、違うかな。僕はね、怖いんだ。……また振られるのが。シローくんや立花雅さんは僕なら相手に困らないって言ってくれるけど、僕はこれまで振られっぱなしだ」
「……青葉」
「彼女と出会ってから、時々感情が抑えきれなくなるんだ。僕はこれでも理性的な人間だと自負しているし、大人びているともよく言われるんだ。……なのに、彼女の前ではいつもの自分でいられない。他の子息と楽しげにしないで欲しいとか、僕以外の誰かと踊っている所を見たくないとか……そんなこと考えて、気がつけば酷い言葉を言ってしまったりするんだ。……まるでわがままな子どもみたいだ。自分が嫌になる」


 彼女と出会ってすぐに婚約を提案した。けれどもその気はないと振られてしまった。その後もダンスパーティーのパートナーに誘おうとするも、もうパートナーがいると言われてしまった。この後に及んで、1曲躍ることさえも断られたらと思うととても恐ろしくて、勇気が出ない。


 自信あるようにみえるみたいだけど、そうでもないんだ。


「自分がここまで臆病だったなんて。……彼女と出会って初めて知った。これが他人事ならば、さっさと誘うべきだと提案するし、断られた場合を考えて早い方がいいって、そう言うだろう」
「おおっ、さすが、正論の申し子」
「茶化さないでくれよ」
「悪い、つい」
「はあ…………誰かを誘うのは勇気がいるね」


 そう告げると、何がおかしいのか、真剣な僕の悩みに彼は腹を抱えて大笑いを始めた。


「……フハハ、何悩んでるのかと思えば」
「今の話の何処に笑う要素あったかな?」
「そういうとこだよ。ハハ、そんなことをこんな本気で悩むなんて……お前って結構愉快なやつだなあ」
「……真剣に悩んでるんだけど」
「だから、そんなこと真剣に悩んでるのが面白いんだよ! 感情がコントロールできないなんてそんな当たり前のことも知らなかったなんて……しかもあの天下の一条青葉がだぜ?」


 天下って……過大評価すぎないかい?

 馬鹿にされたのだと思い席を立とうとする僕を、「悪かったって! だからそんな怒んなよ」という彼の言葉が静止させる。


「仕方ねぇな。とりあえず、令嬢への接し方を俺がレクチャーしてやるよ」



***



「レクチャー? 君が僕に?」
「おう。他に誰がいるんだ。……なんだよ。俺じゃ不満か? お前や黄泉ほどじゃないにしても、こう見えて俺ってクラスじゃ割と人気あるんだぜ?」


 あ、それは知ってる。前に立花雅さんがシローくんのことをそう言っていた記憶があるから。


「立花とだってすぐに親しくなれたしな。知ってっか? 立花の初めての親しい男友達って俺なんだよ」
「え、そうなの!?」


 それは初耳だった。今思えば、僕ら婚約者候補以外で彼女のそばにいる子息ってシローくんだけじゃないか? しかも、彼女は彼に相当気を許しているようにみえた。


 ……彼女の──立花雅さんの初めての親しい男友達か。その肩書きに急にシローくんが偉大な人に感じる。……こ、これが、権威効果というものかっ! 僕はごくりと唾を飲み込んでから彼にレクチャーをお願いする。


「いいか、令嬢と上手くコミュニケーションをとる秘訣は『嫌われない』ようにすることだ」
「……ん? うん……そうだね?」
「あ、お前今何を当たり前のことをって思っただろ。別に好かれようとなんかしなくていいんだよ。ただ『嫌われない』ように言葉を選んで接するんだ。お前みたいにデリカシーのない発言は御法度な」


 デリカシー。そういえば以前彼女からもそんな指摘を受けたな。彼女に言わせれば僕はデリカシーがないらしい。……でも、具体的に自分のどのような発言が、デリカシーがないのかよくわからないんだよね……。

 そうシローくんに伝えるとそのレクチャーもしてくれるらしい。……なんて頼もしいんだ!! さすが立花雅さんの初めての親しい男友達!!


「こほん、まずは令嬢にはマジレスすんな。特に体型とか外見についてはな」


 更に「これは立花も例外じゃない」と付け加える。


「お前聞いてるとけっこう立花にその手のマジレスしてんだろ。そんなんだから立花にデリカシーないって言われるんだぞ?」


 な、なるほど。……彼女と話していると令嬢と話しているような気がしなくて、つい他の令嬢と話している時のように適当な返事なんか出来なくて。建設的で生産的なことばかり言ってしまったけれど……そうか、僕のそういうところがデリカシーないんだな。反省だ。


「令嬢なんててきとーにピンクとか花柄が似合うって言っときゃ喜ぶんだからさ。桜子は大体これで喜ぶ」
「……ピンクに、花柄……」 


 それは相手が綾小路さんだからでは……? と一瞬考えたが、実際彼は僕なんかよりもずっと立花雅さんと親しいという事実が彼の発言を裏付けている気がした。


「嘘も方便って言うだろ? 相手を傷つけないための嘘って大事なんだよ。常に正直であることが素晴らしいわけじゃないからな?」
「……確かに」


 ふむ、なるほど。確かにそれは一理あるかも。


「相手の面子をつぶすなんてことがないように、お前の場合は細心の注意を払う必要があるな」
「……僕、そんなに酷いですか?」


 少なくとも今まで誰かも面子を潰した記憶なんてないんだけど、ここまで念を押されると、もしかして自分でも無意識のうちにやってしまっていたんじゃないかと不安になってくる。


「まあこんくらい守っとけば、デリカシーのない発言をしないで済むはずだぜ」


 とにかく、シローくんのおかげで問題点には気づけたから今から努力すればまだ間に合うはずだと、この時の僕は楽観視していた。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...