香水のせいにすればいい

弓葉

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金木犀前線

恋人というより助手

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――あ、この甘くて芳しい感じ……金木犀だ。

 僕は最近知ったオレンジ色の小さな花を思い出す。どこから香るのだろうと匂いの元を辿ればある人物に鼻が向いた。

 受付の前に立っていた四十代ぐらいの男性。オールバックで綺麗に身なりを整えている。宅急便に書かれた達筆な伝票の文字を思い出し、この人が金木犀の送り主と気づいた。

 辿り着いた推理の答えを当てたくて近付き、声をかけることにした。

「あの……つかぬ事をお伺いしますが、津幡史也さんですか? 私、佐藤香水斗の同僚の志野啓明と申します。フロアが一緒なので、よければご案内致しますよ」

「えっ……? どうして僕の名前を??」

 驚くのも無理はない。知らない人から突然、声をかけられたのだから。

「あ、えっと……先日送られてきた金木犀の香りがあなたからしたので、もしかしたらとお声かけしました。突然、話しかけてしまいすみません」

「志野さん、君は香水斗くんの恋人かい?」

 突然の津幡さんの言葉に僕は全力で首を振った。

「こ、恋人?! 違いますよ!!」

「そう? 君から彼の香水の匂いがしたから同棲でもしてるのかと思ったよ」

 津幡さんはクン、と匂いを嗅いだ。

「えっ?! 匂いますか??」

 ずっと一緒にいるから気付かなかった。匂いに慣れすぎて鼻が麻痺しているのかもしれない。くんくんと袖や肩を嗅いでいればふわりと金木犀の匂いが僕を包みこむ。

「もっと顔をよく見せてくれるかい?」

 両手で頬を包み込まれ、顔を上げさせられる。その手は冷たく骨ばっていた。

「あ、えっと……」

 どうしたものか、と頭を悩ませた。香水斗のお得意さまでいる以上、無下にはできないし、こうして至近距離で目が合えば心臓が忙しなく動き始める。するりと親指の腹で目元を撫でられ寒気がし始めたところで、息遣いが荒い声が聴こえた。

「津幡さんその手、離してもらえませんか?」

 香水斗は津幡さんの腕を掴んで引き離す。津幡さんは抵抗する気はないようで素直に応じた。

「香水斗!」

「志野、遅い。目薬買いに行くのにどこまで行ってんだ?」

 僕は香水斗に目薬を買ってこいと言われてお使いをしていたことを思い出す。

「コンビニ行ったんだけど置いてなくて駅前の薬局まで行ったんだよ」

「遅くなったとわかっていて寄り道する意味がわからない」

 説明をしても香水斗は気に入らないようで、僕の話をまともに聞いてくれない。

「なんでそんな横暴なんだよ。普通、買ってきてくれてありがとうって感謝するところだろ」

 ここで津幡さんが口元に手を当てて上品に笑った。まるで貴族みたいだ。

「これじゃあ、恋人というより助手だね。安心したよ」
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