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香りで風景を描く
再会
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「あら、覚えてないかしら。あなたの担任をしていた古賀日和子|よ」
古賀先生は昔と同じように笑った。古賀先生は香水斗が転校する前まで担任をしていた先生だ。まさか、ここで再会するなんて思ってもいなかった。
「古賀先生! お久しぶりです。志野です、志野啓明です」
これもまた縁なのだろうか。モヤモヤしていた気持ちはどこかに消え去り、自然と笑顔が戻ってくる。古賀先生も僕と同じで香水斗の香水を覚えていた。だけど、モブのように存在していた僕のことを古賀先生は覚えてくれているのだろうか不安になる。
「もちろん、志野くんのことも覚えていますよ。よく教室で本を読んでいましたね」
古賀先生は僕を見る。よかった、香水斗ほど鮮烈ではないと思うけど覚えてくれていて安心した。
「そうだな、お前はよく本を読んでいた」
香水斗も小学校時代の僕を覚えていた。一緒のグループにいたわけでもないし、放課後一緒に遊んだことは数える程度だ。それも、大人数で当時はやった住宅街ドロケをしたぐらい。
「よくよく思い出してみれば、僕と香水斗ってそれほど接点なかったよな。まさか、同じ会社で再会するとは思わなかった」
香水斗は地元の小学校を転校したし、僕も地元から上京した。お互い場所を転々していたし、連絡先すら知らなかった。なんだか、不思議だ。
すると、香水斗はフッと笑う。
「学校なんてただの電車だと思っていた。電車で乗り合わせた人は行く方向が同じだけで仲良しでも友達でもない。学校も近くに住む同じ年齢の寄せ集めだから、仲良くできなくて当たり前だと大人ぶっていた」
香水斗は昔を思い出すように空を見る。たしかに、香水斗の言う通り小学校は地区で決められていた。小学校の頃から香水斗は価値観が違っていた。だから、精神年齢が低い僕といなかったのか。
「まぁ、香水斗くんには手を焼かされたわ。職員室で他の先生によく言われたのよ。女だから香水斗くんみたいな香水をつけるような生徒が現れるんだと」
古賀先生はクスクス笑う。僕らにとっては楽しい時間だったが、先生の視点から見れば大変だったのかもしれない。
「反抗期ですからね。あの頃はよく大人に対抗するのがカッコイイ風潮があったので」
香水斗も先生に合わせるように笑った。
「今は何しているのかしら? と言っても、香水関連の仕事をしてそうだけど」
「調香師です。小さい頃の夢を叶えました」
香水斗はポケットから名刺入れを取り出して名刺を渡す。
「あ、僕も香水斗と一緒の部署で働いていて」
僕も香水斗に続くように名刺を取り出した。
「今は温泉の入浴剤を作るために別府に来たんです」
「やっぱり本場のお湯を知ってほしいから嬉しいわ。発売されたら私も微力ながら宣伝させてもらうわね」
古賀先生は誇らしげに笑った。
「じゃあ、あまり仕事の邪魔をするわけにもいかないし行くわね。香水斗くんと啓明くんが作る入浴剤、楽しみにしてるわ」
古賀先生は軽くお辞儀をする。
「ありがとうございます。必ず先生を驚かすような入浴剤を作ってやりますよ」
香水斗は小学生が自由研究ではしゃぐように笑った。そういえば、香水斗は夏休みに出された自由研究で香水の成分表を作っていたっけ……?
古賀先生の姿が見えなくなってから、香水斗は僕を見た。
「さっき、小学校は電車みたいなのものと言った。だが、電車の目的地が一緒になるとは思わなかった」
「そうだな」
部署は違ったが、香水斗の言う電車で例えるなら違う電車に乗っていても僕と香水斗は降りる駅が一緒だったということだ。
古賀先生は昔と同じように笑った。古賀先生は香水斗が転校する前まで担任をしていた先生だ。まさか、ここで再会するなんて思ってもいなかった。
「古賀先生! お久しぶりです。志野です、志野啓明です」
これもまた縁なのだろうか。モヤモヤしていた気持ちはどこかに消え去り、自然と笑顔が戻ってくる。古賀先生も僕と同じで香水斗の香水を覚えていた。だけど、モブのように存在していた僕のことを古賀先生は覚えてくれているのだろうか不安になる。
「もちろん、志野くんのことも覚えていますよ。よく教室で本を読んでいましたね」
古賀先生は僕を見る。よかった、香水斗ほど鮮烈ではないと思うけど覚えてくれていて安心した。
「そうだな、お前はよく本を読んでいた」
香水斗も小学校時代の僕を覚えていた。一緒のグループにいたわけでもないし、放課後一緒に遊んだことは数える程度だ。それも、大人数で当時はやった住宅街ドロケをしたぐらい。
「よくよく思い出してみれば、僕と香水斗ってそれほど接点なかったよな。まさか、同じ会社で再会するとは思わなかった」
香水斗は地元の小学校を転校したし、僕も地元から上京した。お互い場所を転々していたし、連絡先すら知らなかった。なんだか、不思議だ。
すると、香水斗はフッと笑う。
「学校なんてただの電車だと思っていた。電車で乗り合わせた人は行く方向が同じだけで仲良しでも友達でもない。学校も近くに住む同じ年齢の寄せ集めだから、仲良くできなくて当たり前だと大人ぶっていた」
香水斗は昔を思い出すように空を見る。たしかに、香水斗の言う通り小学校は地区で決められていた。小学校の頃から香水斗は価値観が違っていた。だから、精神年齢が低い僕といなかったのか。
「まぁ、香水斗くんには手を焼かされたわ。職員室で他の先生によく言われたのよ。女だから香水斗くんみたいな香水をつけるような生徒が現れるんだと」
古賀先生はクスクス笑う。僕らにとっては楽しい時間だったが、先生の視点から見れば大変だったのかもしれない。
「反抗期ですからね。あの頃はよく大人に対抗するのがカッコイイ風潮があったので」
香水斗も先生に合わせるように笑った。
「今は何しているのかしら? と言っても、香水関連の仕事をしてそうだけど」
「調香師です。小さい頃の夢を叶えました」
香水斗はポケットから名刺入れを取り出して名刺を渡す。
「あ、僕も香水斗と一緒の部署で働いていて」
僕も香水斗に続くように名刺を取り出した。
「今は温泉の入浴剤を作るために別府に来たんです」
「やっぱり本場のお湯を知ってほしいから嬉しいわ。発売されたら私も微力ながら宣伝させてもらうわね」
古賀先生は誇らしげに笑った。
「じゃあ、あまり仕事の邪魔をするわけにもいかないし行くわね。香水斗くんと啓明くんが作る入浴剤、楽しみにしてるわ」
古賀先生は軽くお辞儀をする。
「ありがとうございます。必ず先生を驚かすような入浴剤を作ってやりますよ」
香水斗は小学生が自由研究ではしゃぐように笑った。そういえば、香水斗は夏休みに出された自由研究で香水の成分表を作っていたっけ……?
古賀先生の姿が見えなくなってから、香水斗は僕を見た。
「さっき、小学校は電車みたいなのものと言った。だが、電車の目的地が一緒になるとは思わなかった」
「そうだな」
部署は違ったが、香水斗の言う電車で例えるなら違う電車に乗っていても僕と香水斗は降りる駅が一緒だったということだ。
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