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57 有栖川赤也
しおりを挟む白く透き通った、陶器のような肌。艶やかで豊かな黒髪。お人形さんみたいに大きな漆黒の瞳。
初めて彼女と出会った時、僕はこんなに綺麗な人がいるんだって、そう思ったんだ。
***
「……や、……赤也! ちょっと、聞いてるの!?」
「……ん? あれ、鈴叔母さん?」
「ちょっと、まだ寝ぼけてるの? もうティータイムの時間よ?」
少しだけ呆れながら、けれども心配そうに、鈴叔母さんは「本当に大丈夫なの?」と僕に尋ねる。
問題ないよと返事をしながら、そういえばどうして彼女がここにいるのだろうかと考えていた。
ああ、そうだ。少し早いけれど、この前叔母さんから頂いたバレンタインのお返しにと、2人で出掛けることにしたんだった。
それで、叔母さんが気になると言っていたホテルのカフェラウンジに行く前に、彼女の買い物に付き合わされたんだっけ。
記憶が不鮮明なのは、僕が他のことを考えていたからで。別に眠かったからとか、寝ぼけていたからって訳ではないんだけど……。
久しぶりに彼女の夢を見ることが出来て、自分でも思っていた以上に懐古していたのかもしれない。
彼女と出会った頃の夢を見た。
1つだけ年上の綺麗な女の子。
お人形さんみたいに綺麗な彼女から、いったいどんな声がするのだろうとドキドキしていたら、言葉を発する前に彼女は倒れてしまった。
今度は別の意味でドキドキする番だった。
次に再会した時には、彼女は酷くむせていたけれど、「もう平気よ」と僕を安心させるように微笑んでくれた。
その笑顔を見れたことと、ようやく聞けた声色が容姿と同様に美しくて。きっと僕は調子にのってしまったんだと思う。
彼女のことを『雅お姉様』と呼んでしまったんだ。なんとなく、彼女なら許してくれるような気がして。
すると、先程まで顔色の良かった彼女の顔色が、みるみる青ざめていく。
心配になって彼女の体調を気遣う僕に、彼女は返答ではなく他の言葉を投げ捨てる。
『わたくしのような者を姉だなんて敬わなくていいんです。ですからそのまま雅と呼んで下さい』
夢はそこで途切れた。
暗に、姉と呼ぶなと言われたのだと、すぐにわかった。これ以上ないくらいわかりやすい拒絶だ。
本当に、今彼女を姉と呼べるのが奇跡なくらい、あの頃の彼女は、全身で、僕を拒絶していた。
そういえば、彼女が僕の姉になろうと思ったのは鈴叔母さんの言葉がきっかけらしいと、目の前の彼女に視線を向ける。当の本人は楽しそうにケーキを選んでいた。
「まぁ! どれも美味しそう! 特にこのケーキ! ……あら、このケーキはもう1つしか残ってないのね」
どうやら叔母さんのお目当てのこの店オリジナルのケーキは、1つしか残っていなかったらしい。でも、良かったじゃないか、1つだけでも、まだ残っていて。
「赤也、貴方はどれがいい?」
「別にどれでも。叔母さんはそのケーキが食べたいんでしょ? ならそれにしなよ。僕は他のものを食べるから」
「あら、そう? ならこれを頂くわね」
満足そうに彼女はそのケーキを選択する。僕は適当に他のケーキを。
「ん~~美味しい! 赤也も一口食べてみなさいよ、絶対気に入るから」
「そう? じゃあ、一口貰うね? ……あ、本当だ。美味しい」
さすがこのお店の名物ケーキ。
僕が選んだケーキももちろん美味しいけれど、格が違う。残り1つしかなかったことが残念なくらいだ。
もうひとつ残っていたら、僕も迷わずそれを選択しただろう。それくらい、このケーキは美味しかった。
「選ばなかったことを後悔したんじゃない? 私に遠慮せず、これにすれば良かったのに」
「そんなこと言って……最初から僕に選択肢なんかなかったじゃないか」
そもそも、今日は叔母さんから頂いたバレンタインのお返しだ。
僕ではなく、叔母さんに選択肢があるのは当然で、例え選びたくても選べるはずがなかった。
それを分かっていてこんなことを言うなんて、少しだけ意地悪じゃないか? 思わずムッとした僕に、彼女は反論する。
「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。私は貴方に確認したでしょう、どれがいいかと。その時、選ぶことが出来たのに、『選ばない』ということを選択したのは、赤也──貴方自身よ」
「ああ言えばこう言う……」
「なんとでもおっしゃい」
「だから未だに独り身なんじゃない?」
「うっ! ……赤也、貴方、いきなり急所をつくわねぇ」
僕の言葉がクリティカルヒットしたのか、叔母さんは苦しそうに胸を抑える。……少し大袈裟過ぎないかな?
