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懐かしい香り
先週のトラブル事例
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先週ぐらいに軽くトラブルがあった。いつも通りに満員電車に乗って出勤をしていた。すると、密着していた男性から好きな石けんの匂いと動物性香料が効いたオリエンタル系のセクシーな香りが混じった匂いがした。僕は匂いの正体を当てようと必死になっていた。
僕は気づかなかったけど、その度合いは激しかったらしい。気づけば男性のYシャツに顔を押し付けてしまい、すぐさま不審者だと駅員さんに突きつけられる。
許された理由は「何の香水を使っているのか気になって……」と正直に白状すれば、相手は不服そうにしながらも同志の匂いフェチなのか、女性にしたら一発痴漢摘発されるぞと怒られ、2度目は無いと忠告された。
「はぁっ……僕だってこの癖治したいよ」
エスカレーターを降りながら、すれ違い様に鼻につくにおいがした。そのにおいは汗に反応して匂いを発する別れた彼女が使っていた柔軟剤の香りだった。
汗に反応し過ぎて肌本来の匂いが打ち消されるから嫌いなんだ。
臭いから逃れるように早歩きでホームに向かう。人で賑わうホームの上。ジワリと蒸し暑い駅は案の定、汗クサい臭いが充満していた。悪臭から少しでも逃げようと、ハンカチで鼻を抑えてうつむきながら歩いていた。すると、その場の悪臭を浄化するかのように、ふわりと匂いが漂ってきた。その匂いは柑橘系をベースにしたぬくもりのある心地よいシプレ系の香りだ。
あ、この人だ。
清潔そうな見た目からすぐにわかった。クールビズで半袖のシャツを着ている人が多いなか、暑そうなジャケットを着こなしながらも涼しげな感じで颯爽と歩いている人がいた。一人だけ違う服装に目を惹かれたのもあった。けれど、すれ違った瞬間に確信した。その確信を元に立ち止まり、振り返る。
だが人混みの中で急に立ち止まったため、すれ違い様に人と肩がぶつかってしまった。ぶつかった相手から舌打ちをされたけど、どうしてもその人から目が離せなくて後ろ姿を目で追っていた。
その後ろ姿は他の人と違ってがたいが良かった。ベージュ色の髪をオールバックにして、耳にかけた髪の毛が寝癖なのかピンと一カ所だけ、はねている。
ただ見ているだけでよかったのに見過ぎていたのか、その人が振り返ってしまい目が合う。
「なんか用?」
銀縁のメガネ越しに、夏空のような澄み切った瞳が見える。美しい目に惹きつけられていれば視界いっぱいに顔が現れた。
「あ、えっと……」
自分よりも背が高いせいか威圧感があった。その圧力に負けて口ごもってしまう。なんとも気まずい雰囲気が流れていき、相手は僕が話し出すのを待っているようでジッと見られていた。
電車が通過し、突風が彼の匂いを押し上げる。その匂いは僕の鼻をくすぐった。匂いを嗅いだ途端、脳裏に浮かんだのはチロQだった。その瞬間、なぜ彼の匂いが気になったのか理解した。
「もしかして、香水斗くん?」
ハッキリ顔は覚えていない。どちらかといえば香水のほうが覚えている。それでも、聞かずにはいられなかった。
僕は気づかなかったけど、その度合いは激しかったらしい。気づけば男性のYシャツに顔を押し付けてしまい、すぐさま不審者だと駅員さんに突きつけられる。
許された理由は「何の香水を使っているのか気になって……」と正直に白状すれば、相手は不服そうにしながらも同志の匂いフェチなのか、女性にしたら一発痴漢摘発されるぞと怒られ、2度目は無いと忠告された。
「はぁっ……僕だってこの癖治したいよ」
エスカレーターを降りながら、すれ違い様に鼻につくにおいがした。そのにおいは汗に反応して匂いを発する別れた彼女が使っていた柔軟剤の香りだった。
汗に反応し過ぎて肌本来の匂いが打ち消されるから嫌いなんだ。
臭いから逃れるように早歩きでホームに向かう。人で賑わうホームの上。ジワリと蒸し暑い駅は案の定、汗クサい臭いが充満していた。悪臭から少しでも逃げようと、ハンカチで鼻を抑えてうつむきながら歩いていた。すると、その場の悪臭を浄化するかのように、ふわりと匂いが漂ってきた。その匂いは柑橘系をベースにしたぬくもりのある心地よいシプレ系の香りだ。
あ、この人だ。
清潔そうな見た目からすぐにわかった。クールビズで半袖のシャツを着ている人が多いなか、暑そうなジャケットを着こなしながらも涼しげな感じで颯爽と歩いている人がいた。一人だけ違う服装に目を惹かれたのもあった。けれど、すれ違った瞬間に確信した。その確信を元に立ち止まり、振り返る。
だが人混みの中で急に立ち止まったため、すれ違い様に人と肩がぶつかってしまった。ぶつかった相手から舌打ちをされたけど、どうしてもその人から目が離せなくて後ろ姿を目で追っていた。
その後ろ姿は他の人と違ってがたいが良かった。ベージュ色の髪をオールバックにして、耳にかけた髪の毛が寝癖なのかピンと一カ所だけ、はねている。
ただ見ているだけでよかったのに見過ぎていたのか、その人が振り返ってしまい目が合う。
「なんか用?」
銀縁のメガネ越しに、夏空のような澄み切った瞳が見える。美しい目に惹きつけられていれば視界いっぱいに顔が現れた。
「あ、えっと……」
自分よりも背が高いせいか威圧感があった。その圧力に負けて口ごもってしまう。なんとも気まずい雰囲気が流れていき、相手は僕が話し出すのを待っているようでジッと見られていた。
電車が通過し、突風が彼の匂いを押し上げる。その匂いは僕の鼻をくすぐった。匂いを嗅いだ途端、脳裏に浮かんだのはチロQだった。その瞬間、なぜ彼の匂いが気になったのか理解した。
「もしかして、香水斗くん?」
ハッキリ顔は覚えていない。どちらかといえば香水のほうが覚えている。それでも、聞かずにはいられなかった。
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