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番外編
香りの処方箋ー志野視点ー
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香りの業界では有名な香りをつくると『あの香りをつくった人』と知られていくらしい。今日の香水斗も46種類の香料原料を迷うことなく混ぜ合わせていた。もちろん、入れた香料原料の量をどのくらい入れたか記載している。
ここ1年で僕も多くの香りを記憶してきた。日頃から、この香りとこの香りを混ぜればあの香りができるということを考えて生活してしまうのだとか。日々の鍛錬で鍛えられた鼻の勘と、香りの記憶で香りを調合していく。
商品の香りづくりが完成するまでには半年ぐらいかかり、その間、テストし修正を繰り返していた。
「いって……」
冬になると唇が乾燥する。どうやら軽く唇を切ったみたいだ。血が出ていないか指を押し当てる。
「唇を切ったのか? 仕方ないな……」
香水斗は鞄の中からリップバームを取りだした。フタを開けて、小指につけると僕の唇に塗ろうとしてくる。
「いいよ、自分で塗れる」
CMに出演している俳優ならともかく僕は一般人だ。人に塗ってもらうには抵抗があった。
「だったら唇が切れる前に塗るべきだったな。こうでもしないと啓明はまた唇を切るだろ」
香水斗は一度決めたことは曲げない。だから、僕が折れるしかなかった。
「わかったよ……ん」
僕は唇を閉じて香水斗に差し出した。正直、キスをするよりも恥ずかしい。香水斗の指が僕の唇に触れた。スー、と下唇をなぞられ、なぜか頬が熱くなる。甘い香りが広がり、鼻腔をくすぐる。香水斗がつけるにしては珍しい香りだった。
一瞬だけ目を閉じた。
「ぁっ……」
香水斗の吐息を感じた。目を開ければ香水斗の顔がすぐそこにある。香水斗の唇からは僕が塗ってもらったのと別の香りがした。
「はい、完成」
香水斗の声で僕は瞑っていた目を開ける。
「ん?」
香水斗が魔法でもかけたのか、僕の唇から甘い匂いがしなくなった。不思議に思っていると、香水斗が種明かしをしてくれる。
「え、それすごくね……?」
唇は鼻に近い。香水斗がキスで作り出した香りがずっと僕を包み込んでいる。
「新しい商品のパッケージできたよ~!」
スタイリッシュなデザインのパッケージを峰岡さんが持ってきた。
――キスして二人だけの世界を生み出そう。
キスで作る香水フレグランス、発売中。
ここ1年で僕も多くの香りを記憶してきた。日頃から、この香りとこの香りを混ぜればあの香りができるということを考えて生活してしまうのだとか。日々の鍛錬で鍛えられた鼻の勘と、香りの記憶で香りを調合していく。
商品の香りづくりが完成するまでには半年ぐらいかかり、その間、テストし修正を繰り返していた。
「いって……」
冬になると唇が乾燥する。どうやら軽く唇を切ったみたいだ。血が出ていないか指を押し当てる。
「唇を切ったのか? 仕方ないな……」
香水斗は鞄の中からリップバームを取りだした。フタを開けて、小指につけると僕の唇に塗ろうとしてくる。
「いいよ、自分で塗れる」
CMに出演している俳優ならともかく僕は一般人だ。人に塗ってもらうには抵抗があった。
「だったら唇が切れる前に塗るべきだったな。こうでもしないと啓明はまた唇を切るだろ」
香水斗は一度決めたことは曲げない。だから、僕が折れるしかなかった。
「わかったよ……ん」
僕は唇を閉じて香水斗に差し出した。正直、キスをするよりも恥ずかしい。香水斗の指が僕の唇に触れた。スー、と下唇をなぞられ、なぜか頬が熱くなる。甘い香りが広がり、鼻腔をくすぐる。香水斗がつけるにしては珍しい香りだった。
一瞬だけ目を閉じた。
「ぁっ……」
香水斗の吐息を感じた。目を開ければ香水斗の顔がすぐそこにある。香水斗の唇からは僕が塗ってもらったのと別の香りがした。
「はい、完成」
香水斗の声で僕は瞑っていた目を開ける。
「ん?」
香水斗が魔法でもかけたのか、僕の唇から甘い匂いがしなくなった。不思議に思っていると、香水斗が種明かしをしてくれる。
「え、それすごくね……?」
唇は鼻に近い。香水斗がキスで作り出した香りがずっと僕を包み込んでいる。
「新しい商品のパッケージできたよ~!」
スタイリッシュなデザインのパッケージを峰岡さんが持ってきた。
――キスして二人だけの世界を生み出そう。
キスで作る香水フレグランス、発売中。
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