「あああぁぁぁ~~……いい人がいない。仕事でお世話になっている方々を除いて、バレンタインにプライベートで渡す相手が、甥っ子である赤也とお義兄様しかいない私ってどうなの?」
「もう諦めたらいいんじゃないですか?」
「本気で悩んでるのに~……なんて薄情な甥っ子なの」
薄情って……今日散々叔母さんの買い物に付き合ってケーキまで譲った僕に言う言葉?
「大体私が結婚出来ないのも、半分は赤也のせいなのよね」
「え、僕ですか?」
「そうよ! お姉様の代わりに赤也を育ててたから、擬似子育てみたいなものよね」
「そんなこと言われても……」
僕という存在が、子育てという彼女のそっち方面の欲を叶えてしまったらしいが……そんなこと言われても、今更僕にはどうすることも出来ない。……あれ、こういう所が薄情なのか?
姉さんにはよく天使だとか言われるけれど、全然そんなことはなくて……。もし本当に姉さんに僕がそう見えているのなら、それは姉さんのことが大切で特別だからで……。
さっきは否定したけれど、確かに叔母さんのいう通りだ。本当の僕はとても淡泊で薄情だ。
でも、叔母さんにはいつもお世話になっているし、……一応僕なりの代替案を提示する。
「もう諦めて、お父様と結婚すればいいんじゃないんですか?」
「……お義兄様と!? ないない! それだけはありえない! 天地がひっくり返ってもありえないことだわっ!!」
そこまで全力で否定しなくても……。お父様の何がそんなに嫌なんだろうか。告白してもいないのに、勝手に振られたお父様が不憫でとても可哀想だ。
「……姉さん曰く、お父様と鈴叔母さんはとってもお似合いだそうですよ」
そう、実はこれは僕ではなく姉さんの意見。鈴叔母さんが未だに独身なのは、お父様に気があるからじゃないかとも言っていた。まあ、僕としては叔母さんは既に母親みたいなものだし、再婚してもしなくてもどちらでもいいんだけど。
「……はぁー、雅ちゃん見る目ないわねぇ~。どこをどう見たらそうなるのよ。大体、私昔はお義兄様のこと、大っ嫌いだったのよ?」
「そうなんですか?」
「当たり前じゃない! 大好きなお姉様を奪った男よ!? 許せるはずがないじゃない!」
それは初耳だ。
どうやらお姉様の予想は大ハズレみたいだ。僕と瑠璃のこともお似合いだとかいうし、……確かに姉さんって見る目はないかもしれない。
姉さんの場合は「こことここがくっついたら素敵!」みたいな感覚で、適当にお似合いだと言っている節があるしね。
「……でも、お姉様の最期がとても幸せそうだったから、私は彼のことを『お義兄様』と認めてあげたのよ」
それに、と彼女は言葉を続ける。
「1度兄妹になった相手に対して、今更そういう風に見れる訳もないじゃない」
──ドクン、と激しく心臓が揺れた気がした。
……本当に? 叔母さんの言うように、1度兄妹になった相手に対して、今更恋愛感情を持つことは出来ないのだろうか。
「……そういう……もの、ですか?」
「そうよ? だから貴方も雅ちゃんに苦労するわよ~。赤也のこと、本当の弟同然に思ってくれているんだから、恋に発展させるには大変よ~?」
