アルビノ崇拝物語

弓葉

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第3章 ブラットの尻尾

騙してごめんな

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「レベリオはどこにいる?」

 十月はブラットを見た。ブラットの尻尾は不規則に動いている。どうもニセモノとは思えない。

「レベリオはそのうち解放されるだろ。要監視だろうけどな」

 ブラットは不規則の動く尻尾を撫でた。十月が見ていると気づいたかもしれない。

「要監視って……」

 ただでさえ、レベリオはその見た目ゆえ狙われやすい。

「過激派がいるからな。過激派のシンボルにされちゃあ、暴動が抑えられなくなる」

 十月はまだ過激派を見たことがない。襲われたのは警察官であるブラット達だ。ブラットが言う過激派がそこまで過激だと思わなかった。

「過激派か……」

 十月は頭を抱える。

「ああ、昨日もセリスロピィで暴動が起きた。催涙弾を使ったりと大騒ぎだよ。やっと、戦争も終わって平和に戻りつつあったのに……」

 ブラットはため息をついた。

「オレらはちっとも平和にならねぇし、共食いばかりさせられている」

 ブラットは俯く。手が怒りで震えているように見えた。

「ブラット……」

 十月は何て声をかければいいのかわからなかった。

「あ、いやトッキーに言うことじゃなかったな。すまん、湿気た話をしちまって」

 ブラットは取り繕うように声を明るくする。その明るさが逆に苦しく感じた。

「いや、ブラット。そういうのは話してほしい。僕は知らなければならない」

 新聞記者でもなんでもない。ただの高校生だ。それなのに使命感に駆られている。今、こうして緊迫した状況だからこそ知りたい欲求に駆られていた。

「別にセリスロピィはトッキーの故郷でもなんでもないだろ。他人のことなのに、どうしてそこまで知ろうとするんだ」

 ブラットは十月を見据えた。純粋な質問に十月は息を飲みこむ。たしかに、セリスロピィに留学した当初は他人事のように思っていた。ろくにセリスロピィの歴史を知ろうともしていなかった。

「もう他人事だと思えないんだよ。レベリオとブラットを知ってから、僕の世界が広がった。セリスロピィは故郷みたいなものだ」

 これが本心だと言わんばかりに、十月はブラットを見る。

「……トッキーみたいなやつがいっぱいいたらいいのにな」

 ブラットの目は涙で滲んでいた。

「ブラット……?」

 初めて見るブラットの涙に十月は動揺する。変に心臓がドクドクと鳴り始めた。

「いや、オレが出会った中で一番トッキーはいいやつだよ」

 ブラットはゆっくりとベッドから立ち上がった。嫌な予感に十月は冷や汗が止まらない。十月は一歩下がり、ブラットから少しずつ離れていった。

「騙してごめんな」

 ブラットは笑顔で笑った。十月がブラットの笑顔に目を奪われていれば、トン、とうなじ付近に衝撃が走った。十月が振り返ろうとする前に意識を失う。
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