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キャラ香水
人生の物語
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「僕は、今も昔も香水斗を追いかけていたい」
今度は僕から香水斗に抱きついた。香水斗の匂いと肌に纏わせた香水の匂いが、僕の五感を狂わせる。人生で香水をつけたことがある人と付き合って来なかった。そもそも、出会わなかった。僕は香水の存在をナメていた。
「ありがとう。今も追いかけてもらえるような男に成長してよかった」
香水斗は僕の身体を強く抱きしめる。自信家の香水斗が見せるギャップに僕は弱い。僕にしか見せない姿は誰にも見せたくない欲求に駆られる。
「約束の香水だ」
香水斗はベッド脇にあった小さな机の引き出しから白い箱を取りだした。箱の表面には香水斗の文字をアレンジしたようなロゴが薄く掘られている。
「え……」
僕は驚きながら、香水斗から箱を受け取った。箱を開ければ、中央に小さな小瓶。繊細な小瓶は触れてしまえば、壊れてしまいそうだった。おそるおそる、僕は箱から小瓶を出す。
「わぁ……」
箱から小瓶を出せば、窓から見える夜景の光が夜空に瞬く星のように輝かせた。
香水斗と出会ってから僕は香水の世界にのめり込んだ。香水童貞だった僕のために、香水斗がオーダーメイドをしてくれた。調香師であるプロの信頼感と、香水斗が作った僕のイメージ。
「つけてもいい?」
そう香水斗に質問しながらも、指は小瓶のフタにかかっていた。
「もちろん」
香水はつける人の体温によって香りが変わると言われている。小瓶を開けた印象は、正直苦手な香りだった。僕は一瞬、顔に出てしまったのではないかと不安になったが香水斗の表情は真剣で変わらなかった。
「大丈夫、俺を信じろ」
香水斗は僕の心を読んだかのように、僕を見つめる。その心強い目線に圧倒されて僕は揺らぎかけていた気持ちを取り戻した。
「わかった」
僕は香水を手首につける。すると、苦手な香りは僕の身体に馴染んだのか変化していった。香水斗は今の僕の体温を計算していたのか、しつこすぎることもなく好みの匂いへと変化していく。
ほろ苦い甘さは香水のピュアさとリンクした。だけど、少し熱を持った濃厚さへと変わっていく。複雑で繊細な甘さを表現できるのは『バニラ』しかない。
同じように後半でバニラの香りが目立ってくる香水は今までにも出会ったことはある。だが、バニラの香水と言っても変化の仕方もバリエーションがあり、微妙にニュアンスに違いがあって面白い匂いだと思っていた。
「香水斗、すげぇよ……!」
僕は気持ちを抑えられなくなり、香水斗に飛びつく。
「当たり前だろ」
香水斗は安心したのか、少し声が震えていた。
「ん?」
箱からハラリ、とベッドシーツに落ちたのは香水と同封されていたのか小さなメッセージカード。メッセージカードを拾い上げれば、香水斗の手書きで文章が書かれていた。読んでもいいのか、香水斗の様子を伺えば照れ隠しなのか目線を外す。
「これ、今読んでも大丈夫?」
「今、読んでもらわなきゃ意味がない」
それはどういう意味なんだろう、と僕はもう一度メッセージカードを見た。
――一途で優しく無邪気な一面を感じられるフレグランスを。
香水斗が僕のために作ってくれた香水は、今も昔も含めて僕の人生を物語っているような香りだった。
今度は僕から香水斗に抱きついた。香水斗の匂いと肌に纏わせた香水の匂いが、僕の五感を狂わせる。人生で香水をつけたことがある人と付き合って来なかった。そもそも、出会わなかった。僕は香水の存在をナメていた。
「ありがとう。今も追いかけてもらえるような男に成長してよかった」
香水斗は僕の身体を強く抱きしめる。自信家の香水斗が見せるギャップに僕は弱い。僕にしか見せない姿は誰にも見せたくない欲求に駆られる。
「約束の香水だ」
香水斗はベッド脇にあった小さな机の引き出しから白い箱を取りだした。箱の表面には香水斗の文字をアレンジしたようなロゴが薄く掘られている。
「え……」
僕は驚きながら、香水斗から箱を受け取った。箱を開ければ、中央に小さな小瓶。繊細な小瓶は触れてしまえば、壊れてしまいそうだった。おそるおそる、僕は箱から小瓶を出す。
「わぁ……」
箱から小瓶を出せば、窓から見える夜景の光が夜空に瞬く星のように輝かせた。
香水斗と出会ってから僕は香水の世界にのめり込んだ。香水童貞だった僕のために、香水斗がオーダーメイドをしてくれた。調香師であるプロの信頼感と、香水斗が作った僕のイメージ。
「つけてもいい?」
そう香水斗に質問しながらも、指は小瓶のフタにかかっていた。
「もちろん」
香水はつける人の体温によって香りが変わると言われている。小瓶を開けた印象は、正直苦手な香りだった。僕は一瞬、顔に出てしまったのではないかと不安になったが香水斗の表情は真剣で変わらなかった。
「大丈夫、俺を信じろ」
香水斗は僕の心を読んだかのように、僕を見つめる。その心強い目線に圧倒されて僕は揺らぎかけていた気持ちを取り戻した。
「わかった」
僕は香水を手首につける。すると、苦手な香りは僕の身体に馴染んだのか変化していった。香水斗は今の僕の体温を計算していたのか、しつこすぎることもなく好みの匂いへと変化していく。
ほろ苦い甘さは香水のピュアさとリンクした。だけど、少し熱を持った濃厚さへと変わっていく。複雑で繊細な甘さを表現できるのは『バニラ』しかない。
同じように後半でバニラの香りが目立ってくる香水は今までにも出会ったことはある。だが、バニラの香水と言っても変化の仕方もバリエーションがあり、微妙にニュアンスに違いがあって面白い匂いだと思っていた。
「香水斗、すげぇよ……!」
僕は気持ちを抑えられなくなり、香水斗に飛びつく。
「当たり前だろ」
香水斗は安心したのか、少し声が震えていた。
「ん?」
箱からハラリ、とベッドシーツに落ちたのは香水と同封されていたのか小さなメッセージカード。メッセージカードを拾い上げれば、香水斗の手書きで文章が書かれていた。読んでもいいのか、香水斗の様子を伺えば照れ隠しなのか目線を外す。
「これ、今読んでも大丈夫?」
「今、読んでもらわなきゃ意味がない」
それはどういう意味なんだろう、と僕はもう一度メッセージカードを見た。
――一途で優しく無邪気な一面を感じられるフレグランスを。
香水斗が僕のために作ってくれた香水は、今も昔も含めて僕の人生を物語っているような香りだった。
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