「……だから、どうして、そうやってすぐに僕達の関係を恋愛に結びつけるんですか。それこそ、そんな関係じゃありませんよ」
「あーら、じゃあ、雅ちゃんが他のご子息に靡いちゃってもいいの?」
「………………」
それは、少しだけイヤだな。でも、こんな感情、家族に対して持っちゃいけない。僕はそうやって、すぐに自分の気持ちに蓋をした。
黙りこんでしまった僕に、叔母さんは満足気にニヤニヤと笑みを浮かべる。
「そうやって拗ねるところは貴方も年相応ね。子供っぽいわねー、赤也」
別に拗ねたつもりはないけれど、僕の沈黙を叔母さんはそう受け取ったらしい。
小さい頃から、姉さんとお似合いだとか、いつ婚約するのかとよく言われた。
それら全てに反応するのは面倒なので、基本的にいちいち否定はしない。姉さんがいる前以外は。
彼女の前では、わざとらしいくらい大袈裟に、僕達は姉弟だと主張する。そうすると、姉さんはとても安心したような顔をするから。
そんな彼女の笑顔が見たくて、僕はそれを繰り返すのだけど。……それでも僕が彼女に恋慕を抱いていると思っている人は決して少なくはないだろう。
でも、これは大きな誤解だ。
「……本当に、僕と姉さんはそういう関係じゃないんですよ」
「本当に? ……たったの1度も? 雅ちゃんを女の子として見たことはないの?」
「ええ、姉としてしか見たことありませんね」
「嘘でしょ!? 赤也貴方それでも男なの!? すぐそばにあんなに可愛い女の子がいて、1度も女の子として見たことがないなんてっ……!!」
「……そんなこと言われても。見たことないんですから、仕方ないじゃないですか」
嘘ではない。
姉さんのことはすごく綺麗だと思うし、笑顔は可愛らしいとも思う。けどそれは弟としてで。そこに叔母さんが思うような邪な気持ちなんてない。
『わたくしと1つだけ約束してくれる?』
『やくそく、ですか?』
『ええ、そうよ。姉弟の約束』
『します! ぼく、雅さんの弟になりたいから!』
……そう、嘘ではない。
姉弟になるためにと、ある約束したあの日から、そんな気持ちを抱いたことなんて、1度もないし、意識して抱かないようにしてきた。だって、彼女がそれを望まないから。
……そんなこともうずっと忘れていたのに。叔母さんとの会話のせいか、はたまた今朝の夢のせいか。今日はやけに昔を思い出す。僕には懐古趣味でもあったのだろうか?
赤也と、叔母さんが僕の名前を悲しそうに呼ぶ。
「……人の気持ちは変わるわ。だから、雅ちゃんが貴方のことを好きになる可能性だって、ない訳じゃないわ」
「じゃあ、叔母さんもお父様を好きになることもあるってこと?」
「それは絶対ないわね」
「それと同じだよ。僕も姉さんとそうなることは絶対ないんだ」
そう言い切る僕に、叔母さんはそれ以上何も言わなかった。
***
「おかえりなさい! お邪魔してます、赤也、鈴さん!」
「あら、いらっしゃい、雅ちゃん」
帰宅すると、姉さんが出迎えてくれた。
……えっと、ここは僕の家だよね? これは現実? 僕が姉さんに会いたすぎて生み出した幻覚とかじゃないよね?
