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番外編
シャンプーの香りー志野視点ー
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目にかかる前髪がうっとうしくて僕は美容院を予約した。ある程度、散髪が終わりサッパリしたところでシャンプーへの過程に移る。
立ち上がって移動してまたイスに座り上を向く。上を向けば、軽く肩が凝っているように感じた。ここ最近、1日中座って調香する作業をしていたからかもしれない。
「目隠ししますね~」
美容師さんが白い布を僕に見せる。
「はい」
目隠しで視界を覆われれば、僕は目を瞑った。
サァアア――とシャワーから勢いよくお湯が飛び出し、髪の毛を少しずつ濡らしていく。美容師さんの手がやわらかく僕の頭皮に触れていた。
「かゆいところはないですか~?」
定番のセリフにありません、と答えて口を閉じる。頭皮に触れる指先は僕の固まった頭の中をほぐしてくれているようだった。
「ふぅ……」
「夜勤明けですか? お疲れみたいですね」
自分だけに聞こえるはずの溜め息は美容師さんにも聞こえていた。
「す、すみません……」
なんだか申し訳なくなって僕は謝る。
「いいですよ、今だけでもゆっくりしてください」
やわらかい口調と癒される声で美容師さんは僕の眠りを誘ってくる。別に夜勤明けでもないし、繁忙期に比べれば仕事はかなり落ち着いている。それなのに疲れているのはなぜだろう。
「では、シャンプーつけていきますね~」
美容師さんが言った途端、ふわりと特徴のある香りが僕の嗅覚を刺激した。
「いい匂いですね」
閉じていた口が興奮気味に口を開く。温かみがあり包み込まれるような愛される香り。
「そうなんですよ、高級ブランドの香水とコラボしたシャンプーなんです。いい匂いですよね」
美容師さんは髪の毛を洗いながらシャンプーの説明を始めた。よく聞くノンシリコン、髪の毛を補習する成分。たしかにトリートメントはとてもやわらかく髪の毛に馴染んでいた。
「では、洗い流しますね」
美容師さんはシャワーのヘッドで髪の毛をたぷたぷとたゆませる。頭皮に当たる水圧も心地いい。
「ここにも香水が……」
脳裏には香水斗の姿が過る。うとうとして眠りかけていた脳が覚醒し、これは何系の香りだろうと次々に記憶の引き出しを開けていく。僕の脳は匂いに支配されていた。
リラックス効果のあるラブダナムの匂い。古代から使用されていた世界最古の天然芳香剤であるシストローズの別名。香りは樹脂系の特徴に多い、まったりとしたムスク調。少量でも非常に香りが強いのが特徴だ。
ああ、これは香水斗がつけていた香水だ。
そう気づいた途端、急に恥ずかしくなる。誰の物でもない匂いなのに、僕は匂いで香水斗を意識してしまっていた。
「では、身体を起こしますね~」
あれこれ考えている内にシャンプーが終わった。僕はゆっくりと身体を起こす。
「大丈夫ですか? 顔、赤いですけど……」
美容師さんが僕の目隠しを取り、顔を覗き込む。
「な、なんでもありません!」
僕はごまかすように声を上げてしまう。すると、店内にいた人達が一斉に僕を見て、僕は慌てて俯いた。
「す、すみません……」
声を荒げてしまったことに謝罪する。
「いえいえ、席に戻りましょうか」
僕は美容師さんの後ろについて歩く。歩き出せば、香水を使っているかのように香りの持続性が続いていた。髪の毛を乾かし終わっても、まだ香りは続いている。髪の毛に手を伸ばせば、手触りはかなりよかった。
「ありがとうございました~」
支払いも終えて美容院を出る。手には美容院で買ったシャンプーとトリートメントが入った紙袋を持っていた。
複雑な高級感のある香りが僕の身体を包んでいる。こだわりが詰まったシャンプーの奥深さ。その香りが恋人のつけている香水と一緒だなんて、口が裂けても言えやしない。
立ち上がって移動してまたイスに座り上を向く。上を向けば、軽く肩が凝っているように感じた。ここ最近、1日中座って調香する作業をしていたからかもしれない。
「目隠ししますね~」
美容師さんが白い布を僕に見せる。
「はい」
目隠しで視界を覆われれば、僕は目を瞑った。
サァアア――とシャワーから勢いよくお湯が飛び出し、髪の毛を少しずつ濡らしていく。美容師さんの手がやわらかく僕の頭皮に触れていた。
「かゆいところはないですか~?」
定番のセリフにありません、と答えて口を閉じる。頭皮に触れる指先は僕の固まった頭の中をほぐしてくれているようだった。
「ふぅ……」
「夜勤明けですか? お疲れみたいですね」
自分だけに聞こえるはずの溜め息は美容師さんにも聞こえていた。
「す、すみません……」
なんだか申し訳なくなって僕は謝る。
「いいですよ、今だけでもゆっくりしてください」
やわらかい口調と癒される声で美容師さんは僕の眠りを誘ってくる。別に夜勤明けでもないし、繁忙期に比べれば仕事はかなり落ち着いている。それなのに疲れているのはなぜだろう。
「では、シャンプーつけていきますね~」
美容師さんが言った途端、ふわりと特徴のある香りが僕の嗅覚を刺激した。
「いい匂いですね」
閉じていた口が興奮気味に口を開く。温かみがあり包み込まれるような愛される香り。
「そうなんですよ、高級ブランドの香水とコラボしたシャンプーなんです。いい匂いですよね」
美容師さんは髪の毛を洗いながらシャンプーの説明を始めた。よく聞くノンシリコン、髪の毛を補習する成分。たしかにトリートメントはとてもやわらかく髪の毛に馴染んでいた。
「では、洗い流しますね」
美容師さんはシャワーのヘッドで髪の毛をたぷたぷとたゆませる。頭皮に当たる水圧も心地いい。
「ここにも香水が……」
脳裏には香水斗の姿が過る。うとうとして眠りかけていた脳が覚醒し、これは何系の香りだろうと次々に記憶の引き出しを開けていく。僕の脳は匂いに支配されていた。
リラックス効果のあるラブダナムの匂い。古代から使用されていた世界最古の天然芳香剤であるシストローズの別名。香りは樹脂系の特徴に多い、まったりとしたムスク調。少量でも非常に香りが強いのが特徴だ。
ああ、これは香水斗がつけていた香水だ。
そう気づいた途端、急に恥ずかしくなる。誰の物でもない匂いなのに、僕は匂いで香水斗を意識してしまっていた。
「では、身体を起こしますね~」
あれこれ考えている内にシャンプーが終わった。僕はゆっくりと身体を起こす。
「大丈夫ですか? 顔、赤いですけど……」
美容師さんが僕の目隠しを取り、顔を覗き込む。
「な、なんでもありません!」
僕はごまかすように声を上げてしまう。すると、店内にいた人達が一斉に僕を見て、僕は慌てて俯いた。
「す、すみません……」
声を荒げてしまったことに謝罪する。
「いえいえ、席に戻りましょうか」
僕は美容師さんの後ろについて歩く。歩き出せば、香水を使っているかのように香りの持続性が続いていた。髪の毛を乾かし終わっても、まだ香りは続いている。髪の毛に手を伸ばせば、手触りはかなりよかった。
「ありがとうございました~」
支払いも終えて美容院を出る。手には美容院で買ったシャンプーとトリートメントが入った紙袋を持っていた。
複雑な高級感のある香りが僕の身体を包んでいる。こだわりが詰まったシャンプーの奥深さ。その香りが恋人のつけている香水と一緒だなんて、口が裂けても言えやしない。
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