香水のせいにすればいい

弓葉

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金木犀前線

なにもないだろ

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「抱きしめられたって、どういう意味だ?」

 津幡さんの家からの帰り道、僕は香水斗に問い詰められていた。まだ明るく人目もあると言うのに、道ばたで僕は言い寄られている。家の塀を背にして香水斗に壁ドンされていた。

「え、いやその……僕に香水をつけた後、津幡さんが奥さんと重ねて抱きしめられただけ……だけど」

 それ以上は何もされていない。だけど、どこかやましい気持ちがあった。バカ正直に言っても香水斗にはバレてしまう。それなら変に嘘をつくより言ってしまった方が楽だ。

「……ほう」

 香水斗は納得がいっていない表情をする。

「で、でもさ、僕と香水斗は何もないだろ。会社の同僚じゃん」

 あ、まずい。発言をシクってしまった。香水斗の顔がますます不機嫌になっていく。

「そうか、何もないか」

 香水斗の眉間に皺が寄っていた。僕はこれ以上、香水斗の目を見ることができなくて目を逃げるように背けてしまう。

「ちょっとこい」

 香水斗は僕の腕を引っ張ると引き摺るように連れて行く。香水斗が呼んでいたタクシーがタイミングよく止まり、乱暴に車内へ押し込まれた。

「いってぇな、香水斗! なにすんだよ」

 いくら怒っているとはいえ、乱暴すぎる。僕は窓に頭をぶつけてしまった。
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