「赤也? どうしたの、ぼーっとしちゃって」
クスクスと笑う透き通ったソプラノ。間違いない。本物だ。良かった。僕は幻覚を見るほど疲れているのかと思った。
でも、これが現実で、今ここにいる姉さんが本物なら、どうして姉さんがここに……? 今日来るなんて聞いてなかったけど、誰かが姉さんを招いたのか? だとしたら誰が……。
「私が呼んだのよ。一緒にお食事でもいかがかしらって思い至って」
「叔母さんが……」
「えっ、鈴さん、赤也にお伝えしてなかったのですか!? ……ごめんなさい、赤也。わたくし、てっきり赤也も知ってるとばかり……迷惑だったかしら?」
「そんな、全然迷惑なんかじゃないよ。僕も姉さんと一緒に食事が出来て嬉しいよ」
微笑みを浮かべながらそう言うと、姉さんは良かったと言って嬉しそうに笑った。こっちまで嬉しくなる笑顔だ。
別に迷惑だったわけじゃない。本当だ。大好きな姉さんと一緒にいられる時間が増えることは素直に嬉しい。
ただ、僕に一言もなく、家主でもない叔母さんが勝手に人を招いていることに呆れていただけ。
それからすぐに、荷物を置いてくるからと、姉さんの元を後にする。
「……叔母さん」
「な~に? そんなに怖い顔しちゃって」
「姉さんを呼んでるなら、前もって一言言っといて下さいよ」
「サプライズよ、サプライズ」
これ以上、昔から僕を連れ回すかなり強引な所のある彼女に何を言っても無駄だと思ったので、もう何も言うまいと心に決める。この人は相変わらず自分勝手だ。
姉さんのとこの綾子伯母さんは突然訪問してくるんだっけ? うちは突然訪問させてくるけど。この場合どっちが迷惑なんだろう? きっとどっちもどっちだな。
「私にはそんな顔するのに、雅ちゃんの前ではデレデレしちゃって~……赤也は、ほんっっっと、雅ちゃんのことが好きね~」
「はい。大切な姉さんなので」
当たり前だと即答する僕に、叔母さんは「つまらない反応ね」とうんざりした顔をする。
「? ならどうすれば、叔母さんにとって面白い反応になるんですか?」
「そうねえ、照れながらそんなことないって否定してくれた方が、よっぽどからかいがいがあって面白かったわね。そんなにすぐに肯定されては、からかう気も失せるわ」
「……照れながら否定、ですか」
「ええ。それがどうかした?」
「いえ、少し思い出しただけです」
***
数ヶ月前に、姉さんと交わした会話を思い出す。
『一条くんのおかげで、前野くんと桜子ちゃん、とってもいい雰囲気なの。これは若しかすると、許嫁じゃなくて、婚約者になる日も近いかもしれないわね』
『一条さんの、おかげ?』
『ええ、そうなのよ! わたくし、彼のこと色々誤解してたみたい。デリカシーはないけれど、頼りになる人ね』
『………………』
『そうそう。少しだけお兄様に似ているとも思ったのよ』
『…………じゃあ、姉さんの好みなんだね』
『えっ! ち、ち、違うわよっ! 確かに容姿は素敵だと思うけれど……そんな、別に好み何かじゃ……』
叔母さんの言う照れながら否定とは、きっとああいうことを言うのだろう。
あんなに顔を真っ赤にして慌てる姉さんを僕は初めて見た。姉さんのまだ見ぬ表情を見れた喜びと、それが他の男に向けられたのだという事実が、僕を複雑な気分にさせた。
行動には結果が伴う。
わかっていたはずだ。
彼女の弟でいるためにたくさんたくさん努力をしてきた。その結果、僕は姉さんにとって大切な弟になれた。とても満足している。
でも、綾小路さんのお父様が運営しているテーマパークのプレオープンで、姉さんのあんな顔を見て以来、どうしてだか胸がぎゅっと握り潰されたみたいに痛い。
『その時、選ぶことが出来たのに、『選ばない』ということを選択したのは、赤也──貴方自身よ』
──いいや、違う。いつだって、僕には初めから選択肢なんてなかったじゃないか。
姉弟になるためには条件があった。ある約束をして欲しいと、彼女はそう言った。その時、僕はすぐにイエスと答えた。
その約束がどんな内容なのかなんて、僕は知りもしなかったというのに。
