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35 恥ずかしいからいちいち言わせないでよぉ!
しおりを挟む3年生になった。
残念ながら黄泉や桜子ちゃんや前野くんとはクラスが異なるが、幸いにも葵ちゃんと白川くんと同じクラスなので、2人の恋路を温かく見守ろうと思う。
葵ちゃんには再三余計なことをしなくていいからと言われているが、親友として何かしたいものね?
今日は早速係決めだし、2人を同じ係にするとか……
「立花さん?」
「は、はいっ」
「立花さんはそれで宜しいですか?」
担任の先生にそう尋ねられるも、何のことだかわからない。周りの人達も雅様なら出来ますと、羨望の眼差しで見てくる。
えっと、だから何のこと?
まあ、係なんて何をやっても対して苦労は変わらないし、なんでもいいか。
「ええ、大丈夫ですわ」
「じゃあ決まりね。みんな拍手」
わぁーっとクラス全員で一斉に拍手。
え、たかが係を引き受けたくらいでこんなに盛大に喜んで頂けるの!?
今年のクラスは大袈裟だなぁ……
「それじゃあ、白川くんと立花さんは前に出てみんなに挨拶をして」
「はい」
あ、白川くんも私と同じ係になったのね。
……しまった。これじゃあ葵ちゃんと同じ係にする計画が……。
それにしても、毎回係が決まるごとに前に出て挨拶をしていては、いくら少人数しかいない麗氷とはいえ、時間がもったいないような気がする。担任の方針なら私は従うけどね。先生の方針に提言する小学3年生とか、生意気すぎるものね。長いものには巻かれろだ。
「このクラスの学級委員になった白川梓です。クラスを上手く引っ張っていけるよう、一生懸命頑張ります。よろしくお願いします」
…………えっ、学級委員?
何その懐かしい響き。そう言えば前世でもそんなものがあった。まさか、それを、私がっ!?
「……何をしている。君の番だぞ」
白川くんに拍手をし終えたクラス全員の視線が私に集まる。こんな大勢の前で、やっぱりやりたくないですなんて言う勇気は……私にはなかった。
「同じく、このクラスの学級委員になりました立花雅と申します。白川くんと共に精一杯頑張るので、皆さんどうかお力を貸して下さい。よろしくお願い致します」
なんとか挨拶はこなした。
学級委員かぁ……正直自信がない。担任の先生にさえ気を遣って物を言えない小心者の自分が、クラスメイトを上手くまとめて引っ張っていけるのか。私にそんな才能があるとは到底思えない。
ここは白川くん主体で私はサポートとして頑張っていこう。
先生っ、係は学期ごとですよね!
……委員長だけは通年?
あ、そうですか……くすん。
***
今日は新学期初日ということもあり、お昼前に学校が終わる。
正直黄泉と顔を合わせづらいと思っていたから、今日はお昼休みがなくて良かった。黄泉にあの『一条青葉』と意図せず遭遇したなんて、それもプライベートでなんて、そんなことなんて説明すれば……っ!
とりあえず今日はもう帰ろう。クラスメイトに「ごきげんよう」と挨拶をし教室を出ようとした時、ドア枠に手をつき、私の行く手を阻んだのは、とびきり笑顔の美少年だった。
「なぁに帰ろうとしてるの~?」
「……よ、黄泉」
「雅、オレに言うことな~い?」
「お、お久しぶり。春休み中は余り会えなかったからねっ」
「確かにそうだけどそうじゃないよねぇ~? いいからちょっと2人で話しようか~」
強引に連れて行かれたのは黄泉の車。おそらく黄泉専属であろうドライバーさんは、私を見た瞬間またお前かという顔をした。きっと長くなる予感がしたんだね。心中お察しします。
そんな不憫な彼に「ご苦労様です」と声をかけると、「いえいえ、お嬢様も……」と言われる。どうやらこのドライバーさんは、私が黄泉に無理矢理連れて来られたことをきちんと理解してくれているようだった。うん、とっても優秀。
その上で、あなたも苦労してますねという哀れみの目で、私を見ているらしかった。……嫌な顔されてる訳じゃなくて良かったよ。いや、同情されるのもどうなの?
