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鬼雨ノ正体
鬼雨ノ正体 壱
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今日も、雨が降っていた。藤は開けっぱなしの戸を見る。ここ数日、雨ばかり降っていた。
「ん」
玖賀が起き上がる。玖賀の反応を見る限り何かがこの家に近づいているようだった。玖賀は小さく舌打ちをするところを見ると、良き知らせではなさそうだ。
しばらくすれば、鴉の鳴き声がした。陰陽寮からの任務だ。
「鬼雨ヲ調ベロ」
独特な発音で鴉が喋った。声の気味悪さは何度聞いても聞き慣れない。
「……きう?」
聞き慣れない言葉だった。
「コノ雨ハ鬼ノ仕業ダ」
鴉は主張するかのように五月蠅く何度も叫んだ。よく、玖賀の前で言えるなと感心する。まぁ、鴉に言ったって理解はできないだろうけど。
「なんでもかんでも鬼の所為にすんなよ。ただの梅雨だろ」
藤は鴉を追い出そうと立ち上がる。光流の件もあり、何かに巻き込まれるのはもう勘弁してほしかった。鴉が嫌がるように身震いすれば、藤の頬に雨粒がついた。
「冷たっ」
藤は頬についた雨粒を拭う。なぜか、指先は真っ赤な液体がついている。
「……なんだよ、これ」
藤は鴉を見たが、ケロリとしている。別に鴉は怪我をしているわけではなさそうだ。
「鬼ノ仕業! 鬼ノ仕業!」
ギャーギャーと五月蠅い声が家の中に響いた。
「うっとうしく降る淫雨かと思っていたが、そうではなかったな」
玖賀は浴衣をまくり、戸から手を出した。しとしとと降る雨粒が玖賀の白い肌に赤い斑点を増やしていく。
「全然、気づかなかったのか? 玖賀は耳がいいんだろ」
玖賀は以前、浅草にいた僕の行動を見張るぐらい耳がいい。
「なんでもかんでも突っ込んでいたら身がもたぬ」
玖賀は腕を戻すと、赤く染まった腕を見た。
「毒ではないな」
玖賀は不思議そうに赤い液体を指ですくう。口元に持っていこうとして、さすがに止めた。
「なにやってんだよ」
藤は玖賀の腕を掴む。
「別にこれぐらいじゃ死なぬ」
玖賀は藤に引っ張られながら、指を舐めた。
「さすがに血の味はしないな……美味しくもないが」
ベッと嫌そうに舌を出す。台所に置いた水瓶へ行き、汚れた腕を洗い流した。
「これでは、水不足になるかもな」
玖賀の言葉に身震いした。そうか、降る雨が飲めない赤い水なら水不足に陥るかもしれない。
「はやくなんとかしないと……」
藤の家には水瓶が二つしかなかった。これが尽きてしまえば、飲み水もなくなってしまう。
「そうだな、私は水が飲めなくても平気だ。藤からもらうからな」
玖賀は接吻しようとしたが、やめた。
「人間には毒かもしれぬ」
玖賀は水瓶から杓で水をすくうと、口の中をゆすいだ。
「そこまでして接吻したいのかよ」
藤は呆れて玖賀を見る。
「今から情報収集するからな」
玖賀は理由をつけると、藤の身体を引き寄せた。
「んっ……」
玖賀は藤の口に残る唾液を飲みこむように、舌を忍ばせる。丁寧に繰り返される接吻に、目をつむった。
次に藤が目を開けると、海豹と目があった。つぶらな瞳が藤を見つめる。子どものような無垢の瞳に、藤は気まずくなった。すると、三毛猫がソッと前足で海豹の目を隠す。
「……く、玖賀ちょっと……」
藤は顔をそむけて、玖賀の身体を押し返す。
「どうした?」
玖賀はニヤリと笑った。その様子を見るからに、藤の心の中を読んでいたのだろう。
「そ、その海豹と三毛猫が……」
藤は二匹を指さす。
「自分の分身のようなものだから構わんだろ」
だが、一応それぞれ意思を持っている。あまり見せたくはない。
「恥ずかしいのか」
玖賀はもう一度接吻しようとしてくる。藤は玖賀の手から逃れた。
「お、落ち着けって……鬼の仕業なのかもしれないんだろ。光流の差し金かもしれない」
冷静な話をして話をすり替えた。このままいけば、玖賀はおっぱじめそうだった。
「そうならとっくに家の場所も割られているだろう。接触を図ってくるはずだ」
玖賀は着ていた浴衣をゆるめだす。
「そういう気分じゃなくなった!」
藤は怒りながら浴衣を整えた。
「チッ……たかが、動物で恥ずかしがるとはよくわからん」
頑に拒否をする藤の態度を見て、玖賀はあきらめたようだ。玖賀は座り直し、戸を見る。まだ赤い雨は降っていた。
「これじゃあ、鬼雨どころか血の雨だな」
玖賀は膝を立てて腕を置く。はだけすぎた浴衣を見て、男同士だとわかっていても目のやり場に困った。
「玖賀が降らせてんじゃないの?」
藤も玖賀と同じように戸を見る。戸の前には赤い水たまりができていた。
「何もしとらんわ」
気色悪い、と吐き捨て三毛猫を抱き上げる。海豹も甘えたいのか、転がりながら藤の足下にきた。
「それにしても気味が悪いな……」
藤も海豹を抱き上げる。戸から顔を出して浅草の方角を見れば、雨脚が白く見えた。あの雨も血のように赤いのだろうか?