けど、イエスと答えれば、彼女がこれから先も僕のそばにいてくれると察したから。これでもう、彼女を姉と慕うことを拒まれずに済むと、そう思ったから。
だから、彼女の弟になるという選択は、僕にとっては非常に自然な選択だったんだ。
『1度兄妹になった相手に対して、今更そういう風に見れる訳もないじゃない』
わかってるよ、そんなこと。わかってたはずなんだ、ずっと。
でも、心のどこかで、今の距離感に自惚れていたのだ。誰よりも姉さんの近くにいる。誰よりも姉さんを支えてあげられている。そんな距離感に、現状に、甘んじていたのだ。
『あーら、じゃあ、雅ちゃんが他のご子息に靡いちゃってもいいの?』
彼女がいつか、僕じゃない他の誰かのものになるかもしれないなんて、そんなこと、叔母さんに言われなくても、最初からわかってたはずなのに……。
考えても考えても答えは出ない。それに、いつもほど、思考が冴えない。頭が、ひどく痛む。地面がぐにゃぐにゃと揺れて、上手く、歩けない。一体、……僕はどうしちゃったんだろう。
「……っ! 赤也っ!?」
「……みやび、おねえ、さま?」
「大丈夫!? 食事中からずっと様子がおかしかったから気になって追いかけてみれば……あなた、顔色は真っ青だし、すごくフラフラじゃない! 今すぐ人を呼んでくるわ!」
だからここで待っていてと、僕の身体を支えてくれている彼女が、人を呼びにどこかへ行こうとする。
「……そばに、いて、下さい」
「……赤也」
イヤだ。僕から離れようとしないで。縋り付くように彼女の手首を掴み、離さない。
「ずっとなんて言わない、今だけでいいから……そばにいて」
イヤだ。誰のものにもならないで。ずっと僕のそばにいて。僕だけ見てよ。
どれだけそう願っても、いつかはきっとやってくる。僕ではない誰かと、彼女は結ばれるその日が。
「……赤也? 本当にどうしちゃったの?」
困らせてしまった。姉さんのこんな顔は見たくないのに、今は僕のせいで悲しい顔をさせてしまっている。
いつもみたいに笑って、これは冗談だって言おう。気にしないでって伝えよう。
もう拒絶されるのは、イヤだから。これ以上拒絶されるのは……。
姉さんに姉と呼ぶなと拒絶された時。あの時のことが、思いのほか深いトラウマになってしまったようだ。
幼い頃に植え付けられた不安感は、そう簡単には消えてくれない。
白く透き通った、陶器のような肌。艶やかで豊かな黒髪。お人形さんみたいに大きな漆黒の瞳。
初めて彼女と出会った時、僕はこんなに綺麗な人がいるんだって、そう思ったんだ。
そんな人が僕なんかの家族になってくれる。姉さんに家族になろうと言われた時、僕は、姉さんの弟になれることは、とてもとても尊いことだと思ったんだ。何にも替えがたいことだと。
だけど今は……前野さんが羨ましいよ。
僕から言わせれば、振り向いてくれる可能性が低くても、気持ちを伝えたいと思うのは、まだ見込みがあるからだ。僕にはそれがない。
ないに等しい希望へすがることはないでしょう? すがれるだけの希望があって羨ましいよ。
「……なーんて、冗談、ですよ。気にしないで下さい。あはは……はは、」
「そばにいるわ」
「……えっ?」
「ずっととか、そんな不確かなこと言えないけれど、今はあなたが安心するまでそばにいるわ。……だって、あなたはわたくしの大切で大好きな弟だもの」
そこで嘘でもずっとって言わない所がすごく姉さんらしくて、僕は思わず笑ってしまった。
……なんか、もう十分だな。
今はその言葉が聞けただけで十分嬉しい。
今だけじゃない。姉さんは、いつだって僕を特別扱いしてくれる。それは僕が弟だから。大好きだって、そう言ってくれる。
この笑顔と言葉が聞けなくなるのは、嫌だなって。鈍感なふりを決め込んで。溢れそうなこの気持ちに蓋をし直した。4歳の僕がそうしたように。ううん、それよりも厳重に。もう2度と開かないように。
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