同情するなら助けてくれ!
私は今すぐここから逃げ出したいのだ!
「青葉から聞いたよ。この前会ったらしいじゃん、それもプライベートで、2人っきりで」
早速本題だ。やっぱり黄泉は知ってたのか。教室でのあの感じからなんとなく察しはついていたけれど。
「……うっ、ごめんなさい黄泉。別に隠してたわけじゃないの。ただ、こんなにすぐにあなたの信頼を裏切ってしまう形になってしまった手前、そのぉ……言いづらくて」
黄泉のことだ。きっと私を責め立てるにきまっている。ああ、もう、そりゃネチネチネチネチと。容易に想像出来る。
だが今回は仕方ない。全面的に私に非がある。黄泉の精神攻撃を受け入れる準備は出来た。……さぁ、来いっ。
「大丈夫だった?」
「え、」
「だからぁ、青葉に何か言われたり、されたりしなかった? 大丈夫だった?」
「……あなた本当に黄泉? 誰か変装してるのでは?」
「何それっ! オレはれっきとした西門黄泉本人だよっ! あの西門家の末っ子のっ!」
あっ、本当にこの人は黄泉だ。
間違いないわ。
いつも思っているんだが、その枕詞いる? 『あの西門家の末っ子』って、その情報不必要だと感じるのは私だけか? 西門って名字なんだから、そりゃ西門家の人間でしょうよ。
「……責めないの? わたくしのこと」
「責めないよ、別に」
「……少し、意外だったわ」
「何が~?」
「黄泉のことだから、問答無用でわたくしを糾弾すると思っていたから」
「……『きゅうだん』?」
あ、小学3年生だと、まだ糾弾って知らないのか。未だにこの塩梅が難しい。
「……えーと、わたくしの責任だと責め立てると、そう思っていたの。実際、黄泉にはその権利もあるし、わたくしはそうされても仕方がないことをしたとも思うし」
「……うーん、まあ、そうだね~。今までのオレだったらそうしてたかも。どんな事情があろうと、裏切ったことには違いないって、きっとキミのことを責めてたと思う」
だよね。私もそう思う。だからこそ、黄泉のこの反応が意外だった。
本来責められて然るべき私を黄泉は気遣い心配してくれた。これを意外と言わずして何と言う。
「でも、キミは理由もなく、オレの信頼を裏切るような真似をする人じゃないでしょ?」
「よ、黄泉っ! つまりそれだけわたくしのことを信頼してくれてるということねっ!?」
「あーもうっ、そうだよっ! 恥ずかしいからいちいち言わせないでよぉ!」
黄泉は顔を真っ赤にしながら怒っていたけれど、不思議と私の心は満たされていた。笑うなとあなたは怒るけれど。それは無理よ。だって私今嬉しくて仕方ないんだもの。もちろん、責められなかったことではなくて、こんなに信頼されていたということが。
「……それで、本当に何も言われてないの?」
「あー……、わたくしが望むなら婚約しても構わないとか、それらしきことは言われたわ……」
「何それっ! やっぱり色々言われてるじゃん! ほらっ、オレが心配していた通りになった!」
もしかしてもう内々で婚約の話進んでたりする!? と、黄泉は顔を真っ青にしながら頭を抱える。
「……大丈夫よ。黄泉が思うような展開にはなっていないから」
「……どういうことぉ?」
「どうやらわたくしは、彼にがっかりされてしまったようだから」
だからそんなに心配することはないのだと、私は黄泉の心配を取り除くように、意識的に微笑みながら、事実を伝えた。
ズキズキと痛む胸の内に気付かぬ振りをしながら。
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