「ん」
玖賀が起き上がる。玖賀の反応を見る限り何かがこの家に近づいているようだった。玖賀は小さく舌打ちをするところを見ると、良き知らせではなさそうだ。
しばらくすれば、鴉の鳴き声がした。陰陽寮からの任務だ。
「鬼雨ヲ調ベロ」
独特な発音で鴉が喋った。声の気味悪さは何度聞いても聞き慣れない。
「……きう?」
聞き慣れない言葉だった。
「コノ雨ハ鬼ノ仕業ダ」
鴉は主張するかのように五月蠅く何度も叫んだ。よく、玖賀の前で言えるなと感心する。まぁ、鴉に言ったって理解はできないだろうけど。
「なんでもかんでも鬼の所為にすんなよ。ただの梅雨だろ」
藤は鴉を追い出そうと立ち上がる。光流の件もあり、何かに巻き込まれるのはもう勘弁してほしかった。鴉が嫌がるように身震いすれば、藤の頬に雨粒がついた。
「冷たっ」
藤は頬についた雨粒を拭う。なぜか、指先は真っ赤な液体がついている。
「……なんだよ、これ」
藤は鴉を見たが、ケロリとしている。別に鴉は怪我をしているわけではなさそうだ。
「鬼ノ仕業! 鬼ノ仕業!」
ギャーギャーと五月蠅い声が家の中に響いた。
「うっとうしく降る淫雨かと思っていたが、そうではなかったな」
玖賀は浴衣をまくり、戸から手を出した。しとしとと降る雨粒が玖賀の白い肌に赤い斑点を増やしていく。
「全然、気づかなかったのか? 玖賀は耳がいいんだろ」
玖賀は以前、浅草にいた僕の行動を見張るぐらい耳がいい。
「なんでもかんでも突っ込んでいたら身がもたぬ」
玖賀は腕を戻すと、赤く染まった腕を見た。
「毒ではないな」
玖賀は不思議そうに赤い液体を指ですくう。口元に持っていこうとして、さすがに止めた。
「なにやってんだよ」
藤は玖賀の腕を掴む。
「別にこれぐらいじゃ死なぬ」
玖賀は藤に引っ張られながら、指を舐めた。
「さすがに血の味はしないな……美味しくもないが」
ベッと嫌そうに舌を出す。台所に置いた水瓶へ行き、汚れた腕を洗い流した。
「これでは、水不足になるかもな」
玖賀の言葉に身震いした。そうか、降る雨が飲めない赤い水なら水不足に陥るかもしれない。
「はやくなんとかしないと……」
藤の家には水瓶が二つしかなかった。これが尽きてしまえば、飲み水もなくなってしまう。
「そうだな、私は水が飲めなくても平気だ。藤からもらうからな」
玖賀は接吻しようとしたが、やめた。
「人間には毒かもしれぬ」
玖賀は水瓶から杓で水をすくうと、口の中をゆすいだ。
「そこまでして接吻したいのかよ」
藤は呆れて玖賀を見る。
「今から情報収集するからな」
玖賀は理由をつけると、藤の身体を引き寄せた。
「んっ……」
玖賀は藤の口に残る唾液を飲みこむように、舌を忍ばせる。丁寧に繰り返される接吻に、目をつむった。
次に藤が目を開けると、海豹と目があった。つぶらな瞳が藤を見つめる。子どものような無垢の瞳に、藤は気まずくなった。すると、三毛猫がソッと前足で海豹の目を隠す。
「……く、玖賀ちょっと……」
藤は顔をそむけて、玖賀の身体を押し返す。
「どうした?」
玖賀はニヤリと笑った。その様子を見るからに、藤の心の中を読んでいたのだろう。
「そ、その海豹と三毛猫が……」
藤は二匹を指さす。
「自分の分身のようなものだから構わんだろ」
だが、一応それぞれ意思を持っている。あまり見せたくはない。
「恥ずかしいのか」
玖賀はもう一度接吻しようとしてくる。藤は玖賀の手から逃れた。
「お、落ち着けって……鬼の仕業なのかもしれないんだろ。光流の差し金かもしれない」
冷静な話をして話をすり替えた。このままいけば、玖賀はおっぱじめそうだった。
「そうならとっくに家の場所も割られているだろう。接触を図ってくるはずだ」
玖賀は着ていた浴衣をゆるめだす。
「そういう気分じゃなくなった!」
藤は怒りながら浴衣を整えた。
「チッ……たかが、動物で恥ずかしがるとはよくわからん」
頑に拒否をする藤の態度を見て、玖賀はあきらめたようだ。玖賀は座り直し、戸を見る。まだ赤い雨は降っていた。
「これじゃあ、鬼雨どころか血の雨だな」
玖賀は膝を立てて腕を置く。はだけすぎた浴衣を見て、男同士だとわかっていても目のやり場に困った。
「玖賀が降らせてんじゃないの?」
藤も玖賀と同じように戸を見る。戸の前には赤い水たまりができていた。
「何もしとらんわ」
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「それにしても気味が悪いな……」
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