香水のせいにすればいい

弓葉

文字の大きさ
上 下
105 / 111
最終話

ことわざ

しおりを挟む
 東京でしか買えない特別な香り。東京発信の香りは、東京を訪れた人しか購入できない仕様になっている。オンラインの配送もしていないため、レア感は通常に比べて満載だ。

 文字通りその年限定のフレグランスは都会のトレンドが変わりゆく様子を表現している。この香水を纏えば「どこの香水?」と聞かれる回数が増えるほど、人と被らない自分だけの香水のように思えてくる。

 香水ラベルに自分の名前や購入日を刻印できるよう特別なサービスを用意したり、自分だけの一本を楽しめるようになっている。一つ当たりの値段が高いため、手頃に試せるミニボトルも用意した。

 今まで出会ってきた人脈のお陰でここまで来ることができた。依頼人と向き合いコツコツと仕事をこなして人脈を作り上げる。ご縁で別の仕事が入ってくることも増えてきた。

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 やっと、訪れた閉店時間。小さな個人ショップはとにかく人手が足りない。毎日、やりたいこと、やらなくちゃいけないことが増えていく。

「啓明、お疲れさま」

 香水斗は僕を優しく抱きしめる。ブラインドを下ろしてしまえば、二人だけの世界になった。

「Happiness is a perfume,you cannot pour on others without getting a few drops on yourself.」

「それ、どういう意味?」

 突然の英語に僕は驚きを隠せない。今度は海外進出でもしようと言うのか。

「ユダヤのことわざで『幸せとは香水のようなもの。他人にふりかければ、おのずと自分にも数滴かかる』という意味なんだ」

「いいことわざだね」

「だろ?」

 日中、ふとした拍子に自分の身体から香水の香りがすると香水斗に護られているような安らぎを感じるようになっていた。そして、自然と自信が湧いてくる。僕のなかでは気持ちを切り替えられるスイッチングアイテムとして、そしてフレグランスとして香水はもう手放せない存在になっていた。

 学生時代に香水が似合わない、と言われてトラウマになっていた僕とは思えない変化だ。

「啓明、好きだ」

 それもこれも、隣にいる香水斗のお陰。

「僕も香水斗のことが好きだよ。香水の素晴らしさを教えてくれてありがとう」

 香水斗が与えてくれた幸せを、一生傍で返し続けたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

ヤバい奴に好かれてます。

たいら
BL
主人公の野坂はある日、上司である久保田に呼び出された。その日から久保田による偏狭的な愛を一身に受ける日々が始まった。 他サイトにも掲載しています。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...