鬼のセンチネル

弓葉

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精神動物(スピリットアニマル)

光流様

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「……君が光流様?」

 藤は光流に抱きしめられたまま聞いた。

「あぁ! そうさ。ずっと僕だけのガイドを探していたんだ」

 光流は藤の頭を犬のように撫で回した。藤は撫でられる行為に照れくさくなり、光流を突き飛ばす。

「どうした? 恥ずかしいのか」

「うっ……」

 気持ちを見透かされて藤は戸惑う。玖賀は藤の気持ちには鈍感だ。初めて他人に心の中を言い当てられて動揺が隠せない。調子が狂う。

「君は今日から八重だ」

 光流は懲りずにまた藤の頭を優しく撫でにきた。

「はい?」

 藤は顔を引き攣らせた。いきなり名前をつけるだなんて変なやつに決まっている。

「八重、返事は?」

 光流は藤の髪の毛を掴む。それと同時に光流の後ろから巨大な黒豹が姿を現した。藤に鋭い牙を向けて唸り声を上げる。

「八重じゃない。僕は藤だ」

 藤は黒豹に対し、一瞬ひるんだ。だが、名前は母がつけたものだ。嘘でも返事はしたくなかった。

「ここで暮らしていくからには藤の名前は捨ててもらう」

 光流が言い終わると同時に黒豹が藤の足に前足を置いた。ミシミシと藤の骨が軋む。黒豹は加減をしていると思うが、かなり痛い。藤は足を動かそうとしたが、びくともしなかった。

「さっきから何様のつもりだ。すぐに玖賀はここに来る。お前なんか一ひねりだ」

 身体を動かせない代わりに声で藤は反抗した。黒豹は前足を退けて、ノシノシと藤の顔まで歩み寄ってくる。黒豹が口を開ければ、藤の頭は一飲み込みされそうだ。

「残念だけど、鬼は来ないと思うな」

 光流は無邪気に笑った。

「なぜだ?」

 自信満々に言う光流に藤は疑問を持った。曲がりなりにも政府公認のセンチネルのボスならば、獅堂から報告を受けているはず。玖賀の執着振りを知らないはずがない。

「鬼門除けをしているし、ここは鬼にとって苦手な場所だ」

 それは庭にあった豹の銅像のことを言っているのだろうか? あんなものに玖賀がおじけづくはずがない。

「玖賀は鬼だが、元は人間だ。神仏を祭ったって効きはしない」

 見たことは無いが、完全なる鬼ならば効き目があったかもしれないだろう。玖賀は苦手なはずの神社に封印されていたし、陰陽寮にも行けた。

 たとえ、煉獄の数珠で能力が使えなくなっても玖賀はきっとここに来る。

「じゃあ、人間だった玖賀にとって苦手な場所と言えばいいかな」

「玖賀が人間だった頃の……?」

 光流は若いが、玖賀の何を知っているのだろう? 玖賀の知り合いか? 頭の中で謎が謎と絡み合う。だが、持っている情報が少なく一向に解けそうもない。

「ここじゃ落ち着かないし、僕の部屋に案内するよ」

 光流はチラリ、と横を見た。ここにはまだ藤を連れてきた男達がいた。

「連れてきてくれた三人には報奨金を与える」

 光流は三人と知っていた。玖賀が引き留めたであろう一人の存在も知っている。男から報告があったから? いや、男は一緒に屋敷に入った。何かで報告を受けた様子はない。男が常に二人組で行動しているならば別だが。

 ふと、光流の眼帯が視界に入った。……目が悪い? ということは、玖賀が『耳』がいいのと同じように光流は『目』がいいのかもしれない。

「八重、こっちだ」

 光流は藤の手を握った。藤は意地でも命令を聞きたくなくて、握り返さなかった。

「今回のガイドは素直じゃないなぁ……」

 光流は藤を引っ張り、どこかに連れて行こうとする。

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