鬼のセンチネル

弓葉

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玖賀の存在

石ころのような角

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「煉瓦から木造に変わった」

 十一階と十二階は木造だった。眺望室まであと少し。藤と玖賀は休憩所で少し休憩をしてから上った。あまり時間をかけると、日が暮れてしまう。

 頂上まで登った時、そこに見知った顔があった。

「深浦さん……」

「藤、真っ直ぐ陰陽寮に来るかと思っていたのにまさか寄り道をするとは……」

「こいつが深浦……」

 玖賀は明らかに敵対視をした。

「それ、鬼?」

 深浦は興味深そうに玖賀を見る。玖賀は見られたくないのか、フイとそっぽを向き、藤の肩を抱いた。

「ええ、まぁ。ちょっと今は色々あって人間になってます」

 藤は獅堂のことを隠した。陰陽寮と獅堂がいる新政府はかなり仲が悪い。神社の一件もあって、獅堂からもらった煉獄の数珠のことは明かせなかった。

「ふうん、それで私のことを察知しなかった……いや、そもそも存在を知りようもないか」

 鷹のように鋭い目線を向けられた。実際は藤の背後にいる玖賀だ。

「困るね、センチネルなんだから仕事をしてもらわないと」

「すみません」

 藤は頭を下げた。与えられた陰陽師の職種として、休日は決まっていない。だが、今の玖賀に陰陽師やセンチネルを探す能力は無かった。仕事を放棄しているようなものだ。

「なぜ、藤が頭を下げる? 頭を下げなければならないのは鬼の方だろう」

 深浦は見下すように、玖賀へ指をさす。その言い方はプライドが高い玖賀の逆鱗に触れる行為だ。

「深浦さん、僕が人間になった玖賀を連れ回したんです」

「藤が? 君は真っ直ぐ家族の元に来るはずだ。連れ回したのは人間に戻り、舞い上がった鬼だろ」

 深浦は頑固で引き下がろうとしなかった。このまま平行線にもめるだけだ。藤はチラリと、黙り込んでいる玖賀を見る。その時、強く風が吹いた。ふわり、と玖賀の黒髪が宙を舞う。玖賀の表情は髪の毛で見えない。

「ん?」

 ふと、玖賀の黒髪に、チラリと白いものが見えた。なにかゴミでもついたのだろうか。藤は玖賀の頭に手をやる。石ころのような肌触りだ。

「なんだ、藤。頭を触りよって」

 玖賀は少し嬉しそうな顔で藤を見た。頭を撫でられたのが嬉しいらしい。また新しい玖賀の一面を見れたが、それどころではない。

「玖賀……その、角生えてきてる」 

 藤は見たまんま報告をした。玖賀の頭には石ころのような角が生え始めていた。
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